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第八章 真なる聖剣
948 誰かを助けること
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ん? 何やら周囲が騒がしい。
パチリと目を開く。
「お、気が付きなさったか? あの魔犬共のボスを倒してくださったんだってなぁ。ありがとう、ありがとう」
なぜかいきなり知らない男に地面に額をこすりつけるようにしてお礼を言われている。
というか、いつの間にか寝ていたようだ。
まぁ仕方ないか。
少し寝たおかげで、魔力がわずかだが回復したようだ。
まだめまいはするが、動けない程ではない。
「何か、騒がしいが、魔物でも来たのか?」
「いやいや、バリスの奴の奥さんのジョアンさんが、見つかったって、なぁ……よかったなぁ、ほんによかった」
見知らぬおっさんに寝ている傍らでさめざめと泣かれてしまった。
ちょっと……いや、かなり嫌な状態だな。
しかし、奥さんが見つかったのか。
まだ、生きてるのか死んでるのかわからないが、どうせなら生きていて欲しい。
人は心臓が止まっても、わずかな間はまだ魂が残っていて、聖女や聖人の癒やしで息を吹き返すこともある。
せっかくここに聖女さまがいるんだから、奇跡を願ってもいいはずだ。
というか、大ケガをしてぶっ倒れた旦那のほうもだいぶ怪しかったが、まぁ瀕死でも息があれば、聖女の力でなんとか出来るだろう。
聖女や聖人の適正というのは、かなり稀とされているが、それだけ奇跡の力は強力だ。
俺たち平民が最後の最後にすがるのが教会であるのは、それがあるからだからな。
とは言え、聖女や聖人は、大きな教会にしか在籍していない。
しかも大金をお布施として支払う必要があるので、なかなか一般庶民には辛い最後の望みだ。
平民でも金持ちならなんてことはないんだろうけどな。
そんな状況で、勇者パーティは基本無償奉仕を行っている。
そりゃあ人気が出るのは当然だ。
魔物の被害が大きい時期には勇者の活躍が人気となり、わりかし平穏な時代には聖女の力が感動を呼ぶ。
うまいこと考えられているよな。
「師匠!」「ダスター!」
そんなことを考えていたら、勇者とメルリルが飛び込んで来た。
「ピャ!」
「うわっ! やめろ! フォルテ」
そしてフォルテが顔に覆いかぶさって来る。
お前、俺を殺す気か!
必死で剥がして起き上がりつつ頭に乗せた。
いつの間にやら、傍にいたおっさんがいなくなっているので、もしかしてメルリルと勇者に知らせたのはあのおっさんなのかもしれない。
「お疲れ。無事発見したらしいな。みんなよくやった」
そう言うと、メルリルが少し暗い顔になった。
む? やっぱり駄目だったのか?
「師匠の言う通りだった。危ないところだったぞ。冬用の服を重ね着していたんで、一応手足はついていたんだが、指を何本かと首を少しやられていてな、なんと、血の臭いを消すためか、頭とケガした手を雪のなかに突っ込んでいた。傷のせいというよりも、寒さで死にかけてたぞ。雪溜まりに埋もれていたから、俺だけだと気づかなかったかもしれん」
「なんとか生き返りそうか?」
「ミュリアなら余裕だろ。まぁ失った指はどうにもならんが、幸い片手の二本だけだし。なんとか生活出来るんじゃないかな」
「そうか……」
平民で体の一部を失うというのは、なかなか厳しい状態だ。
特に手足を失うと、ほぼ働けなくなる。
魔道具の義肢や義足はあるが、平民に手が届くようなものじゃないしな。
せいぜい木を削ってそれらしくしたものを失った部分に継ぎ足すぐらいだ。
勇者の言う通り、指だけなら、まだマシと言っていいのだろう。
だが、確か年越し祭を控えて、祝い歳の娘のために厄除けの花を摘みに来ていたと言っていたはずだ。
せっかくの祝いの歳なのに、娘は一生悔やむだろうな。
悪い意味で忘れられない出来事になりそうだ。
しかし大森林と共に生きるというのはそういうことを覚悟するということでもある。
森と接していない王都やその周辺都市なんかでは想像も出来ないだろうが、俺の故郷のような開拓地なんかは、小規模な戦を行っているようなもんだしな。
俺が子どもの頃だって、毎年のように誰かが魔物に殺されていた。
――……そうだ。
思い出した。
俺が最初に強さを求めたきっかけは、近所に住んでた、特別仲のよかった兄妹の一家が、夜中にでかい魔物に襲われて、全滅したからだったな。
その翌日から、俺は猟師に弟子入りしたんだ。
もうすっかり忘れていたな。
「生きてさえいれば、どうとでもなる。お前達本当によくやった」
俺はメルリルと勇者とフォルテを心からねぎらった。
おそらくすぐに動いていなかったら、その奥さんは死んでいただろう。
そういう意味では、メルリルが一番の手柄か。
「特にメルリルは、気になったことをすぐに教えてくれて、助かった。ありがとうな」
「えっ!」
メルリルは寒さで真っ白になっていた顔をさっと赤くすると、モジモジしながらチラチラと俺を上目遣いで見た。
うおっ、俺の一番好きな表情で攻撃してくるとは、やるな、メルリル。
「ううん。ダスターが行くように言ってくれなかったら、私、きっとあの人を助けに行かなかったと思う。だから、一番凄いのはダスターだよ」
「もちろん、師匠が一番凄い!」
お前達、あんまり俺を持ち上げると、そろそろ俺も勘違いしてしまうぞ? 自分が凄いんじゃないかって。
やれやれ、今はまだ頭がふらつくし、考えるのは後にしたいところだ。
パチリと目を開く。
「お、気が付きなさったか? あの魔犬共のボスを倒してくださったんだってなぁ。ありがとう、ありがとう」
なぜかいきなり知らない男に地面に額をこすりつけるようにしてお礼を言われている。
というか、いつの間にか寝ていたようだ。
まぁ仕方ないか。
少し寝たおかげで、魔力がわずかだが回復したようだ。
まだめまいはするが、動けない程ではない。
「何か、騒がしいが、魔物でも来たのか?」
「いやいや、バリスの奴の奥さんのジョアンさんが、見つかったって、なぁ……よかったなぁ、ほんによかった」
見知らぬおっさんに寝ている傍らでさめざめと泣かれてしまった。
ちょっと……いや、かなり嫌な状態だな。
しかし、奥さんが見つかったのか。
まだ、生きてるのか死んでるのかわからないが、どうせなら生きていて欲しい。
人は心臓が止まっても、わずかな間はまだ魂が残っていて、聖女や聖人の癒やしで息を吹き返すこともある。
せっかくここに聖女さまがいるんだから、奇跡を願ってもいいはずだ。
というか、大ケガをしてぶっ倒れた旦那のほうもだいぶ怪しかったが、まぁ瀕死でも息があれば、聖女の力でなんとか出来るだろう。
聖女や聖人の適正というのは、かなり稀とされているが、それだけ奇跡の力は強力だ。
俺たち平民が最後の最後にすがるのが教会であるのは、それがあるからだからな。
とは言え、聖女や聖人は、大きな教会にしか在籍していない。
しかも大金をお布施として支払う必要があるので、なかなか一般庶民には辛い最後の望みだ。
平民でも金持ちならなんてことはないんだろうけどな。
そんな状況で、勇者パーティは基本無償奉仕を行っている。
そりゃあ人気が出るのは当然だ。
魔物の被害が大きい時期には勇者の活躍が人気となり、わりかし平穏な時代には聖女の力が感動を呼ぶ。
うまいこと考えられているよな。
「師匠!」「ダスター!」
そんなことを考えていたら、勇者とメルリルが飛び込んで来た。
「ピャ!」
「うわっ! やめろ! フォルテ」
そしてフォルテが顔に覆いかぶさって来る。
お前、俺を殺す気か!
必死で剥がして起き上がりつつ頭に乗せた。
いつの間にやら、傍にいたおっさんがいなくなっているので、もしかしてメルリルと勇者に知らせたのはあのおっさんなのかもしれない。
「お疲れ。無事発見したらしいな。みんなよくやった」
そう言うと、メルリルが少し暗い顔になった。
む? やっぱり駄目だったのか?
「師匠の言う通りだった。危ないところだったぞ。冬用の服を重ね着していたんで、一応手足はついていたんだが、指を何本かと首を少しやられていてな、なんと、血の臭いを消すためか、頭とケガした手を雪のなかに突っ込んでいた。傷のせいというよりも、寒さで死にかけてたぞ。雪溜まりに埋もれていたから、俺だけだと気づかなかったかもしれん」
「なんとか生き返りそうか?」
「ミュリアなら余裕だろ。まぁ失った指はどうにもならんが、幸い片手の二本だけだし。なんとか生活出来るんじゃないかな」
「そうか……」
平民で体の一部を失うというのは、なかなか厳しい状態だ。
特に手足を失うと、ほぼ働けなくなる。
魔道具の義肢や義足はあるが、平民に手が届くようなものじゃないしな。
せいぜい木を削ってそれらしくしたものを失った部分に継ぎ足すぐらいだ。
勇者の言う通り、指だけなら、まだマシと言っていいのだろう。
だが、確か年越し祭を控えて、祝い歳の娘のために厄除けの花を摘みに来ていたと言っていたはずだ。
せっかくの祝いの歳なのに、娘は一生悔やむだろうな。
悪い意味で忘れられない出来事になりそうだ。
しかし大森林と共に生きるというのはそういうことを覚悟するということでもある。
森と接していない王都やその周辺都市なんかでは想像も出来ないだろうが、俺の故郷のような開拓地なんかは、小規模な戦を行っているようなもんだしな。
俺が子どもの頃だって、毎年のように誰かが魔物に殺されていた。
――……そうだ。
思い出した。
俺が最初に強さを求めたきっかけは、近所に住んでた、特別仲のよかった兄妹の一家が、夜中にでかい魔物に襲われて、全滅したからだったな。
その翌日から、俺は猟師に弟子入りしたんだ。
もうすっかり忘れていたな。
「生きてさえいれば、どうとでもなる。お前達本当によくやった」
俺はメルリルと勇者とフォルテを心からねぎらった。
おそらくすぐに動いていなかったら、その奥さんは死んでいただろう。
そういう意味では、メルリルが一番の手柄か。
「特にメルリルは、気になったことをすぐに教えてくれて、助かった。ありがとうな」
「えっ!」
メルリルは寒さで真っ白になっていた顔をさっと赤くすると、モジモジしながらチラチラと俺を上目遣いで見た。
うおっ、俺の一番好きな表情で攻撃してくるとは、やるな、メルリル。
「ううん。ダスターが行くように言ってくれなかったら、私、きっとあの人を助けに行かなかったと思う。だから、一番凄いのはダスターだよ」
「もちろん、師匠が一番凄い!」
お前達、あんまり俺を持ち上げると、そろそろ俺も勘違いしてしまうぞ? 自分が凄いんじゃないかって。
やれやれ、今はまだ頭がふらつくし、考えるのは後にしたいところだ。
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