勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
676 / 885
第八章 真なる聖剣

781 港とカップル

しおりを挟む
 結局、貝柱以外にもいろいろ食べ歩きをすることになった。
 いや、いいんだが、当初の目的が果たせてないからな?
 勇者よ、眠いから帰るとか言い出すのをやめろ。
 ただ、ルフも相当眠そうだったので、とりあえず勇者達にルフを連れて帰るように任せることにした。
 いっそ単独行動のほうが動きやすいと思って、メルリルにも戻るように言ったのだが……。

「ダスターは、私が言った言葉を理解してない」

 と、怒られてしまった。
 いや、だが相棒だったとしても、べったりとくっついている必要はないからな?

「もうさ、お友達だって結婚したんだから、ダスターも覚悟を決めてメルリルと付き合うべきなんだよ。そういう思わせぶりで、その実、煮え切らないってのが一番駄目」

 俺が一人で動くという話をしてメルリルと揉めていると、横から、モンクがビシッと言って来た。
 メルリルが感謝のまなざしをモンクに向ける。
 最近の女性陣の仲のよさは、俺達男共には理解出来ないぐらいなので、きっとメルリルはモンクに何もかも話してしまっているのだろう。
 いや、モンクの言う通りなんだがな。

「別に俺はメルリルと一緒にいるのが嫌だとかそういう理由で単独行動をしようとしていた訳じゃないぞ? そのほうが慣れているから動きやすいってだけで」
「なら、今後は一緒に行動するのに慣れればいいじゃない」
「うぬ……」

 なるほど、モンクの言うことはいちいち正しい。
 俺は両手を挙げて降参のポーズをしてみせる。
 いわゆる対人における、何も武器を持っていないというポーズだ。

「わかった。その代わり、アルフとルフの面倒をみてやってくれ。あの二人、今にもそこら辺に寝転がりそうな感じだろ? ミュリアもあくびを噛み殺しているし、頼りになるのは、お前と、クルスしかいない」

 モンクがニヤッと笑う。

「ミュリアは私が絶対に守るって約束するよ。アルフと坊やはクルスに任せとけばいいんだよ。あの天然壁男、誰かを守ってるって実感がないと死にそうだからね」
「天然壁男って……お前」

 聖騎士は聞こえてるのか聞こえてないのか、特にこっちに注意を払うことはなく、ルフを抱えあげて、ふらふらしている勇者の進路をさりげなく誘導しつつ、話がまとまるのを待っているようだ。

「まぁいい。とにかく頼んだからな」

 聖女のことは間違いなくモンクが守るだろうし、勇者や子どもを聖騎士が守らないはずもない。
 特に心配することなく、俺とメルリルとフォルテは、勇者一行と別れて別行動を開始した。

 勇者から相談のあった若葉も、今のところ、特に動きはない。
 魔力の吸収も、どこに入っていっているのか、蓄積しているとか、溢れそうだとかいう状況でもないので、放置するしかない。
 よく考えてみれば、アドミニス殿は俺達よりもドラゴンに詳しいはずなので、若葉のこともルフの件と一緒に相談してみるといいかもしれないな。

「ダスター、これからどうするの?」
「今朝も言ったが、まずは港に向かう。そこで聞き込みをしよう」
「わかった」

 メルリルはうなずいて、俺に続いた。
 よく考えたら、メルリルもフォルテも、俺以上に隠密能力に長けているのだから、このメンバーで一番足を引っ張りそうなのは俺だよな。
 それに気づいて、少し戦慄してしまった。

 もしかすると、勇者とうちのパーティを合わせたなかで、一番役立たずって俺じゃないか?

 そんな不安はメルリルに見せるわけにはいかないので、やるべきことに集中する。
 商業区というか、商売人が多く集まっているエリアを抜けると、独特の潮の香りを強く感じるようになった。
 東方では沿岸部を移動することが多かったのですっかり海にも慣れてしまったが、大陸西方には海に降りれる場所が極端に少ないため、西方人は海を知らない人間のほうが多い。

 港近くには、ひと目海を見ようとやって来た、旅人のような風体の人間がかなりいた。
 なんというか、日常から浮いている服装をしているので、すぐにわかる。
 馬車を横付けにして、礼服で海を眺めている貴族の夫婦らしき二人連れ、少しおしゃれをした平民の家族、なかには、馬で港に進もうとして、衛兵かなにかに止められている者もいた。

「こっちは港で、関係者しか入れません。チケットはお持ちですか?」
「いや、見物に来ただけなんだ。だが、船旅に興味はある。船のチケットというのは、どこで購入出来るんだ?」

 警備をしている衛兵に近づくと、止められたので、ついでに聞いてみる。

「あー。よくいらっしゃるんですよ。結婚の記念に夫婦で船旅とやらを経験したいと言って来る人達が」

 衛兵はやれやれと首を振ると面倒そうにだが、説明してくれた。

「まず、ここの港の管理は、我が海洋公の管轄だということはご存知ですか?」
「ああ。有名だからな。しかし、大きな商家に港を貸し出しているとも聞いた」
「そういうのは全部、商品を運ぶ船で、人間は運びません。何を期待しているのか知りませんが、乗ったらがっかりしますよ」

 態度はよくないが、この衛兵、かなり親切だ。
 態度が悪いのは、毎日船に乗せろという連中に責め立てられているからなのかもしれない。

「俺達は、別に無茶を言いに来た訳じゃないんだ。少し小耳に挟んだことがあって、それが本当かどうか知りたいだけで」
「船のチケットが欲しいんでしょう?」
「ああ、だが、普通の船じゃなくって、大聖堂への巡礼船が出てると聞いたんだが」
「あー」

 衛兵はまいったという感じで顔を覆った。

「その話どっから広まっているんだろう。それって、一般向けの船じゃないんですよ。特別運行で、海洋公の指示だけで動かせる船で、一般人には無縁のしろものなんですよ」
「そうだったのか……残念だ。なぁ」

 俺は、衛兵が想定している新婚カップルを装うために、メルリルに話を振った。

「えっ! あ、ええ、残念ね、あなた」

 ぐっ……。
 自分でメルリルに振っておいてなんだが、『あなた』は予想外で、刺激が強すぎた。

「……し、仕方ないな。ああ、どこか港が見える場所で、俺達でも入れるところはないかな? 海が見えるだけでもいいんだが」
「いいですね。仲がよくて。ああ、それなら大丈夫ですよ。あっちの、白い建物があるでしょう? あそこは船の管理塔なんですが、港が見える料理店リストランテが三階にあります。テラス席からは海も港もよく見えますよ」

 少々うろたえた俺だったが、聞きたいことは聞くことが出来た。
 最後の情報は、おかしく思われないように、特に意味もなく聞いただけだが、勇者達が喜びそうだな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。