勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

898 自由なひととき

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 勇者の不安を無理やり共有させられたものの、とりあえず食事の時間までは自由に過ごすということで解散した。
 俺は念願の装備の手入れをいそいそと行う。
 そうやって、従者部屋にこもっていると、なにやらメルリルがそわそわした様子で傍に寄って来た。

「あの……」

 すごくもじもじしている。
 これは何か言いたいことがあるときの合図だ。
 メルリルは、まだ言葉選びがうまくないので、大事な話をしたいときには、とっさに言葉が出なくなってしまうらしい。

「どうした? 何か話があるんじゃないのか?」
「うん。でも、ダスター、楽しそうだし。邪魔しちゃ悪いかな? って」

 楽しそう、か。
 ほぼ毎日のルーチンワークではあるが、俺は自分の装備の手入れが好きだ。
 どの部分がどんな風にすり減っているか、などをチェックして、自分の癖に気づくことも大事だし、何よりも、脂を塗り込んだり、剣の刃先の汚れを落としたりするときに、こいつらが俺を守ってくれているんだなぁと実感する。
 それに大半は何も考えずに黙々と作業を行うことで、雑念が消えて、どこかすっきりとした気分になれるのだ。

 冒険者には、自分の装備の手入れに凝るタイプと、自分では全く手入れせずに、専門家に丸投げのタイプがいる。
 それで言うと、俺は前者タイプなのだろう。
 一概にどちらがいいとも言えないが、自分で手入れが出来るほうが長期の仕事はやりやすい。

「別に装備の手入れはいつでも出来ることだから、メルリルが話したいことがあるなら、気にせずに話してくれていいぞ。俺の優先順位は、メルリルが一番だからな」

 言ってしまって、自分でもちょっと恥ずかしいセリフだったかな? と、思ったが、メルリルは素直に嬉しがった。

「ありがとう、ダスター」
「当たり前だろ」

 まぁ俺は恋愛に関してそうスマートなほうじゃないが、その分、相手にも自分にも誠実であろうと思っている。
 何しろ、見本となる大人が酷すぎたからな。

 俺は師匠の女性関係を思い出して内心で頭痛を感じた。
 未だに、俺のなかで女性の涙はトラウマの最たるものだ。
 俺にどうにも出来ないことで泣かれてしまうと、ただ見守ることしか出来なくなる。
 そういうときの無力感は、二度と味わいたくないものだ。

 だから、好きな相手に隠し事をしない、思っていることを素直に言う、というのは、俺のなかで大前提となっている。

「実は……この子、ついて来ちゃったみたいなの」
「は?」

 予想だにしないことを告げられて、しばし固まってしまった。
 この子、とは?
 すると、メルリルの肩の後ろ、髪のなかからちらりと光るものが姿を見せた。
 んー? うん?

「……もしかして、アドミニス殿の使い魔?」
「うん」

 なんということだろう。
 いや、もしかしたら、アドミニス殿の指示でついて来たのかもしれない。
 考えてもわからないことは、確認するに限る。

「フォルテ」
「スー……ピー」

 何やらわざとらしい寝息が聞こえた。
 面倒くさいのか、眠いのか知らんが、お前しか通訳出来ないんだよ、起きろ!

「ピャウ……」

 すごく不本意そうにフォルテが俺の頭から下りて来る。
 そしてチラッとメルリルの後ろに隠れている光る草モドキを見た。

「ピルルル……ピ!」

 フォルテの声に、メルリルの髪の間から上半身を出した草モドキは、必死にピカピカ光りながら両手らしき葉っぱをバタバタさせる。
 うむ、全く何を言っているのかわからんな。
 アドミニス殿はこれを理解出来ているのだろうか?
 さすが元魔王である。

「ジーッ、ギャッ? チッチッジー、ピャ?」

 ピカピカ光る草。
 ……暇だし、装備の手入れに戻るか?
 話が長くなりそうだと感じた俺は、いつもの仕事に戻る誘惑に負けそうになりながらも、辛抱強く待った。
 その間に、メルリルが温かいお茶を淹れてくれる。

「ありがとう」
「ううん。お礼を言うのは私のほうだから」

 そんな話をしている間に、異種族間交渉はひと区切りついたようだ。

「ピキュゥ……」

 フォルテが何やら困惑したように俺に説明した。
 どうもこの使い魔、メルリルのいい匂いに誘われて、ついて来てしまったらしい。
 使い魔としてそれで大丈夫なのか?
 いや、まぁ自我や個性があって、すごいと思うべきなのか?

「ううむ、自分で帰れないのか?」

 ピカピカ光る草モドキ。
 
「ピッ、チチチ……」
「帰り道が全くわからない……だと?」

 困ったな。
 俺は道はわかるが、聖女がいないと、入り口が開かない。
 聖女はご両親の元に報告に行っている。
 アドミニス殿絡みなので、だいぶ説明に時間が掛かるんじゃないかと思うんだよな。
 その間に心配したアドミニス殿が出て来たらどうしよう?
 不審者扱いされて、キレることはないと思うんだが、城の人達が斬りかかりでもしたら、自分の身を守るぐらいはするだろうし、下手をすると関係がこじれてしまいそうだ。

 だが、隠し通路も外からは開かない仕組みっぽいし、これはやはり聖女待ちか。
 あ、そうだ。

「何か、ご主人にお前の状況を伝える手段はないのか? こう、以心伝心みたいな……」

 すると、草モドキのピカピカがパッと明るくなり、頭であろう蕾部分がほんのりとピンクに染まった。

「クルルル、ピャ!」

 む? なにやらフォルテが草モドキに向かって威張っているぞ。
 俺がじっと見つめていると、気づいたフォルテが通訳をする。

「ピッピッピャッ」
「なるほど、慌てていて、主と心が繋がっているのを忘れていた、と」
「よかった」

 俺がフォルテの言葉を口に出して言うと、メルリルがホッとしたように微笑んで胸を抑えた。
 草モドキの心配をしてやっていたのだろう。
 優しいな。

 しかし、主と心が繋がっているのを忘れるなんてことがあるのか?
 この草モドキ、だいぶおっちょこちょいなのでは?
 俺がじとっとした目で見つめると、言葉は通じなくとも何か感じたらしい草モドキは、ササッとメルリルの髪のなかへと潜った。
 その場所に潜られると、もっとイラッとするから止めて欲しいんだがな。
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