勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

941 へこんだら持ち上げて、高くなったら落とす

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 勇者は、アドミニス殿にはあまりはっきりとした聖剣の感想を言わなかったが、部屋に戻ってから、なぜああいう剣筋になったのか? と尋ねた俺に答えて言った。

「悔しいが、あいつの言った通りだ。手にした剣に温かみを感じた。だから、力任せに炎をまとわせることにためらってしまった。剣なんだから、そんな訳ないのにな」

 どこか考え込む風にそう言う勇者の様子が常と違うことに気づいて、なんとなく微笑ましくなる。
 勇者は、他人にあまり優しさを見せないが、その本質には優しさがあるのだと思う。
 立場の強い者、奢る者に対して冷淡で、立場の弱い者、力弱き者には親身になる。
 そんな普段の態度からも、透けてみえていたものだ。

「アドミニス殿には、かなわないな」

 思わず、そんな風に言ってしまう。
 共に過ごした訳でもないのに、すぐに勇者の本質を見抜いたのだ。

「そんなことはない! 師匠のほうがずっと凄いぞ!」

 理屈抜きで勇者は俺を持ち上げるが、まぁこの身贔屓が過ぎるところも、勇者の優しさなのかもしれない。

「森に……」

 ふとメルリルが口を開く。

「森に行くとしたら、春になってからがいいでしょうね。冬の間でも、雪さえ降らなければ移動は出来ると思うけれど。……植物は眠っている子が多いから、精霊メイスも寝ぼけてしまっているの」

 寝ぼけた精霊メイスに道を開いてもらうとどうなるのだろうか? 想像してぶるりと身を震わせる。
 とうてい体験してみたいとは思えない。

「そうだな。そもそもご城主さまは、ミュリアの年越しの祝いをしたいのだろうし、動くのはそれから、でいいだろう。聖剣を急いで作らなければならないってことはないし。……しかしそうか、そうなると、メルリルは里帰りが出来るな」
「……帰っていいのかな? 里を出た身なのに」

 メルリルが不安そうなのは、そのことが引っかかっていたからだろう。
 メルリルは、目覚めた火喰いの魔物を封印したが、そのために、故郷に留まることが出来なくなった。
 森人は、故郷から離れると死に至る病に罹ることがあるぐらい故郷にこだわる種族だ。
 それなのに、弱音を吐いたのは最初の日ぐらいで、メルリルはずっと慣れない土地で頑張って来た。
 きっと、ずっと故郷の森に帰りたい気持ちがあったに違いないのだ。
 聖剣にかこつける形にはなるが、この機会に、一度メルリルを里に戻らせてやれるのはいいことだろう。

「別に罪を負って追放された訳じゃない。火喰いの魔物を刺激しないように里を離れただけだろ? たまに戻るぐらい構わないさ」

 俺がそう言うと、メルリルがそっと俺の手を握って来た。

「ありがとう、ダスター」
「いや、礼を言われるようなことじゃないぞ」

 ふと何やら目の端に動くものが見えるので視線を向けると、モンクとアグが抱きしめる仕草をしている。
 仲いいな、お前等。
 ここで抱きしめろってか? 馬鹿言うな、みんないるんだぞ?

「ともあれ、アルフは、冬の間に聖剣に慣れておくのがいいだろう。たとえ柄を替えたところで、剣身自体は同じなんだ」
「……ああ。悔しいが、あの聖剣は凄い。それだけはいくら俺でもわかる」

 なんだかんだ言っても、勇者はアドミニス殿を認めている。
 認めているからこそ、素直になれないところもあるんだろうな。
 元魔王であるということが引っかかっているという風を装ってはいるが、本質はそこじゃないな。
 あの、自信たっぷりで揺るがないところが、勇者には癇に障るのだろう。

 勇者は普段自信たっぷりな言動をしているが、勇者選定のいざこざで、自分に自信を持てなくなった部分もあるようだ。
 そのせいでアドミニス殿を前にしていると劣等感を刺激されるのかもしれない。

 人にはそれぞれ強みがある。
 そのことを学んで来たはずだが、まだそれが身になっていない感じか。
 師匠としては忸怩じくじたるものがあるぞ。
 まぁそもそも、俺に人の、ましてや勇者の師たる資格があるかと問われれば、無いと即答してしまえるぐらい、今の状況が間違っている訳だが。
 それにしたって、引き受けたからには、ちゃんと師としての務めは果たしたい。

 勇者よ、俺は本当にお前の師たり得ているか?
 もしかすると、俺もまた、試されているのかもしれないな、運命という奴に。
 
「俺はそうは思わないな」
「師匠?」
「確かにあの聖剣は凄いんだろうと思う。コントロールがうまくいっていないのにあの威力だし」
「ああ」
「ただ、あの、剣で攻撃しているにも関わらず、静謐で、哀しいような熱いような、そんな気持ちになるあの技は、お前以外の誰にも出せないと思うぞ。同じあの聖剣を使ったとしても、な。だから、本当に凄いのはお前だ。勇者というお役目ですらない。お前自身の剣技だ。だから、もっと自信を持っていいんだぞ? アルフ」
「師匠!」

 主人に褒められた猟犬のような顔になる勇者を見て、俺は、しまった、つい褒めすぎた、と瞬時に反省した。

「ただし、自信を持ちすぎて、周りを顧みないのは駄目だからな」
「当然だ。いつだって仲間を頼りにしているぞ」

 自信たっぷりに言い放つ勇者だが、鼻の穴が広がって、ふんぞり返っている。
 ちょっと褒めるとこれだからなぁ。
 加減が難しい。
 俺の師匠は俺のことを全くと言っていいほど褒めなかったが、それはもしかしたら正しかったのだろうか。
 
「とりあえず、あの聖剣を使いこなすなら、今までのように力任せに魔力を使うことは出来ないぞ? 繊細に使いこなせるようにならないと」
「任せろ!」

 駄目だ。
 やっぱりちょっと褒めすぎたようだ。
 こうなったら一度とことんへこませてみるか?
 何をさせればいいかな。
 どうせなら冬の暮らしに役立つ仕事になるものがいいだろう。
 覚悟しとけよ? とりあえず音を上げるまでやらせるからな。
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