勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

875 冬の野営の秘訣

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 俺達の世話係となっている使用人を通じて、事前にロスト辺境伯に連絡を入れておき、俺達はアドミニス殿の依頼を果たすべく出立した。
 月の光の下で咲く花ということなので、月の輝きが最も強くなる時期を確認してみたが、奇しくも、ここ三日ほどが、太陽の反射と魔力光との相互関係で、一年でも一番と言えるほどに光輝を纏う時期となっている。
 謀ったようなタイミングだが、まぁアドミニス殿のことだ、わかった上での依頼だろう。

 昔から月の光には、太陽の穏やかな光の力と月自体が持つ魔力とを地上に降り注ぐ役割があると考えられて来た。
 そのためか、月が光輝を纏うときには、闇に関するさまざまなことが起きると言われている。

 一つは誕生。
 月の光が強い夜に生まれた子どもは、特別な運命に導かれるとされていた。
 そして、一つは狂気。
 月の強い光には、魔力を暴走させる作用があり、魔力を抑えきれずに、暴力や、狂気に突き動かされる者が増えるとのこと。
 なかなかに興味深い話だが、一年で一番光が強い月の時期など、天に在るものを研究している学者ぐらいしか知らないので、あまり庶民には伝わっていなかったりする。

 なぜかというと、普通庶民は、月が出る時間には寝ているのだ。
 俺達のような冒険者や、旅が仕事のような吟遊詩人などは、月の光を魔物の凶暴化の指標としていたりするので、学者並に詳しい奴がいたりもするけどな。

「メルリル、森の少し深いところで、安全そうな場所を見つけたら、一度道から出してくれないか?」
「もちろん大丈夫だけど、何かあるの?」
「一晩では済まないかもしれないし、準備をしたい」
「わかった」

 と、そんな調子で、俺達は裂け目に架けられた橋を渡り、森へと踏み入った。
 冬も深くなり、ときどき雪もちらつくようになって来た森は、どの季節よりも静かだ。
 魔物も含めた生き物の多くは、安全な闇のなかで、春までの長い夢を見ている季節なのである。

「うーん。なんだか懐かしい感じがするぞ」

 森の半ばに自然に出来ていた倒木の広場に降り立つと、勇者が深く息を吸った。
 手足の関節を回して確かめているのは、出立前の鍛錬のせいだろう。

「ここのところずっと、貴族の城とかばっかりだったからな。まぁ一応移動のために、森を通りはしたが、メルリルの道を使ってたし」
「そう言えばそうだな」
「でも、さすがに冷えますね」

 勇者の感想の理由づけをしていたら、ミュリアがぶるりと震えて自分の腕をこすった。
 精霊メイスの道は、暑さ寒さ関係ない場所だからな。
 森の湿った冷たさというものは、時間と共に体力を奪う。
 適度に体を動かしておいたほうがいいだろうということで、勇者達それぞれに簡単な仕事をやらせて、俺は目的のものを探す。

「お、あったあった」

 木のうろを覗き込んでうんうんうなずいている俺に、勇者が不思議そうに声を掛けて来た。

「師匠は何を探しているんだ?」
「木登りネズミの秘密の貯蔵庫、だな」
「ネズミの貯蔵庫?」

 疑問いっぱいの顔で首をかしげる勇者に、戦利品を見せてやる。

「わー木の実がいっぱいですね」

 聖女が枯れ木や乾燥した落ち葉などを袋に詰め込みながら、俺の戦利品を覗き込んで感想を言った。

「木登りネズミは秋から初冬にかけて、木のうろに木の実を貯め込む性質があってな、これが自然にかもされて、酒精の加わった味になっているんだ。冒険者の間では、冬場の夜には、これを食べながら夜番を過ごすのを楽しみにしている奴等もいるぐらいさ。俺も割と好きだ」
「むっ、確かに酒っぽい甘い匂いがする」

 勇者もうなずきながら覗き込んだ。
 そこへ、弾むような足取りでやって来たのがモンクである。

「なになに? お酒?」
「明確に酒ではないぞ」

 モンクは、ワインなどを薄めずに飲む、いわゆる行儀の悪い飲み方が好きだ。
 悪酔いしそうなものだが、案外ケロッとしているので、酒に強い体質なのかもしれない。
 逆に勇者や聖女はハチミツ水で割ったワインでもちょっと赤くなるので、酒に弱そうだ。

「よしよし。冬の野営で、何も楽しみがないと辛いからな。こういうのがあるとないとでは全然違うんだぞ」
「さすが師匠」
「美味しそう!」

 勇者がいつもの挨拶代わりのさすがを言ったところで、頭に乗っていた若葉が、醸された木の実を見て、舌なめずりをした。

「お前は、魔力の濃いものが好きなんじゃなかったのかよ」
「食いしん坊の相棒の影響で、僕も美味しいものが好き!」
「俺のせいにするな!」

 若葉はすっかり饒舌になったな。
 いや、普段は今まで通り、隠れているししゃべらないから、饒舌というのはおかしいか。
 まぁ二人が仲良さそうでよかった。

「ピャッ!」
「こら、味見は現場についてからだぞ」

 フォルテが、若葉に刺激されたのか、木の実をつまみ食いしようとする。
 俺はそのくちばしをぺしりと軽く叩いた。

「ピャウ……」
「こういうのはな、夜になって、焚き火を囲みながら、みんなでつまむのが美味いんだよ」
「クルル、ピッ!」

 フォルテはなるほどとうなずく。
 さてさて、アドミニス殿お望みの花が、あっさりと見つかるといいな。
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