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第八章 真なる聖剣
745 伝説の剣の素材
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ロボリスは、聖剣の柄を手にしてため息を吐いては、テーブルに戻し、また手に取るということを繰り返していた。
「念を押して言っておくが、俺は平凡な鍛冶師だからな。聖剣を作れと言われても無理だぞ?」
「当然だ。見た目だけでいい。それらしさは、勇者がなんとかする」
「それについてだが、出来るだけ、派手にキラキラしているような素材はないか?」
具体的な話になったと見て、勇者が注文を口にする。
それを受けて、ロボリスがしばし考えて口を開いた。
「輝きで言えば、一番は鉄だろうな。きっちりと磨き上げれば、鏡よりも光を反射するぞ」
「まぁ意外です。銀とか黄金などのほうが輝きは美しいかと思っておりました」
聖女が驚いたように言う。
ロボリスは、その言葉にうなずいた。
「銀や黄金は確かに輝きが美しい。だが、それぞれ欠点もある」
「そうなんですね」
「ああ。銀は手入れを怠るとすぐに曇る。光沢を保つのにかなりの努力が必要だ。あと、黄金は柔らくて、武器には向かねえんだ。その分薄く出来るから表面に貼り付けるという方法もありはするんだけどな」
「まぁ、ロボリスさまは豊かな知識をお持ちなのですね」
「いやっ、鍛冶師としては、ふ、普通、だからなっ!」
ロボリスの奴、凄い勢いで真っ赤になってやがる。
奥さんに言いつけるぞ。
「その点、鉄は誰もが知っている通り、武器の素材としても頑丈だ。まぁ実用の剣としてなら間違いねえんだが、見た目の問題となると、辛いところもあるな」
「と言うと?」
今度は俺が問いかけた。
「伝説の聖剣と呼ばれるものの素材は、やっぱり伝説級のものなんだ。真魔鉱、ドラゴンの角、魔法真銀、金剛鉱なんかが有名だな。それぞれ輝きも独特だ。もっともそんな素材があったとしても、俺には扱い切れん。実際に見たこともないしな」
うん、こうやって聞くと、つくづく無理難題を言っていることがわかるな。
すると、勇者がなにやらごそごそしながら言った。
「そう言えば、迷宮で面白いものを見つけたんだが、これは使えないか?」
「ん?」
全員の注目の元、勇者が取り出したのは、あの墓所の小川のなかで拾ったものだった。
不思議な銀色の輝きで、俺の拳よりも二回りほど大きい程度。
そう言えば、いろいろあって、忘れてたな。
勇者が取り出した、ソレを目にした途端、ロボリスが全ての動作を止めて固まった。
「おい? ロボリスどうした?」
カッと目を見開き、顔はこわばったままで、気の弱い者が見たら泣きそうだ。
そして、唐突に、だらだらと汗を流し始めた。
顔面がわずかな間にてらてらと輝き、顎髭を伝った汗がぼたぼたとテーブルに落ちる。
嫌な絵面だな。
「ち、ちょっと、お借りしても?」
お、動いた。
「かまわないぞ」
勇者は気軽に手渡す。
受け取ったロボリスの身体が、一瞬、前にかしいだ。
あ、俺も持ったことがあるが、見た目よりも重いんだよな、あれ。
ロボリスは、尚もダラダラと、脂汗のようなものを顔に浮かべながら、ひどく慎重に、テーブルの上に勇者から受け取ったモノを置く。
そして慌てて、奥へと向かった。
結界は家全体に張られているし、ロボリスは結界の出入りも出来るので、移動に問題はないが、一応一言断って退室して欲しかった。
攻撃型の結界だったらヤバい場合もあるのだ。
俺達が無言で見守るなか、慌てて戻って来たロボリスは、手に小さな瓶のようなものを抱えていた。
大事そうに両手で抱えている。
「ちょっと、調べたいんだが、大丈夫ですか? 問題は起こらないと思うんですが」
「好きにしたらいい」
ロボリスが勇者に問いかけ、勇者は鷹揚に答えた。
特に思い入れがあったりはしないようだ。
勇者の返事にうなずいたロボリスは、瓶の蓋を慎重に開ける。
どうやら本体も蓋部分もガラスで出来ているようだ。
蓋の内側部分が細い管のようになっていて、内部の液体を掬い上げる構造になっているのか。
面白いな。
ロボリスは、慎重な手つきで、勇者の持って来たモノに、その瓶の蓋部分に付いた液体を付着させた。
すると、勇者の持って来たモノが、ほんのりと、虹のような輝きを帯びる。
「まぁ、きれいですね」
メルリルが感嘆の声を上げた。
確かに、美しい輝きだな。
しかし、それを見て一番驚きを露わにしたのは、ロボリス自身だった。
「おいおいおい……」
そう口にして、手にした蓋を取り落とす。
俺は咄嗟にそれを受け止めた。
材質がガラスのようだし、壊れてしまうと思ったのだ。
液体が危険なものなら危なかったが、まぁ聖女もいるしな。
ほんの僅かに手にかかった液体は特に身体を害することはなかった。
ただ、少し魔力を感じる。
「ほら。しっかりしろよ」
その蓋を手渡してやると、ロボリスはぼうぜんとしたまま受け取り、ほとんど無意識のような動きで、元の瓶に蓋をした。
どうしたんだ? こいつ。
「嘘だろ」
どさりと、イスに腰を下ろす。
「……魔法真銀だ」
そして、魂の抜けたような声が、ロボリスの口からこぼれ落ちたのだった。
「念を押して言っておくが、俺は平凡な鍛冶師だからな。聖剣を作れと言われても無理だぞ?」
「当然だ。見た目だけでいい。それらしさは、勇者がなんとかする」
「それについてだが、出来るだけ、派手にキラキラしているような素材はないか?」
具体的な話になったと見て、勇者が注文を口にする。
それを受けて、ロボリスがしばし考えて口を開いた。
「輝きで言えば、一番は鉄だろうな。きっちりと磨き上げれば、鏡よりも光を反射するぞ」
「まぁ意外です。銀とか黄金などのほうが輝きは美しいかと思っておりました」
聖女が驚いたように言う。
ロボリスは、その言葉にうなずいた。
「銀や黄金は確かに輝きが美しい。だが、それぞれ欠点もある」
「そうなんですね」
「ああ。銀は手入れを怠るとすぐに曇る。光沢を保つのにかなりの努力が必要だ。あと、黄金は柔らくて、武器には向かねえんだ。その分薄く出来るから表面に貼り付けるという方法もありはするんだけどな」
「まぁ、ロボリスさまは豊かな知識をお持ちなのですね」
「いやっ、鍛冶師としては、ふ、普通、だからなっ!」
ロボリスの奴、凄い勢いで真っ赤になってやがる。
奥さんに言いつけるぞ。
「その点、鉄は誰もが知っている通り、武器の素材としても頑丈だ。まぁ実用の剣としてなら間違いねえんだが、見た目の問題となると、辛いところもあるな」
「と言うと?」
今度は俺が問いかけた。
「伝説の聖剣と呼ばれるものの素材は、やっぱり伝説級のものなんだ。真魔鉱、ドラゴンの角、魔法真銀、金剛鉱なんかが有名だな。それぞれ輝きも独特だ。もっともそんな素材があったとしても、俺には扱い切れん。実際に見たこともないしな」
うん、こうやって聞くと、つくづく無理難題を言っていることがわかるな。
すると、勇者がなにやらごそごそしながら言った。
「そう言えば、迷宮で面白いものを見つけたんだが、これは使えないか?」
「ん?」
全員の注目の元、勇者が取り出したのは、あの墓所の小川のなかで拾ったものだった。
不思議な銀色の輝きで、俺の拳よりも二回りほど大きい程度。
そう言えば、いろいろあって、忘れてたな。
勇者が取り出した、ソレを目にした途端、ロボリスが全ての動作を止めて固まった。
「おい? ロボリスどうした?」
カッと目を見開き、顔はこわばったままで、気の弱い者が見たら泣きそうだ。
そして、唐突に、だらだらと汗を流し始めた。
顔面がわずかな間にてらてらと輝き、顎髭を伝った汗がぼたぼたとテーブルに落ちる。
嫌な絵面だな。
「ち、ちょっと、お借りしても?」
お、動いた。
「かまわないぞ」
勇者は気軽に手渡す。
受け取ったロボリスの身体が、一瞬、前にかしいだ。
あ、俺も持ったことがあるが、見た目よりも重いんだよな、あれ。
ロボリスは、尚もダラダラと、脂汗のようなものを顔に浮かべながら、ひどく慎重に、テーブルの上に勇者から受け取ったモノを置く。
そして慌てて、奥へと向かった。
結界は家全体に張られているし、ロボリスは結界の出入りも出来るので、移動に問題はないが、一応一言断って退室して欲しかった。
攻撃型の結界だったらヤバい場合もあるのだ。
俺達が無言で見守るなか、慌てて戻って来たロボリスは、手に小さな瓶のようなものを抱えていた。
大事そうに両手で抱えている。
「ちょっと、調べたいんだが、大丈夫ですか? 問題は起こらないと思うんですが」
「好きにしたらいい」
ロボリスが勇者に問いかけ、勇者は鷹揚に答えた。
特に思い入れがあったりはしないようだ。
勇者の返事にうなずいたロボリスは、瓶の蓋を慎重に開ける。
どうやら本体も蓋部分もガラスで出来ているようだ。
蓋の内側部分が細い管のようになっていて、内部の液体を掬い上げる構造になっているのか。
面白いな。
ロボリスは、慎重な手つきで、勇者の持って来たモノに、その瓶の蓋部分に付いた液体を付着させた。
すると、勇者の持って来たモノが、ほんのりと、虹のような輝きを帯びる。
「まぁ、きれいですね」
メルリルが感嘆の声を上げた。
確かに、美しい輝きだな。
しかし、それを見て一番驚きを露わにしたのは、ロボリス自身だった。
「おいおいおい……」
そう口にして、手にした蓋を取り落とす。
俺は咄嗟にそれを受け止めた。
材質がガラスのようだし、壊れてしまうと思ったのだ。
液体が危険なものなら危なかったが、まぁ聖女もいるしな。
ほんの僅かに手にかかった液体は特に身体を害することはなかった。
ただ、少し魔力を感じる。
「ほら。しっかりしろよ」
その蓋を手渡してやると、ロボリスはぼうぜんとしたまま受け取り、ほとんど無意識のような動きで、元の瓶に蓋をした。
どうしたんだ? こいつ。
「嘘だろ」
どさりと、イスに腰を下ろす。
「……魔法真銀だ」
そして、魂の抜けたような声が、ロボリスの口からこぼれ落ちたのだった。
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