勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

905 従者と師匠

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 冬越しの長期滞在が決まって、城の人間にとって俺達はちょっとした負担になる。
 だから、きっと嫌がられているんじゃないかと思っていたのだが、どうもそういう訳ではないようだ。

「うちの領地は国に見捨てられてるのも同然だからな。お館さまもほかの貴族との交流がほとんどないんだ。だから城に余所者が滞在すること自体が珍しいし、ましてや、それが聖女になられた末姫さまと、勇者さま御一行だろう? そりゃあもう、名誉なことだってんで、集落中の人間が、いろいろなもんを持ち込んで来てな。いつもの冬よりも備蓄は潤沢なぐらいさ」

 仲良くなった使用人から、そんな風に聞かされて、そういう事情があったのかと、納得してしまった。
 どうやら、俺達は思った以上に歓迎されているらしい。
 以前訪れたときには、何やら敵対しかねない雰囲気だった城の守備隊の兵士も、俺達を見るとにこやかに挨拶をしてくれる。

 これには、聖騎士の存在も大きい。
 案外面倒見のいい聖騎士は、城の兵士達に剣の基礎を教えているらしく、それを楽しみにしている兵士が多いようだった。
 冬の間やれることも少ないが、訓練して体を動かしていれば、寒さも忘れるということだろうか。

 冬と言っても、我がミホムは、大陸のなかでは南部にあり、実はかなり温暖な気候をしている。
 国で一番北にあるこの辺境領ですら、たまに雪が降り、うっすらと積もる程度だ。
 ただ、それだけに、屋内の熱を逃さないようにするという考えが発展していないので、隙間風などが吹き込む構造の家が多い。
 そこで、実用的な寒さ対策も兼ねて、この地では、冬場には壁に壁掛けタピストリーを飾って鑑賞するのが、そこそこ金がある平民の楽しみとなっているようだ。

 壁掛けタピストリーと言えば、大公国が有名なので、秋口には、大公国の商人達が訪れたりするらしい。
 親が織物の取引をやっていたというモンクが、そういった品物に対して目利きであると知れた途端、領地にある有力者の屋敷から招待されるようになったとボヤいていた。

 モンクを招待するということは、礼儀として、その主とも言える聖女も招待することとなる。
 モンクからしてみれば、自分は聖女を招待する言い訳だということになるらしい。

「まぁ案外掘り出し物もあるから、久しぶりに楽しめたけどね」

 と言っていたので、モンクは親譲りもあって織物が好きなんだろう。
 大公国の小さな里に、美しい織物を作り続けている場所があって、父親がそこと取引をしていたと言っていたな。
 そこの壁掛けタピストリーが出て来たらきっとうれしいのだろうが、さすがにこの地まで流れて来ることは期待出来ないか。

「ダスター殿」
「ああ、すまない。庭に芋を保管する方法だったな」
「へい。よろしくお願いします」
「まず、水はけのいい土地を選ぶことが大切だ。穴は浅めに掘って、底にすのこを敷くのがいいだろう。一回に使う分を袋に小分けして、全体をよく乾いた枯れ草で覆い、しっかりと土を被せる。温度の変化は少ないほうがいいから、木陰を選ぶか、簡単な屋根をつけてもいいぞ。最初から小分けにしていれば、いちいち埋め直しする必要もない。まぁ小さな小山がいくつも出来るから、広い敷地がないと無理なんだが、ここなら問題ないだろう」
「なるほど」
「根ものはだいたいこの方法でいけるはずだ。次の種となるものも、そうやって保管しておくと、植え付け時期の管理がしやすいとも聞いたな」
「ほー、助かります。去年は食料庫に保管してあった芋が腐っちまったことがあって、難儀したもんです」
「根もの野菜は腐りにくいんだが、温度の変化が大きかったり、水気の多い場所だったりすると駄目になることもあるからな。温度変化の少ない土中保存が、もっと北のほうでは当たり前なんだ」

 俺は俺で、あちこち渡り歩いて経験したことを話しているうちに、なぜかいろいろと相談されるようになっていた。
 食料調達で調理場によく出入りするので、食料周りの保管方法や、加工方法が主だが、たまに機能的な棚の作り方とか、ものを運ぶ際の導線の確保とか、なにやら、客人の本分を超えたことまで尋ねられる。
 だが、そもそもが、俺の本分は冒険者なので、どうせならそっち向きの相談をしてもらいたい。

「ダスター殿」
「お、肉係がお探しだ」
「今度はなんだ?」

 俺の反応に、仲のいい使用人の男が笑う。

「ダスターさん、嫌なら嫌って断ったほうがいいぞ。ここの連中は馴染むまでは遠慮するが、馴染んでからは全く遠慮がなくなるからな」
「いや、それはむしろありがたいんだけどね。なにしろひと冬いる訳だから。あ、冬用の薪が足りなくなったら言ってくれよ。新しく伐採したやつでも、うちの勇者さまならすぐに使えるように出来るから。いい訓練にもなるんで遠慮はいらない」
「ぶはははははっ!」

 客がいきなり大勢押しかけたことで、冬場の薪不足を心配してそんな提案をしたら、思いっきり笑われてしまった。

「それではまるで、勇者さまのほうが従者のようだなぁ」
「あ……」
「いやいや、最初、勇者さまと言えば、偉ぶっていて、末姫さまを虐めているんじゃないかと思っていたんだが……。とっつきは悪いが、案外いい方だな。最近はうちの若い女共が噂をしているよ」
「ほう。勇者さまは浮いた噂がない方なんで、少々そっち方面は鈍感だと思う。迫るなら積極的に行くようにと助言しておいてくれ」
「うはははっ、悪いお師匠だな」
「……やっぱり知られてたか」
「そりゃあ、ああも誰はばかることなく公言していれば、ねぇ」
「城主さまには内密に。あまり貴族の方には知られなくない」
「まぁそりゃあわしらは直接城主さまと口を利いたりしないからな。こっちから話すことはないが……。万が一城主さまから聞かれたら、正直に答えるしかないぞ?」
「まぁそれは仕方ない。諦めるよ」

 うーむ、俺って、外から見ると酷い師匠に見えるのかな?
 もしかすると俺も、うちの師匠のことは言えないのかも。
 いつの間にか師匠に毒されて、弟子と言えば虐める相手みたいな意識でいたのかもしれない。
 ヤバいな、弟子時代には、絶対そういうのはよくないと思っていたのにな。
 今後はあまり勇者を虐めないように注意するか。
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