勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

879 偉いのはダレ?

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 食事の後は、普通なら結界を張って寝てしまうのだが、今回は夜こそが本番だ。
 とは言え、湖が発見出来てない時点で、夜目が利くとは言え、夜の森を歩き回るのは、あまりにもリスクが高い。

「みんな、とりあえず今夜の行動を決めよう」
「こういうのは師匠の独壇場だろ? 師匠が決めてくれたら俺はそれに従うぞ」

 勇者が、無責任にそう言い放つ。
 俺はこめかみをひくつかせながらも、穏やかに返した。

「結果は変わらないかもしれんが、その結果に行き着くまでの試行錯誤が大事なんだ。一人になにもかも任せるな。常に考えろ。わからないことも、知ろうとするんだ」

 俺の言葉に、聖女が真剣にうなずく。

「はい!」
「うん」

 そしてメルリルも相槌を打った。
 うん、君達はいつも学ぼうという気持ちが大きいので、俺はこれっぽっちも心配していないぞ。
 問題は勇者とモンクだ。

 特に勇者はパーティの方針決定の要なんだから、思考を他人任せにする癖をつける訳にはいかない。

「むう、わかった。とりあえず日中に集めた情報をまとめよう」
「おう」

 勇者が反省して、自らまとめ役を買って出た。
 こういう素直なところは育ちのよさなんだろうなと思うが、同時に少し心配でもある。
 とは言え、常に何もかもを疑ってかかる勇者とか嫌過ぎるので、その辺はサポート役として、俺が頑張るべきなんだろうな。

「俺は二翼のアンデルとの国境緩衝地手前の、丘になっている場所の南側から、支流が見える場所を地道に歩いて探したが、全くそれらしきものは見当たらなかった」
「若葉は探したのか?」
「……」

 若葉は勇者の背後からちょろっと顔を出したが、すぐに引っ込んでしまった。

「あいつはいないものと考えたほうがいい。自分の思うようにしか動かない」
「アルフ、今はまだそれでいいかもしれないが、今後、若葉を抑えられるようにならないと、大人になった若葉が問題を起こさないとは限らないんだぞ? 若葉がその気じゃなくても、その存在だけで問題になる場合もある。それで気に食わない対応をされて、ヘソを曲げて暴れたらどうする? いちいち戦うのか? 自分の従魔も御せない勇者では、民は信じてはくれないぞ?」
「……むむっ」

 勇者は、自分でもこのままではマズいとは思っているのだろう。
 完全に押しかけて来られた形だが、群れに属さないドラゴンが自由にうろついていると考えるよりは、勇者が制御していると考えるほうが安心出来るのは確かだ。

 従魔化の件に関しては、俺もやや強引に押し切ったという自覚があるので、勇者としては不本意だろう。
 ただ、俺は、ドラゴンを戦って倒す勇者よりも、戦わずに御する勇者のほうが偉大だと考える。
 不本意に勇者にされたのだ。どうせなら、最高の勇者を目指してもいいんじゃないか、とも思ってしまうのだ。

 まぁそこは本人次第だが、意外と、ああ見えて勇者は若葉を嫌ってはいない。
 あいつは本当に嫌うと、完全に相手を無視するからな。

「まぁそのことは今はいいか。うん、アルフの報告はわかった。ご苦労さま」
「ああ」

 むくれているので、小さな木の実の殻を使った器に、木登りネズミが貯めた濃厚な酒精の宿る木の実を盛ってやった。
 すかさず手を出して「美味い!」を歓声を上げる勇者。
 食べ物の誘惑に弱い奴だ。

 隠れていた若葉も出て来て、木の実を一つ持ち去ろうとしたところ勇者に首根っこを掴まれた。

「お前、今後俺と一緒にいるつもりなら、仲間という自覚を持て」
「ナカマ? 群れみたいなものだろ? イイヨ!」

 軽くそう答えた若葉は、次に俺へと目を向ける。

「この群れのリーダーはダスターだね!」

 そして、とんでもないことを言い出した。

「ほう、わかるのか? ドラゴン風情のくせして」
「ドラゴンは理性的で強大な種族ダゾ? 当然だろ! この群れで一番偉いのはダスターだ」
「いや、このパーティのリーダーはお前のご主人だからな」

 このまま変な話になると困るので、チクリと釘を刺しておく。
 しかし、この件に関しては、勇者は昔以上のポンコツだった。

「若葉がそう思うのは当然だ! 俺の師匠だからな!」

 いやいやいや、リーダーお前だからな?
 結局、若葉は納得したが、勇者は納得しなかった。
 それどころか、若葉に向かって「こういうのは、人間社会の建前というんだ」などと教える始末だ。
 ノリで言っているならいいが、かなり本気というところが始末が悪い。
 逆にこっちを説得にかかるという有様だった。

「師匠は勇者の師匠なんだから、俺よりも偉いのは当然だろ。若葉は本能でそれがわかっただけだ。否定するのはおかしい。人間の建前を若葉が本気にしたらどうするんだ?」
「いや、アルフ、その理屈はおかしい。リーダーというのは、責任者のことだ。お前は勇者という責任を背負わされて不本意かもしれないが、それでも勇者となった以上、パーティのリーダーはお前が務めるのが筋なんだ。それは理解しておかないと」
「はいはい」

 俺達が一歩も譲らない言い合いをしていると、モンクがパンパンと両手を叩きながら言い合いを終わらせる。

「ちょっとダスターあんたまで熱くなってどうするのさ。いつものようにクールに行こうよ。こいつがこうなのはいつものことじゃないか」
「……確かにそうだが、そろそろ自覚を持って欲しくてな」
「私から言わせてもらえば、どっちもどっちだと思うけどね。まぁうちらのパーティのリーダーは勇者で、勇者の師匠はダスター。それでいいじゃない。どっちが偉いとか子どものケンカみたい」
「普通の子どものケンカだと自分が偉いと主張するので逆だけどね」

 モンクの言葉にメルリルが笑いながら付け足す。
 二人の言葉に、さすがに俺も頭が冷えた。
 そうだよな。
 こんなことに熱くなったって意味がない。
 俺と勇者の認識が違うのは、仕方のない話なのだ。
 しかも俺の主張は対外的な話であって、勇者の主張は本質的な意味なのだから、もうどうしようもないほどズレている。
 酒精を帯びた木の実でちょっと酔ったのかな?

「そうだな。今更の話だった。悪かった」
「人間は、ちょっと頭でっかちだよネ」
「ピャウ」

 若葉とフォルテが何やら納得顔で言い合っているが、おそらくお前達の認識が一番ズレているからな?
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