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第八章 真なる聖剣
795 帰港
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恭順した船員に改めて確認したところ、船への荷物の積み下ろしは、正規の港ではない場所で行われたらしい。
「砂浜がある場所の先が岩場になっていて、こう、突き出しているところがあるでしょ?」
「あるでしょ、と言われても、俺達はほんの一日、二日砂浜を歩いただけだから、そんなに詳しく見てないぞ」
ひげもじゃの男が、何かと言えばつきまとって、必要なものなどを聞いて来るので、どうせだから聞きたいことを聞いてしまうことにした。
「へえ、そりゃあそうだ」
ガハハと笑う。
陽気な男だな。
どうも賊というイメージから遠い。
漁師と言われればそうだろうと思うような男だ。
「そんで、突き出した岩場を、こうぐるっと回り込んだところが、岩礁地帯になっていて、船はまず近寄らないんでさ」
説明している間にも、帆の具合を確認したりしている。
何しろ船員の半分以上がいない状態なので、手が足りないようだ。
俺達で手伝えることはないかと聞いたら、その場を動かずにじっとしていてくれと言われてしまった。
ようするに邪魔ということだな。
とりあえず船の制圧が終わったことを、聖騎士が船倉にいるほかのみんなに伝えるために下りて行ったので、今、甲板にいる仲間は、俺と勇者だけとなっている。
ああいや、置いて出たことに腹を立てたらしいフォルテが、聖騎士と交代で上がって来たし、勇者の肩の上辺りに若葉もいるにはいるが。
恭順したとは言え、元賊の船員ばかりで放置しておく訳にはいかないので、俺と勇者は甲板に居残ったという訳だ。
邪魔でも勘弁してもらいたい。
で、操船作業の合間合間に、ひげもじゃが、俺と勇者のところに御用聞きに来るのである。
うざいが、ちょうどよくもあった。
「ところが、その岩礁地帯のなかに、一本大きな船が通れる道がありやしてね。その奥に天然の洞窟があって、そこを船着き場として使ってるって訳です」
「なるほど。さすがに正規の港に出入りはしていないんだな」
「まぁ船用の武装をしてますからね、この海賊船は。見られたら、一発でバレちまいますよ」
「だが、カリオカの領土内ではあるんだろ? よくもバレないものだな」
「そこでさ……俺も仲間も何度か、役人らしき奴が、停泊中に船にやって来てるのを見てるんですよ。だから、ああ、お偉いさんと繋がってるんだなぁって、もう諦めちまって、酷い扱いをされながらも我慢してたんでさ」
今まで賊だった者の言葉を丸々信じる訳にはいかないが、北冠出身の男や、役人らしき者など、きな臭すぎるだろ。
裏を取らずに訴え出ても、うやむやにされる怖れがあるんじゃないか?
いや、こっちには勇者と聖女がいるし、政治には口出し出来ないにしても、民を害するという点では勇者の仕事であるとも言える。
教会を通じて、領主に調査を依頼するか?
だが、つい最近、教会内部に問題がある例を見たばっかりだしなぁ。
不安もある。
とは言え、魔物被害と違って、俺達だけで解決出来る問題ではないことも確かだ。
「あー。斬って終わりの魔物のほうがずっと楽だな」
「凄かったですね! こうズバッ! と」
俺が思わずぼやくと、何を思ったか、ひげもじゃが興奮したように語り始めた。
うざい。
「お前、あんまり師匠を困らせるなよ」
「ゆ、勇者さま! そ、そんなつもりでは……申し訳ないです」
適当にそこらにあった木箱に腰掛けていた勇者が、しつこいひげもじゃに苛立ってか、尖った声で注意した。
さすがに神の子とされる勇者に言われると、のほほんとしていられないのか、ひげもじゃは逃げるように仕事に戻る。
やっぱり俺じゃ侮られるんだろうな。
やがて、ひげもじゃが言っていた洞窟のような場所が見えて来た。
船の帆柱の大きさなどを考えると、かなりギリギリの開口部に見えるが、ヒヤヒヤしている俺とは違い、船員達は、慣れた動きでするすると船を洞窟のなかに入れてしまう。
大したもんだな。
「アルフ。これからのことだが。この件、誰に任せるのがいいと思う?」
「そりゃあ当然海洋公だろ」
勇者の言葉は単純明快だった。
「しかし船員達の証言だと、どうも役人も関わっている感じだぞ」
「だからこそだ。この領地の長は海洋公だろ? そこで起きた事件を、その頭を飛び越えて大公陛下とかに訴えてしまえば、海洋公の面目は丸つぶれになる。そうなると、恨みを残すだけでなく、海洋公によって調査も妨害されるだろう。その状態になってしまえば、海洋公が生き残るには、事件をなかったことにするしかないからだ。だが、俺が直接海洋公に事件を訴えれば、海洋公はメンツにかけても、死にものぐるいで調査をするはずだ。もし結果を出さなければ、大公陛下や大聖堂が口を出して来ることはわかりきっているからな」
「なるほどね。つまり冒険者風に言えば、引き受けた仕事を横取りされるみたいなもんか」
「うーん。もうちょっと家柄とか、土地に対する権利とかまぁいろいろ絡んで来るんだけど、師匠にそんな貴族のドロドロした関係性がわかるはずもないし。簡単に言えばそういう感じだ」
「お前、今俺を馬鹿にしなかったか?」
「まさか。俺が馬鹿にしたのは海洋公のほうだ」
勇者の説明に釈然としないものを感じつつも、俺に貴族の事情というものがよくわからないのは確かなので、納得しておくことにする。
「海洋公ね。素通り出来ると思ったんだけどな」
「俺もあのおっさん、あんまり好きじゃないから会いたくなかった」
そういう部分は気が合うんだよな。
「砂浜がある場所の先が岩場になっていて、こう、突き出しているところがあるでしょ?」
「あるでしょ、と言われても、俺達はほんの一日、二日砂浜を歩いただけだから、そんなに詳しく見てないぞ」
ひげもじゃの男が、何かと言えばつきまとって、必要なものなどを聞いて来るので、どうせだから聞きたいことを聞いてしまうことにした。
「へえ、そりゃあそうだ」
ガハハと笑う。
陽気な男だな。
どうも賊というイメージから遠い。
漁師と言われればそうだろうと思うような男だ。
「そんで、突き出した岩場を、こうぐるっと回り込んだところが、岩礁地帯になっていて、船はまず近寄らないんでさ」
説明している間にも、帆の具合を確認したりしている。
何しろ船員の半分以上がいない状態なので、手が足りないようだ。
俺達で手伝えることはないかと聞いたら、その場を動かずにじっとしていてくれと言われてしまった。
ようするに邪魔ということだな。
とりあえず船の制圧が終わったことを、聖騎士が船倉にいるほかのみんなに伝えるために下りて行ったので、今、甲板にいる仲間は、俺と勇者だけとなっている。
ああいや、置いて出たことに腹を立てたらしいフォルテが、聖騎士と交代で上がって来たし、勇者の肩の上辺りに若葉もいるにはいるが。
恭順したとは言え、元賊の船員ばかりで放置しておく訳にはいかないので、俺と勇者は甲板に居残ったという訳だ。
邪魔でも勘弁してもらいたい。
で、操船作業の合間合間に、ひげもじゃが、俺と勇者のところに御用聞きに来るのである。
うざいが、ちょうどよくもあった。
「ところが、その岩礁地帯のなかに、一本大きな船が通れる道がありやしてね。その奥に天然の洞窟があって、そこを船着き場として使ってるって訳です」
「なるほど。さすがに正規の港に出入りはしていないんだな」
「まぁ船用の武装をしてますからね、この海賊船は。見られたら、一発でバレちまいますよ」
「だが、カリオカの領土内ではあるんだろ? よくもバレないものだな」
「そこでさ……俺も仲間も何度か、役人らしき奴が、停泊中に船にやって来てるのを見てるんですよ。だから、ああ、お偉いさんと繋がってるんだなぁって、もう諦めちまって、酷い扱いをされながらも我慢してたんでさ」
今まで賊だった者の言葉を丸々信じる訳にはいかないが、北冠出身の男や、役人らしき者など、きな臭すぎるだろ。
裏を取らずに訴え出ても、うやむやにされる怖れがあるんじゃないか?
いや、こっちには勇者と聖女がいるし、政治には口出し出来ないにしても、民を害するという点では勇者の仕事であるとも言える。
教会を通じて、領主に調査を依頼するか?
だが、つい最近、教会内部に問題がある例を見たばっかりだしなぁ。
不安もある。
とは言え、魔物被害と違って、俺達だけで解決出来る問題ではないことも確かだ。
「あー。斬って終わりの魔物のほうがずっと楽だな」
「凄かったですね! こうズバッ! と」
俺が思わずぼやくと、何を思ったか、ひげもじゃが興奮したように語り始めた。
うざい。
「お前、あんまり師匠を困らせるなよ」
「ゆ、勇者さま! そ、そんなつもりでは……申し訳ないです」
適当にそこらにあった木箱に腰掛けていた勇者が、しつこいひげもじゃに苛立ってか、尖った声で注意した。
さすがに神の子とされる勇者に言われると、のほほんとしていられないのか、ひげもじゃは逃げるように仕事に戻る。
やっぱり俺じゃ侮られるんだろうな。
やがて、ひげもじゃが言っていた洞窟のような場所が見えて来た。
船の帆柱の大きさなどを考えると、かなりギリギリの開口部に見えるが、ヒヤヒヤしている俺とは違い、船員達は、慣れた動きでするすると船を洞窟のなかに入れてしまう。
大したもんだな。
「アルフ。これからのことだが。この件、誰に任せるのがいいと思う?」
「そりゃあ当然海洋公だろ」
勇者の言葉は単純明快だった。
「しかし船員達の証言だと、どうも役人も関わっている感じだぞ」
「だからこそだ。この領地の長は海洋公だろ? そこで起きた事件を、その頭を飛び越えて大公陛下とかに訴えてしまえば、海洋公の面目は丸つぶれになる。そうなると、恨みを残すだけでなく、海洋公によって調査も妨害されるだろう。その状態になってしまえば、海洋公が生き残るには、事件をなかったことにするしかないからだ。だが、俺が直接海洋公に事件を訴えれば、海洋公はメンツにかけても、死にものぐるいで調査をするはずだ。もし結果を出さなければ、大公陛下や大聖堂が口を出して来ることはわかりきっているからな」
「なるほどね。つまり冒険者風に言えば、引き受けた仕事を横取りされるみたいなもんか」
「うーん。もうちょっと家柄とか、土地に対する権利とかまぁいろいろ絡んで来るんだけど、師匠にそんな貴族のドロドロした関係性がわかるはずもないし。簡単に言えばそういう感じだ」
「お前、今俺を馬鹿にしなかったか?」
「まさか。俺が馬鹿にしたのは海洋公のほうだ」
勇者の説明に釈然としないものを感じつつも、俺に貴族の事情というものがよくわからないのは確かなので、納得しておくことにする。
「海洋公ね。素通り出来ると思ったんだけどな」
「俺もあのおっさん、あんまり好きじゃないから会いたくなかった」
そういう部分は気が合うんだよな。
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