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第八章 真なる聖剣
881 集落のもてなし
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聖女に結界を張ってもらって全員でゆっくり休んだのち、野営を畳んで早朝に活動を開始した。
集落に拠点を移すかどうかは、住人の雰囲気を見て決めよう。
聖女組の立ち寄ったという集落は、大川の支流の南側にあたる平地にあった。
森にそこそこ近い場所なので、魔力も豊富で、土も肥えている。
なるほど、痩せていると評判の辺境領には珍しい土地だ。
何の作物かよくわからないが、冬場なのに少し緑が見える。
この時季に作れる野菜があるのか。
冬場でも作物を作っているだけあって、日も昇らない早朝に既に人が耕作地に出ていた。
「おはようございます」
真っ暗ななかから声を掛けられたので、びっくりした様子でこちらを振り返る。
畑仕事をしている人の手元には、ぼんやりとした灯りがあるので、何か魔道具を使っているのだろう。
「驚かして申し訳ありません。昨日お伺いしたミュリアです」
「ああっ、これは、聖女さま!」
「あ、そんなかしこまらないでください。作業のお邪魔をしてしまって、ごめんなさいね」
「全然だいじょぶですよ」
俺たちのなかで、一番人当たりがいい聖女を前面に押し立てて、対話をしていく作戦は成功のようだ。
というか、暗いなかから武装した男が声を掛けて来たら、一目散に逃げるだろう。
俺も自分が丸腰ならそうする。
「あの、昨日話した、勇者さまもお連れしたのですけど、集落のなかに立ち入らせていただいてよろしいでしょうか?」
「ひゃあ! そんな偉い方達がいらしても、何の歓迎も出来ないですよ」
農民らしき初老の男性は、ひどく焦った風にそう答える。
そりゃあそうだよな。
「いえ、全然、何もしていただかなくて大丈夫ですよ。わたくし達、今、調査を行っているのです」
「昨日おっしゃってた、湖ってやつかね?」
「はい」
「ん~。わし等、心当たりがなくて申し訳ないね」
「いえ。あの、それで、ちょっとだけ井戸を見せていただきたいのですけど」
「そのぐらいならいくらでもどうぞ。喉が乾いてらっしゃるなら、今からお茶をいれるんけど。まぁお茶言うても、わし等の飲むようなもんしかないんですけんどね」
「そんな、大事なものをいただく訳にはいきませんわ」
「いやいや、聖女さまや勇者さま方がいらしたのに、何のお構いもしないほうが、わし等にとっては恥ずかしいことですから。うちの嫁さんも、大喜びで一番上等な漬物でも添えて、出して来るですよ」
なんだかかしこまり過ぎて、言葉遣いも変になっている。
そりゃあそうだよな。
僻地の集落に勇者や聖女が立ち寄ったら、一大イベントだ。
突然始まった祭のようなもんだろう。
下手すると、死ぬまでの最良の思い出になるかもしれない。
「聖女さま。せっかくなのでお邪魔しましょう」
俺がそう声をかけると、聖女は少し困った顔のままうなずいた。
相手の邪魔をしてしまったという気持ちが先行しているに違いない。
「この時季に野菜が育つのかい?」
仕方ないので、俺が気安く男に声を掛けてみる。
目を細めてこっちを覗い見る様子を見せたので、近づいて、ぼんやりとした光のなかに踏み入った。
「ひゃあ、ああ、えっと、これは玉菜ですだ。冬場の玉菜は、しゃっきりとして甘いんで美味いんですよ」
「玉菜は春ものかと思ってたよ」
「うちの国じゃあ春ものが多いんですけんど、もっと北だと冬ものが人気なんです。わし等は、北の種類を育ててるんです」
「なるほど」
男は、さすがに農民だけあって、野菜の話になると、遠慮がなくなって饒舌になる。
専門家の話は興味深いが、今は勇者達が一緒なので、話を先へと進めよう。
「収穫されたら、ぜひ味わってみたいものだな。肉と一緒に煮込んだら美味そうだ」
「うんむ、玉菜の芯をくり抜いてですな、肉とか魚とかそのくり抜いたところに詰め込んで、じっくり煮込むと、なんとも言えない美味さでなぁ」
「師匠、……ものすごく腹が減って来た」
俺と農民の男の話を聞いていた勇者が、辛抱たまらず泣き言をこぼした。
「ああ、悪い。もうこの話は切り上げるつもりだったんだが、つい、な」
「おんや、朝食はまだですかね? 勇者さま方を腹ペコにしたとあっちゃ、うちの集落の名折れですけんど。ぜひ、うちの野菜も食べて行ってください」
「あー、いや、朝食はもう食べたんだ。しかし、まぁちょっと味見ぐらいなら寄せていただこうかな?」
勇者の腹ペコ主張がきっかけではあるが、結局俺も誘惑に抗えなかった。
朝食が済んだと言っても、身軽に動くために、ちょっと干し肉をかじったにすぎない。
それにせっかく自慢の野菜を勇者や聖女に振る舞うチャンスを潰すのもどうかと考えてしまったのだ。
俺は、代わりに、昨夜仕掛けた罠にかかっていた、野生の丸々鳥を提供する。
「おお、立派な雪玉だな」
「ここらでは雪玉と呼んでるのか?」
「そうそう。冬は雪玉、夏は草玉って呼んでるんです。美味いんだけんども、すぐ逃げてしまうんで、なかなか捕まらなくってなぁ。こりゃあ、わし等のほうがごちそうになるようなもんですよ」
ということで、この後、鳥の腹に野菜を詰めて塩とハーブを使って蒸し焼きにする料理を楽しむこととなった。
日が昇ると、今度は集落の人達も集まって来て、やれ酒を飲めとか、菓子をどうぞとか賑やかな歓迎をされてしまう。
まぁ、みんな楽しそうだったので、よしとするか。
探索は午後からでも間に合うだろうしな。
集落に拠点を移すかどうかは、住人の雰囲気を見て決めよう。
聖女組の立ち寄ったという集落は、大川の支流の南側にあたる平地にあった。
森にそこそこ近い場所なので、魔力も豊富で、土も肥えている。
なるほど、痩せていると評判の辺境領には珍しい土地だ。
何の作物かよくわからないが、冬場なのに少し緑が見える。
この時季に作れる野菜があるのか。
冬場でも作物を作っているだけあって、日も昇らない早朝に既に人が耕作地に出ていた。
「おはようございます」
真っ暗ななかから声を掛けられたので、びっくりした様子でこちらを振り返る。
畑仕事をしている人の手元には、ぼんやりとした灯りがあるので、何か魔道具を使っているのだろう。
「驚かして申し訳ありません。昨日お伺いしたミュリアです」
「ああっ、これは、聖女さま!」
「あ、そんなかしこまらないでください。作業のお邪魔をしてしまって、ごめんなさいね」
「全然だいじょぶですよ」
俺たちのなかで、一番人当たりがいい聖女を前面に押し立てて、対話をしていく作戦は成功のようだ。
というか、暗いなかから武装した男が声を掛けて来たら、一目散に逃げるだろう。
俺も自分が丸腰ならそうする。
「あの、昨日話した、勇者さまもお連れしたのですけど、集落のなかに立ち入らせていただいてよろしいでしょうか?」
「ひゃあ! そんな偉い方達がいらしても、何の歓迎も出来ないですよ」
農民らしき初老の男性は、ひどく焦った風にそう答える。
そりゃあそうだよな。
「いえ、全然、何もしていただかなくて大丈夫ですよ。わたくし達、今、調査を行っているのです」
「昨日おっしゃってた、湖ってやつかね?」
「はい」
「ん~。わし等、心当たりがなくて申し訳ないね」
「いえ。あの、それで、ちょっとだけ井戸を見せていただきたいのですけど」
「そのぐらいならいくらでもどうぞ。喉が乾いてらっしゃるなら、今からお茶をいれるんけど。まぁお茶言うても、わし等の飲むようなもんしかないんですけんどね」
「そんな、大事なものをいただく訳にはいきませんわ」
「いやいや、聖女さまや勇者さま方がいらしたのに、何のお構いもしないほうが、わし等にとっては恥ずかしいことですから。うちの嫁さんも、大喜びで一番上等な漬物でも添えて、出して来るですよ」
なんだかかしこまり過ぎて、言葉遣いも変になっている。
そりゃあそうだよな。
僻地の集落に勇者や聖女が立ち寄ったら、一大イベントだ。
突然始まった祭のようなもんだろう。
下手すると、死ぬまでの最良の思い出になるかもしれない。
「聖女さま。せっかくなのでお邪魔しましょう」
俺がそう声をかけると、聖女は少し困った顔のままうなずいた。
相手の邪魔をしてしまったという気持ちが先行しているに違いない。
「この時季に野菜が育つのかい?」
仕方ないので、俺が気安く男に声を掛けてみる。
目を細めてこっちを覗い見る様子を見せたので、近づいて、ぼんやりとした光のなかに踏み入った。
「ひゃあ、ああ、えっと、これは玉菜ですだ。冬場の玉菜は、しゃっきりとして甘いんで美味いんですよ」
「玉菜は春ものかと思ってたよ」
「うちの国じゃあ春ものが多いんですけんど、もっと北だと冬ものが人気なんです。わし等は、北の種類を育ててるんです」
「なるほど」
男は、さすがに農民だけあって、野菜の話になると、遠慮がなくなって饒舌になる。
専門家の話は興味深いが、今は勇者達が一緒なので、話を先へと進めよう。
「収穫されたら、ぜひ味わってみたいものだな。肉と一緒に煮込んだら美味そうだ」
「うんむ、玉菜の芯をくり抜いてですな、肉とか魚とかそのくり抜いたところに詰め込んで、じっくり煮込むと、なんとも言えない美味さでなぁ」
「師匠、……ものすごく腹が減って来た」
俺と農民の男の話を聞いていた勇者が、辛抱たまらず泣き言をこぼした。
「ああ、悪い。もうこの話は切り上げるつもりだったんだが、つい、な」
「おんや、朝食はまだですかね? 勇者さま方を腹ペコにしたとあっちゃ、うちの集落の名折れですけんど。ぜひ、うちの野菜も食べて行ってください」
「あー、いや、朝食はもう食べたんだ。しかし、まぁちょっと味見ぐらいなら寄せていただこうかな?」
勇者の腹ペコ主張がきっかけではあるが、結局俺も誘惑に抗えなかった。
朝食が済んだと言っても、身軽に動くために、ちょっと干し肉をかじったにすぎない。
それにせっかく自慢の野菜を勇者や聖女に振る舞うチャンスを潰すのもどうかと考えてしまったのだ。
俺は、代わりに、昨夜仕掛けた罠にかかっていた、野生の丸々鳥を提供する。
「おお、立派な雪玉だな」
「ここらでは雪玉と呼んでるのか?」
「そうそう。冬は雪玉、夏は草玉って呼んでるんです。美味いんだけんども、すぐ逃げてしまうんで、なかなか捕まらなくってなぁ。こりゃあ、わし等のほうがごちそうになるようなもんですよ」
ということで、この後、鳥の腹に野菜を詰めて塩とハーブを使って蒸し焼きにする料理を楽しむこととなった。
日が昇ると、今度は集落の人達も集まって来て、やれ酒を飲めとか、菓子をどうぞとか賑やかな歓迎をされてしまう。
まぁ、みんな楽しそうだったので、よしとするか。
探索は午後からでも間に合うだろうしな。
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