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第八章 真なる聖剣
818 ドラゴンの伴侶
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ドラゴン二体の争いの影響を受けないギリギリの場所まで行くと、ドラゴンの言い争いの内容が聞こえて来た。
二体共、人間の言葉を発してはいないのに、言葉が理解出来たのは、フォルテの影響だろう。
「愚かな、そなた変態までしてしまいおって。今また、海を渡ってどうする気じゃ?」
「僕、ニンゲンと一緒にいる」
「浅はかな選択をしたな。我らは盟約によって縛られておる。地を這う者達に干渉することは出来ぬ」
「そんなことない。蒼天は、ダスターに啓示を与えたよ」
急に俺の名前が出て来てびっくりした。
啓示? フォルテのことか?
「蒼天は変化じゃ。あれを制御するのは、星のさだめを捻じ曲げるようなもの。誰にも出来ぬことよ。あれの行いは、この世界とて、止めることは出来ぬ」
「なら僕も違うモノになるよ。それなら、盟約の影響も及ばない」
「愚かな。なるほど、そのための変態か……我らドラゴンから外れ、ハグレとなるか。……いずれそなた、そのニンゲンに狩られることになるぞ」
何の話だ?
このとき、俺は少し、二体のドラゴンの話に夢中になりすぎていたようだ。
ふと気づくと、緑の、燃える宝石のような目が、俺を……いや、フォルテを通して、俺の心を覗き込んでいた。
「そなた、見ているな?」
ゾッとするようなプレッシャーが全身を、形のないはずの魂を押しつぶさんとする。
身動き一つとれない。
「なるほど、蒼天の選びし者か。……だが、この子の伴侶ではないな。……仕方のない話よ。この子は既に運命を自ら選んでしまった。本来なら盟約のせいでこの子の伴侶に呪いが刻まれるところだが、相手は世界そのものの祝福を纏っておる。ここまで型破りだと、逆に爽快ですらあるな。……そう、思わないか? ニンゲンよ」
眩しい! 緑の光に飲み込まれる!
「うわっ!」
「ダスター!」
まるで、額を巨大な指で弾かれたような衝撃で、後ろへとよろめく。
そんな俺の体をメルリルが必死で抱きとめてくれた。
俺は一瞬、息の仕方を忘れたようにあえぐが、口から流れ込んだ冷たい空気が、肺を刺激して、思わず咳き込み、その衝撃で呼吸が戻る。
「ダスター……」
いかん、メルリルが泣いている。
「だ、大丈夫だ。なんともない」
「師匠! あのドラゴンだな! くそが! 目にもの見せてやる!」
「待てっ! アルフ!」
俺は咄嗟に、全身に強大な魔力を纏い、剣を抜いて、魔法を放とうとした勇者の足元を蹴飛ばした。
勇者は、フギャッというような、勇者らしからぬ声を上げて転ぶ。
大丈夫、船上の人達は、ドラゴンに気を取られて、勇者のぶざまな格好は見ていない。
「し、師匠なんで……」
「相手は戦いに来た訳じゃない。どうやら若葉の説得に来たようだ」
「まぁそれはなんとなくわかる」
勇者はうなずく。
いや、お前は肝心のところがわかってない。
「そして、もう帰る」
見守るうちに、雲の上の緑色のキラキラが薄れて行く。
「そうか。これでやっと若葉とお別れか。いると鬱陶しいが、いないとなるとちょっと寂しいな」
「ガフン?」『僕がいないと寂しい? そうだよね!』
「ゲッ! 若葉! お前、仲間と一緒に戻ったんじゃなかったのか?」
「ガフッ!」『ここが僕のいるべきところだよ』
一瞬のうちに、若葉は勇者の頭上に戻って来ていた。
今の若葉は、ドラゴンと言うよりも、宝石のような体を持つ、羽のあるトカゲにしか見えない。
「師匠! どういうことだよ?」
「……末永く、お幸せにな」
俺は縁結びの決り文句を言った。
諦めろ。
ドラゴンという連中はみんな身勝手だ。
あの青いドラゴンなんか、こっちの言うことなんかほぼ無視して、フォルテを押し付けて行ったんだぞ?
そのフォルテが空からくるくる回りながら落ちて来た。
慌てて両手でキャッチする。
「キュー……」
どうやらすっかり目を回してしまったようだ。
「お前も災難だったな。お疲れ」
そう言って、外套のフードのなかに突っ込む。
別にケガをしている訳でもないので、そのうち目を覚ますだろう。
そして、頭上の雲が全て消え、空が美しく真っ青に染まった。
「おおー。ドラゴンが去った!」
「勇者さまの御威光だ!」
「聖女さまの魔法のおかげだ!」
口々に、船員達が叫びながら勇者と聖女の足元に身を投げ出してひれ伏した。
凄い光景だな。
俺はしがみついているメルリルと共に、勇者達から距離を取る。
「ん? ルフ?」
気づいて見回すと、帆柱にしがみついて、ギュッと目を閉じている小さな姿が見えた。
俺はルフに歩み寄って、その頭を撫でてやる。
「あ、ダスターさん、ドラゴンは?」
「大丈夫。もう帰ったよ」
「よ、よかったぁ」
ルフは、ペタンと尻もちをついて、甲板に座り込んだ。
「ああ、でも、怖かったけど、とても綺麗でしたね」
座り込んだままそんなことを言うルフは、けっこう大物だと思う。
「ちょ、祈りの印を切るな。俺に祈っても、いいことなんざないぞ!」
「みなさん、元気が出る魔法をかけておきますね」
勇者と聖女はそれぞれのやり方で、船員達をいなしているようだ。
「平和だな」
メルリルを抱きしめながら、ついそう口にしまった俺に、ルフがちょっと呆れたような目を向けた気がしたが、気のせいだろう。
二体共、人間の言葉を発してはいないのに、言葉が理解出来たのは、フォルテの影響だろう。
「愚かな、そなた変態までしてしまいおって。今また、海を渡ってどうする気じゃ?」
「僕、ニンゲンと一緒にいる」
「浅はかな選択をしたな。我らは盟約によって縛られておる。地を這う者達に干渉することは出来ぬ」
「そんなことない。蒼天は、ダスターに啓示を与えたよ」
急に俺の名前が出て来てびっくりした。
啓示? フォルテのことか?
「蒼天は変化じゃ。あれを制御するのは、星のさだめを捻じ曲げるようなもの。誰にも出来ぬことよ。あれの行いは、この世界とて、止めることは出来ぬ」
「なら僕も違うモノになるよ。それなら、盟約の影響も及ばない」
「愚かな。なるほど、そのための変態か……我らドラゴンから外れ、ハグレとなるか。……いずれそなた、そのニンゲンに狩られることになるぞ」
何の話だ?
このとき、俺は少し、二体のドラゴンの話に夢中になりすぎていたようだ。
ふと気づくと、緑の、燃える宝石のような目が、俺を……いや、フォルテを通して、俺の心を覗き込んでいた。
「そなた、見ているな?」
ゾッとするようなプレッシャーが全身を、形のないはずの魂を押しつぶさんとする。
身動き一つとれない。
「なるほど、蒼天の選びし者か。……だが、この子の伴侶ではないな。……仕方のない話よ。この子は既に運命を自ら選んでしまった。本来なら盟約のせいでこの子の伴侶に呪いが刻まれるところだが、相手は世界そのものの祝福を纏っておる。ここまで型破りだと、逆に爽快ですらあるな。……そう、思わないか? ニンゲンよ」
眩しい! 緑の光に飲み込まれる!
「うわっ!」
「ダスター!」
まるで、額を巨大な指で弾かれたような衝撃で、後ろへとよろめく。
そんな俺の体をメルリルが必死で抱きとめてくれた。
俺は一瞬、息の仕方を忘れたようにあえぐが、口から流れ込んだ冷たい空気が、肺を刺激して、思わず咳き込み、その衝撃で呼吸が戻る。
「ダスター……」
いかん、メルリルが泣いている。
「だ、大丈夫だ。なんともない」
「師匠! あのドラゴンだな! くそが! 目にもの見せてやる!」
「待てっ! アルフ!」
俺は咄嗟に、全身に強大な魔力を纏い、剣を抜いて、魔法を放とうとした勇者の足元を蹴飛ばした。
勇者は、フギャッというような、勇者らしからぬ声を上げて転ぶ。
大丈夫、船上の人達は、ドラゴンに気を取られて、勇者のぶざまな格好は見ていない。
「し、師匠なんで……」
「相手は戦いに来た訳じゃない。どうやら若葉の説得に来たようだ」
「まぁそれはなんとなくわかる」
勇者はうなずく。
いや、お前は肝心のところがわかってない。
「そして、もう帰る」
見守るうちに、雲の上の緑色のキラキラが薄れて行く。
「そうか。これでやっと若葉とお別れか。いると鬱陶しいが、いないとなるとちょっと寂しいな」
「ガフン?」『僕がいないと寂しい? そうだよね!』
「ゲッ! 若葉! お前、仲間と一緒に戻ったんじゃなかったのか?」
「ガフッ!」『ここが僕のいるべきところだよ』
一瞬のうちに、若葉は勇者の頭上に戻って来ていた。
今の若葉は、ドラゴンと言うよりも、宝石のような体を持つ、羽のあるトカゲにしか見えない。
「師匠! どういうことだよ?」
「……末永く、お幸せにな」
俺は縁結びの決り文句を言った。
諦めろ。
ドラゴンという連中はみんな身勝手だ。
あの青いドラゴンなんか、こっちの言うことなんかほぼ無視して、フォルテを押し付けて行ったんだぞ?
そのフォルテが空からくるくる回りながら落ちて来た。
慌てて両手でキャッチする。
「キュー……」
どうやらすっかり目を回してしまったようだ。
「お前も災難だったな。お疲れ」
そう言って、外套のフードのなかに突っ込む。
別にケガをしている訳でもないので、そのうち目を覚ますだろう。
そして、頭上の雲が全て消え、空が美しく真っ青に染まった。
「おおー。ドラゴンが去った!」
「勇者さまの御威光だ!」
「聖女さまの魔法のおかげだ!」
口々に、船員達が叫びながら勇者と聖女の足元に身を投げ出してひれ伏した。
凄い光景だな。
俺はしがみついているメルリルと共に、勇者達から距離を取る。
「ん? ルフ?」
気づいて見回すと、帆柱にしがみついて、ギュッと目を閉じている小さな姿が見えた。
俺はルフに歩み寄って、その頭を撫でてやる。
「あ、ダスターさん、ドラゴンは?」
「大丈夫。もう帰ったよ」
「よ、よかったぁ」
ルフは、ペタンと尻もちをついて、甲板に座り込んだ。
「ああ、でも、怖かったけど、とても綺麗でしたね」
座り込んだままそんなことを言うルフは、けっこう大物だと思う。
「ちょ、祈りの印を切るな。俺に祈っても、いいことなんざないぞ!」
「みなさん、元気が出る魔法をかけておきますね」
勇者と聖女はそれぞれのやり方で、船員達をいなしているようだ。
「平和だな」
メルリルを抱きしめながら、ついそう口にしまった俺に、ルフがちょっと呆れたような目を向けた気がしたが、気のせいだろう。
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