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第八章 真なる聖剣
768 魔獣公の挙式 7
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さて、いろいろあったが、式典最終日。
これで、最後だと思うと、気を抜きそうになるが、最後だからこそ、気を引き締めなければならない。
まぁ俺からしてみれば、今日は古い友人の結婚式な訳で、正直な気持ちとしては、単純にお祝いしたい気分だ。
新郎新婦の抱える事情を考えれば、そういう訳にもいかないけどな。
熱愛カップルのくせして、長年くすぶり続けて、ようやくお互いを伴侶として盟約を交わす。
物語として聞けば、随分ロマン溢れる話だろうが、本人達のこれまでの苦悩を考えると、そんな単純なものではない。
ここまでこじれたのは、半分以上本人達のせいとは言え、身分差については本人達にはどうにも出来ない話だ。
カーンもメイサーも、周りに翻弄され続けた人生だったと言えるだろう。
今度はぜひ、周りを翻弄してやってくれ。
最終日の式典は、上層教会で結婚の盟約を結び、城までの道行きで、平民にも領主の奥方のお披露目をする。
城に到着して、領主の間で誓いと、領主が妻に奥の管理を譲渡するための譲渡式を行い、ホールに有力貴族を招いてのパーティが開催され、終了だ。
頻繁に移動があるので、警備が苦労しそうだな。
それに今回、普通は通らない場所を通ることになったので、おそらく、警備の兵達は頭を抱えているに違いない。
ご愁傷さま。
「師匠」
「どうした?」
勇者が聖剣を弄びながら声を上げた。
子どもが木の枝で遊ぶように、空中に放り投げてくるくる回してキャッチしている。
ものが聖剣だと思うと、剣が気の毒になる扱いの雑さだ。
「今日、俺達は主役じゃないし、注目されることもない」
「それはどうかな?」
仮にも、この国で勇者や聖女が注目されないということがあるのか?
「そこで、礼装はやめておこうと思う」
「……それには賛成だ」
礼装はゴテゴテしていて、動きにくいし、なにやら人の視線を集めるうえにひそひそと馬鹿にされているような、疑心暗鬼に苛まれる。
女性陣は華やかでとてもいいとは思うけどな。
「わたくしも、もう礼装は嫌です」
「実は私も……」
聖女とメルリルが同意したので、礼装をやめるのは決定事項となった。
「しかし、認識阻害のローブは、式典中は怪しまれるだろ。ただでさえ警備がピリピリしているところを突っつきたくない」
「普段着でいいだろ」
「いや、まて、今日は平民も精一杯のおしゃれをして外出するんだぞ? 普段着はまずい」
「むう」
勇者は、この式典中に、飾り立てられて、さまざまな人に囲まれ、ベタベタ触られていた。
なかには、若葉ではないが、髪を抜こうとする者もいたようだ。
勇気あるな。
聖女も似たような目に遭いそうになっていたが、全てモンクが実力行使して周囲から排除していた。
聖騎士はそういう意味では勇者を守ったりしないので、いわゆる熱狂的な信者は、勇者自ら相手するしかないのだ。
「お師匠さま」
今度は聖女がパタパタと近寄って来た。
その手には見覚えのある壺が握られている。
「この、癒やしの樹の種ですけど、聖者さまにお渡ししてよろしいでしょうか?」
「何百年、いや、何千年前のものかわからないんだぞ? 植えても、芽は出ないんじゃないか?」
「ですが、わたくし達が持っていても、何も出来ませんし」
「それはそうだな」
迷宮の深部に暮らす迷宮鼠達が利用していた癒やしの樹、あるいは神樹の、ガワだけ残った空洞。
その奥に保存されていた、壺に詰め込まれた古い種。
食べられる訳でもないし、俺達に育てられるはずもない。
そもそも生きているとは思えない種だが、もし、一つでも生きていて育てることが出来れば、多くの人を癒やすことが出来るだろうと言われている。
そう考えれば、育つ場所として最もふさわしいのは、大聖堂だろう。
「聖者さまは、教会での式が終わったら、帰るんだっけな?」
「はい」
「じゃあ、渡して来るか」
ということで、俺達は、庶民感覚でいうところの、普段着よりも少し上等という服装で、ぞろぞろと聖者さまの部屋へとお邪魔した。
朝も早い時間だったが、部屋を守る聖騎士も、神殿騎士もピシッと直立不動で警備をしている。
「聖者に話がある」
「な、貴様、聖者さまを……っ! 勇者さま?」
神殿騎士が、一瞬激高しかけたが、それを素早く聖騎士が止める。
さすが聖騎士、勇者をひと目で見破ったようだ。
いや、別に認識阻害状態にはしてないぞ?
「勇者さま、こういうことは困ります」
大聖堂では会ったことのない聖騎士だ。
年齢は五十近いんじゃないだろうか?
いかつい顔だが、どこか愛嬌がある男だった。
勇者に苦言を呈すると、片目をいたずらっぽく瞑ってみせる。
そして、聖者さまの部屋の扉をノックして、なかの者に用件を伝えてくれた。
すぐに全員が招き入れられる。
「皆さま方、あまり騎士殿方を困らせないでくださいね?」
部屋に入るなり、大聖堂で俺達を担当していたノルフェイデさんが、子どもを叱るように言った。
すごくいたたまれないのでやめてください。
「即断即決、思いついたらすぐに行動するのは、勇者さまや、ダスターさまのよいところでもありますね」
ニコニコと、相変わらず年齢不詳の女性、聖者さまが簡素な部屋着で対応してくれた。
というか、聖者さま、俺達と会うときに顔をベールで隠さないよな。
いいのか?
「あの、聖者さま。とても大切なお話と、お渡しするものがあったので、ご迷惑と思ったのですが、わたくしが、来ようと言ったのです」
聖女が、申し訳なさそうに言った。
いや、俺達の評価があんな感じなのは、何も今回定まったことじゃないと思うぞ。
気にしなくていい。
「その手のなかのもののことですか? とても弱々しいですが、強い命の息吹を感じます」
聖者さまが矛盾したことを言う。
だが、本質を言い当てているよな。
さすがだ。
「はい。実は、これも迷宮の深いところで見つけたものなのですが、おそらくは癒やしの樹の種ではないかと」
「まぁ」
小さく、驚いたような声を上げたのは、ノルフェイデさんだ。
すぐに「失礼いたしました」と、一礼して、まるで席は外すように、奥のほうへと引っ込む。
あの方向は、従者用の部屋だな。
勇者と行動するようになって、よくお世話になっているから、わかるぞ。
どうやらお茶を用意してくれるようだ。
それと、大事な話を聞かないように席を外してくれたのだろう。
「癒やしの樹。……すでに滅びたと言われている、癒やしの力を持つ樹ですね。まさか、その種が見つかるなんて……ふふっ、さすがは勇者さま方。迷宮ならきっとダスターさまのお力も大きいのでしょう」
「そうだ。俺はあまり役立ってない」
自分が役立たずだとこうも堂々と宣言する奴を初めて見た。
勇者よ、お前、大物だな。
これで、最後だと思うと、気を抜きそうになるが、最後だからこそ、気を引き締めなければならない。
まぁ俺からしてみれば、今日は古い友人の結婚式な訳で、正直な気持ちとしては、単純にお祝いしたい気分だ。
新郎新婦の抱える事情を考えれば、そういう訳にもいかないけどな。
熱愛カップルのくせして、長年くすぶり続けて、ようやくお互いを伴侶として盟約を交わす。
物語として聞けば、随分ロマン溢れる話だろうが、本人達のこれまでの苦悩を考えると、そんな単純なものではない。
ここまでこじれたのは、半分以上本人達のせいとは言え、身分差については本人達にはどうにも出来ない話だ。
カーンもメイサーも、周りに翻弄され続けた人生だったと言えるだろう。
今度はぜひ、周りを翻弄してやってくれ。
最終日の式典は、上層教会で結婚の盟約を結び、城までの道行きで、平民にも領主の奥方のお披露目をする。
城に到着して、領主の間で誓いと、領主が妻に奥の管理を譲渡するための譲渡式を行い、ホールに有力貴族を招いてのパーティが開催され、終了だ。
頻繁に移動があるので、警備が苦労しそうだな。
それに今回、普通は通らない場所を通ることになったので、おそらく、警備の兵達は頭を抱えているに違いない。
ご愁傷さま。
「師匠」
「どうした?」
勇者が聖剣を弄びながら声を上げた。
子どもが木の枝で遊ぶように、空中に放り投げてくるくる回してキャッチしている。
ものが聖剣だと思うと、剣が気の毒になる扱いの雑さだ。
「今日、俺達は主役じゃないし、注目されることもない」
「それはどうかな?」
仮にも、この国で勇者や聖女が注目されないということがあるのか?
「そこで、礼装はやめておこうと思う」
「……それには賛成だ」
礼装はゴテゴテしていて、動きにくいし、なにやら人の視線を集めるうえにひそひそと馬鹿にされているような、疑心暗鬼に苛まれる。
女性陣は華やかでとてもいいとは思うけどな。
「わたくしも、もう礼装は嫌です」
「実は私も……」
聖女とメルリルが同意したので、礼装をやめるのは決定事項となった。
「しかし、認識阻害のローブは、式典中は怪しまれるだろ。ただでさえ警備がピリピリしているところを突っつきたくない」
「普段着でいいだろ」
「いや、まて、今日は平民も精一杯のおしゃれをして外出するんだぞ? 普段着はまずい」
「むう」
勇者は、この式典中に、飾り立てられて、さまざまな人に囲まれ、ベタベタ触られていた。
なかには、若葉ではないが、髪を抜こうとする者もいたようだ。
勇気あるな。
聖女も似たような目に遭いそうになっていたが、全てモンクが実力行使して周囲から排除していた。
聖騎士はそういう意味では勇者を守ったりしないので、いわゆる熱狂的な信者は、勇者自ら相手するしかないのだ。
「お師匠さま」
今度は聖女がパタパタと近寄って来た。
その手には見覚えのある壺が握られている。
「この、癒やしの樹の種ですけど、聖者さまにお渡ししてよろしいでしょうか?」
「何百年、いや、何千年前のものかわからないんだぞ? 植えても、芽は出ないんじゃないか?」
「ですが、わたくし達が持っていても、何も出来ませんし」
「それはそうだな」
迷宮の深部に暮らす迷宮鼠達が利用していた癒やしの樹、あるいは神樹の、ガワだけ残った空洞。
その奥に保存されていた、壺に詰め込まれた古い種。
食べられる訳でもないし、俺達に育てられるはずもない。
そもそも生きているとは思えない種だが、もし、一つでも生きていて育てることが出来れば、多くの人を癒やすことが出来るだろうと言われている。
そう考えれば、育つ場所として最もふさわしいのは、大聖堂だろう。
「聖者さまは、教会での式が終わったら、帰るんだっけな?」
「はい」
「じゃあ、渡して来るか」
ということで、俺達は、庶民感覚でいうところの、普段着よりも少し上等という服装で、ぞろぞろと聖者さまの部屋へとお邪魔した。
朝も早い時間だったが、部屋を守る聖騎士も、神殿騎士もピシッと直立不動で警備をしている。
「聖者に話がある」
「な、貴様、聖者さまを……っ! 勇者さま?」
神殿騎士が、一瞬激高しかけたが、それを素早く聖騎士が止める。
さすが聖騎士、勇者をひと目で見破ったようだ。
いや、別に認識阻害状態にはしてないぞ?
「勇者さま、こういうことは困ります」
大聖堂では会ったことのない聖騎士だ。
年齢は五十近いんじゃないだろうか?
いかつい顔だが、どこか愛嬌がある男だった。
勇者に苦言を呈すると、片目をいたずらっぽく瞑ってみせる。
そして、聖者さまの部屋の扉をノックして、なかの者に用件を伝えてくれた。
すぐに全員が招き入れられる。
「皆さま方、あまり騎士殿方を困らせないでくださいね?」
部屋に入るなり、大聖堂で俺達を担当していたノルフェイデさんが、子どもを叱るように言った。
すごくいたたまれないのでやめてください。
「即断即決、思いついたらすぐに行動するのは、勇者さまや、ダスターさまのよいところでもありますね」
ニコニコと、相変わらず年齢不詳の女性、聖者さまが簡素な部屋着で対応してくれた。
というか、聖者さま、俺達と会うときに顔をベールで隠さないよな。
いいのか?
「あの、聖者さま。とても大切なお話と、お渡しするものがあったので、ご迷惑と思ったのですが、わたくしが、来ようと言ったのです」
聖女が、申し訳なさそうに言った。
いや、俺達の評価があんな感じなのは、何も今回定まったことじゃないと思うぞ。
気にしなくていい。
「その手のなかのもののことですか? とても弱々しいですが、強い命の息吹を感じます」
聖者さまが矛盾したことを言う。
だが、本質を言い当てているよな。
さすがだ。
「はい。実は、これも迷宮の深いところで見つけたものなのですが、おそらくは癒やしの樹の種ではないかと」
「まぁ」
小さく、驚いたような声を上げたのは、ノルフェイデさんだ。
すぐに「失礼いたしました」と、一礼して、まるで席は外すように、奥のほうへと引っ込む。
あの方向は、従者用の部屋だな。
勇者と行動するようになって、よくお世話になっているから、わかるぞ。
どうやらお茶を用意してくれるようだ。
それと、大事な話を聞かないように席を外してくれたのだろう。
「癒やしの樹。……すでに滅びたと言われている、癒やしの力を持つ樹ですね。まさか、その種が見つかるなんて……ふふっ、さすがは勇者さま方。迷宮ならきっとダスターさまのお力も大きいのでしょう」
「そうだ。俺はあまり役立ってない」
自分が役立たずだとこうも堂々と宣言する奴を初めて見た。
勇者よ、お前、大物だな。
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