勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

779 港街の事情

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 俺達は馬車は使わずに港まで歩いて行くことにした。
 民家の多いエリアを抜けると、大通りがいくつか複雑に交差していて、いろいろな形の建物が並んでいる、広々とした場所に出る。
 道にはみ出すように建てられた建造物などもあり、奔放さが感じられた。
 しかし、不思議なことに、屋根だけはどの建物も示し合わせたように赤茶色に揃っている。

「建物が押し合いへし合いしているみたい」

 メルリルの感想が、実に的確だった。
 この街の特徴的なところは、店舗と思われる建物の前に、テーブルを置いて、商品見本を並べた呼び込みをしているところが、かなり目立つことだろう。

「さあ、そこのお方! この商品はなんと、東方の珍しいからくりだよ! なんと、押して歩くだけで、畑の土を掘り返してくれるんだ」
「さぁさぁ! 東方に乗り込まんとする商人のアナタ! 東方のなまりは癖がつよいよ、商売に有用な言葉を書き出したガイド本はいかが?」

 などという、なかなか有用そうなものがあると思えば……。

「船旅の間にあなたの身を守る魔法の御札はいかがかな? 今ならセットでお安いよ!」
「帝国までなら無料で船に乗れる特別チケットがあるんだが、いかがですか? 大丈夫正規品ですから」

 という、明らかに怪しげなものまである。
 それが、どこも意外と売れている感じなのが恐ろしい。

「東方で商売がしたいなら、魔物の素材が一番だろ」
「いや、東方にはろくな薬味スパイスがないらしい。場所もとらない薬味スパイスが一番さ」

 道端に無造作に置かれている椅子に座って、商人風の男達が声高に商売の話をする光景もあった。
 西周りのルートは人気がないという話だったので、この街も廃れた街なのではないかと思っていたが、とんだ思い違いだったという訳だ。

「師匠、食料品市場だぞ!」
「なんでお前そういうのに鼻が利くようになったんだ?」

 前は絶対こうじゃなかった。
 それだけは確信を持って言える。
 なんでこうなった? 勇者よ。

 一人で先行する勇者についていくと、巨大な建物が、まるで洞窟のように造られている場所に出た。
 なかに入ると薄暗く、大連合で見た交易の場バザールを思わせる。
 もしかすると参考にしているのかもしれない。
 なかには、路面店から簡易的な屋台まで、さまざまな食料店がひしめき合っていた。
 それぞれが呼び込みをしているものだから、声が反響して、何がなんだかわからない。
 ついでに人も多い。

「ルフ、メルリル、手を離すなよ」
「あ、うん」
「はい」

 左右に手を繋いでいる二人に言っておく。
 勇者達は、たとえ迷子になったとしても、それぞれが自分のことは自分でなんとかする力を持っている。
 しかしルフははぐれたら大変なことになりそうだ。

 メルリルは、いざというときには風に乗れるが、そんないざというときが来たら、俺が不安になる。

 さて、市場をざっと見たところ、野菜は根ものが多く、あと、塩漬け肉などの樽詰状態での販売が一般的なようで、船旅用の買い物が多いのだろうということがわかる。

 勇者は、この国の名物である、燻製スモークを眺めている。種類がやたら豊富で、目移りしているようだ。
 放っておこう。

 ふと気づくと、ルフが遅れがちになっていた。
 
「疲れたか? ルフ」
「え……ううん」

 明らかな強がりだ。

「いいかルフ。こうやって大勢で行動しているときには、強がりは言わないほうがいい」

 俺の言葉に、ルフはきょとんとする。

「どうして、ですか?」
「何かあったときのために、体力はある程度残しておきたいからだ。誰か一人でも無理をしたら、全員がその人が無理をした分をカバーしなければならない。それよりは、余裕があるうちに、早めに回復してもらったほうが楽なんだ」
「そ、そっか……うん。その、ダスターさん、僕、疲れたかも」
「よし、よく言ってくれたな、ルフ。偉いぞ」
「う、うん」

 言葉少なだが、ルフは照れているようだ。
 俺はルフをひょいと片腕に抱え上げる。

「うわあ」

 なんだか嬉しそうだ。

「昔僕がまだ小さい頃、父さんがこんな風にかかえてくれました」

 そんな思い出があったのか。
 さて、俺にロボリスの代わりが務まるはずもないが、せめて保護者らしく動かないとな。
 市場の入り口付近に樽やら椅子やらが並べてあり、人々が適当に腰掛けている場所があったので、俺達もそこに腰を下ろした。

 何気なく見ていると、市場には、デザインの揃った服を着た者達が多い。
 視線でその一人の動きを追ってみると、兵士が守る大きな馬車に樽を運び込んでいるようだ。

 旅の準備では食料の買い出しは一番最後に行う。
 一番劣化しやすいのが、食料だからだ。

 つまり、出港が近い船があるということだろう。
 この街では、港の権利を一括して有しているのが、州公である海洋公だ。
 もちろん海洋公は船をたくさん持っているが、港にあるのは海洋公の船だけではない。
 どこかの大店所有のものや、外国から入港したものなどもある。
 そういう船には、港の利用権を貸し出しているとのことだ。
 実は対立している国である帝国の船も入港しているらしい。
 帝国の船の場合は、何かの交換条件で、お互いに港の一区画を、仮の相手領土として認めているとのことだった。

 さっき帝国まで無料で船に乗れる権利を売っている奴がいたが、なにかそういう裏ルートがあるのかもしれない。

「そう言えば、聞いたか? 魔獣公の結婚の証人を、聖者さまがじきじきに行ったって」
「ばか、むしろ知らない奴がどうかしてるだろ」
「すごいことだよな。魔獣公の奥方は、勇者さまが訪れるまで密かに街を守っていたとか」
「女と言えども侮れないなぁ」
「ところで、うちの州公さま、海洋公は、もうちょっとこう、何か華がないものか……」
「おい、滅多なことを言うな」

 市場の入り口近くで荷箱に腰掛けた人夫のような連中が噂話に興じていた。
 肌ツヤもいいし、余裕がある。
 この街は、日雇いのような者にも、稼げる場所のようだな。
 しかし、あの祭典が、もう誰でも知っていて当たり前のことになっているのか……。

「師匠、貝柱の串焼きというやつを買って来たぞ」

 まったりルフを休ませつつそんな観察をしていると、勇者が両手に串をいくつも持って駆けて来た。
 お前、カニはどうした?
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