勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
768 / 885
第八章 真なる聖剣

873 普通の従魔契約は魔法を使います

しおりを挟む
 勇者と若葉が両方ダウンしたところで、聖女に結界を解いてもらう。
 ちなみに、何が起こったのかというと、斬りかかった勇者の魔力を若葉が一気に食ってよろめかせたが、勇者に雷の魔法をぶちかまされて、「キュー」という、割とかわいい鳴き声と共にひっくり返ったのだ。
 勇者も魔力が一気に減ったところに自分で魔法を使うという追い打ちを掛けたので、立ちくらみを起こして床を這っている。

 何がしたいんだ、こいつら……。

「師匠、何か食わせてくれ」

 勇者が情けなく懇願する。

「お師匠さま、魔力が減ったときには甘いものがいいと、聖女仲間から聞いたことがあります」
「へえ」

 伝聞としての情報なのは、うちの聖女は魔力枯渇などになったことがないからだろう。
 こないだの誘拐騒ぎのときに初めて経験したんだろうな。
 そう言えば、あのときは甘い焼き菓子をたくさん食べた。
 ……ん? いつもとそこまで変わらなかったような気もするぞ。

 とりあえず、そろそろ食べ切ってしまいたいということもあって、例の特別な干しナツメを皆で楽しんだ。
 
「美味い! なんとなくだが、魔力が戻って来ているような気がする」
「ウマッ! ウマッ!」
「なんでお前が当然のように食ってるんだ?」
「アルフは僕に負けたからって、気にしなくていいから」
「負けてないだろ!」
「お前ら、いい加減にしないと、置いていくぞ」

 勇者と若葉がまた喧嘩を始めたので、忠告しておく。
 俺がいつまでも甘やかしていると思ったら、大間違いだからな。

「お、俺は悪くないぞ! こいつが勝手に俺にくっついて来るから!」
「僕は心が動いたことに正直に行動しているだけだよ。それが正しい在り方でしょ!」

 勇者の気持ちはわかるが、ドラゴンにはドラゴンの考え方があって、俺達人間にはそれをどうにかすることは出来ない。
 もし止めたいなら、全力で相手を否定しなければならないが、若葉のやっていることに対して、そこまで強く否定するのはどうなのか? という疑問も残る。
 一応若葉のおかげで助かっている部分もあるからな。

「アルフ、これは提案なんだが」
「はい、師匠」

 お、真面目な顔で姿勢を正したぞ。
 信頼してくれるのはありがたいが、俺はお前の師として何かした覚えはないんだよなぁ。
 なんというか、師匠らしくない師匠で申し訳ないぐらいだ。

「もういっそ、従魔契約を結んでしまったらどうだろう?」
「えっ!」

 俺の提案に、勇者だけでなく、全員が俺を見た。

「ド、ドラゴンと、従魔契約……ですか?」

 聖騎士が、すごい真顔で聞き返す。

「ドラゴンと言っても、若葉はもう群れに戻れないようだし、はぐれたドラゴンを一匹でうろうろさせるよりも、勇者であるアルフが管理していたほうが安心だろ?」
「なるほど、そういう考え方もありますね」

 聖騎士はどうやら納得したようだ。
 納得しないのは、当の勇者である。

「なんで俺がこいつと契約しなきゃならないんだ? 俺の魔力を勝手に食っている奴だぞ!」
「それだよ」

 俺は勇者の言ったことを指摘した。

「どうせ魔力を食われるなら、一方的じゃなくて、契約したほうが得だろ?」

 これは冒険者的な考え方だが、一方的な損をするというのは、間抜けのやることという意識がある。
 どうせ損をしなければならないなら、その損分をどうにかして埋めようと考えるのだ。

「若葉はどう思う? お前だけ得をしているのは、公平じゃないと思わないか?」
「僕はアルフと一緒にいられるならなんでもいいよ」

 単純明快で何よりだ。

「な。どうせずっとくっついて来るんだ。それなら従魔契約を結んで、ある程度若葉の行動を制御出来るほうがマシだろ?」
「うぬぬ……」

 勇者はうなった。
 俺からしてみれば、考えるまでもないような気がするが、勇者にとっては苦渋の決断となるようだ。

「わかった。若葉、俺の言うことを聞くと約束するなら、一緒にいることを許そう」
「ほんと! ヤッター!」

 勇者も覚悟を決めたようでなによりである。
 今の所、言葉による契約だけだが、ドラゴンという種族は約束にこだわるということを考えると、特に魔法で縛る必要もないとは思う。
 何よりも、実は、ドラゴンに効果的な契約魔法がないのだ。
 もちろん盟約を結ぶという方法もあるが、盟約は、人間側に負担が大きすぎる。
 そもそも初代勇者が二重に盟約を結んだせいで、早逝したと聞いているので、その選択だけは取ることは出来ない。
 そうだ、ドラゴン側から一方的に盟約を結ぶことも出来るんだったな。
 まぁ勇者ほどの魔力があれば、一方的に盟約を結ばされるということにはならないと思うが、一応予防線は張っておこう。

「若葉、従魔契約は結んだが、アルフと盟約は交わさないようにするんだぞ? アルフはすでに神の盟約を背負っているから、お前の盟約まで背負わされたら、死んでしまうかもしれないからな」
「えっ! アルフ死んじゃうの? 嫌だよ!」

 俺の言葉に大いに慌てる若葉。

「師匠の言ったことをちゃんと理解してないだろ? お前がやらかさなきゃ大丈夫ってことだ。まぁ俺相手に、そうそう一方的に盟約を課せるとは思わないほうがいいけどな」
「その神の盟約も破棄しちゃおうよ。僕が一緒にやればきっと出来るよ」
「お前、それやったら神の敵として討伐対象になるからな、絶対ダメだ」

 盟約を破棄するということは、その元を破壊するということだ。
 つまり神の盟約そのものを破壊しなければならない。
 うん、普通に神と人類の敵に認定されるな。

「若葉、アルフは神の盟約によって護られている部分もあるんだぞ? わからないか?」

 おれは若葉に問いかけた。

「ん~? ん? これ、かな? あー、うん。そうか、アルフの魔力が肉体を蝕まないのは、それが理由かぁ……で、でも僕も同じこと出来るもん!」
「神の盟約は平野人全体の生活を支えているんだから、お前に壊されるとみんなが困るんだよ。お前はアルフにしか興味はないんだろ?」
「うん!」

 うんうん、若葉の考え方は、だいぶ学んだからな。
 勇者以外には、ほとんど興味がないんだよなぁ。
 とりあえず、今のところはこれでいいか。
 後のことは後で考えればいいさ。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。