勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
808 / 885
第八章 真なる聖剣

913 勇者の師として

しおりを挟む
「戦い方は悪くなかった。相手の動きはちゃんと見ていたし、弱点を見抜いて攻撃する勘もいい。問題はムラッ気だな」
「そこは私も気になりました。しかし、勇者の瞬発力は、あの気質のおかげもあると思うのです」
「確かにそれは言えるかもなぁ」

 狩りから戻ると、聖騎士が狩り場での様子を聞きたがったので説明してやった。
 しかし、あれだな、聖騎士のほうが俺よりもよっぽど師匠としてちゃんとやってるな。

「二人共、俺が聞いてるところでそういう話を平気でやるよな。まぁいいけど」

 俺達の話し合いを聞きながら勇者がブツブツ言っている。

「お前はそいつを吊るすという大事な役割があるだろうが」

 城の解体場には、魔物用の解体場所もあって、設備が整っているのはいいんだが、黒鋼熊は死体でも体毛が危険なので、メインの作業を勇者にさせているのだ。
 あいつなら魔力による強化で針金のような毛も刺さらないからな。

 周囲では、厨房の担当者がハラハラしながら様子を見ている。
 黒鋼熊の解体など経験したことがないということだったので、何度か経験のある俺とメルリルが説明して、利用方法を検討しつつ作業を勧めているところだ。

 とりあえず毛皮は剥いで利用するのは決定しているが、それ以外について、喧々囂々と議論が続いている。
 内臓周りは腸が破れていることもあって使えないが、それでも虫除けや魔物避けに加工することが可能とのことで、そういう加工が得意な村落に送ることが決まった。
 問題は骨や爪と、汚染されていない肉で、骨や爪を実用品に加工するか、工芸品として販売用に回すかで揉めているようだ。
 そして肉は、灰と一緒に土中に埋めて魔力抜きをするとの主張に、時間がかかりすぎるので、灰と一緒に煮て、一気に魔力抜きをしようという意見が出ているのだ。

 それぞれの意見の主張元は、厨房と食料保管の長なので、お互いにプライドが高く、妥協しないせいで、なかなか話が進まない。
 まぁそれはそれとして、処理は進めないといけないので、一応吊るし解体を行うことは決まった。
 その吊るしを、勇者一人に任せたのだ。

 一般人だと十人ぐらいで吊り上げる必要があるが、勇者なら一人で吊り上げられるからな。
 大変効率的なのだ。

「こいつを引っ張って来たのも俺なんだぞ」
「それだけお前が頼りになるってことだろうが」
「むう。明らかに乗せようとして言ったことがわかるのに、褒められて嬉しい」
「お前のそういうところはいいと思うぞ。嬉しいことは素直に喜ぶことが大事だ。ひねくれてしまうと、気持ちに柔軟さがなくなる。そうなると思考も固まって、面白みのない人間になるからな」
「狩りのときはさんざん叱りとばされたのに、今はこうやって褒めてくれる。師匠はそういうところ上手いよな」

 失礼な。
 俺がわざと勇者を掌の上で転がしているかのように言うのはやめろ。
 そのときそのときに適切な指示を出しているだけだし、褒めるべきところを見つけたらとりあえず褒めているだけだ。

「黒鋼熊だけじゃなくて、普通の獣や鳥も、それに冬場の貴重な野草も採取して来ていただいて、感謝に堪えません。ほんに勇者さま方は立派な方々ですなぁ。うちの末の姫さまが聖女として同道してらっしゃるんだから、当たり前だろってうちのかみさんなんかは言うんですが、本当ですなぁ。女のそういうところにはかないませんや」
「古来、男は女に敵わないものさ」
「違いない!」

 血なまぐさい作業場に、笑い声が沸き起こる。
 少し異様な光景だが、冒険者として活動しているときにはよくあったことだ。
 冒険者は、冒険の華やかな部分のみが語られるが、その本質は、泥臭い作業部分にある。
 獲物を解体したり、得意先に顔つなぎをしたり、技能を持つ人間に教えを請うてさまざまな技能を身に着けたり、目に見えない部分で頑張ったことが、結局は評価に繋がるのだ。

 勤めに馴染めない、社交性のない者が冒険者になると思われがちだが、本当は逆で、なんでも出来て、誰とでも交流出来る人間が、一番冒険者に向いているとすら言える。
 そういう意味では、勇者は一番冒険者に向いていないタイプの人間だな。

「師匠、今俺に冷たい目を向けただろ、値踏みするような。やっぱり今日の働きが悪かったから見捨てるつもりなんだな?」

 おっと、値踏みしていたのがバレてしまった。
 こいつ本当に勘は無駄に鋭いよな。

「大丈夫だ。森で言っただろ。あのとき魔法を使う決断が出来たことは評価する、と」
「そ、そうか」

 褒めると途端に照れるのは、実は自分に自信がないからなんだろうな。
 勇者としての才能も実力も間違いないんだが、どうもメンタル面が安定しないところがある。
 おそらくその部分は、自覚があるんだろう。
 だから俺なんかに師事して、心の安定を保っているのだ。

 あと、なぜだか知らんが、偉そうにしている相手が嫌いっぽいからな。
 まぁ俺も好きじゃないが、それは身分の高い相手との付き合いが苦手なだけであって、個人に対してどうこう思ってはいない。
 そういう意味では、俺はちょっとスレた大人の嫌な部分を持っているんだと思う。

 ただ、勇者の権威に対する嫌悪感は、もっと感情的な部分から出ているようだ。
 俺に師事したことと、権威嫌いは、実は根っこの部分では繋がっているんじゃないかと思っている。
 まぁ根本的には不器用なんだと思うんだが、そういうのはなかなか変えられないし、変えてはいけない場合も多い。
 勇者がこの先、個人で国や大聖堂と対等にやりあうつもりなら、上手くコントロールしなければならない部分だ。

 俺は師匠として、教えられる限りの技術的なことはもはや教え切ったと言っていい。
 後は、なんとかして、一人で歩き出す最初の一歩を踏み出させてやらなきゃならんのだろうな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。