勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
805 / 885
第八章 真なる聖剣

910 家族の繋がり

しおりを挟む
 案の定、ロスト辺境伯夫妻はゴクリとつばを飲み込むように喉を上下させた。
 不安が最高潮に達したに違いない。

「これは、まずい。翻訳をする人間が必要だ。ミュリア、アドミニス殿を助けると思って、あっちの席へ行ってくれないか?」

 俺がそう言うと、聖女はクスクスと笑いながら立ち上がる。

「もちろんですわ。わたくしもそうしようと思っていたところです」
「さすがミュリアだ。頼りになるな」
「えへへ、褒められてしまいました」

 聖女はにっこり笑うと、勇者にちょっと自慢するように言って、優雅な足取りで主役席へと向かう。

「俺も褒めてくれ」
「何をどう褒めろと言うんだ?」
「くっ……」
「わけのわからん対抗心はやめろ」

 そんな聖女を羨ましそうに見送った勇者が道理の通らないことを言い出したが、軽く流す。
 顔を見るだけで、もう最初からろくでもないことを言うんじゃないかと思っていたので、驚くことすらなかった。

 中央の席へと歩み寄った聖女は、ロスト辺境伯夫妻とアドミニス殿の両方に正式な挨拶してみせる。

「勇者さまと共に救済の旅を行っている、聖女を務めるミュリアと申します。血の繋がりを誇る権利を手放したわたくしですけれど、こちらに身内としてお邪魔することをお許しいただけますか?」
「な、何を他人行儀な。どのようなお役目を背負おうとも、ミュリアが私達の大切な娘であることに変わりなどないのだ」
「そうですよ。そのような断りを口にする必要などありません」

 ロスト辺境伯夫妻が、少し憤慨したように答えた。

「ふむ、ミュリアや、いつものようにわしを呼んではくれぬのか?」
「ありがとうございます、お父さま、お母さま。……そしておじいさま」

 聖女は、ただのロスト家のミュリアとして、そう礼を言うと、すとんと、アドミニス殿の隣に座る。
 これには、両親も、そしてアドミニス殿すらも驚いたようだ。

「あの、おじいさま。こちらのお席で、新しくお茶をいただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。ミュリアのために作ったいつものカップもあるぞ」
「うれしい。あれはわたくしのお気に入りなのです」
「うむうむ、この爺が手づから運んで来よう」

 ミュリアに掛かると、アドミニス殿が、まるで普通の孫に目がない老人のようにすら見える。
 恐るべきおねだり攻撃だ。
 そそくさと立ち上がり別の部屋、おそらくは厨房へと向かうアドミニス殿を見送り、ミュリアは、両親に向かい合った。

「お父さま、お母さま、そのような態度はよろしくありませんわ」
「はて、どうして私は愛しい娘に怒られているのであろう?」
「わ、わたくしも、ですか?」
「お二人共、まるで魔物の前で命乞いをする哀れな生贄のような有様です。わたくしの父と母は、身内に対して、そのような哀しい振る舞いをなさる方だったのですか? わたくしは少しがっかりいたしました」
「う……む」
「そう、ね。ミュリアの言う通りだわ」

 おお、あのがっかり攻撃は効果的だ。
 ロスト辺境伯夫妻は、まるでこの世から全ての光が消え失せたかのようにショックを受けているのが手に取るようにわかった。
 この領地の将来が心配になるほどの効果だ。

 そこへ、かわいらしいカップを携えたアドミニス殿が姿を現した。
 こちらの席にいたときには、俺達とお揃いのカップを使っていたが、あれが本来のミュリア専用のカップなのだろう。
 多分、俺達と一緒のときは一人だけ違うものを使いたくないとでも、アドミニス殿に言ったに違いない。

「まぁ素敵なカップですね。陶器だわ」
「うむ。何せ暇だけはあるのでな。ミュリアのイメージに合わせて作ってみたのだ」
「これをアドミニスさまがお作りに?」

 奥方さまは、とても驚いた様子だ。
 まぁそれはそうかもしれない。
 何せ、そのカップは、アドミニス殿のイメージからは程遠い、可憐なものだったからだ。
 繊細な形に繊細な絵付け、ため息が出るほどの芸術的な一品である。

 そのカップをじっと見つめていた奥方さまは、ふいに頭を下げた。

「アドミニスさま。わたくしも、ミュリアのように、おじいさまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「おお、もちろんだとも。人としての身内との付き合いは半ば諦めていた身であるが、このミュリアがここを訪れてからというもの、嬉しい驚きばかりがある。……ミュリアと同じように、親しく思ってもらえるなら、それに勝る喜びはない」

 そのアドミニス殿の返事に、何かを感じたのだろう、ロスト辺境伯は姿勢を正し、奥方さまと同じく、深く頭を垂れる。

「今の私がいるのも、アドミニス殿のおかげ、それを失念していたように思います。これから、お身内として、頼りにしていただけるとうれしく思います」

 おお、聖女としての振る舞いを捨て、ただのミュリアとして、大切な家族の心を一つにすることに成功するとは、大したものだな。
 俺がしみじみ感動していると、隣に座ったメルリルが、とんでもないことを言った。

「ミュリア、まるでダスターみたいです」

 その途端、勇者の顔が悔しげなものになる。

「くっ、ミュリアに弟子として先を越されるとは、兄弟子として面目ない」
「いや、ミュリアは俺の弟子でもなんでもないからな」
「だが、ミュリアは師匠のことを師匠と呼んでいるし、師匠もそれを咎めないではないか」

 師匠師匠とやかましいわ!
 俺が聖女の言動を訂正しなかったのは、そんなことにまで目くじらを立てるのは大人げないと思ったからだ。
 そもそも聖女は俺に弟子入りなんかしていないぞ。

「ミュリアは、お前の真似をしていただけだろ」
「うむ、俺の真似をして、師匠に弟子入りした」
「だからなんでそうなるんだ?」

 これ以上変な風評を広げられないようにしないと。
 せっかくあっちはいい雰囲気なのに、お前のせいで俺の心だけ猛吹雪じゃないか。
 はぁ……。
 もしかしたら、俺の師匠もこんな気持ちだったのかなぁ。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。