815 / 885
第八章 真なる聖剣
920 草王の封印
しおりを挟む
俺達が初代勇者の話で盛り上がっていたとき、聖女の目前に小さな迷宮草のような光が揺れた。
先程の出来事が出来事だったので、咄嗟に聖女以外の全員が戦闘態勢に移る。
「大丈夫です」
にっこりと聖女が微笑みながら全員を制した。
小さな光はゆらめきながら形を取り、光る草、アドミニス殿の使い魔アグの姿が浮かび上がる。
そう言えば、最初の出会い以来、こんな風に移動して来て、最初は驚いたものだ。
最近は慣れて来ていたが、先程の呪いの件で、皆神経質になっているのだろう。
アグは、姿を現すと、くねくねと不思議な踊りのような動きをした。
動きに合わせて光も点滅する。
「フォルテ、出番だぞ、起きろ!」
俺の首のところで丸まっていたフォルテを叩き起こす。
こいつ、やることがないとすぐに寝るのはどうなんだ?
「ピャウ?」
アグはフォルテのほうを向いてゆらゆらピカピカ始める。
「ピャ? ジッジッジ……キュゥ」
「何か騒がしいから様子を見て来いと主が言ったから来たそうだ」
「遅い! まぁお前が来たところで何の役にも立たなかっただろうけどな」
勇者がアグに文句をつけた。
いや、アドミニス殿の使い魔なんだから、何か出来たかもしれないぞ?
決めつけはよくない。
「とりあえずミュリアは一度休ませたほうがいいだろう。今日の探索はここまでだな。城主さまに今回の件の報告も必要だろうし、ここはもう一度封印しておこう」
「師匠が扉を蹴って壊したけどどうする?」
うっ。
そう言えばそうだった。
入口に行って見てみる。
丁番が一つ外れているだけだった。
「持ち上げれば閉じることは出来そうだ」
「じゃあその状態で……あー、ミュリアは封印出来ないよな。いや、無理するな」
勇者が聖女の封印について言及すると、聖女はふらふらと立ち上がろうとして、モンクに抑えられる。
すかさず勇者が聖女を止めた。
「でも……」
アグが何やら聖女の肩の上で、クネクネピカピカしていた。
「クルル……」
「あー、アグが代わりに封印すると言ってるそうだ」
俺はフォルテを通じてアグの言葉を伝えつつも、どうするのだろう? と、疑問に思う。
全員同じ気持ちだったのだろう、視線がアグに集まった。
「アグちゃん、大丈夫なの?」
聖女が尋ねると、ピカピカ具合が強くなる。
ほんのり赤っぽくなっているようだ。
そして、聖女の肩を離れると、ふよふよと空中を漂い出した。
俺達は釣られるようにアグの後に続き、全員扉の外に出る。
そして、とりあえず扉を少し抱えるようにして、元の位置に収めた。
「ふー」
魔力で体を強化しつつ持ち上げたんだが、そこそこ重い。
蹴ったときは半ば開いていたから、あんなに勢いがついたのか?
少しかしいでいて隙間もあるが、まぁ中にはもう危険なものはないと思われるし、大丈夫だろう。
一応ロスト辺境伯が検分するまで余人が開けてしまわないように封印しておく必要があるだけだ。
扉を閉めると、アグがふよふよ漂って、ぴたりと扉に張り付き、そこから四方にうねうねと根っこかツルかを伸ばし始めた。
「うわあ、凄い」
メルリルがびっくりしたように見つめている。
俺ももちろんびっくりだ。
どこまでも際限なく根っこだかツルだかが伸びていく。
まるで果てがないようで、圧巻である。
アドミニス殿が草王アグレッサーと名付けただけのことはある、のかな?
アグは、二枚の扉を完全に緑色に染め上げ、扉は蔦に覆われた遺跡のような有様となった。
そしてポンとアグの本体が、その根っこかツルから離れる。
アグの本体が離れても、みずみずしい緑のまま、アグの根っこかツルが扉を覆っていた。
どうやら、これがアグの封印らしい。
「触ってもいいか?」
俺が尋ねると、アグは金色にぴかりと光った。
肯定、だよな?
近寄っても止めたりしないので、大丈夫だと踏んで、扉に触れてみた。
扉と枠の境目がぴったりと埋められていて、分離することが出来ない。
力を込めようにも引っかかりがなく、アグの一部に至っては、表面で指が滑ってとらえどころがなかった。
これは意外と、強力な封印かもしれない。
「やるなぁ、アグ」
思わず感心すると、ちょっと赤みがかった金色にほんのり光る。
照れているのだろうか?
「くそ、草もどきの癖に……」
なぜか勇者がギリギリと悔しげに歯ぎしりをしていた。
お前、使い魔と張り合うなよ。
ふわふわと聖女の肩に戻ったアグは、どこからともなく、丸い草の実のようなものを出した。
そして俺を見てゆらゆらピカピカし始める。
「ピャウ」
フォルテが少し投げやり気味に通訳してくれた。
もっとちゃんとやれ。
「あー、アグが、その実を食べると魔力が回復するって言ってるぞ」
「まぁ、ありがとうございます」
聖女はニコッと笑うと、モンクが止める間もなくその実を手に取り口に入れた。
「ちょ、そんな怪しいものを!」
モンクは少し怒っているようだ。
「まぁ、おじいさまのくださったものですもの、大丈夫ですよ」
凄い信頼だな。
コクンと喉を鳴らして飲み込んだ聖女の体がほんのり金色に光る。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
勇者がアグに詰め寄るが、アグはふよふよと葉っぱのような手のようなものをひらひらさせているだけだ。
フォルテはもう飽きたのか通訳せずに寝る体勢になっている。
「あ、少し楽になりました。それと、甘みがあって美味しかったです。ありがとう、アグちゃん」
アグはほんのりピンク色に光った。
照れているのだろう。
照れ方もいろいろあるっぽい。
言葉はわからないながら、なんとなく感情は読めるようになって来たな。
聖女も一人で歩けるようになったので、俺達は引き返して、そのままロスト辺境伯に詳細を報告することにしたのだった。
先程の出来事が出来事だったので、咄嗟に聖女以外の全員が戦闘態勢に移る。
「大丈夫です」
にっこりと聖女が微笑みながら全員を制した。
小さな光はゆらめきながら形を取り、光る草、アドミニス殿の使い魔アグの姿が浮かび上がる。
そう言えば、最初の出会い以来、こんな風に移動して来て、最初は驚いたものだ。
最近は慣れて来ていたが、先程の呪いの件で、皆神経質になっているのだろう。
アグは、姿を現すと、くねくねと不思議な踊りのような動きをした。
動きに合わせて光も点滅する。
「フォルテ、出番だぞ、起きろ!」
俺の首のところで丸まっていたフォルテを叩き起こす。
こいつ、やることがないとすぐに寝るのはどうなんだ?
「ピャウ?」
アグはフォルテのほうを向いてゆらゆらピカピカ始める。
「ピャ? ジッジッジ……キュゥ」
「何か騒がしいから様子を見て来いと主が言ったから来たそうだ」
「遅い! まぁお前が来たところで何の役にも立たなかっただろうけどな」
勇者がアグに文句をつけた。
いや、アドミニス殿の使い魔なんだから、何か出来たかもしれないぞ?
決めつけはよくない。
「とりあえずミュリアは一度休ませたほうがいいだろう。今日の探索はここまでだな。城主さまに今回の件の報告も必要だろうし、ここはもう一度封印しておこう」
「師匠が扉を蹴って壊したけどどうする?」
うっ。
そう言えばそうだった。
入口に行って見てみる。
丁番が一つ外れているだけだった。
「持ち上げれば閉じることは出来そうだ」
「じゃあその状態で……あー、ミュリアは封印出来ないよな。いや、無理するな」
勇者が聖女の封印について言及すると、聖女はふらふらと立ち上がろうとして、モンクに抑えられる。
すかさず勇者が聖女を止めた。
「でも……」
アグが何やら聖女の肩の上で、クネクネピカピカしていた。
「クルル……」
「あー、アグが代わりに封印すると言ってるそうだ」
俺はフォルテを通じてアグの言葉を伝えつつも、どうするのだろう? と、疑問に思う。
全員同じ気持ちだったのだろう、視線がアグに集まった。
「アグちゃん、大丈夫なの?」
聖女が尋ねると、ピカピカ具合が強くなる。
ほんのり赤っぽくなっているようだ。
そして、聖女の肩を離れると、ふよふよと空中を漂い出した。
俺達は釣られるようにアグの後に続き、全員扉の外に出る。
そして、とりあえず扉を少し抱えるようにして、元の位置に収めた。
「ふー」
魔力で体を強化しつつ持ち上げたんだが、そこそこ重い。
蹴ったときは半ば開いていたから、あんなに勢いがついたのか?
少しかしいでいて隙間もあるが、まぁ中にはもう危険なものはないと思われるし、大丈夫だろう。
一応ロスト辺境伯が検分するまで余人が開けてしまわないように封印しておく必要があるだけだ。
扉を閉めると、アグがふよふよ漂って、ぴたりと扉に張り付き、そこから四方にうねうねと根っこかツルかを伸ばし始めた。
「うわあ、凄い」
メルリルがびっくりしたように見つめている。
俺ももちろんびっくりだ。
どこまでも際限なく根っこだかツルだかが伸びていく。
まるで果てがないようで、圧巻である。
アドミニス殿が草王アグレッサーと名付けただけのことはある、のかな?
アグは、二枚の扉を完全に緑色に染め上げ、扉は蔦に覆われた遺跡のような有様となった。
そしてポンとアグの本体が、その根っこかツルから離れる。
アグの本体が離れても、みずみずしい緑のまま、アグの根っこかツルが扉を覆っていた。
どうやら、これがアグの封印らしい。
「触ってもいいか?」
俺が尋ねると、アグは金色にぴかりと光った。
肯定、だよな?
近寄っても止めたりしないので、大丈夫だと踏んで、扉に触れてみた。
扉と枠の境目がぴったりと埋められていて、分離することが出来ない。
力を込めようにも引っかかりがなく、アグの一部に至っては、表面で指が滑ってとらえどころがなかった。
これは意外と、強力な封印かもしれない。
「やるなぁ、アグ」
思わず感心すると、ちょっと赤みがかった金色にほんのり光る。
照れているのだろうか?
「くそ、草もどきの癖に……」
なぜか勇者がギリギリと悔しげに歯ぎしりをしていた。
お前、使い魔と張り合うなよ。
ふわふわと聖女の肩に戻ったアグは、どこからともなく、丸い草の実のようなものを出した。
そして俺を見てゆらゆらピカピカし始める。
「ピャウ」
フォルテが少し投げやり気味に通訳してくれた。
もっとちゃんとやれ。
「あー、アグが、その実を食べると魔力が回復するって言ってるぞ」
「まぁ、ありがとうございます」
聖女はニコッと笑うと、モンクが止める間もなくその実を手に取り口に入れた。
「ちょ、そんな怪しいものを!」
モンクは少し怒っているようだ。
「まぁ、おじいさまのくださったものですもの、大丈夫ですよ」
凄い信頼だな。
コクンと喉を鳴らして飲み込んだ聖女の体がほんのり金色に光る。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
勇者がアグに詰め寄るが、アグはふよふよと葉っぱのような手のようなものをひらひらさせているだけだ。
フォルテはもう飽きたのか通訳せずに寝る体勢になっている。
「あ、少し楽になりました。それと、甘みがあって美味しかったです。ありがとう、アグちゃん」
アグはほんのりピンク色に光った。
照れているのだろう。
照れ方もいろいろあるっぽい。
言葉はわからないながら、なんとなく感情は読めるようになって来たな。
聖女も一人で歩けるようになったので、俺達は引き返して、そのままロスト辺境伯に詳細を報告することにしたのだった。
1
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。