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第八章 真なる聖剣
955 かくして春は巡り来る
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負傷した領民達の補助具は、木材と革で作られた。
「そなたの剣のために集めた木材が役に立ったぞ」
聖剣の仮の柄とした樫材を義手や義足に流用したらしい。
それを言われた勇者はものすごく複雑な顔をしていた。
アドミニス殿には文句を言いたいが、領民の為に役立ったのならそれはよかったことなので、文句は言えない、みたいな感じだろうか?
意地を張らずに「よかった」と言っておけば自分も楽なのにな。
「関節の動きを伝えるためには、魔犬の脚の腱を使いました。お師匠さまの作業は、魔法を見ているみたいで、素晴らしかったんですよ!」
ルフが興奮露わにそう言った。
「魔法など使っておらんから、お前もいずれ出来るようになるさ」
「そ、そうでしょうか?」
アドミニス殿に自分にも出来るようになると言われて、一転して不安そうになる。
まぁ名人の手さばきとか見ちまうと、なんか人間技とは思えないときがあるよな。
アドミニス殿ならなおさらだろう。
千年の研鑽の成果をルフが受け継げるかどうかは俺には判断出来ないが、アドミニス殿が出来ると言うからには、やるしかないよな。
がんばれ、ルフ。
「顔が欠けてしまった方の補助具は、お芝居のマスクみたいになさったのですね」
「人の顔の形通りに作ることも出来たが、そうすると逆に違和感が大きくなって、見た者が不安を感じるのだよ。それならいっそ、少し洒落たマスクのようにしてしまったほうがいいと思ってな」
聖女の問いに優しく答えるアドミニス殿。
相変わらず聖女には特別優しい顔を見せる。
「子ども達にカッケー! とか言われてたぞ」
「それならよかった」
俺が様子を見に行ったら、子どもを始めとするご近所さんが、見物に来ていた。
なんだか拝んでる人までいたが、概ね好評のようだ。
奥さんに前よりも男前になったとか言われて、本人もまんざらでもない様子だったな。
片方の目は完全に見えなくなったので、片目だけで生活するのは慣れるまで大変だから、気をつけてやって欲しいと言っておいたが、まぁあの調子なら大丈夫だろう。
村が丸々木樵なだけあって、ご近所さんも家族のような付き合いらしいし。
「補助具を装着する際の緩衝材として、ダスター殿の教えてくれたスライムジェルが素晴らしい働きをしてくれた。あれなら大量に安く手に入れやすいし、あの者達の負担にもならないだろう」
「なるほど、あれを使ったんですか。考えましたね」
普通義手とか義足とかを装着する際に一番気を使うのが切断された部分との接続部分だ。
特に義足は、体重が乗るため、硬い義足との接続部分に負担が大きい。
その緩衝材として、スライムジェルを利用したとのことだ。
やわらかく自在に形を変えて隙間を埋めてしまうスライムジェルは、その役割にぴったりだったらしい。
「まぁ木材やスライムジェルの原料については、我が下僕、草王アグレッサーが育成して、ある程度は自給出来るようにもするがな」
ふよふよと漂っていた光る草アグが、そう言われた途端、眩しい銀白の光をペカペカと発した。
任せておけと言っているようだ。
「そんなことも出来るのか」
「我が家の植物は全部こやつの仕業よ。どこからか持って来た種をいつのまにか育ててしまうので、少し困っておる」
「まぁ、わたくし、てっきりおじいさまのご趣味なのかと思っておりました」
「うちの使い魔達は自由気ままだからな」
それって使い魔と言えるのだろうか?
単にアドミニス殿が作り出した魔物を自由にさせているだけなんでは?
そう思ったが、特にツッコまないでおく。
まぁ悪さをする訳じゃないしな。
「そうそうそれで、勇者殿方に頼みがあるのだがな。いや、これはメルリル殿にお頼みするべきことか」
急に名指しされて、メルリルがびっくりしたように「はい!」と返事をした。
驚いた顔も大変可愛い。
「もし、出来ることなら、生命の樹の種を分けていただきたいのだ。勇者殿の聖剣の柄とする分の枝とは別に、な」
「あ、はい。種はけっこう採れるはずなので、ご希望に添えるように、話してみます」
「うむ。よろしくな」
メルリルとしては確約は出来ないが、それほど貴重な木という感覚はないらしい。
「ただ、大きくなるまでにすごく時間のかかる木なので、大変だと思います」
「その辺は草王アグレッサーが上手くやる。心配はいらん」
アドミニス殿の信頼に、アグがまたピカピカと誇らしげに光る。
放置しているようで、しっかりとした信頼関係はあるのだろう。
そうやって平穏な日々が過ぎ、すぐに年越し祭の日がやって来た。
聖女の両親が衣装の件で夫婦喧嘩をしたとか、あまりにも豪華に飾りすぎて、聖女が両親を叱ったとか、いろいろとあったが、たくさんの領民と城の兵士達に担がれた輿が城下町を巡り、聖女と、両親が魔犬によって傷ついた少女エウリテ、それともう一人の男の子が輿の上から雪割り草の花を象った飾りを周囲に撒きつつ、城へと入る。
最後にロスト辺境伯の祝辞があるのだが、途中で奥方共々泣き出してしまい、途中から長男が代わって式辞を執り行うというアクシデントがあった。
まぁなんというか、いろいろな意味で人々の記憶に残る年越し祭となったのである。
そして、冬が終わり、春が巡り来た。
旅立ちの季節だ。
「そなたの剣のために集めた木材が役に立ったぞ」
聖剣の仮の柄とした樫材を義手や義足に流用したらしい。
それを言われた勇者はものすごく複雑な顔をしていた。
アドミニス殿には文句を言いたいが、領民の為に役立ったのならそれはよかったことなので、文句は言えない、みたいな感じだろうか?
意地を張らずに「よかった」と言っておけば自分も楽なのにな。
「関節の動きを伝えるためには、魔犬の脚の腱を使いました。お師匠さまの作業は、魔法を見ているみたいで、素晴らしかったんですよ!」
ルフが興奮露わにそう言った。
「魔法など使っておらんから、お前もいずれ出来るようになるさ」
「そ、そうでしょうか?」
アドミニス殿に自分にも出来るようになると言われて、一転して不安そうになる。
まぁ名人の手さばきとか見ちまうと、なんか人間技とは思えないときがあるよな。
アドミニス殿ならなおさらだろう。
千年の研鑽の成果をルフが受け継げるかどうかは俺には判断出来ないが、アドミニス殿が出来ると言うからには、やるしかないよな。
がんばれ、ルフ。
「顔が欠けてしまった方の補助具は、お芝居のマスクみたいになさったのですね」
「人の顔の形通りに作ることも出来たが、そうすると逆に違和感が大きくなって、見た者が不安を感じるのだよ。それならいっそ、少し洒落たマスクのようにしてしまったほうがいいと思ってな」
聖女の問いに優しく答えるアドミニス殿。
相変わらず聖女には特別優しい顔を見せる。
「子ども達にカッケー! とか言われてたぞ」
「それならよかった」
俺が様子を見に行ったら、子どもを始めとするご近所さんが、見物に来ていた。
なんだか拝んでる人までいたが、概ね好評のようだ。
奥さんに前よりも男前になったとか言われて、本人もまんざらでもない様子だったな。
片方の目は完全に見えなくなったので、片目だけで生活するのは慣れるまで大変だから、気をつけてやって欲しいと言っておいたが、まぁあの調子なら大丈夫だろう。
村が丸々木樵なだけあって、ご近所さんも家族のような付き合いらしいし。
「補助具を装着する際の緩衝材として、ダスター殿の教えてくれたスライムジェルが素晴らしい働きをしてくれた。あれなら大量に安く手に入れやすいし、あの者達の負担にもならないだろう」
「なるほど、あれを使ったんですか。考えましたね」
普通義手とか義足とかを装着する際に一番気を使うのが切断された部分との接続部分だ。
特に義足は、体重が乗るため、硬い義足との接続部分に負担が大きい。
その緩衝材として、スライムジェルを利用したとのことだ。
やわらかく自在に形を変えて隙間を埋めてしまうスライムジェルは、その役割にぴったりだったらしい。
「まぁ木材やスライムジェルの原料については、我が下僕、草王アグレッサーが育成して、ある程度は自給出来るようにもするがな」
ふよふよと漂っていた光る草アグが、そう言われた途端、眩しい銀白の光をペカペカと発した。
任せておけと言っているようだ。
「そんなことも出来るのか」
「我が家の植物は全部こやつの仕業よ。どこからか持って来た種をいつのまにか育ててしまうので、少し困っておる」
「まぁ、わたくし、てっきりおじいさまのご趣味なのかと思っておりました」
「うちの使い魔達は自由気ままだからな」
それって使い魔と言えるのだろうか?
単にアドミニス殿が作り出した魔物を自由にさせているだけなんでは?
そう思ったが、特にツッコまないでおく。
まぁ悪さをする訳じゃないしな。
「そうそうそれで、勇者殿方に頼みがあるのだがな。いや、これはメルリル殿にお頼みするべきことか」
急に名指しされて、メルリルがびっくりしたように「はい!」と返事をした。
驚いた顔も大変可愛い。
「もし、出来ることなら、生命の樹の種を分けていただきたいのだ。勇者殿の聖剣の柄とする分の枝とは別に、な」
「あ、はい。種はけっこう採れるはずなので、ご希望に添えるように、話してみます」
「うむ。よろしくな」
メルリルとしては確約は出来ないが、それほど貴重な木という感覚はないらしい。
「ただ、大きくなるまでにすごく時間のかかる木なので、大変だと思います」
「その辺は草王アグレッサーが上手くやる。心配はいらん」
アドミニス殿の信頼に、アグがまたピカピカと誇らしげに光る。
放置しているようで、しっかりとした信頼関係はあるのだろう。
そうやって平穏な日々が過ぎ、すぐに年越し祭の日がやって来た。
聖女の両親が衣装の件で夫婦喧嘩をしたとか、あまりにも豪華に飾りすぎて、聖女が両親を叱ったとか、いろいろとあったが、たくさんの領民と城の兵士達に担がれた輿が城下町を巡り、聖女と、両親が魔犬によって傷ついた少女エウリテ、それともう一人の男の子が輿の上から雪割り草の花を象った飾りを周囲に撒きつつ、城へと入る。
最後にロスト辺境伯の祝辞があるのだが、途中で奥方共々泣き出してしまい、途中から長男が代わって式辞を執り行うというアクシデントがあった。
まぁなんというか、いろいろな意味で人々の記憶に残る年越し祭となったのである。
そして、冬が終わり、春が巡り来た。
旅立ちの季節だ。
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