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第八章 真なる聖剣
829 聖女の祖父
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聖者さまとの話し合いを終えた俺達は、急いで宿泊房に向かった。
本神殿の入り口には、大聖堂の園内移動用の馬車が手回しよく到着している。
すぐに乗り込んで一旦落ち着く。
「ミュリアのお祖父さんを、だいぶ待たせしてしまっているらしいが、気分を害されてはいないかな?」
今から会う相手に、一番詳しいであろう聖女にそう尋ねた。
「ご心配には及びませんわ」
聖女はにっこりと笑う。
「聖なるブローディファさまのことです。きっとご自分のペースでお待ちです」
そう言われたものの、まさかこんなことになっているとは思いもよらなかった。
「寝てる」
「寝てるな」
俺達が以前使っていた客間に続く廊下の手前に、庭を望みながらちょっとしたお茶会を開ける場所があるのだが、そこのソファーに、やせ細った老人が、大聖堂で働く奉仕者の着るローブを纏い、何もかもおっぴろげて寝ている。
俺達が泊まるときには、フロア全てが貸し切り状態になるので、ここにいるとなれば関係者ということだ。
とりあえず起こそうと思ったら、聖女がスッと、近づいた。
「ブローディファさま、今戻りました」
聖女は、はだけられたローブをそっと直すと、老人をゆさゆさと揺さぶり、起こそうとする。
「ブローディファさま?」
勇者が、いぶかしげに呟いた。
その言葉に、聖女がにっこりと笑って振り向く。
「はい。この方が、わたくしの祖父であり、現ロスト辺境伯の父、聖なるブローディファさまです」
「これこれミュリア、あまり大層な名で飾り立てないでくれないか? さすがに恥ずかしいぞ」
今の今まで大いびきで寝ていた老人が、いつの間にか起き上がり、ボリボリと、ローブの隙間から腹を掻きながら照れてみせた。
「ブローディファさま、お久しゅうございます」
「相変わらず他人行儀な孫娘だな。お硬すぎるとモテないぞ?」
とぼけた顔で、そう聖女を諌める。
「まぁ、わたくし、モテなくてもちっとも困りませんもの。そのなもののために、礼儀を省いたりいたしません」
「んん?」
聖女が、自らの祖父のブローディファと紹介した老人は、片眉を上げて、聖女をジロジロと見た。
「ほほう? 少し、変わったな? 旅の開放的な雰囲気で、恋でも経験したか? お相手は、勇者殿とか?」
「ブローディファさま、勇者さまに失礼ですよ。お謝りください」
聖女はツンとそっぽを向いて言ったが、怒っている訳ではなさそうだった。
それどころか、今のやりとりを楽しんでいる風でもある。
「俺に謝ってもらう必要はない。ミュリアにこそ謝るべきだが、身内の気安い冗談かもしれないので、俺からは特に何も言うまい」
何も言うまいも何も、しっかり言いたいことは言っている勇者だった。
「ほほう! だいぶ世間ズレして来たんじゃないか? お前も勇者殿も。よきよき」
ブローディファは、好々爺そのものの顔で、うんうんとうなずく。
これはまた、だいぶ変わったお人のようだ。
「それではブローディファさま。みなさまをご紹介いたしますわね」
聖女は聖女で、サクサクと話を進めて行く。
対処に慣れているのだろう。
「こちらはブローディファさまも、よくご存知の勇者さま。そして、そのお隣が、聖騎士のクルスさまです。わたくしの隣にいてくださっているのが、いつもわたくしに優しくしてくださっている、テスタねえさまです」
「ほうほう」
ブローディファは、ひょいと、両足で跳ねるように飛んだ。
すると、いつの間にか、モンクの後ろに移動していて、ニギニギとモンクの腕をあやしげな手付きで揉んでいた。
「ちょ、離せ! ミュリアの血縁だから今は殴らないが、次にやったら殴る! さわんな!」
モンクが素早く腕を振り払うと、ブローディファは、その勢いを利用して、ぴょんと飛び上がり、俺の頭上を通過して、後ろにいたメルリルの横に降り立った。
「おおお、めんこいお嬢さんだな」
「きゃっ!」
「メルリル!」
突然現れたように見えたブローディファに驚いたメルリルが小さく驚きの声を上げ、俺はすばやくメルリルを引き寄せて、逆を向いた俺の背後に再び隠す。
「うむうむ。見よ! ミュリアよ! これが男女の情愛というものよ! 麗しいではないか。ちっとは憧れてみてはどうだ?」
「ブローディファさま、いい加減になさらないと、わたくし、怒りますよ」
メッというように、聖女に睨まれ、肩をすくめて、俺に片目をつぶって寄越す。
変な爺さんだな。
まぁ悪気は全くないようだし、身のこなしもすごい。
「俺はダスター。彼女はメルリルだ」
「これはご丁寧に」
ブローディファは、それまでの態度から一変して、上品な貴族のようなお辞儀をする。
「ぼ、僕は、ルフ。鍛冶師ロボリスの長男です」
ブローディファの足元で、ルフが緊張しながら自己紹介をした。
「ほうほう」
ブローディファは、緊張してカチコチになりながらも、立派な自己紹介をしたルフに、かがんで目を合わせる。
「ふむ。そなた、傑物の相を持っておるの。さぞや生きにくいことであろうが、それにしても、立派な挨拶であった。このブローディファ、感服いたした」
「は、はあ」
いきなり、勢いのある爺さんに迫られ、ルフもたじたじだ。
しかし今、何やら氣になることを言っていたな。
この爺さん、もしかして預言者か?
聖者さまが予言の才も持つことは有名だが、この爺さんもなのだろうか?
まぁあの魔王の血縁で、聖女の祖父なんだから、少々おかしな才能にあふれていても、驚くほどのことはない、か。
そんな風に俺が思った途端、ブローディファはくるっと俺のほうに顔を向けると、ニタリと笑った。
おおう、こええよ。
本神殿の入り口には、大聖堂の園内移動用の馬車が手回しよく到着している。
すぐに乗り込んで一旦落ち着く。
「ミュリアのお祖父さんを、だいぶ待たせしてしまっているらしいが、気分を害されてはいないかな?」
今から会う相手に、一番詳しいであろう聖女にそう尋ねた。
「ご心配には及びませんわ」
聖女はにっこりと笑う。
「聖なるブローディファさまのことです。きっとご自分のペースでお待ちです」
そう言われたものの、まさかこんなことになっているとは思いもよらなかった。
「寝てる」
「寝てるな」
俺達が以前使っていた客間に続く廊下の手前に、庭を望みながらちょっとしたお茶会を開ける場所があるのだが、そこのソファーに、やせ細った老人が、大聖堂で働く奉仕者の着るローブを纏い、何もかもおっぴろげて寝ている。
俺達が泊まるときには、フロア全てが貸し切り状態になるので、ここにいるとなれば関係者ということだ。
とりあえず起こそうと思ったら、聖女がスッと、近づいた。
「ブローディファさま、今戻りました」
聖女は、はだけられたローブをそっと直すと、老人をゆさゆさと揺さぶり、起こそうとする。
「ブローディファさま?」
勇者が、いぶかしげに呟いた。
その言葉に、聖女がにっこりと笑って振り向く。
「はい。この方が、わたくしの祖父であり、現ロスト辺境伯の父、聖なるブローディファさまです」
「これこれミュリア、あまり大層な名で飾り立てないでくれないか? さすがに恥ずかしいぞ」
今の今まで大いびきで寝ていた老人が、いつの間にか起き上がり、ボリボリと、ローブの隙間から腹を掻きながら照れてみせた。
「ブローディファさま、お久しゅうございます」
「相変わらず他人行儀な孫娘だな。お硬すぎるとモテないぞ?」
とぼけた顔で、そう聖女を諌める。
「まぁ、わたくし、モテなくてもちっとも困りませんもの。そのなもののために、礼儀を省いたりいたしません」
「んん?」
聖女が、自らの祖父のブローディファと紹介した老人は、片眉を上げて、聖女をジロジロと見た。
「ほほう? 少し、変わったな? 旅の開放的な雰囲気で、恋でも経験したか? お相手は、勇者殿とか?」
「ブローディファさま、勇者さまに失礼ですよ。お謝りください」
聖女はツンとそっぽを向いて言ったが、怒っている訳ではなさそうだった。
それどころか、今のやりとりを楽しんでいる風でもある。
「俺に謝ってもらう必要はない。ミュリアにこそ謝るべきだが、身内の気安い冗談かもしれないので、俺からは特に何も言うまい」
何も言うまいも何も、しっかり言いたいことは言っている勇者だった。
「ほほう! だいぶ世間ズレして来たんじゃないか? お前も勇者殿も。よきよき」
ブローディファは、好々爺そのものの顔で、うんうんとうなずく。
これはまた、だいぶ変わったお人のようだ。
「それではブローディファさま。みなさまをご紹介いたしますわね」
聖女は聖女で、サクサクと話を進めて行く。
対処に慣れているのだろう。
「こちらはブローディファさまも、よくご存知の勇者さま。そして、そのお隣が、聖騎士のクルスさまです。わたくしの隣にいてくださっているのが、いつもわたくしに優しくしてくださっている、テスタねえさまです」
「ほうほう」
ブローディファは、ひょいと、両足で跳ねるように飛んだ。
すると、いつの間にか、モンクの後ろに移動していて、ニギニギとモンクの腕をあやしげな手付きで揉んでいた。
「ちょ、離せ! ミュリアの血縁だから今は殴らないが、次にやったら殴る! さわんな!」
モンクが素早く腕を振り払うと、ブローディファは、その勢いを利用して、ぴょんと飛び上がり、俺の頭上を通過して、後ろにいたメルリルの横に降り立った。
「おおお、めんこいお嬢さんだな」
「きゃっ!」
「メルリル!」
突然現れたように見えたブローディファに驚いたメルリルが小さく驚きの声を上げ、俺はすばやくメルリルを引き寄せて、逆を向いた俺の背後に再び隠す。
「うむうむ。見よ! ミュリアよ! これが男女の情愛というものよ! 麗しいではないか。ちっとは憧れてみてはどうだ?」
「ブローディファさま、いい加減になさらないと、わたくし、怒りますよ」
メッというように、聖女に睨まれ、肩をすくめて、俺に片目をつぶって寄越す。
変な爺さんだな。
まぁ悪気は全くないようだし、身のこなしもすごい。
「俺はダスター。彼女はメルリルだ」
「これはご丁寧に」
ブローディファは、それまでの態度から一変して、上品な貴族のようなお辞儀をする。
「ぼ、僕は、ルフ。鍛冶師ロボリスの長男です」
ブローディファの足元で、ルフが緊張しながら自己紹介をした。
「ほうほう」
ブローディファは、緊張してカチコチになりながらも、立派な自己紹介をしたルフに、かがんで目を合わせる。
「ふむ。そなた、傑物の相を持っておるの。さぞや生きにくいことであろうが、それにしても、立派な挨拶であった。このブローディファ、感服いたした」
「は、はあ」
いきなり、勢いのある爺さんに迫られ、ルフもたじたじだ。
しかし今、何やら氣になることを言っていたな。
この爺さん、もしかして預言者か?
聖者さまが予言の才も持つことは有名だが、この爺さんもなのだろうか?
まぁあの魔王の血縁で、聖女の祖父なんだから、少々おかしな才能にあふれていても、驚くほどのことはない、か。
そんな風に俺が思った途端、ブローディファはくるっと俺のほうに顔を向けると、ニタリと笑った。
おおう、こええよ。
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