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第八章 真なる聖剣
860 衣装合わせ
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いよいよ晩餐会が開かれることとなった。
正式なご招待となるので、勇者達は正装である。
いや、正装と言っても、勇者の装備を着ける訳じゃない。
そもそもあれは王宮と、大聖堂にそれぞれ別のものが保管されていて、特別な式典用となっている。
この間、大公国での式典の際には、聖者さまがわざわざ運んで来てくれたらしい。
申し訳ない。
つまりここで言う正装とは、鎧などを装着しない、普段着の範囲で着飾るということだ。
ちなみに俺とメルリルは従者扱いなので、控えていればいいだけだ。
そのため、そこまで服装に気を使わなくてもいい。
それでも、新品のシャツとズボンが必要だった。
メルリルは足首までのローブにエプロンという出で立ちだ。
ロスト辺境伯は娘の装いに力を入れすぎたらしく、用意した衣装のことごとくにダメ出しをされてしまってヘコんでいたらしい。
あまりにかわいそうだったので、一番シンプルなものを選んだ、と聖女がこぼしていた。
そういう聖女の服装は、スカートとかと重ねて着るガウンとのこと。
よくわからないが、ふんわりしていて似合っていると思う。
いつものシンプルなローブとはまた違っていて、簡単に言ってしまうと、貴族のお姫さまという感じだ。
「一人で着れないような衣装は面倒ですと言ったのですが、こういう席ぐらいはと押し切られてしまいました」
どうやら本人は不満のようである。
「可愛くていいんじゃないか? なあ、メルリル」
「うん。すごく似合ってる。お姫さまみたい」
メルリルの感想は俺とほぼ同じだった。
一方で、勇者の意見はまた違った方面の感想となる。
「俺達の衣装とバランスが取れないだろ。わざとか」
言われてみれば確かにその通りで、勇者達の装いは、言うなれば大聖堂風と言えるだろう。
基本的に大聖堂では服装はシンプルになる。
神に仕えるのに自分の欲を優先する必要はないからだ。
見栄えは二の次、動きやすさ重視という感じだな。
礼服もその精神を引きずっていて、ローブのみとか、男性ならサーコートにズボンとなる。
正式な席になると、そこにマントが加わる感じだ。
貴族風の、あっちこっちを紐で縛ったり、ピン飾りをつけたりして、一人では着られないようなものはまず見掛けない。
勇者にそう言われて気になったのか、聖女はガウンの飾りを引っ張っり始めた。
そのレース飾りは絶対に高いやつだから、なるべく引っ張らないほうがいいと思うぞ。
「可愛いからいいじゃない」
と、モンクの感想は簡潔で、自分に正直だ。
さっきからずっとニコニコしながら聖女の周りをグルグル回っている。
目が回っても知らないぞ。
「花とかリボンとかもっと飾ってもいいぐらいだと思うよ」
モンクはさらに、なにやら手をわきわきさせている。
飾りたいのか? 飾りたいんだな?
だが、ご両親が見立てた衣装なら、手を加えないほうがいいと思うぞ。
「まぁ、可愛いのは確かだな。そういう髪型も新鮮だし、いいんじゃないか?」
珍しく勇者が褒める。
そうなのだ。
衣装にばかり言及していたが、実は聖女のきれいな青みがかった銀髪は、結い上げられて、宝石のついたティアラで飾られていた。
こっちももっと派手にやられそうになって、精一杯抵抗した結果なのだそうだ。
「私としては、ダスター殿やメルリル殿にも着飾っていただきたかったのですけどね。お二人が嫌がることをするのもいけませんし、仕方ありません」
聖騎士が、いきなりとんでもないことを言い出した。
普段滅多に口を開かない奴ほど、たまに口を開いたかと思うと、予想外のことを言い出すものだ。
「むう、俺もそう思う。師匠、以前、貴族風のローブを着てたろ。あれはなかなか貫禄があってよかった」
勇者もそれに乗っかる。
やめろ、正装なんかしたことがない俺からしてみれば、何の罰かと思うような出来事だったんだぞ。
もう絶対着ないからな。
「そうですね。私達の結婚披露をするときには、ダスターに、ああいう感じの服を着てもらいましょうか?」
なんと、そこにメルリルまで乗っかった。
やめてくれよ。
「お前達、俺で遊ぶのもたいがいにしろよ」
そんな風にわいわいとやっていると、ルフが情けなさそうにぽつりと言った。
「あの……どうして僕がお客さま待遇なのでしょうか? ダスターさん達と一緒に従者の役割でいいのでは?」
ルフには、この屋敷の子ども用の貴族服を調達してもらっていた。
残念ながら、服に着られている感が凄い。
だが、それが却って子どもらしさを強調していて、なんというか、大人の心情に訴えかけるものがあった。
晩餐会でのルフの役割からすると、願ってもない印象である。
「すまんな。我慢してくれ。アドミニス殿に弟子入りするなら、辺境伯との交渉なしには叶わない。話を有利に進めるには、ルフの存在感をおおいにアピールしたい」
「師匠、ぶっちゃけたな」
勇者がいらんツッコミを入れるが、そこをごまかしたままで、ルフに道化のような真似事をさせる訳にはいかないからな。
「うう……」
悲しげな唸り声を上げながらも、ルフは納得してくれたようだ。
「今回の交渉はアルフとミュリアが要なんだから頼むぞ。くれぐれも方向性を間違えないようにな」
「わかった。俺に任せておけ!」
勇者が胸を張る。
不安だ……。
正式なご招待となるので、勇者達は正装である。
いや、正装と言っても、勇者の装備を着ける訳じゃない。
そもそもあれは王宮と、大聖堂にそれぞれ別のものが保管されていて、特別な式典用となっている。
この間、大公国での式典の際には、聖者さまがわざわざ運んで来てくれたらしい。
申し訳ない。
つまりここで言う正装とは、鎧などを装着しない、普段着の範囲で着飾るということだ。
ちなみに俺とメルリルは従者扱いなので、控えていればいいだけだ。
そのため、そこまで服装に気を使わなくてもいい。
それでも、新品のシャツとズボンが必要だった。
メルリルは足首までのローブにエプロンという出で立ちだ。
ロスト辺境伯は娘の装いに力を入れすぎたらしく、用意した衣装のことごとくにダメ出しをされてしまってヘコんでいたらしい。
あまりにかわいそうだったので、一番シンプルなものを選んだ、と聖女がこぼしていた。
そういう聖女の服装は、スカートとかと重ねて着るガウンとのこと。
よくわからないが、ふんわりしていて似合っていると思う。
いつものシンプルなローブとはまた違っていて、簡単に言ってしまうと、貴族のお姫さまという感じだ。
「一人で着れないような衣装は面倒ですと言ったのですが、こういう席ぐらいはと押し切られてしまいました」
どうやら本人は不満のようである。
「可愛くていいんじゃないか? なあ、メルリル」
「うん。すごく似合ってる。お姫さまみたい」
メルリルの感想は俺とほぼ同じだった。
一方で、勇者の意見はまた違った方面の感想となる。
「俺達の衣装とバランスが取れないだろ。わざとか」
言われてみれば確かにその通りで、勇者達の装いは、言うなれば大聖堂風と言えるだろう。
基本的に大聖堂では服装はシンプルになる。
神に仕えるのに自分の欲を優先する必要はないからだ。
見栄えは二の次、動きやすさ重視という感じだな。
礼服もその精神を引きずっていて、ローブのみとか、男性ならサーコートにズボンとなる。
正式な席になると、そこにマントが加わる感じだ。
貴族風の、あっちこっちを紐で縛ったり、ピン飾りをつけたりして、一人では着られないようなものはまず見掛けない。
勇者にそう言われて気になったのか、聖女はガウンの飾りを引っ張っり始めた。
そのレース飾りは絶対に高いやつだから、なるべく引っ張らないほうがいいと思うぞ。
「可愛いからいいじゃない」
と、モンクの感想は簡潔で、自分に正直だ。
さっきからずっとニコニコしながら聖女の周りをグルグル回っている。
目が回っても知らないぞ。
「花とかリボンとかもっと飾ってもいいぐらいだと思うよ」
モンクはさらに、なにやら手をわきわきさせている。
飾りたいのか? 飾りたいんだな?
だが、ご両親が見立てた衣装なら、手を加えないほうがいいと思うぞ。
「まぁ、可愛いのは確かだな。そういう髪型も新鮮だし、いいんじゃないか?」
珍しく勇者が褒める。
そうなのだ。
衣装にばかり言及していたが、実は聖女のきれいな青みがかった銀髪は、結い上げられて、宝石のついたティアラで飾られていた。
こっちももっと派手にやられそうになって、精一杯抵抗した結果なのだそうだ。
「私としては、ダスター殿やメルリル殿にも着飾っていただきたかったのですけどね。お二人が嫌がることをするのもいけませんし、仕方ありません」
聖騎士が、いきなりとんでもないことを言い出した。
普段滅多に口を開かない奴ほど、たまに口を開いたかと思うと、予想外のことを言い出すものだ。
「むう、俺もそう思う。師匠、以前、貴族風のローブを着てたろ。あれはなかなか貫禄があってよかった」
勇者もそれに乗っかる。
やめろ、正装なんかしたことがない俺からしてみれば、何の罰かと思うような出来事だったんだぞ。
もう絶対着ないからな。
「そうですね。私達の結婚披露をするときには、ダスターに、ああいう感じの服を着てもらいましょうか?」
なんと、そこにメルリルまで乗っかった。
やめてくれよ。
「お前達、俺で遊ぶのもたいがいにしろよ」
そんな風にわいわいとやっていると、ルフが情けなさそうにぽつりと言った。
「あの……どうして僕がお客さま待遇なのでしょうか? ダスターさん達と一緒に従者の役割でいいのでは?」
ルフには、この屋敷の子ども用の貴族服を調達してもらっていた。
残念ながら、服に着られている感が凄い。
だが、それが却って子どもらしさを強調していて、なんというか、大人の心情に訴えかけるものがあった。
晩餐会でのルフの役割からすると、願ってもない印象である。
「すまんな。我慢してくれ。アドミニス殿に弟子入りするなら、辺境伯との交渉なしには叶わない。話を有利に進めるには、ルフの存在感をおおいにアピールしたい」
「師匠、ぶっちゃけたな」
勇者がいらんツッコミを入れるが、そこをごまかしたままで、ルフに道化のような真似事をさせる訳にはいかないからな。
「うう……」
悲しげな唸り声を上げながらも、ルフは納得してくれたようだ。
「今回の交渉はアルフとミュリアが要なんだから頼むぞ。くれぐれも方向性を間違えないようにな」
「わかった。俺に任せておけ!」
勇者が胸を張る。
不安だ……。
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