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第八章 真なる聖剣
823 道を外れし者
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極端な奴というものは、なぜだか決まって、当たり前のことをやらない。
今だって、本来なら大声でも上げて、わずかでもアジトに残っている仲間に、敵襲を告げるべきなのだ。
しかし、この男は、いつから俺達に気づいていたのか知らないが、一人で潜んでいた。
「お前、俺にかまっていると、せっかく捕まえた人間を逃してしまうが、いいのか?」
「安心しな。アンタを切り刻んだ後、順番に楽しませてもらうから」
「それはちょっと楽観的すぎやしないか?」
「おいおい、せっかくの楽しい時間なんだ。おしゃべりなんかで無駄にしないで欲しいなぁ」
じりじりと、人斬り野郎が回り込むように動く。
やっぱりだ。
こいつ、俺の隙を突いて、亀裂を飛び越えて逃げた者達を追うつもりだ。
一見、俺との戦いに集中しているように見えるが、気もそぞろといったところだろう。
まぁそうだよな。
俺のようなおっさんよりも、女子どもがいいんだろう。
そのために、隠れて機を窺っていたようだしな。
おっと、自分で自分をおっさんと言ってしまった。
地味に心に来る。
俺はわざと相手が縮めた間合いに踏み込んだ。
人斬り野郎は顔を歪める。
自分のわがままが通らなかったガキがするような顔だ。
「ち、そんなに先に死にたいのか」
「そうやすやすと俺が殺れるかな? どうせ自分よりも弱い奴しか斬って来なかったんだろうが」
そう指摘すると、図星だったのか、人斬り野郎の苛立ちが目に見えて高まった。
こいつの得物は、いびつな形をした解体ナイフだ。
解体ナイフというものは、皮と肉の間に滑り込ませやすいように、薄刃で、反りがあるものだが、この男の手にしている解体ナイフは、大ぶりで、刃先だけが薄く、背の部分は厚みがあって、フック状に尖ったギザギザがある。
俺の星降りが、ナタ状で長さがある剣なので、相性的には、お互いによくない。
打ち会いになれば、俺が有利だが、懐に入られれば相手が有利。
人斬り野郎の装備は、かなり極端に面積を絞った軽鎧なので、身軽さが売りだとわかる。
先程、斬りかかる寸前まで気配がなかったことから、隠密能力に秀でているのだろう。
こういう相手は、こっちの初撃をしのいで、振った後の隙を狙って飛び込んで来る。
つまり、この勝負、俺が先に手を出す訳にはいかない。
おまけに、相手に先手を取られて防御するのはいいが、防いだ次の手で攻撃を選ぶと危険だ。
そうなればもう、やることは決まっている。
徹底した防御だ。
すり抜ける道を塞ぎつつ、攻撃を防ぐ。
そして遂に相手が動く。
苛立ちが感じられるが、上手い攻撃だ。
一瞬で上体を下げ、こっちの腰よりも低い位置から削ぐように斬りかかって来た。
「かかったな!」
ニヤリと笑う人斬り野郎。
俺が剣で受けるのを狙って、ナイフの背のフック状の部分を引っ掛けに来た。
相手の武器を奪うための攻撃だ。
キイン! と、金属が高く鳴り響く。
「はぁ?」
人斬り野郎の手にしていたナイフが綺麗に断ち切られていた。
相手は得物を失った訳だが、俺は追撃を避ける。
案の定、人斬り野郎はすでにもう片方の手に、別のナイフを握っていた。
「おい、てめぇ、その剣はなんだ? なんで頑丈な俺のナイフが綺麗に切り飛ばされてるんだよ!」
「さあな」
「チィ!」
男の体が猿のように跳ぶ。
星降りで両断を狙った俺をあざ笑うかのように、天井に足を着いて、斜め前に軌道をずらした。
とんでもない身の軽さだ。
見た感じは、痩せてはいても背が高い男だったので、まさかそんなに体を縮めて飛べるとは予想出来なかった。
空振った俺を無視して、そのままの勢いで地面に作った亀裂を飛び越える。
「へっ、間抜け……」
俺を出し抜いたと油断したか、いや、単に殺気のない聖騎士の剣に、体が反応しなかっただけだろう。
人斬り野郎の両手が宙を舞った。
「貴様の剣技は邪道だな。痛みを与えようとするから余計な動きが増える」
聖騎士は、氷のような無表情でそう吐き捨てる。
かつて見たことがないような冷たい表情だ。
「うわあああ! お、俺の腕が! 糞野郎!」
「貴様が人に好かれていれば、きっと誰かが助けてくれるだろう」
そう言って、返しの剣で男の両膝を砕く。
「ダスター殿。行きましょう」
「わかった」
思わず冷や汗を流しながら、俺は聖騎士に続いた。
人斬り野郎のわめき声が聞こえなくなると、聖騎士が恥ずかしそうに俺に頭を下げる。
「その、みっともないところをお見せしました。どうも、あの手の邪道な手を見ると、苛立ちが勝ってしまうのです」
「いや、気持ちはわからんでもない、かな?」
俺があの男に感じる苛立ちと、聖騎士の苛立ちとはおそらく違う種類のものだろう。
俺は弱いものをいたぶる野郎に我慢がならなかったが、聖騎士はおそらく、自分の嗜虐趣味のために、無駄に痛みを与えようと、急所を狙わない剣技に苛立ったのだ。
剣を極めた男の生真面目さというか、潔癖さなのだろう。
とは言え、本人はそういう自分の情動を恥じているようだ。
「あんな奴に寛容になる必要はないさ」
少々的外れとは知りながらも、俺はそんなことを言って慰めたのだった。
今だって、本来なら大声でも上げて、わずかでもアジトに残っている仲間に、敵襲を告げるべきなのだ。
しかし、この男は、いつから俺達に気づいていたのか知らないが、一人で潜んでいた。
「お前、俺にかまっていると、せっかく捕まえた人間を逃してしまうが、いいのか?」
「安心しな。アンタを切り刻んだ後、順番に楽しませてもらうから」
「それはちょっと楽観的すぎやしないか?」
「おいおい、せっかくの楽しい時間なんだ。おしゃべりなんかで無駄にしないで欲しいなぁ」
じりじりと、人斬り野郎が回り込むように動く。
やっぱりだ。
こいつ、俺の隙を突いて、亀裂を飛び越えて逃げた者達を追うつもりだ。
一見、俺との戦いに集中しているように見えるが、気もそぞろといったところだろう。
まぁそうだよな。
俺のようなおっさんよりも、女子どもがいいんだろう。
そのために、隠れて機を窺っていたようだしな。
おっと、自分で自分をおっさんと言ってしまった。
地味に心に来る。
俺はわざと相手が縮めた間合いに踏み込んだ。
人斬り野郎は顔を歪める。
自分のわがままが通らなかったガキがするような顔だ。
「ち、そんなに先に死にたいのか」
「そうやすやすと俺が殺れるかな? どうせ自分よりも弱い奴しか斬って来なかったんだろうが」
そう指摘すると、図星だったのか、人斬り野郎の苛立ちが目に見えて高まった。
こいつの得物は、いびつな形をした解体ナイフだ。
解体ナイフというものは、皮と肉の間に滑り込ませやすいように、薄刃で、反りがあるものだが、この男の手にしている解体ナイフは、大ぶりで、刃先だけが薄く、背の部分は厚みがあって、フック状に尖ったギザギザがある。
俺の星降りが、ナタ状で長さがある剣なので、相性的には、お互いによくない。
打ち会いになれば、俺が有利だが、懐に入られれば相手が有利。
人斬り野郎の装備は、かなり極端に面積を絞った軽鎧なので、身軽さが売りだとわかる。
先程、斬りかかる寸前まで気配がなかったことから、隠密能力に秀でているのだろう。
こういう相手は、こっちの初撃をしのいで、振った後の隙を狙って飛び込んで来る。
つまり、この勝負、俺が先に手を出す訳にはいかない。
おまけに、相手に先手を取られて防御するのはいいが、防いだ次の手で攻撃を選ぶと危険だ。
そうなればもう、やることは決まっている。
徹底した防御だ。
すり抜ける道を塞ぎつつ、攻撃を防ぐ。
そして遂に相手が動く。
苛立ちが感じられるが、上手い攻撃だ。
一瞬で上体を下げ、こっちの腰よりも低い位置から削ぐように斬りかかって来た。
「かかったな!」
ニヤリと笑う人斬り野郎。
俺が剣で受けるのを狙って、ナイフの背のフック状の部分を引っ掛けに来た。
相手の武器を奪うための攻撃だ。
キイン! と、金属が高く鳴り響く。
「はぁ?」
人斬り野郎の手にしていたナイフが綺麗に断ち切られていた。
相手は得物を失った訳だが、俺は追撃を避ける。
案の定、人斬り野郎はすでにもう片方の手に、別のナイフを握っていた。
「おい、てめぇ、その剣はなんだ? なんで頑丈な俺のナイフが綺麗に切り飛ばされてるんだよ!」
「さあな」
「チィ!」
男の体が猿のように跳ぶ。
星降りで両断を狙った俺をあざ笑うかのように、天井に足を着いて、斜め前に軌道をずらした。
とんでもない身の軽さだ。
見た感じは、痩せてはいても背が高い男だったので、まさかそんなに体を縮めて飛べるとは予想出来なかった。
空振った俺を無視して、そのままの勢いで地面に作った亀裂を飛び越える。
「へっ、間抜け……」
俺を出し抜いたと油断したか、いや、単に殺気のない聖騎士の剣に、体が反応しなかっただけだろう。
人斬り野郎の両手が宙を舞った。
「貴様の剣技は邪道だな。痛みを与えようとするから余計な動きが増える」
聖騎士は、氷のような無表情でそう吐き捨てる。
かつて見たことがないような冷たい表情だ。
「うわあああ! お、俺の腕が! 糞野郎!」
「貴様が人に好かれていれば、きっと誰かが助けてくれるだろう」
そう言って、返しの剣で男の両膝を砕く。
「ダスター殿。行きましょう」
「わかった」
思わず冷や汗を流しながら、俺は聖騎士に続いた。
人斬り野郎のわめき声が聞こえなくなると、聖騎士が恥ずかしそうに俺に頭を下げる。
「その、みっともないところをお見せしました。どうも、あの手の邪道な手を見ると、苛立ちが勝ってしまうのです」
「いや、気持ちはわからんでもない、かな?」
俺があの男に感じる苛立ちと、聖騎士の苛立ちとはおそらく違う種類のものだろう。
俺は弱いものをいたぶる野郎に我慢がならなかったが、聖騎士はおそらく、自分の嗜虐趣味のために、無駄に痛みを与えようと、急所を狙わない剣技に苛立ったのだ。
剣を極めた男の生真面目さというか、潔癖さなのだろう。
とは言え、本人はそういう自分の情動を恥じているようだ。
「あんな奴に寛容になる必要はないさ」
少々的外れとは知りながらも、俺はそんなことを言って慰めたのだった。
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