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第八章 真なる聖剣
787 ご馳走の権利
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「勇者さまの、勇者さまの魂が感じられません」
聖女が涙混じりに訴えた。
……まさか、それって……。
「死んだ? 勇者が?」
モンクがなんだか理解が追いついていないような声で呟く。
「まさか、そんな……若葉さんの気配が強すぎるからでは?」
メルリルが聖女に訴えた。
聖女も、最初の動揺から立ち直ったらしく、涙を拭って、勇者のほうへと近づく。
「待って」
それを止めたのはモンクだ。
「うかつに近づかないほうがいいってことは、私にだってわかるよ」
「ああ。俺がまず確かめる。……フォルテ」
そう言って、フォルテを勇者の上で威嚇をする魔物のようになっている、実態のない若葉へと接触させる。
「ピャッ!」
「グルルル……」
「ギャッ、ギャッ!」
「グガガガガアアッ」
どうも、フォルテは若葉に話しかけているらしいんだが、若葉のほうに完全に意識を合わせているらしく、俺にはどんなやり取りが交わされているのか、全くわからない。
「クルルルル?」
「ギャギャッ」
「ピュイ?」
「ウルルル……」
お、なんだか幻影の若葉の雰囲気が変わったぞ。
少なくとも攻撃的ではなくなったようだ。
「若葉、おい、若葉、わかるか?」
「フシーッ!」
「うおっ!」
あの野郎威嚇して来やがった。
どうもいつもの若葉とは違うな。
いつもはガキっぽいが、ある程度の理性はあった。
今はまるで野生の獣のようだ。
「ダスター。あれは精霊の暴走状態に似ている」
「暴走状態?」
「うん。精霊は、極度の緊張状態になると、声が届かない状態になって、暴走を始めるの。そうなると、肉体を持つ者では止められない」
「そういうときはどうするんだ?」
「そのエリアを封印するか、……」
メルリルが言いよどむ。
「一番年上の巫女が肉体を捨てて、落ち着かせる」
俺は思わずメルリルを見た。
つまり、それは、巫女を生贄にするってことか?
「私が生きている間には、そういうことが起きたことはないよ」
「起きなくてなによりだ……まぁ今は幸い、フォルテがいる。フォルテに任せるか……」
そのとき、カンカンカンという足音らしきものが、上から聞こえて来た。
「ちいっ、香の交換か、様子見か、ここに来そうだな」
今や七つの箱の蓋が開いて、香炉は落ちて中身がこぼれている。
短時間でごまかすのは無理な状況だ。
「明かりはどこだ?」
この部屋はほんのり明るいので、どこかに明かりがあるはずだった。
「ダスター殿、あれを」
聖騎士が示す場所に、壁に埋め込まれるように光を灯す、魔道具の明かりがある。
「壊していいですか?」
「頼む」
どうやら、聖騎士には俺のやりたいことはお見通しのようだ。
俺がうなずくと、香炉の破片を手にして、見事なコントロールで魔道具の明かりを破壊する。
そういやこいつ、短槍を投げるのが得意だったな。
むしろ、得意じゃない戦いの技術があるのか? と、聞きたいぐらいだが、まぁ今はどうでもいいな。
「みんな俺達がいいと言うまで静かにしててくれよ。……クルス、その通路の入り口のところ、いけるか?」
「配置は頭に入っています。ダスター殿のように、暗闇でも見える訳ではありませんが、このぐらいの範囲なら大丈夫です」
圧倒的な頼もしさである。
そうこう言っている間に、足音がこの部屋の前で立ち止まった。
俺と聖騎士は息を潜めて、入り口近くの通路脇へと行く。
ガチャリと音が響いて扉が開く。
「ん? 暗いな。もう切れたのか? 備品の管理をちゃんとやっとけと言っとかないとな」
舌打ちと共に、カツカツカツという足音が明かりのほうへと動く。
そこへ、バサバサバサッ! と、フォルテが羽ばたきをした。
「なんだ? 鳥? コウモリ? どっから入り込んだ」
足を止めた。
今だ!
打ち合わせた訳でもないのに、俺と聖騎士はほぼぴったりのタイミングで男に襲いかかった。
完全な不意打ちを受けた男は、抵抗することもなく、抑え込まれてしまう。
口を塞いだ俺の手を噛みつこうとしやがったが、すばやく拳を口のなかに突っ込んでやった。
「うぐぐぅ」
そのままズルズル引きずって、みんなのいるところにまで戻る。
「ミュリア、すまん。こいつを眠らせてくれ」
「はい」
ミュリアはどうやら神璽が見当たらなかったようだが、この程度なら神璽を使わなくても問題ない。
捕まえた男の額に軽く触れると、「おやすみなさい」と告げる。
男の体から力が抜けるのを感じた。
俺は、空いている、俺が入っていた箱のなかにとりあえずその男を放り込んでおくことにする。
「ダスター殿、扉は鍵が開いたままです」
「わかった。脱出口は出来たってことだな。だが、もしこれが船なら、ちょっと面倒だぞ」
「そうですね」
「とは言え、目下のところ、問題はこっちだな」
意識を切り替えて勇者の様子を再び見る。
光がなくなると、勇者の上にぼんやりと光る若葉とフォルテの姿がよりくっきりと目立つ。
とは言え、魔力を見ることが出来なければ見えないので、さっきの男は鳥かコウモリが外から入り込んだと思ったのだろう。
もちろん、フォルテにはわざと羽ばたいてもらって、注意を逸らす手伝いをしてもらったのだ。
「ピャーウ」
「ガフッ」
「リリリリ……」
「ガフン?」
お、若葉の雰囲気がいつもの感じに戻りつつあるぞ。
ふわっと、青いフォルテの光が飛び立ち、俺の肩に舞い降りた。
「ワカバ、アルフが横取りされると思った、みたい。だから、ワカバ以外、アルフを食べないと言った」
フォルテは考えつつ、人間の言葉で説明する。
「そうか、なるほどな。アルフは若葉にとって、自分の獲物なんだな……って、まだ食ってないよな?」
俺が焦ってそう聞くと、フォルテは何も答えず、あざといぐらいに可愛らしい仕草で、首をかしげて見せた。
聖女が涙混じりに訴えた。
……まさか、それって……。
「死んだ? 勇者が?」
モンクがなんだか理解が追いついていないような声で呟く。
「まさか、そんな……若葉さんの気配が強すぎるからでは?」
メルリルが聖女に訴えた。
聖女も、最初の動揺から立ち直ったらしく、涙を拭って、勇者のほうへと近づく。
「待って」
それを止めたのはモンクだ。
「うかつに近づかないほうがいいってことは、私にだってわかるよ」
「ああ。俺がまず確かめる。……フォルテ」
そう言って、フォルテを勇者の上で威嚇をする魔物のようになっている、実態のない若葉へと接触させる。
「ピャッ!」
「グルルル……」
「ギャッ、ギャッ!」
「グガガガガアアッ」
どうも、フォルテは若葉に話しかけているらしいんだが、若葉のほうに完全に意識を合わせているらしく、俺にはどんなやり取りが交わされているのか、全くわからない。
「クルルルル?」
「ギャギャッ」
「ピュイ?」
「ウルルル……」
お、なんだか幻影の若葉の雰囲気が変わったぞ。
少なくとも攻撃的ではなくなったようだ。
「若葉、おい、若葉、わかるか?」
「フシーッ!」
「うおっ!」
あの野郎威嚇して来やがった。
どうもいつもの若葉とは違うな。
いつもはガキっぽいが、ある程度の理性はあった。
今はまるで野生の獣のようだ。
「ダスター。あれは精霊の暴走状態に似ている」
「暴走状態?」
「うん。精霊は、極度の緊張状態になると、声が届かない状態になって、暴走を始めるの。そうなると、肉体を持つ者では止められない」
「そういうときはどうするんだ?」
「そのエリアを封印するか、……」
メルリルが言いよどむ。
「一番年上の巫女が肉体を捨てて、落ち着かせる」
俺は思わずメルリルを見た。
つまり、それは、巫女を生贄にするってことか?
「私が生きている間には、そういうことが起きたことはないよ」
「起きなくてなによりだ……まぁ今は幸い、フォルテがいる。フォルテに任せるか……」
そのとき、カンカンカンという足音らしきものが、上から聞こえて来た。
「ちいっ、香の交換か、様子見か、ここに来そうだな」
今や七つの箱の蓋が開いて、香炉は落ちて中身がこぼれている。
短時間でごまかすのは無理な状況だ。
「明かりはどこだ?」
この部屋はほんのり明るいので、どこかに明かりがあるはずだった。
「ダスター殿、あれを」
聖騎士が示す場所に、壁に埋め込まれるように光を灯す、魔道具の明かりがある。
「壊していいですか?」
「頼む」
どうやら、聖騎士には俺のやりたいことはお見通しのようだ。
俺がうなずくと、香炉の破片を手にして、見事なコントロールで魔道具の明かりを破壊する。
そういやこいつ、短槍を投げるのが得意だったな。
むしろ、得意じゃない戦いの技術があるのか? と、聞きたいぐらいだが、まぁ今はどうでもいいな。
「みんな俺達がいいと言うまで静かにしててくれよ。……クルス、その通路の入り口のところ、いけるか?」
「配置は頭に入っています。ダスター殿のように、暗闇でも見える訳ではありませんが、このぐらいの範囲なら大丈夫です」
圧倒的な頼もしさである。
そうこう言っている間に、足音がこの部屋の前で立ち止まった。
俺と聖騎士は息を潜めて、入り口近くの通路脇へと行く。
ガチャリと音が響いて扉が開く。
「ん? 暗いな。もう切れたのか? 備品の管理をちゃんとやっとけと言っとかないとな」
舌打ちと共に、カツカツカツという足音が明かりのほうへと動く。
そこへ、バサバサバサッ! と、フォルテが羽ばたきをした。
「なんだ? 鳥? コウモリ? どっから入り込んだ」
足を止めた。
今だ!
打ち合わせた訳でもないのに、俺と聖騎士はほぼぴったりのタイミングで男に襲いかかった。
完全な不意打ちを受けた男は、抵抗することもなく、抑え込まれてしまう。
口を塞いだ俺の手を噛みつこうとしやがったが、すばやく拳を口のなかに突っ込んでやった。
「うぐぐぅ」
そのままズルズル引きずって、みんなのいるところにまで戻る。
「ミュリア、すまん。こいつを眠らせてくれ」
「はい」
ミュリアはどうやら神璽が見当たらなかったようだが、この程度なら神璽を使わなくても問題ない。
捕まえた男の額に軽く触れると、「おやすみなさい」と告げる。
男の体から力が抜けるのを感じた。
俺は、空いている、俺が入っていた箱のなかにとりあえずその男を放り込んでおくことにする。
「ダスター殿、扉は鍵が開いたままです」
「わかった。脱出口は出来たってことだな。だが、もしこれが船なら、ちょっと面倒だぞ」
「そうですね」
「とは言え、目下のところ、問題はこっちだな」
意識を切り替えて勇者の様子を再び見る。
光がなくなると、勇者の上にぼんやりと光る若葉とフォルテの姿がよりくっきりと目立つ。
とは言え、魔力を見ることが出来なければ見えないので、さっきの男は鳥かコウモリが外から入り込んだと思ったのだろう。
もちろん、フォルテにはわざと羽ばたいてもらって、注意を逸らす手伝いをしてもらったのだ。
「ピャーウ」
「ガフッ」
「リリリリ……」
「ガフン?」
お、若葉の雰囲気がいつもの感じに戻りつつあるぞ。
ふわっと、青いフォルテの光が飛び立ち、俺の肩に舞い降りた。
「ワカバ、アルフが横取りされると思った、みたい。だから、ワカバ以外、アルフを食べないと言った」
フォルテは考えつつ、人間の言葉で説明する。
「そうか、なるほどな。アルフは若葉にとって、自分の獲物なんだな……って、まだ食ってないよな?」
俺が焦ってそう聞くと、フォルテは何も答えず、あざといぐらいに可愛らしい仕草で、首をかしげて見せた。
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