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第八章 真なる聖剣
846 魔王再び
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「ちなみに、ルフの師匠予定のアドミニス殿は死霊ではない」
俺がそう断言すると、ルフはあからさまにホッと胸を撫で下ろした。
いや、死霊を師匠に紹介するってどんな話なんだ?
そう言えば昔話には死霊の鍛冶師とか出て来るよな。
己の渾身の作品である剣が折れたときに姿を現し、剣を打ち直してくれるとか。
いいな。
ぜひうちのギルドに一人欲しい。
お抱えの鍛冶師を持てるギルドってめったにないからなぁ。
死霊とかどうでもいいぞ。
さて、死霊云々の件はともかくとして、自由に動けるうちに早々にアドミニス殿のところへと行っておいたほうがいいのは間違いない。
相談した結果、昼食後に行くのがいいだろうということになった。
昼食は旅の途中などは歩きながらとかで、軽く済ませることが多い。
しかし、この城では、がっつりとした食事が出て、少々出歩くのがおっくうになってしまった。
仕方ないのでしばし昼寝の時間を入れると、なんとか状態も回復して、アドミニス殿のところへ出発する。
出かける前に、聖女の魔法を見せてもらったのだが、びっくりするほど自然に過ごしている俺達の姿が少し遠いところに見えた。
絶妙な距離感だ。
それに幻影の精度がすごい。
思わず感嘆の声が出た。
「これは俺でも騙されそうだ」
「俺は確実に騙されるな」
俺が唸っていると、一緒に眺めていた勇者が、珍しく全面降伏を聖女に宣言してみせる。
負けず嫌いなので、仲間との訓練でも一切妥協せずに勝ちに行く勇者だけに、その意見には信憑性が高い。
「嬉しいです。夢幻は作るのにかなり苦労したので」
と、嬉しそうな聖女。
どういう苦労があったのか、聞いてもきっとわからないんだろうな。
幻影を設置した以上、本体の俺達が発見される訳にはいかない。
俺達は、慎重に見張りの兵士や、行き交う使用人を避けて動く。
やってみてわかったが、大物狩りの際の接近方法に似ている。
「みんな。大物相手に距離を詰めるやり方が使えるぞ。今後は会話も手信号にしよう。あ、ルフは、言いたいことがあれば、手近な誰かに囁いてくれていいからな」
「はい」
ルフは小さな声で、ほかの全員からは手信号で返事が帰って来た。
対応も早くて大変よろしい。
やがて、例の秘密の抜け道のある階段に行き着き、聖女が血縁者の魔力のみで解除出来る封印紋章を解除してなかに入り込む。
「よし、ここからは声を出して大丈夫だぞ」
「あの……」
そう宣言した途端、モンクが声を出した。
「この城には死霊はいないよね?」
「大丈夫ですよ。わたくしが保証します」
それがずっと気になっていたのかよ。
もっと早く確認しようぜ。
とは言え、ずっと下る不思議な階段、そして独特の雰囲気の通路は、幽霊話が似合いそうな舞台だ。
モンクじゃなくても、気になるかもな。
ルフは、俺達の足音が通路にやたら響くことにビクビクしていた。
「ここの通路は完全に自然石を掘っただけだからな。しかもとんでもなく硬い感じだし、そのせいで音が響くんだ。よくもまぁこんな通路が作れたものだ」
感心する。
絶対アドミニス殿が自分でやったよな。
そういうの好きそうだし。
あのドラゴンの死体を利用した工房なんて、あの御方以外に作れる気がしない。
「ひっ!」
ちょうど思い出していたそのドラゴンの頭が正面に現れ、ルフが短い悲鳴を上げる。
「とっくの昔に死んでるから大丈夫だ」
などと、謎のフォローを勇者が入れた。
確かにな。
あれが生きてるドラゴンだったら、俺は絶対に近づかないぞ。
巨大な扉が、誰も手を触れていないのに音もなくスーッと開き、ルフとモンクが飛び上がった。
うちには怖がりがいるからそういうの止めて欲しい。
「ようこそ。久しぶりだな。歓迎する」
黒を基調とする服装のところどころには、銀をあしらった飾りボタンや刺繍などが、それぞれ絶妙なバランスで配置されていて、派手すぎず地味過ぎない重厚感のある出で立ちとなっている。
本人は白銀の髪に薄青の瞳をしているので、そういう衣装が似合っていた。
目が見えるようになった影響か、かなりしゃれた服装だ。
以前は真っ暗な部屋に古ぼけた書棚とテーブルセットという感じだった入ってすぐの部屋は、今や豪奢なシャンデリアの輝く明るい印象の部屋にすっかり変わっていた。
ちょっと少女が憧れる風の可愛らしい感じがするのは、ミュリアの訪れのために頑張った結果か?
去り際に何か模様替えをするようなことを言っていたが、本当にやったようだ。
シャンデリアをよくよく見ると、見覚えのある鱗や爪がところどころに配置されていて戦慄した。
ドラゴン素材を使ったのかよ。
あれが落ちて来たら下にいる奴は確実に死ぬだろ。
気が休まらんわ!
「む? ダスター殿。その照明の魔道具が気になるのか、さすがだな」
しかも魔道具なんだ。
いや、気になるけどさ。
「あれに使ったドラゴンの鱗や爪は、使い魔共に取りに行かせたものでな。死体から取った素材と、剥がれ落ちた素材との違いを知りたくていじっているうちに作ってしまったのだよ」
などと、若々しい張りのある声でとんでもないことを言い出した。
何してんの? アナタ。
それと使い魔ってなんだ?
今でこれなんだから、全盛期には魔王と呼ばれるはずだよな、この人。
俺がそう断言すると、ルフはあからさまにホッと胸を撫で下ろした。
いや、死霊を師匠に紹介するってどんな話なんだ?
そう言えば昔話には死霊の鍛冶師とか出て来るよな。
己の渾身の作品である剣が折れたときに姿を現し、剣を打ち直してくれるとか。
いいな。
ぜひうちのギルドに一人欲しい。
お抱えの鍛冶師を持てるギルドってめったにないからなぁ。
死霊とかどうでもいいぞ。
さて、死霊云々の件はともかくとして、自由に動けるうちに早々にアドミニス殿のところへと行っておいたほうがいいのは間違いない。
相談した結果、昼食後に行くのがいいだろうということになった。
昼食は旅の途中などは歩きながらとかで、軽く済ませることが多い。
しかし、この城では、がっつりとした食事が出て、少々出歩くのがおっくうになってしまった。
仕方ないのでしばし昼寝の時間を入れると、なんとか状態も回復して、アドミニス殿のところへ出発する。
出かける前に、聖女の魔法を見せてもらったのだが、びっくりするほど自然に過ごしている俺達の姿が少し遠いところに見えた。
絶妙な距離感だ。
それに幻影の精度がすごい。
思わず感嘆の声が出た。
「これは俺でも騙されそうだ」
「俺は確実に騙されるな」
俺が唸っていると、一緒に眺めていた勇者が、珍しく全面降伏を聖女に宣言してみせる。
負けず嫌いなので、仲間との訓練でも一切妥協せずに勝ちに行く勇者だけに、その意見には信憑性が高い。
「嬉しいです。夢幻は作るのにかなり苦労したので」
と、嬉しそうな聖女。
どういう苦労があったのか、聞いてもきっとわからないんだろうな。
幻影を設置した以上、本体の俺達が発見される訳にはいかない。
俺達は、慎重に見張りの兵士や、行き交う使用人を避けて動く。
やってみてわかったが、大物狩りの際の接近方法に似ている。
「みんな。大物相手に距離を詰めるやり方が使えるぞ。今後は会話も手信号にしよう。あ、ルフは、言いたいことがあれば、手近な誰かに囁いてくれていいからな」
「はい」
ルフは小さな声で、ほかの全員からは手信号で返事が帰って来た。
対応も早くて大変よろしい。
やがて、例の秘密の抜け道のある階段に行き着き、聖女が血縁者の魔力のみで解除出来る封印紋章を解除してなかに入り込む。
「よし、ここからは声を出して大丈夫だぞ」
「あの……」
そう宣言した途端、モンクが声を出した。
「この城には死霊はいないよね?」
「大丈夫ですよ。わたくしが保証します」
それがずっと気になっていたのかよ。
もっと早く確認しようぜ。
とは言え、ずっと下る不思議な階段、そして独特の雰囲気の通路は、幽霊話が似合いそうな舞台だ。
モンクじゃなくても、気になるかもな。
ルフは、俺達の足音が通路にやたら響くことにビクビクしていた。
「ここの通路は完全に自然石を掘っただけだからな。しかもとんでもなく硬い感じだし、そのせいで音が響くんだ。よくもまぁこんな通路が作れたものだ」
感心する。
絶対アドミニス殿が自分でやったよな。
そういうの好きそうだし。
あのドラゴンの死体を利用した工房なんて、あの御方以外に作れる気がしない。
「ひっ!」
ちょうど思い出していたそのドラゴンの頭が正面に現れ、ルフが短い悲鳴を上げる。
「とっくの昔に死んでるから大丈夫だ」
などと、謎のフォローを勇者が入れた。
確かにな。
あれが生きてるドラゴンだったら、俺は絶対に近づかないぞ。
巨大な扉が、誰も手を触れていないのに音もなくスーッと開き、ルフとモンクが飛び上がった。
うちには怖がりがいるからそういうの止めて欲しい。
「ようこそ。久しぶりだな。歓迎する」
黒を基調とする服装のところどころには、銀をあしらった飾りボタンや刺繍などが、それぞれ絶妙なバランスで配置されていて、派手すぎず地味過ぎない重厚感のある出で立ちとなっている。
本人は白銀の髪に薄青の瞳をしているので、そういう衣装が似合っていた。
目が見えるようになった影響か、かなりしゃれた服装だ。
以前は真っ暗な部屋に古ぼけた書棚とテーブルセットという感じだった入ってすぐの部屋は、今や豪奢なシャンデリアの輝く明るい印象の部屋にすっかり変わっていた。
ちょっと少女が憧れる風の可愛らしい感じがするのは、ミュリアの訪れのために頑張った結果か?
去り際に何か模様替えをするようなことを言っていたが、本当にやったようだ。
シャンデリアをよくよく見ると、見覚えのある鱗や爪がところどころに配置されていて戦慄した。
ドラゴン素材を使ったのかよ。
あれが落ちて来たら下にいる奴は確実に死ぬだろ。
気が休まらんわ!
「む? ダスター殿。その照明の魔道具が気になるのか、さすがだな」
しかも魔道具なんだ。
いや、気になるけどさ。
「あれに使ったドラゴンの鱗や爪は、使い魔共に取りに行かせたものでな。死体から取った素材と、剥がれ落ちた素材との違いを知りたくていじっているうちに作ってしまったのだよ」
などと、若々しい張りのある声でとんでもないことを言い出した。
何してんの? アナタ。
それと使い魔ってなんだ?
今でこれなんだから、全盛期には魔王と呼ばれるはずだよな、この人。
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