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第八章 真なる聖剣
763 魔獣公の挙式 2
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式典は、三日かけて行われる。
一日目は、不帰の勇者の行った偉業の公表と、不帰の勇者という名前を封印の勇者と改める改名の式。
会場は、上層の教会だ。
絢爛豪華な教会が、貧富を問わず、民に開放され、広大なテラスを使って、催しが開催された。
この日の目玉は、大聖堂付きの吟遊詩人が、朗々たる歌声で詠み上げる、封印の勇者の戦いと、命を賭しての封印の物語だ。
大聖堂の新しい導師のお披露目も兼ねていて、導師の魔法によって、吟遊詩人の歌声は街の隅々まで響き渡った。
とんでもない力の持ち主もいたもんだ。
勇猛な戦いの場面に、男たちが盛り上がり、勇者の命果てるときに、乙女たちが涙した。
おっと、俺まで詩人の影響を受けちまったな。
ともかく、街は熱狂した。
誰に告げることもなく、勇者が地元の迷宮を訪れ、永い歳月の間、人知れず恐ろしい魔物を封印していたのだ。
要するに、街の人間は、知らない間に昔の勇者に守られていたということになる。
そりゃあ、感動するだろう。
二日目は、引き続き、上層教会が会場となる。
この日の主役は、なんと、俺達だ。
正確に言うと、勇者と聖剣だ。
まだ夜明け前の薄明かりのなか、俺達は、教会の尖塔のてっぺんにいた。
「寒い!」
下に聞こえないのをいいことに、勇者が吐き捨てるように言う。
もう夏なんだが、この国は北方で、おまけに迷宮都市は、やや高地にある。
早朝の尖塔のてっぺんは寒かった。
これはあれだな、山の上みたいなもんなんだろうな。
地表には、ひと目聖剣の輝きを見ようと、多くの人が詰めかけている。
こんな早朝なのに、凄いな。
「そろそろですよ。勇者さま」
勇者の態度を気にすることなく、大聖堂からやって来たノルフェイデさんが促す。
そう、このノルフェイデさん。俺達が大聖堂に滞在していたときに担当してくれていた奉仕者の女性だ。
聖者さまのお付きとして同行したらしい。
「よし、見てろよ! 師匠」
「なんで俺に言う? 地上の人たちによく見えるように掲げるんだぞ?」
不安である。
やがて、地平線から新しい太陽が昇った。
同時に、勇者が聖剣を掲げ、聖剣から光が放たれる。
ドオオオオオオオン!
地上から響いたソレは、もはや、声というよりも、音のうねりだった。
大勢の人が一斉に叫んでいる。
よし、まずは掴みは大丈夫なようだ。
太陽は少し低い位置にあるので、本来は聖剣と太陽の光が重なるということにはならないのだが、そこは、魔法の総本山の大聖堂である。
ここでも、新しい導師さまが、まるで、昇った日の光がそのまま聖剣に宿ったように見せてしまった。
すげえな。
さて、ここから忙しい。
俺達は、階下の大ホールに降り、居並ぶ七公に再び聖剣をお披露目しなければならない。
実は、このたびの俺の正装には兜がついている。
いかにも冒険者でございという顔を、少しでも隠せるのはありがたかったのだが、どうも、頭の上の飾りが邪魔でイライラした。
急いでいるのに、ときどき天井に引っかかるのだ。
「やっぱりゴテゴテしすぎじゃないか?」
「でも凄く、格好いい……」
メルリルに褒められると、それでもいいかという気になるのが不思議である。
「ああ。歴戦の戦士という風格があるぞ。もちろん、普段の格好でも、風格はあるけどな」
と、勇者。
お前、普段は貧相と思ってたのがバレそうになって、慌てて言い繕ったな?
まぁいいか。
俺としては、こんな場所に普段の格好で立っていたくないので、何を言われても構わない。
さてさて、大ホールの扉が開け放たれ、いよいよ入場だ。
うはっ、いかにも曲者っぽい連中が、雁首揃えてやがる。
七公については、さんざん勉強させられた。
何かあったときに相手が誰だかわからないと、対処のしようがないからな。
まずは紅一点、中央の大輪と呼ばれるザラッダシースーの護国公だ。
七公唯一の女当主で、なんと、メイサーよりも背が高い。
豊かな黒髪を高く結い上げて、結った髪にいろいろな飾りをつけている。
頭が重そうだ。
次に、北の聖なる墓所と呼ばれるエブラハイムの鎮守公。
この当主は、なんと聖騎士の位を持っているらしい。
砂色の髪と鉄色の目で、いかにも騎士といった雰囲気の男だ。
引き締まった肉体の偉丈夫である。
そして、海に面した港を持つ都市、カリオカの海洋公。
かの富国公に比べればだいぶマシだが、少し太り気味だな。
そして、髪がやや薄い。……がんばれ。
茶色の髪と、青い目で、若い頃はなかなかの男ぶりだったらしい。
歳月というものの無情さを感じる。
それから、湖の恵みの街バリバサを治める、湖水公だ。
北方には珍しく、日焼けした肌色の男である。
白髪まじりの灰色の髪と、藍色の目をしていて、痩せているように見えるが、弱々しくはない。
有名な北方馬の産地であるチェイダスを治めるのが、騎士公となる。
髪を高い位置で縛り、そのまま流した、馬の尾のような独特の髪型をした男だ。
がっしりとした体格で、彫りの深い顔立ちをしていた。
髪の色はオレンジに近い茶色で、目は焦げ茶とのことだ。
それと、身分け山に面した鉱山地帯ダグラムを治めるのが銀山公だ。
この人は、かなりの高齢だな。
片手で杖をついている。
髪は真っ白だが、灰色の目は鋭い。
最後に我らの魔獣公、ホーリーカーンというラインナップだ。
残念ながら、つい先日、富国公ことデーヘイリング家は降格されてしまい、公の地位から消えてしまった。
八公が七公になったのも、そう言えば、かなりの大事件だよな。
「今代勇者、アルフレッド・セ・ピア・アカガネさまと、その御一行がまいられました。我が国の誇る栄誉ある諸公よ、どうか、彼らの偉業を讃えたまえ」
進行役として、地元を治めるカーンが俺達を紹介する。
おおっという声と、拍手が起こった。
どの顔も笑顔だ。
本心はどうあれ、今の所、歓迎ムードを壊す気はないらしい。
一日目は、不帰の勇者の行った偉業の公表と、不帰の勇者という名前を封印の勇者と改める改名の式。
会場は、上層の教会だ。
絢爛豪華な教会が、貧富を問わず、民に開放され、広大なテラスを使って、催しが開催された。
この日の目玉は、大聖堂付きの吟遊詩人が、朗々たる歌声で詠み上げる、封印の勇者の戦いと、命を賭しての封印の物語だ。
大聖堂の新しい導師のお披露目も兼ねていて、導師の魔法によって、吟遊詩人の歌声は街の隅々まで響き渡った。
とんでもない力の持ち主もいたもんだ。
勇猛な戦いの場面に、男たちが盛り上がり、勇者の命果てるときに、乙女たちが涙した。
おっと、俺まで詩人の影響を受けちまったな。
ともかく、街は熱狂した。
誰に告げることもなく、勇者が地元の迷宮を訪れ、永い歳月の間、人知れず恐ろしい魔物を封印していたのだ。
要するに、街の人間は、知らない間に昔の勇者に守られていたということになる。
そりゃあ、感動するだろう。
二日目は、引き続き、上層教会が会場となる。
この日の主役は、なんと、俺達だ。
正確に言うと、勇者と聖剣だ。
まだ夜明け前の薄明かりのなか、俺達は、教会の尖塔のてっぺんにいた。
「寒い!」
下に聞こえないのをいいことに、勇者が吐き捨てるように言う。
もう夏なんだが、この国は北方で、おまけに迷宮都市は、やや高地にある。
早朝の尖塔のてっぺんは寒かった。
これはあれだな、山の上みたいなもんなんだろうな。
地表には、ひと目聖剣の輝きを見ようと、多くの人が詰めかけている。
こんな早朝なのに、凄いな。
「そろそろですよ。勇者さま」
勇者の態度を気にすることなく、大聖堂からやって来たノルフェイデさんが促す。
そう、このノルフェイデさん。俺達が大聖堂に滞在していたときに担当してくれていた奉仕者の女性だ。
聖者さまのお付きとして同行したらしい。
「よし、見てろよ! 師匠」
「なんで俺に言う? 地上の人たちによく見えるように掲げるんだぞ?」
不安である。
やがて、地平線から新しい太陽が昇った。
同時に、勇者が聖剣を掲げ、聖剣から光が放たれる。
ドオオオオオオオン!
地上から響いたソレは、もはや、声というよりも、音のうねりだった。
大勢の人が一斉に叫んでいる。
よし、まずは掴みは大丈夫なようだ。
太陽は少し低い位置にあるので、本来は聖剣と太陽の光が重なるということにはならないのだが、そこは、魔法の総本山の大聖堂である。
ここでも、新しい導師さまが、まるで、昇った日の光がそのまま聖剣に宿ったように見せてしまった。
すげえな。
さて、ここから忙しい。
俺達は、階下の大ホールに降り、居並ぶ七公に再び聖剣をお披露目しなければならない。
実は、このたびの俺の正装には兜がついている。
いかにも冒険者でございという顔を、少しでも隠せるのはありがたかったのだが、どうも、頭の上の飾りが邪魔でイライラした。
急いでいるのに、ときどき天井に引っかかるのだ。
「やっぱりゴテゴテしすぎじゃないか?」
「でも凄く、格好いい……」
メルリルに褒められると、それでもいいかという気になるのが不思議である。
「ああ。歴戦の戦士という風格があるぞ。もちろん、普段の格好でも、風格はあるけどな」
と、勇者。
お前、普段は貧相と思ってたのがバレそうになって、慌てて言い繕ったな?
まぁいいか。
俺としては、こんな場所に普段の格好で立っていたくないので、何を言われても構わない。
さてさて、大ホールの扉が開け放たれ、いよいよ入場だ。
うはっ、いかにも曲者っぽい連中が、雁首揃えてやがる。
七公については、さんざん勉強させられた。
何かあったときに相手が誰だかわからないと、対処のしようがないからな。
まずは紅一点、中央の大輪と呼ばれるザラッダシースーの護国公だ。
七公唯一の女当主で、なんと、メイサーよりも背が高い。
豊かな黒髪を高く結い上げて、結った髪にいろいろな飾りをつけている。
頭が重そうだ。
次に、北の聖なる墓所と呼ばれるエブラハイムの鎮守公。
この当主は、なんと聖騎士の位を持っているらしい。
砂色の髪と鉄色の目で、いかにも騎士といった雰囲気の男だ。
引き締まった肉体の偉丈夫である。
そして、海に面した港を持つ都市、カリオカの海洋公。
かの富国公に比べればだいぶマシだが、少し太り気味だな。
そして、髪がやや薄い。……がんばれ。
茶色の髪と、青い目で、若い頃はなかなかの男ぶりだったらしい。
歳月というものの無情さを感じる。
それから、湖の恵みの街バリバサを治める、湖水公だ。
北方には珍しく、日焼けした肌色の男である。
白髪まじりの灰色の髪と、藍色の目をしていて、痩せているように見えるが、弱々しくはない。
有名な北方馬の産地であるチェイダスを治めるのが、騎士公となる。
髪を高い位置で縛り、そのまま流した、馬の尾のような独特の髪型をした男だ。
がっしりとした体格で、彫りの深い顔立ちをしていた。
髪の色はオレンジに近い茶色で、目は焦げ茶とのことだ。
それと、身分け山に面した鉱山地帯ダグラムを治めるのが銀山公だ。
この人は、かなりの高齢だな。
片手で杖をついている。
髪は真っ白だが、灰色の目は鋭い。
最後に我らの魔獣公、ホーリーカーンというラインナップだ。
残念ながら、つい先日、富国公ことデーヘイリング家は降格されてしまい、公の地位から消えてしまった。
八公が七公になったのも、そう言えば、かなりの大事件だよな。
「今代勇者、アルフレッド・セ・ピア・アカガネさまと、その御一行がまいられました。我が国の誇る栄誉ある諸公よ、どうか、彼らの偉業を讃えたまえ」
進行役として、地元を治めるカーンが俺達を紹介する。
おおっという声と、拍手が起こった。
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