勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

726 フォルテとメルリル

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「ミュリア。少しいいか?」

 悪霊レイスが消えた後も、しばし祈りを捧げていた聖女に話しかける。

「はい、大丈夫です。お師匠さま」

 う、未だ、聖女に師匠呼びされるのは慣れないな。
 勇者に呼ばれるよりも、何かこう、心に来るものがある。

「さっき、実体化した悪霊レイスが、結界に干渉していたように見えたんだが?」
「あ、そうですね。わたくしも感じました。理由もなんとなくわかります」
「うん」
「あの悪霊レイスの、かりそめの肉体を構成している魔力の元となっているのは、わたくしの魔力なのです。つまり……」
「結界が拒絶しない?」

 それはヤバイだろ。

「いえ、結界の指定は、わたくしたちに害意を持つ存在です。ですので、一応拒絶はするのですが、相手からの干渉が可能なのです」
「つまり結界があまり持たないということか」
「はい」

 うわぁ。
 死鬼リッチとの戦いを前にして新たな不安材料が出来てしまったぞ。
 とは言え、かりそめの肉体を与えないことには、魔法による攻撃以外は全く効かないだろうし。
 伝説級の魔物を短時間で討伐するのは難しいだろうと予想出来るだけに、結界が戦いの途中で崩壊する危険は避けたい。

「ダスター殿、私が前衛で攻撃を抑えきってしまえば問題ないのでは?」

 聖騎士の言葉はその通りなのだが、不安は残る。
 別に聖騎士の力を信用していない訳じゃないんだが、そもそもが魔物と騎士というのは相性が悪いからな。

 騎士というものは対人戦闘を極めた存在だ。
 つまり武器を持った人間や、魔法を使う人間にはそれなりに対処出来る。
 いや、それなりと言っては失礼だな。
 対人戦闘のエキスパートと言っていいだろう。

 しかし魔物と人間は違う。
 とは言え、死鬼リッチという存在は、元は人間のはずだ。
 いや、オーガなんだけどな。
 対人の技術もバカには出来ない。

「わかった。クルス、当てにしている。ただ、ミュリアやメルリルは結界が頼りだ。問題点は出来るだけ減らしておきたい」
「ピャウ?」

 俺の言葉に反応したのはフォルテだった。
 何やら自分に任せろと言っている。

「フォルテが何か張り切っているが……」
「そうだ! はい!」

 メルリルが何かを思いついたように手を上げた。

「うん。メルリルどうぞ」
「フォルテが、存在自体は精霊メイスと似ているってことは前に言ったと思うけど」
「ああうん」

 そのせいで精霊王とやらと間違われたんだよな。

「ギャッギャッ!」

 フォルテが抗議の声を上げた。

「あ、ごめん、フォルテ。フォルテは精霊メイスのように勝手気ままじゃないし、私達のパーティの仲間だもんね。全然同じじゃないよ」

 フォルテの奴、メルリルに気を使わせるなよ。

「クルル」

 フォルテはわかっていればいいと言うと、羽繕いを始めた。
 お前それで勝手気ままじゃないつもりか?

「私、フォルテの力を借りられるんじゃないかと思う」
「本当か? ええっと、それってフォルテの力を使って巫女メッセリの技を使えるってことだよな?」
「うん。ちょっとやってみるね」

 メルリルは、今や笛の代わりに使うようになった、聖者さまにいただいた、小枝についた花のような神璽みしるしを掲げると、シャランと振るって音を鳴らす。
 すると、俺の肩でのんびりとしていたフォルテが、聞き耳を立てるような動きをして、次の瞬間、ゆっくりと羽根を大きく広げた。

 羽根の先から青銀の光がこぼれ、メルリルの神璽みしるしがそれを拾い上げてすっと掲げる。
 すると、俺達の周囲を、透き通った青い、羽根が重なったような光が覆った。

「風の防壁に近いものだから、それほど強度はないけど、受け流しには優れていると思う」
「ちょっと試していいか?」
「うん」

 俺はメルリルの了解を取ると、聖騎士と勇者それぞれに声を掛けた。

「クルス、アルフの順に、メルリルの防壁に斬りつけてみてくれ。アルフは炎も使えよ」
「わかりました」
「おう!」

 最初にクルスが斬りつけると、まっすぐ斬りつけたはずの剣が滑るように逸らされた。

「面白い感触ですね」

 クルスが何やら楽しそうに言う。
 あの分じゃ、あの防壁に挑戦したくなったんだろうな。
 ここを出てからだからな。

 次に勇者が剣に火を宿して一閃する。
 今度はなんと、弾かれた。

「うわっ!」

 剣の握りについては徹底的に鍛錬したので、すっぽ抜けることはなかったが、勇者は弾かれた勢いで、くるりと半回転してしまう。

「これ、自分の力がそのまま返って来るのか。へー」
「そんな感じ」

 勇者の言葉にメルリルが答える。
 すぐに防壁の構造を理解出来るのはさすがと言うべきか。

「使えそうだな。ミュリアの結界と同時に使えるか?」
「試してみましょう」

 ということで、試したところ、見事同時に使用出来た。
 これなら耐久度も上がるだろう。

「じゃあフォルテはメルリルに預けよう」
「うん」
「キュッ!」

 フォルテ、今一瞬うれしそうにしたな?
 どうでもいいが、メルリルは肩当てもしていないし、俺と違って頭も肩も小さいからな。
 負担をかけるなよ?

「ピャ!」

 任せておけとドヤ顔をされてしまった。
 不安しかないが、任せるしかない。
 さて、モクの地図の、封印の印が近い。
 ここから先は狭く曲がりくねった洞穴を下る道となる。

「ここからは慎重に行く。かなり時間がかかるから、水分補給と軽い食事をしておこう」
「わかった」

 勇者がうなずき、全員が水の魔具の水と、炒った豆を口に入れる。

 そうして、万全の態勢で見据えた封印の洞穴は、ヒョウヒョウと、不気味な細い笛のような音を発していた。
 迷宮草も生えない、真っ暗な洞穴だ。

 魔力を持たないクルスは最後尾でカンテラを灯し、魔力持ちは目に魔力を通して、暗視を使う。
 俺は先頭で、ゆっくりと這うように先へと進んだ。
 久々に肌が粟立つようなピリピリとした感覚がある。
 魂の奥底から、この先へは行くなと叫ぶ声が聞こえて来た。

「まぁ、それでも行くのが冒険者なんだけどな」

 少しだけ、笑みが漏れた。
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