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第八章 真なる聖剣
870 伝説が蘇る夜
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「地下でお会いしたアドミニス殿は、最初、五感全てを封じられ、歳を重ねることも出来ない呪いにかかっておいでになりました。おそらく、ご城主さまの見た呪いというのがこれでしょう。この強力な呪いはドラゴンのもの、とのことでした」
「……ドラゴン」
ロスト辺境伯は、さすがに息を呑んだ。
この世界に生きる者なら、ドラゴンの恐ろしさは必ず耳にしている。
寝物語に、あるいは教会で教手の語る伝承に、その怖ろしい力が語られるからだ。
だからこそ、ドラゴンと聞くと、ほとんどの者が恐怖を感じるのである。
「はい。ですが、その呪いは、勇者さま方の活躍で消え去り、今は残っておりません」
「……」
トントンとテーブルを指で叩く音がして、勇者が口を尖らせて俺を見た。
俺の手柄と言えと、手信号で伝えて来る。
いや、今言ったのは、完全に事実だからな。
全員が頑張ったおかげなんだから。
俺だけの手柄じゃないぞ?
「後は、ご明察の通り、アドミニス殿が、旅を急ぐ俺達を、あの方だけが知るという抜け道から脱出させてくださったのです」
「なんともはや……信じがたい話だな。まるで、初代勇者の時代の物語のようではないか」
「実際に体験した身でも、振り返ると同じように思います」
俺がそう言うと、ロスト辺境伯は、やっと少し笑った。
「お父さま、おじいさまに会ってさしあげてください」
聖女が、祈るように言った。
ロスト辺境伯は大切な愛娘をじっと、愛おしむように見つめた後。
「いや、今しばらくはよしておこう。私は自分という人間を知っている。そう簡単に恐怖を乗り越えることは出来ん」
ロスト辺境伯がアドミニス殿と会って話をする、というのは、まだ時期尚早のようだ。
人によっては、尻込みをしたとロスト辺境伯をそしる人間もいるだろうが、自分の歩く速度を知っている人間は、着実に目的を達成する。
この方は、堅実でいい領主なのだろうなと、思えた。
「お心のままに。ですが、一つ、いえ、二つほどお知らせしておきたいことがあるのです」
俺は、肝心要のことを伝えておくことにする。
さすがに勇者に任せようと思ったが、あくびをしながら茶をすすっているのを見てあきらめた。
「うむ」
「用件は二つですが、目的と言えるものは一つ。つまり、俺達の今回の訪問の目的は、その、地下の御方にあります」
「なるほど、な。確かに、前回姿を消したことに対する謝罪にしては遅いし、かと言って、今のところ、我が領地に魔物の被害もない。勇者殿が来られるには、少々不思議な時期でしたな。……ふふ、私と奥などは、末娘が帰って来てくれたということだけで、細かいことは気にしてはいなかったが」
あー、やっぱりそんな感じだったのか。
普通もうちょっといろいろ確認したりするもんだろうに、ほぼ俺達は放置だったからな。
娘可愛さも度が過ぎているように感じるが、事情を聞けば、それも仕方ないような気もする。
「一つは俺達が伴ったルフ少年の件です。地下にいらっしゃるアドミニス殿は、かつて高名な鍛冶師であり、現在でもその技は衰えていません。ルフ少年は、アドミニス殿の弟子になりに来たのです」
「それは、凄いな!」
ロスト辺境伯は、その話を聞いた途端、楽しそうに笑った。
「ああいや、すまない。その少年をバカにした訳ではないのだ。かつての魔王に弟子入りしようとする剛の者が、あのような小さな少年であるというのが、なんというか微笑ましくてな」
「お気持ちはわかります。ただ、実はルフ少年自身も、まさか自分が弟子入りする先が、千年生きた歴史的人物とは思ってもいなかったようですが……」
「ほう? それではどうして弟子入りという話に?」
「それは二つ目の話に関連するのですが、俺達の一番の目的が、アドミニス殿に勇者さまの使う、剣を作っていただく、というもので、その材料として、迷宮で見つけた魔法真銀を使ってもらおうという話になったのです」
「それはまた、伝説の世界に紛れ込んだような話だな」
「考えてみれば、確かにそうですね」
俺も、ロスト辺境伯につられて、少し笑ってしまう。
よくよく考えてみれば、ドラゴンの装備とか、魔法真銀とか、聖剣とか、とても、現実で起きている話には聞こえない内容だな。
「その、魔法真銀を扱える鍛冶師がいるという話が出た時点で、ルフ少年の父が、ぜひ息子をその方の元へ弟子入りさせたい言った訳です。俺達が別に頼んだ仕事の代金代わりに頼まれたので、無下に断ることも出来ず、とりあえず顔合わせだけでも、と、連れて来た、ということになります」
「なるほど。……いや、……うむ、少し、私には刺激の強い話だった。まとめて聞くような内容ではなかったな」
「確かに、そうですね」
「食べきれない話でも、とりあえず丸呑みしておけばいい」
俺の説明が終わったと思ってか、勇者が余計なことを付け足した。
なんだその、嫌いな食べ物は、噛まずに飲み込めばいいみたいな言い方は。
「……ドラゴン」
ロスト辺境伯は、さすがに息を呑んだ。
この世界に生きる者なら、ドラゴンの恐ろしさは必ず耳にしている。
寝物語に、あるいは教会で教手の語る伝承に、その怖ろしい力が語られるからだ。
だからこそ、ドラゴンと聞くと、ほとんどの者が恐怖を感じるのである。
「はい。ですが、その呪いは、勇者さま方の活躍で消え去り、今は残っておりません」
「……」
トントンとテーブルを指で叩く音がして、勇者が口を尖らせて俺を見た。
俺の手柄と言えと、手信号で伝えて来る。
いや、今言ったのは、完全に事実だからな。
全員が頑張ったおかげなんだから。
俺だけの手柄じゃないぞ?
「後は、ご明察の通り、アドミニス殿が、旅を急ぐ俺達を、あの方だけが知るという抜け道から脱出させてくださったのです」
「なんともはや……信じがたい話だな。まるで、初代勇者の時代の物語のようではないか」
「実際に体験した身でも、振り返ると同じように思います」
俺がそう言うと、ロスト辺境伯は、やっと少し笑った。
「お父さま、おじいさまに会ってさしあげてください」
聖女が、祈るように言った。
ロスト辺境伯は大切な愛娘をじっと、愛おしむように見つめた後。
「いや、今しばらくはよしておこう。私は自分という人間を知っている。そう簡単に恐怖を乗り越えることは出来ん」
ロスト辺境伯がアドミニス殿と会って話をする、というのは、まだ時期尚早のようだ。
人によっては、尻込みをしたとロスト辺境伯をそしる人間もいるだろうが、自分の歩く速度を知っている人間は、着実に目的を達成する。
この方は、堅実でいい領主なのだろうなと、思えた。
「お心のままに。ですが、一つ、いえ、二つほどお知らせしておきたいことがあるのです」
俺は、肝心要のことを伝えておくことにする。
さすがに勇者に任せようと思ったが、あくびをしながら茶をすすっているのを見てあきらめた。
「うむ」
「用件は二つですが、目的と言えるものは一つ。つまり、俺達の今回の訪問の目的は、その、地下の御方にあります」
「なるほど、な。確かに、前回姿を消したことに対する謝罪にしては遅いし、かと言って、今のところ、我が領地に魔物の被害もない。勇者殿が来られるには、少々不思議な時期でしたな。……ふふ、私と奥などは、末娘が帰って来てくれたということだけで、細かいことは気にしてはいなかったが」
あー、やっぱりそんな感じだったのか。
普通もうちょっといろいろ確認したりするもんだろうに、ほぼ俺達は放置だったからな。
娘可愛さも度が過ぎているように感じるが、事情を聞けば、それも仕方ないような気もする。
「一つは俺達が伴ったルフ少年の件です。地下にいらっしゃるアドミニス殿は、かつて高名な鍛冶師であり、現在でもその技は衰えていません。ルフ少年は、アドミニス殿の弟子になりに来たのです」
「それは、凄いな!」
ロスト辺境伯は、その話を聞いた途端、楽しそうに笑った。
「ああいや、すまない。その少年をバカにした訳ではないのだ。かつての魔王に弟子入りしようとする剛の者が、あのような小さな少年であるというのが、なんというか微笑ましくてな」
「お気持ちはわかります。ただ、実はルフ少年自身も、まさか自分が弟子入りする先が、千年生きた歴史的人物とは思ってもいなかったようですが……」
「ほう? それではどうして弟子入りという話に?」
「それは二つ目の話に関連するのですが、俺達の一番の目的が、アドミニス殿に勇者さまの使う、剣を作っていただく、というもので、その材料として、迷宮で見つけた魔法真銀を使ってもらおうという話になったのです」
「それはまた、伝説の世界に紛れ込んだような話だな」
「考えてみれば、確かにそうですね」
俺も、ロスト辺境伯につられて、少し笑ってしまう。
よくよく考えてみれば、ドラゴンの装備とか、魔法真銀とか、聖剣とか、とても、現実で起きている話には聞こえない内容だな。
「その、魔法真銀を扱える鍛冶師がいるという話が出た時点で、ルフ少年の父が、ぜひ息子をその方の元へ弟子入りさせたい言った訳です。俺達が別に頼んだ仕事の代金代わりに頼まれたので、無下に断ることも出来ず、とりあえず顔合わせだけでも、と、連れて来た、ということになります」
「なるほど。……いや、……うむ、少し、私には刺激の強い話だった。まとめて聞くような内容ではなかったな」
「確かに、そうですね」
「食べきれない話でも、とりあえず丸呑みしておけばいい」
俺の説明が終わったと思ってか、勇者が余計なことを付け足した。
なんだその、嫌いな食べ物は、噛まずに飲み込めばいいみたいな言い方は。
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