774 / 885
第八章 真なる聖剣
879 偉いのはダレ?
しおりを挟む
食事の後は、普通なら結界を張って寝てしまうのだが、今回は夜こそが本番だ。
とは言え、湖が発見出来てない時点で、夜目が利くとは言え、夜の森を歩き回るのは、あまりにもリスクが高い。
「みんな、とりあえず今夜の行動を決めよう」
「こういうのは師匠の独壇場だろ? 師匠が決めてくれたら俺はそれに従うぞ」
勇者が、無責任にそう言い放つ。
俺はこめかみをひくつかせながらも、穏やかに返した。
「結果は変わらないかもしれんが、その結果に行き着くまでの試行錯誤が大事なんだ。一人になにもかも任せるな。常に考えろ。わからないことも、知ろうとするんだ」
俺の言葉に、聖女が真剣にうなずく。
「はい!」
「うん」
そしてメルリルも相槌を打った。
うん、君達はいつも学ぼうという気持ちが大きいので、俺はこれっぽっちも心配していないぞ。
問題は勇者とモンクだ。
特に勇者はパーティの方針決定の要なんだから、思考を他人任せにする癖をつける訳にはいかない。
「むう、わかった。とりあえず日中に集めた情報をまとめよう」
「おう」
勇者が反省して、自らまとめ役を買って出た。
こういう素直なところは育ちのよさなんだろうなと思うが、同時に少し心配でもある。
とは言え、常に何もかもを疑ってかかる勇者とか嫌過ぎるので、その辺はサポート役として、俺が頑張るべきなんだろうな。
「俺は二翼のアンデルとの国境緩衝地手前の、丘になっている場所の南側から、支流が見える場所を地道に歩いて探したが、全くそれらしきものは見当たらなかった」
「若葉は探したのか?」
「……」
若葉は勇者の背後からちょろっと顔を出したが、すぐに引っ込んでしまった。
「あいつはいないものと考えたほうがいい。自分の思うようにしか動かない」
「アルフ、今はまだそれでいいかもしれないが、今後、若葉を抑えられるようにならないと、大人になった若葉が問題を起こさないとは限らないんだぞ? 若葉がその気じゃなくても、その存在だけで問題になる場合もある。それで気に食わない対応をされて、ヘソを曲げて暴れたらどうする? いちいち戦うのか? 自分の従魔も御せない勇者では、民は信じてはくれないぞ?」
「……むむっ」
勇者は、自分でもこのままではマズいとは思っているのだろう。
完全に押しかけて来られた形だが、群れに属さないドラゴンが自由にうろついていると考えるよりは、勇者が制御していると考えるほうが安心出来るのは確かだ。
従魔化の件に関しては、俺もやや強引に押し切ったという自覚があるので、勇者としては不本意だろう。
ただ、俺は、ドラゴンを戦って倒す勇者よりも、戦わずに御する勇者のほうが偉大だと考える。
不本意に勇者にされたのだ。どうせなら、最高の勇者を目指してもいいんじゃないか、とも思ってしまうのだ。
まぁそこは本人次第だが、意外と、ああ見えて勇者は若葉を嫌ってはいない。
あいつは本当に嫌うと、完全に相手を無視するからな。
「まぁそのことは今はいいか。うん、アルフの報告はわかった。ご苦労さま」
「ああ」
むくれているので、小さな木の実の殻を使った器に、木登りネズミが貯めた濃厚な酒精の宿る木の実を盛ってやった。
すかさず手を出して「美味い!」を歓声を上げる勇者。
食べ物の誘惑に弱い奴だ。
隠れていた若葉も出て来て、木の実を一つ持ち去ろうとしたところ勇者に首根っこを掴まれた。
「お前、今後俺と一緒にいるつもりなら、仲間という自覚を持て」
「ナカマ? 群れみたいなものだろ? イイヨ!」
軽くそう答えた若葉は、次に俺へと目を向ける。
「この群れのリーダーはダスターだね!」
そして、とんでもないことを言い出した。
「ほう、わかるのか? ドラゴン風情のくせして」
「ドラゴンは理性的で強大な種族ダゾ? 当然だろ! この群れで一番偉いのはダスターだ」
「いや、このパーティのリーダーはお前のご主人だからな」
このまま変な話になると困るので、チクリと釘を刺しておく。
しかし、この件に関しては、勇者は昔以上のポンコツだった。
「若葉がそう思うのは当然だ! 俺の師匠だからな!」
いやいやいや、リーダーお前だからな?
結局、若葉は納得したが、勇者は納得しなかった。
それどころか、若葉に向かって「こういうのは、人間社会の建前というんだ」などと教える始末だ。
ノリで言っているならいいが、かなり本気というところが始末が悪い。
逆にこっちを説得にかかるという有様だった。
「師匠は勇者の師匠なんだから、俺よりも偉いのは当然だろ。若葉は本能でそれがわかっただけだ。否定するのはおかしい。人間の建前を若葉が本気にしたらどうするんだ?」
「いや、アルフ、その理屈はおかしい。リーダーというのは、責任者のことだ。お前は勇者という責任を背負わされて不本意かもしれないが、それでも勇者となった以上、パーティのリーダーはお前が務めるのが筋なんだ。それは理解しておかないと」
「はいはい」
俺達が一歩も譲らない言い合いをしていると、モンクがパンパンと両手を叩きながら言い合いを終わらせる。
「ちょっとダスターあんたまで熱くなってどうするのさ。いつものようにクールに行こうよ。こいつがこうなのはいつものことじゃないか」
「……確かにそうだが、そろそろ自覚を持って欲しくてな」
「私から言わせてもらえば、どっちもどっちだと思うけどね。まぁうちらのパーティのリーダーは勇者で、勇者の師匠はダスター。それでいいじゃない。どっちが偉いとか子どものケンカみたい」
「普通の子どものケンカだと自分が偉いと主張するので逆だけどね」
モンクの言葉にメルリルが笑いながら付け足す。
二人の言葉に、さすがに俺も頭が冷えた。
そうだよな。
こんなことに熱くなったって意味がない。
俺と勇者の認識が違うのは、仕方のない話なのだ。
しかも俺の主張は対外的な話であって、勇者の主張は本質的な意味なのだから、もうどうしようもないほどズレている。
酒精を帯びた木の実でちょっと酔ったのかな?
「そうだな。今更の話だった。悪かった」
「人間は、ちょっと頭でっかちだよネ」
「ピャウ」
若葉とフォルテが何やら納得顔で言い合っているが、おそらくお前達の認識が一番ズレているからな?
とは言え、湖が発見出来てない時点で、夜目が利くとは言え、夜の森を歩き回るのは、あまりにもリスクが高い。
「みんな、とりあえず今夜の行動を決めよう」
「こういうのは師匠の独壇場だろ? 師匠が決めてくれたら俺はそれに従うぞ」
勇者が、無責任にそう言い放つ。
俺はこめかみをひくつかせながらも、穏やかに返した。
「結果は変わらないかもしれんが、その結果に行き着くまでの試行錯誤が大事なんだ。一人になにもかも任せるな。常に考えろ。わからないことも、知ろうとするんだ」
俺の言葉に、聖女が真剣にうなずく。
「はい!」
「うん」
そしてメルリルも相槌を打った。
うん、君達はいつも学ぼうという気持ちが大きいので、俺はこれっぽっちも心配していないぞ。
問題は勇者とモンクだ。
特に勇者はパーティの方針決定の要なんだから、思考を他人任せにする癖をつける訳にはいかない。
「むう、わかった。とりあえず日中に集めた情報をまとめよう」
「おう」
勇者が反省して、自らまとめ役を買って出た。
こういう素直なところは育ちのよさなんだろうなと思うが、同時に少し心配でもある。
とは言え、常に何もかもを疑ってかかる勇者とか嫌過ぎるので、その辺はサポート役として、俺が頑張るべきなんだろうな。
「俺は二翼のアンデルとの国境緩衝地手前の、丘になっている場所の南側から、支流が見える場所を地道に歩いて探したが、全くそれらしきものは見当たらなかった」
「若葉は探したのか?」
「……」
若葉は勇者の背後からちょろっと顔を出したが、すぐに引っ込んでしまった。
「あいつはいないものと考えたほうがいい。自分の思うようにしか動かない」
「アルフ、今はまだそれでいいかもしれないが、今後、若葉を抑えられるようにならないと、大人になった若葉が問題を起こさないとは限らないんだぞ? 若葉がその気じゃなくても、その存在だけで問題になる場合もある。それで気に食わない対応をされて、ヘソを曲げて暴れたらどうする? いちいち戦うのか? 自分の従魔も御せない勇者では、民は信じてはくれないぞ?」
「……むむっ」
勇者は、自分でもこのままではマズいとは思っているのだろう。
完全に押しかけて来られた形だが、群れに属さないドラゴンが自由にうろついていると考えるよりは、勇者が制御していると考えるほうが安心出来るのは確かだ。
従魔化の件に関しては、俺もやや強引に押し切ったという自覚があるので、勇者としては不本意だろう。
ただ、俺は、ドラゴンを戦って倒す勇者よりも、戦わずに御する勇者のほうが偉大だと考える。
不本意に勇者にされたのだ。どうせなら、最高の勇者を目指してもいいんじゃないか、とも思ってしまうのだ。
まぁそこは本人次第だが、意外と、ああ見えて勇者は若葉を嫌ってはいない。
あいつは本当に嫌うと、完全に相手を無視するからな。
「まぁそのことは今はいいか。うん、アルフの報告はわかった。ご苦労さま」
「ああ」
むくれているので、小さな木の実の殻を使った器に、木登りネズミが貯めた濃厚な酒精の宿る木の実を盛ってやった。
すかさず手を出して「美味い!」を歓声を上げる勇者。
食べ物の誘惑に弱い奴だ。
隠れていた若葉も出て来て、木の実を一つ持ち去ろうとしたところ勇者に首根っこを掴まれた。
「お前、今後俺と一緒にいるつもりなら、仲間という自覚を持て」
「ナカマ? 群れみたいなものだろ? イイヨ!」
軽くそう答えた若葉は、次に俺へと目を向ける。
「この群れのリーダーはダスターだね!」
そして、とんでもないことを言い出した。
「ほう、わかるのか? ドラゴン風情のくせして」
「ドラゴンは理性的で強大な種族ダゾ? 当然だろ! この群れで一番偉いのはダスターだ」
「いや、このパーティのリーダーはお前のご主人だからな」
このまま変な話になると困るので、チクリと釘を刺しておく。
しかし、この件に関しては、勇者は昔以上のポンコツだった。
「若葉がそう思うのは当然だ! 俺の師匠だからな!」
いやいやいや、リーダーお前だからな?
結局、若葉は納得したが、勇者は納得しなかった。
それどころか、若葉に向かって「こういうのは、人間社会の建前というんだ」などと教える始末だ。
ノリで言っているならいいが、かなり本気というところが始末が悪い。
逆にこっちを説得にかかるという有様だった。
「師匠は勇者の師匠なんだから、俺よりも偉いのは当然だろ。若葉は本能でそれがわかっただけだ。否定するのはおかしい。人間の建前を若葉が本気にしたらどうするんだ?」
「いや、アルフ、その理屈はおかしい。リーダーというのは、責任者のことだ。お前は勇者という責任を背負わされて不本意かもしれないが、それでも勇者となった以上、パーティのリーダーはお前が務めるのが筋なんだ。それは理解しておかないと」
「はいはい」
俺達が一歩も譲らない言い合いをしていると、モンクがパンパンと両手を叩きながら言い合いを終わらせる。
「ちょっとダスターあんたまで熱くなってどうするのさ。いつものようにクールに行こうよ。こいつがこうなのはいつものことじゃないか」
「……確かにそうだが、そろそろ自覚を持って欲しくてな」
「私から言わせてもらえば、どっちもどっちだと思うけどね。まぁうちらのパーティのリーダーは勇者で、勇者の師匠はダスター。それでいいじゃない。どっちが偉いとか子どものケンカみたい」
「普通の子どものケンカだと自分が偉いと主張するので逆だけどね」
モンクの言葉にメルリルが笑いながら付け足す。
二人の言葉に、さすがに俺も頭が冷えた。
そうだよな。
こんなことに熱くなったって意味がない。
俺と勇者の認識が違うのは、仕方のない話なのだ。
しかも俺の主張は対外的な話であって、勇者の主張は本質的な意味なのだから、もうどうしようもないほどズレている。
酒精を帯びた木の実でちょっと酔ったのかな?
「そうだな。今更の話だった。悪かった」
「人間は、ちょっと頭でっかちだよネ」
「ピャウ」
若葉とフォルテが何やら納得顔で言い合っているが、おそらくお前達の認識が一番ズレているからな?
1
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。