勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
690 / 885
第八章 真なる聖剣

795 帰港

しおりを挟む
 恭順した船員に改めて確認したところ、船への荷物の積み下ろしは、正規の港ではない場所で行われたらしい。

「砂浜がある場所の先が岩場になっていて、こう、突き出しているところがあるでしょ?」
「あるでしょ、と言われても、俺達はほんの一日、二日砂浜を歩いただけだから、そんなに詳しく見てないぞ」

 ひげもじゃの男が、何かと言えばつきまとって、必要なものなどを聞いて来るので、どうせだから聞きたいことを聞いてしまうことにした。

「へえ、そりゃあそうだ」

 ガハハと笑う。
 陽気な男だな。
 どうも賊というイメージから遠い。
 漁師と言われればそうだろうと思うような男だ。

「そんで、突き出した岩場を、こうぐるっと回り込んだところが、岩礁地帯になっていて、船はまず近寄らないんでさ」

 説明している間にも、帆の具合を確認したりしている。
 何しろ船員の半分以上がいない状態なので、手が足りないようだ。
 俺達で手伝えることはないかと聞いたら、その場を動かずにじっとしていてくれと言われてしまった。
 ようするに邪魔ということだな。

 とりあえず船の制圧が終わったことを、聖騎士が船倉にいるほかのみんなに伝えるために下りて行ったので、今、甲板にいる仲間は、俺と勇者だけとなっている。
 ああいや、置いて出たことに腹を立てたらしいフォルテが、聖騎士と交代で上がって来たし、勇者の肩の上辺りに若葉もいるにはいるが。

 恭順したとは言え、元賊の船員ばかりで放置しておく訳にはいかないので、俺と勇者は甲板に居残ったという訳だ。
 邪魔でも勘弁してもらいたい。

 で、操船作業の合間合間に、ひげもじゃが、俺と勇者のところに御用聞きに来るのである。
 うざいが、ちょうどよくもあった。

「ところが、その岩礁地帯のなかに、一本大きな船が通れる道がありやしてね。その奥に天然の洞窟があって、そこを船着き場として使ってるって訳です」
「なるほど。さすがに正規の港に出入りはしていないんだな」
「まぁ船用の武装をしてますからね、この海賊船は。見られたら、一発でバレちまいますよ」
「だが、カリオカの領土内ではあるんだろ? よくもバレないものだな」
「そこでさ……俺も仲間も何度か、役人らしき奴が、停泊中に船にやって来てるのを見てるんですよ。だから、ああ、お偉いさんと繋がってるんだなぁって、もう諦めちまって、酷い扱いをされながらも我慢してたんでさ」

 今まで賊だった者の言葉を丸々信じる訳にはいかないが、北冠出身の男や、役人らしき者など、きな臭すぎるだろ。
 裏を取らずに訴え出ても、うやむやにされる怖れがあるんじゃないか?

 いや、こっちには勇者と聖女がいるし、政治には口出し出来ないにしても、民を害するという点では勇者の仕事であるとも言える。
 教会を通じて、領主に調査を依頼するか?
 だが、つい最近、教会内部に問題がある例を見たばっかりだしなぁ。
 不安もある。
 とは言え、魔物被害と違って、俺達だけで解決出来る問題ではないことも確かだ。

「あー。斬って終わりの魔物のほうがずっと楽だな」
「凄かったですね! こうズバッ! と」

 俺が思わずぼやくと、何を思ったか、ひげもじゃが興奮したように語り始めた。
 うざい。

「お前、あんまり師匠を困らせるなよ」
「ゆ、勇者さま! そ、そんなつもりでは……申し訳ないです」

 適当にそこらにあった木箱に腰掛けていた勇者が、しつこいひげもじゃに苛立ってか、尖った声で注意した。
 さすがに神の子とされる勇者に言われると、のほほんとしていられないのか、ひげもじゃは逃げるように仕事に戻る。

 やっぱり俺じゃ侮られるんだろうな。

 やがて、ひげもじゃが言っていた洞窟のような場所が見えて来た。
 船の帆柱の大きさなどを考えると、かなりギリギリの開口部に見えるが、ヒヤヒヤしている俺とは違い、船員達は、慣れた動きでするすると船を洞窟のなかに入れてしまう。
 大したもんだな。

「アルフ。これからのことだが。この件、誰に任せるのがいいと思う?」
「そりゃあ当然海洋公だろ」

 勇者の言葉は単純明快だった。

「しかし船員達の証言だと、どうも役人も関わっている感じだぞ」
「だからこそだ。この領地の長は海洋公だろ? そこで起きた事件を、その頭を飛び越えて大公陛下とかに訴えてしまえば、海洋公の面目は丸つぶれになる。そうなると、恨みを残すだけでなく、海洋公によって調査も妨害されるだろう。その状態になってしまえば、海洋公が生き残るには、事件をなかったことにするしかないからだ。だが、俺が直接海洋公に事件を訴えれば、海洋公はメンツにかけても、死にものぐるいで調査をするはずだ。もし結果を出さなければ、大公陛下や大聖堂が口を出して来ることはわかりきっているからな」
「なるほどね。つまり冒険者風に言えば、引き受けた仕事を横取りされるみたいなもんか」
「うーん。もうちょっと家柄とか、土地に対する権利とかまぁいろいろ絡んで来るんだけど、師匠にそんな貴族のドロドロした関係性がわかるはずもないし。簡単に言えばそういう感じだ」
「お前、今俺を馬鹿にしなかったか?」
「まさか。俺が馬鹿にしたのは海洋公のほうだ」

 勇者の説明に釈然としないものを感じつつも、俺に貴族の事情というものがよくわからないのは確かなので、納得しておくことにする。

「海洋公ね。素通り出来ると思ったんだけどな」
「俺もあのおっさん、あんまり好きじゃないから会いたくなかった」

 そういう部分は気が合うんだよな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。