勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

832 辺境伯領への道

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 二日間大聖堂でゆっくりさせてもらって、待っていた船で戻る。
 船員達は憧れの大聖堂にお詣りが出来たとのことで、なぜかお礼を言われた。
 普通、海洋公の持ち船で大聖堂の港には入港しないし、もし入港しても、長期の停泊はなかなか許可が下りないので、望外の機会となったらしい。
 大公国では、生涯に一度、大聖堂詣りをすることが望みという人が多いとは聞いていたが、生の声を聞くと、さすがの信心深さを実感出来る。

 実は、俺達も、ルフの体調が戻ったときにお願いされて本神殿ではなく、本殿のほうにお詣りに行った。
 奉仕作業として、掃除を手伝えて、ルフは満足そうだ。
 あそこの振る舞い粥は、簡素だけど美味い。
 適度な労働と、満足出来る食事で、人としての在り方を見つめ直すのが目的なのだろう。

 巡礼で訪れるような信者は、最低五日以上は奉仕をするらしい。
 そのまま奉仕者として居着いてしまう人も多いと聞く。
 巡礼者はあの砂嵐を抜けて訪れるんだから、それなりの覚悟があるんだろうしな。

 さて、帰りの航海は特に何事もなく平和だった。
 天候にも恵まれ、最短で帰りつけたとのことである。
 一度、ずっと沖合の、人が立ち入れない場所とやらに、巨大な生きた島のような魔物を見掛けたが、俺達など気にもしていない様子だった。
 東方の水棲人の国で見た守護獣に、少し似ていたな。

 海洋公のお膝元、カリオカの港に戻ると、さっそく海洋公の迎えが来て、城でいろいろと話が聞けた。
 俺達が海賊を退治したことは、教会を通じて大々的に発表され、港町ではかなりの噂になっているとのこと。
 帝国は、捕まえた海賊共に尋問の上、事件の全容を明らかにすると、その教会の発表に併せて公言したらしい。
 海洋公はすでに大公陛下に使者を送って、ことの顛末の報告と、引き続き調査を任せて欲しいとの信書を出したとのこと。

 帝国には、港の駐在所を通じて、事件を協力して解決したいと伝えてあるらしい。
 協力してもらえない場合には、考えがあるという脅し付きとのこと。
 そのことを語ったときの海洋公は、とてもいい笑顔だった。

「それでは、いろいろとお世話になりました」

 海洋公とパーニャ姫、そして女官さんなど、お世話になった人達に、再びの別れを告げ、預かってもらっていた魔道馬車で、一路、故国ミホム王国の、最北端の領地、辺境伯領を目指して出立する。

 途中、勝手に他国と戦端を開いた件で家格を落とされたデーヘイリング領を通ったが、特に問題も起きず、街に泊まっただけで通り抜けた。
 街の噂では、例の姫君は戻って来ているらしい。
 俺達は慎重を期すために、その後は街で留まらずに、もっぱら野営を繰り返して進んだ。
 もう面倒に巻き込まれるのは嫌だからな。

 特に何事もなく、国境の検問も通過。
 また勇者がサインをねだられるが、冷徹に断っていた。

 そして、いよいよ二翼国と呼ばれていた北の片羽、タシテに入国である。
 今や、二翼の国であった、タシテとアンデルの仲は、最悪に近い。
 以前の、若い王を侮った、内乱を装った侵略行為や、ちょっと前にやらかした、デーヘイリング家の力を借りた明確な侵略戦争で、ほぼ完全に同盟が決裂したのだ。
 今や、二翼国と呼ぶことも出来ない状態と言っていい。

 そのタシテの検問所は、かなりピリピリした雰囲気となっていた。
 順番待ちの旅人が、あちこちにテントを張って野営をしている。
 聞いてみると、現在、検問所が閉鎖されているようだ。

「強行突破するか」

 また勇者がそんなことを言い出したので、ルフが同行している状態で無茶はしないことを約束させた。
 馬車で待機していてもらうと、俺は聞き込みに歩く。
 丁度、野営のテントの一画に、冒険者のテントがあるのを見つけたので、まずはそこから当たる。

「よお。どのくらいここで足止めされてるんだ?」

 俺が冒険者独特の手を使った合図をしてみせると、相手が焚き火の近くに手招いてくれた。

「んー、俺達は二日ぐらいだな。どうもタシテの情勢が安定してないみたいでな、こういう場所への兵の配置を忘れてる臭い」
「……国境だろ?」
「んー、どっちにしろ大公国から襲われたらひとたまりもないんだし、気にするだけ意味がないってことかもな。今はアンデルとの睨み合いで、それどころじゃないみたいだぜ」
「なるほどな」

 俺はしばし考えて尋ねる。

「抜けるか?」
「問題はどっちに、ってことだよな。山か森か……悩ましいところだ」

 俺は同業者に小銭を渡して礼を言い、その場を離れた。

「二翼を抜けるのは無理そうだな。森を行こう」

 戻った俺はそう提案する。
 一触即発の状態となってるタシテとアンデルを刺激したくない。
 俺達が通れば、絶対に一悶着起きるはずだ。

「森なら任せてください!」

 メルリルが途端に張り切る。
 そうなんだよな、メルリルがいる以上、俺達にとって森は障害にならない。
 そう言えば、以前も辺境伯領を訪れたのは、森からだったなと思い出す。
 もしかすると、そういう運命なのかもしれないな。

 ガラにもなく、そう思ってしまった。
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