勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

799 おもてなし

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 ルフはペタンと床に座り込む。
 俺や勇者に言うべきことを言ったせいで、かなり心身に負担がかかったようだ。
 十歳の子どもに何無理させてるんだ? 俺は。

 頭を下げている勇者を無視して、ルフの様子を見る。
 顔が赤いな。
 熱があるんじゃないか?

「ミュリア、ちょっと見てやってくれないか?」
「む? 病気か?」

 頭を下げても誰もかまってやらなかったのだが、勇者はいじけることもなく、ルフの様子を心配気に見た。
 勇者もこれで、精神的にはだいぶ成長したんだろうな。

「どうしました? ルフさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですっ、ちょっと休めば……」

 聖女が近づいて来て、ルフは慌てて立ち上がろうとしたのだが、すぐにふらっと倒れそうになる。

「おっと」

 勇者が支えてやった。

「あっ! 申し訳……」

 だが、どうやら、勇者に迷惑を掛けたと思ったのか、それが最後のひと押しとなって、ルフは意識を失ってしまったようだ。

「おい!」
「まぁ大変です」

 勇者が驚いたように呼びかけ、慌てて聖女がルフの額に手を当てる。
 そして聖女はしばし目を閉じると、小さくうなずいた。

「特に問題のあるところはありません。おそらく興奮しすぎたのでしょう。先程の海洋公もですが、興奮しすぎるのは、身体に負担をかけるのでよくないのです」
「ましてやルフはまだ成長途中の子どもだしな。悪いことをした」
「お、俺のせいか?」

 勇者がうろたえだす。

「まぁお前に原因がないとは言えないな」

 俺は重々しくうなずいた。
 それを聞いて、勇者がうなだれる。

「こんな子どもに無理を強いるとは、俺は勇者失格だな……」

 む? ちょっと釘を刺すつもりが薬が効きすぎたようだ。
 これでしばらく大人しくなるだろうから、まぁいいか。

「あ、お師匠さま。外に人が。結界を解除しますね」

 聖女がそう言ったところで、扉の外からノックの音が響いた。

「今よろしいでしょうか? 温かい飲み物と、軽く食べられるものをお持ちしました」

 先程の女官さんのようだ。
 俺はルフを柔らかなソファーに寝かせ「どうぞ」と答える。

「失礼いたします」

 扉を開けた女官さんは、もう一人、若い……というか、ほとんど子どものような少女を連れて部屋に入って来た。
 少女の着ている服装から、単なる下働きではないと思われる。
 その少女がワゴンを押して入って来た。
 上に乗っているのは、金属製の鍋のようだ。

「パーニャさま。こちらの準備はわたくしがいたしますので、どうぞご挨拶を」

 と、女官さんが言って、ワゴンを少女の手から引き継ぎ、テーブルの上に丁寧にセッティングしていった。
 挨拶を促された少女は、何やら真剣な顔でこちらに向き直る。

「あ、あの……わ、わたくし、パーニャ・カリオカと言うのです。こ、この城の一番末の姫であります」

 ものすごく緊張しているな。
 言葉遣いも怪しい。
 そのとき、勇者がすっと立って、パーニャ嬢の前に膝を突くと、その顔を覗き込むように微笑んだ。

「初めましてパーニャさま。俺はアルフレッド・セ・ピア・アカガネ。今代の勇者だ」
「はうっ、勇者さま、です」

 凄いぞ勇者。ルフと変わらないぐらいの年頃の少女を落としにかかるとは。
 しかし末の姫君にはどうやら刺激が強すぎたらしい。
 たちまち女官さんのスカートの影に隠れてしまった。

 思わずプッと噴き出す俺。
 なんだ勇者、その恨みがましい目は?

「申し訳ありません。皆様。パーニャさまは御歳八歳におなりなのですが、お父上のお手伝いをしたいとおっしゃられて、ご挨拶に伺ったのですわ」

 なるほど、そういう事情か。
 どうやら海洋公も知らない話のようだ。
 この女官さんも、お姫さまからそんなふうに頼まれちゃあ断れないだろうしな。

 一度は隠れた姫君だったが、意を決したように再び前に出て来た。

「こ、この太陽豆の粉湯は、寒い時期に飲むと、身体があたたまって、たいへんよろしいのです。お味も、とろりとして優しい甘さで、わたくし、とても好きです」

 どうやら運んで来た飲み物の説明をしてくれているようだ。
 ちょうどそのタイミングで、ルフが身動きして起き上がった。

「う……ん? 僕、どうして?」
「まぁ? どうして、勇者さまと子どもが一緒にいるの?」

 パーニャ嬢のほうが明らかにルフよりも子どもなのだが、不思議そうに尋ねる。

「え?」

 起き上がったルフと、興味深そうなパーニャの目が合う。

「あれ? 子ども? デルタよりもちょっと大きいかな? 君、どうしたの?」

 ルフがお兄ちゃん気質を発揮して、そう呼びかけた。
 正式な場ならマズかったかもしれないが、まぁこの場では、そう問題にならないだろう。
 姫さまも、お忍びらしいしな。

「わ、わたくし、この城の末の姫のパーニャなのです。あなたは?」
「ふえっ! お姫さま?」

 ルフはびっくりして、本格的に目が覚めたようだ。
 いかんいかん、あんまり興奮させたら駄目だったな。

「ルフ。姫君は俺達に美味しいものを楽しんでもらおうと持って来てくださったんだ」

 そうルフを軽くなだめ、パーニャ姫に向かい合う。

「姫君。これなるは、我らにとって恩ある者のご子息であり、旅の道連れです。短い間ですが、どうか仲良くしてやってください」
「わ、わかりました! まだものをあまり知らぬ我が身ですが、父上がお急がしい身であるので、わたくしが精一杯おもてなしさせていただきますです」

 ルフは目を白黒させている。
 俺はそっと耳元で囁いた。

「よろしくお願いしますと言うんだ」

 ルフはハッとして、俺の言った言葉を繰り返す。

「よろしくお願いいたします」

 姫君がにっこりとして答える。

「おまかせあれ」

 うんうん、ほのぼのとした光景だな。
 勇者、お前が落ち込んでると雰囲気が悪くなるから、さっさと立ち直れ!
 仕方のない奴だな。
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