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第八章 真なる聖剣
741 小さな幸せ
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いろいろと揉めたものの、教会からの資金提供を約束させ、当初の目的は果たした。
その後、治療を終えた教主の軟禁状態を確認したところ、えらく渋るので勇者が無理やり押し入る事態になり、豪華な部屋で贅沢な暮らしをしていることが発覚するというアクシデントもあった。
そのことで腹を立てた勇者が、再度神罰魔法を発動しそうになったりして、冷や汗をかいたが、とりあえずなんとか教会を破壊することは思いとどまらせた。
大事な金づる……おっと、資金提供先でいらん金を使わせる訳にはいかないからな。
教会の責任者に任命されたハイドランジア女史は、勇者と聖女と共に、内部組織を大幅に変更した。
教主の館には、いくつもの隠し部屋があり、国家規模の資産が発見出来たので、式典の資金には不安がなくなって、心底安心したものだ。
ちょっとした博打だったからな。
教主以外にも、今まで普通に賄賂を受け取っていた連中がいたが、神罰を恐れて、自ら財産を提供してくれたので手間も省けて助かった。
やはり、恐怖は、人を動かす大きな力である、ということだ。
慶事報告の訪問のときに、ハイドランジア女史を庇ったメリカという少女は、教主が買い上げた奴隷の一人だったようだ。
なんと当時十歳という幼さで、あまりのことに、ハイドランジア女史が、処罰を覚悟で自分付きの奉仕者として引き取ったらしい。
あの野郎、十歳の子どもと何するつもりだったんだ?
奴隷を高額で引き取っていた教主は、勇者の神罰魔法によって、しばらく動くことも出来なかったし、男としては役に立たなくなったらしいが、出来れば街の門にでも、何日か吊るして晒したほうがよかったかもしれん。
「救えたとしてもこの子だけ。わたくしの力及ばず、申し訳ありませんでした」
「謝ってる暇なんかあるのか? ここをまともなところに立て直さなきゃならんぞ。すぐに大聖堂の審問官も来るだろうし、厳しい追及がある」
「立派な指導者がいらっしゃるのなら、わたくしはよろこんで罰を受けます」
「審問官はそんなに優しくないぞ」
勇者の言葉に深く頭を下げたハイドランジア女史だったが、優しくないという意味を、本当に理解するのは、後に審問官がやって来て、教主見習いとの身分を授けられてしまってからだった。
本来教手が教主になるには、六年に一度行われる試験に受かる必要がある。
その試験に絶対に受かるようにと言い渡されたうえで、迷宮都市上層教会の責任者に任命されてしまったのだ。
ずっと後に風の噂で知ったことだが、ハイドランジア女史は、仕事と研究を両立させて、立派に試験を受かったらしい。
その頃には年齢も六十近くだったというから、凄い人だ。
教会のほうの話が付いたら、次は偽物の聖剣造りである。
これも他人任せに出来ないので、全員で変装をして、昔同じギルド員だったが、現在鍛冶師をしているという、男の元へと向かった。
「その鍛冶師も、師匠の昔馴染なんだよな?」
勇者がなぜか不機嫌そうに言った。
「うーん。それほど親しくはなかったな。俺は基本的にソロアタックが多かったし、そいつは盾持ちで、必ずパーティを組んで行動していた。同じギルドだから一応顔は知っていたぐらいだ」
「ふーん。で、名前は?」
「確か、大地人らしい、珍しい名前で……ええっと、ロ……ロバジスだったかロボデスだったか……」
名前もはっきりと思い出せないような相手だったが、とりあえず知ってはいた。
作業場を尋ねると、奥のほうからガンガンと、激しい鎚の音が聞こえて来る。
「おーい。いるか?」
この音じゃ、何も聞こえないかもしれないと思ったが、すぐに一人の子どもが走って来た。
「はーい。どちらさまですか?」
小さい、五歳ぐらいか?
「ちょっと難しい鍛冶仕事を頼みたいんだが、今大丈夫そうかな?」
「はい。お父さんに聞いてきますね!」
お父さんだと!
あいつ、俺よりも二つ、三つ年下だったはずなのに、こんなデカい子どもがいるのか。
「お待ちの間、こちらにおかけください」
俺達は、入り口を入ったすぐのところにある長いすのほうへと案内された。
しっかりしているな。
やがて、鎚の音がぴたりと止み、人の気配が近づいて来た。
「らっしゃい。何か難しい仕事と聞いたが」
奥から現れたのは、がっちりとした体格の大地人の男だ。
一般的な大地人よりも背が高いので、一見すると、平野人にも見える。
確か両親のどっちかが平野人だったはずだ。
「よお。覚えてるか? 昔、闇のなかの灯に所属していたダスターというんだが」
男はしばし俺の顔をじいっと見ると、一つうなずく。
「覚えてるさ、お前さんそれなりにうちで有名人だったからなぁ。むしろ俺のことを覚えてねえんじゃないか?」
「少しは覚えてるぞ」
「けっ、やっぱりあんまり覚えてねえんじゃねえか! 俺はロボリスだ! 忘れんな!」
そう言って、俺の顔を見て、ガハハと笑う。
俺よりも年下のくせにおっさんくさいな。
ロボリスの突き出した拳に自分の拳を軽く合わせた。
「懐かしいな。まだ冒険者を続けてんのか?」
「ああ。ほかに生き方を知らん」
「俺はダメだったよ。ギルド長が亡くなってさ、あんな人でも死んじまうんだなぁと思ったら、もう怖くってさ」
「あれは……衝撃的だったからな」
おっと、ちょっとしんみりしちまったな。
「ところで、今日は仕事の依頼に来たんだが、大丈夫か?」
「お、おう。特に急ぎの仕事も受けてねえし。今あるのは直しや、日用品の製作ぐらいだな。武器も作っちゃいるんだが、大きな店と契約してない鍛冶師の仕事なんて、しれたものさ」
なるほど、人気で儲かっているような鍛冶師じゃないんだな。
まぁ今回はちょうどよかったと言うべきだろう。
その後、治療を終えた教主の軟禁状態を確認したところ、えらく渋るので勇者が無理やり押し入る事態になり、豪華な部屋で贅沢な暮らしをしていることが発覚するというアクシデントもあった。
そのことで腹を立てた勇者が、再度神罰魔法を発動しそうになったりして、冷や汗をかいたが、とりあえずなんとか教会を破壊することは思いとどまらせた。
大事な金づる……おっと、資金提供先でいらん金を使わせる訳にはいかないからな。
教会の責任者に任命されたハイドランジア女史は、勇者と聖女と共に、内部組織を大幅に変更した。
教主の館には、いくつもの隠し部屋があり、国家規模の資産が発見出来たので、式典の資金には不安がなくなって、心底安心したものだ。
ちょっとした博打だったからな。
教主以外にも、今まで普通に賄賂を受け取っていた連中がいたが、神罰を恐れて、自ら財産を提供してくれたので手間も省けて助かった。
やはり、恐怖は、人を動かす大きな力である、ということだ。
慶事報告の訪問のときに、ハイドランジア女史を庇ったメリカという少女は、教主が買い上げた奴隷の一人だったようだ。
なんと当時十歳という幼さで、あまりのことに、ハイドランジア女史が、処罰を覚悟で自分付きの奉仕者として引き取ったらしい。
あの野郎、十歳の子どもと何するつもりだったんだ?
奴隷を高額で引き取っていた教主は、勇者の神罰魔法によって、しばらく動くことも出来なかったし、男としては役に立たなくなったらしいが、出来れば街の門にでも、何日か吊るして晒したほうがよかったかもしれん。
「救えたとしてもこの子だけ。わたくしの力及ばず、申し訳ありませんでした」
「謝ってる暇なんかあるのか? ここをまともなところに立て直さなきゃならんぞ。すぐに大聖堂の審問官も来るだろうし、厳しい追及がある」
「立派な指導者がいらっしゃるのなら、わたくしはよろこんで罰を受けます」
「審問官はそんなに優しくないぞ」
勇者の言葉に深く頭を下げたハイドランジア女史だったが、優しくないという意味を、本当に理解するのは、後に審問官がやって来て、教主見習いとの身分を授けられてしまってからだった。
本来教手が教主になるには、六年に一度行われる試験に受かる必要がある。
その試験に絶対に受かるようにと言い渡されたうえで、迷宮都市上層教会の責任者に任命されてしまったのだ。
ずっと後に風の噂で知ったことだが、ハイドランジア女史は、仕事と研究を両立させて、立派に試験を受かったらしい。
その頃には年齢も六十近くだったというから、凄い人だ。
教会のほうの話が付いたら、次は偽物の聖剣造りである。
これも他人任せに出来ないので、全員で変装をして、昔同じギルド員だったが、現在鍛冶師をしているという、男の元へと向かった。
「その鍛冶師も、師匠の昔馴染なんだよな?」
勇者がなぜか不機嫌そうに言った。
「うーん。それほど親しくはなかったな。俺は基本的にソロアタックが多かったし、そいつは盾持ちで、必ずパーティを組んで行動していた。同じギルドだから一応顔は知っていたぐらいだ」
「ふーん。で、名前は?」
「確か、大地人らしい、珍しい名前で……ええっと、ロ……ロバジスだったかロボデスだったか……」
名前もはっきりと思い出せないような相手だったが、とりあえず知ってはいた。
作業場を尋ねると、奥のほうからガンガンと、激しい鎚の音が聞こえて来る。
「おーい。いるか?」
この音じゃ、何も聞こえないかもしれないと思ったが、すぐに一人の子どもが走って来た。
「はーい。どちらさまですか?」
小さい、五歳ぐらいか?
「ちょっと難しい鍛冶仕事を頼みたいんだが、今大丈夫そうかな?」
「はい。お父さんに聞いてきますね!」
お父さんだと!
あいつ、俺よりも二つ、三つ年下だったはずなのに、こんなデカい子どもがいるのか。
「お待ちの間、こちらにおかけください」
俺達は、入り口を入ったすぐのところにある長いすのほうへと案内された。
しっかりしているな。
やがて、鎚の音がぴたりと止み、人の気配が近づいて来た。
「らっしゃい。何か難しい仕事と聞いたが」
奥から現れたのは、がっちりとした体格の大地人の男だ。
一般的な大地人よりも背が高いので、一見すると、平野人にも見える。
確か両親のどっちかが平野人だったはずだ。
「よお。覚えてるか? 昔、闇のなかの灯に所属していたダスターというんだが」
男はしばし俺の顔をじいっと見ると、一つうなずく。
「覚えてるさ、お前さんそれなりにうちで有名人だったからなぁ。むしろ俺のことを覚えてねえんじゃないか?」
「少しは覚えてるぞ」
「けっ、やっぱりあんまり覚えてねえんじゃねえか! 俺はロボリスだ! 忘れんな!」
そう言って、俺の顔を見て、ガハハと笑う。
俺よりも年下のくせにおっさんくさいな。
ロボリスの突き出した拳に自分の拳を軽く合わせた。
「懐かしいな。まだ冒険者を続けてんのか?」
「ああ。ほかに生き方を知らん」
「俺はダメだったよ。ギルド長が亡くなってさ、あんな人でも死んじまうんだなぁと思ったら、もう怖くってさ」
「あれは……衝撃的だったからな」
おっと、ちょっとしんみりしちまったな。
「ところで、今日は仕事の依頼に来たんだが、大丈夫か?」
「お、おう。特に急ぎの仕事も受けてねえし。今あるのは直しや、日用品の製作ぐらいだな。武器も作っちゃいるんだが、大きな店と契約してない鍛冶師の仕事なんて、しれたものさ」
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