610 / 885
第七章 幻の都
715 勇者の威光
しおりを挟む
ホルスが、教会への訪問やアイテムの有無の確認だけでなく、各所に迷宮探索のために必要なものを手配をかけると言ってくれたので、俺は後でリストを渡すことを約束して、とりあえず別れて部屋に戻った。
部屋では、聖女と勇者が、真剣な顔で何やら紙を並べている。
「今戻った。ミュリア、ちょっと確認したいことがあるんだが、今いいか?」
「あ、はい。大丈夫です」
聖女はにっこりと笑って立ち上がると、こちらへとやって来る。
勇者は尚も紙をいじっているようだ。
「さっきカーンの奴が、俺達の担当として外部との交渉役をつけてくれたんだが、そいつと、教会訪問の話をしたんだ。それで、ミュリアの言っていた、祝福の四種? か、それが普通に一般の教会に置いてあるようなものなのかということを聞かれた。どうなんだ?」
「祝福されし四種です。この聖具は、魔物による災害が起こる可能性が高い場所の教会に下賜されるものなので、こちらの迷宮都市にはあると思います」
「なるほど。そういうものか」
そういうものなら、確かに迷宮都市の教会にはあるだろう。
何しろ、街の内側に魔物を抱えているようなもんだからな。
聖女はニコニコ笑いながらうなずいている。
「ところで、あれは何をやっているんだ?」
先ほどから気になっていたので、勇者が紙を広げているのを指し示して聞いてみた。
聖女は振り向きながら「ああ」と言い。
「あれは、勇者さまの祝福を、仮初に付与するための準備です」
「勇者の祝福?」
「はい。以前、勇者さまの署名は大きな力を持つと申しましたが、勇者として祝福された者の名には、その祝福がこもっています。つまり、署名だけでも、わずかなりと、勇者さまの加護を得られるということです。普通の魔物相手なら、特に必要はないのですが、実態のない魔物の場合には、憑依の不安がありますから、皆様の装備に勇者さまの祝福を付与して、憑依を防ごうということになりました」
「憑依!」
俺はゾッと、全身が総毛立つような寒気に襲われた。
魔物に憑依されるということを、恐ろしいと思ったのだ。
だが、ふいに、フォルテとの融合の感覚を思い出し、あれも憑依みたいなもんじゃないのか? と、思ってしまった。
「ど、どうなされたのですか? 頭をお抱えになられて」
「いや、なんでもない」
なんとなく、頭上でスヤスヤ寝ているフォルテを指で弾く。
「ピャッ!」
「どうした? まだ寝てていいぞ」
「ギャッギャッギャッ!」
「なんか悪い夢でも見たんだろ?」
フォルテが何か怖いものが自分に噛みついたとか騒いだので、なだめてやる。
実際誰も噛みついてないからな。
「ダスター。フォルテをいじめて……」
メルリルがため息をついた。
「いじめてないぞ」
「クッ? ピャッピャ?」
「だから気にせずに寝てろ」
仕方ないだろ。
憑依というものを考えたら、なんだか嫌な気分になっちまったんだから。
いや、お前が俺の一部であるということはなんとなくわかるんだが、ほら、傍から見たら似たようなもんじゃないか。
「コホン。ええっと、そうそう、勇者の祝福の付与だったな」
「ダスターは、ときどき子どもっぽいことをします」
「あー、わかった。謝る。フォルテ、悪かったな」
「クルル……ピピッ……クルル……」
「あ、人が謝っているのに寝やがった」
メルリルが俺達の様子を見てクスクス笑っている。
なんとなくバツの悪い思いをしながら、勇者の手元を覗き込んだ。
紙には勇者の署名があり、それを魔宝石に翳している。
署名の部分が薄い炎を発するように揺らぎ、消失すると、魔宝石に勇者の紋章の一部が浮かんだ。
「なんだかすごいな」
「攻守共に効果は限定的なんだ。だが、意識侵食系統の魔法にはかなり効果が高い」
「あー、例の、嘘がつけなくなる魔法とかを、防げるってことか」
「あ、そうですね。そういう風にも使えます」
聖女は、その使い方は想定外だったのか、少し驚いたように言った。
しかしなるほどな。
むやみやたらに勇者の署名は残せない理由はこういうことか。
きっと他にも使いようによっては便利な効果があるんだろうな。
俺がじっと眺めていると、勇者がそのなかの一枚を差し出して来る。
「師匠が欲しいならやるぞ」
「いらん!」
「そんなきっぱり拒絶しなくても……」
勇者はちょっと落ち込んだようだ。
面倒事の臭いしかしないんだよ。
そんな風に準備を整えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ホルスです」
「ああ、だいぶ早かったな」
そう言いつつ、扉を開けると、そこには何人かの使用人と思しき者がいて、大きな箱を抱えていた。
「ご歓談中すみません。荷物を運び入れたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだお前」
勇者がすかさずガンをつける。
どこぞの不良か?
「アルフ。彼がさっき言っていた、カーン……じゃなかった、領主さまがつけてくださった交渉担当者だ」
「ホルスと申します。何でもお申しつけください」
ホルスは、室内の全員に丁寧に礼をした。
「あ、そうだ。荷物だったな。それはなんだ?」
「こっそり外に出たいとおっしゃられたので、そのためのものです」
ニコニコと笑いながら、ホルスはそう、さらりと言ったのだった。
部屋では、聖女と勇者が、真剣な顔で何やら紙を並べている。
「今戻った。ミュリア、ちょっと確認したいことがあるんだが、今いいか?」
「あ、はい。大丈夫です」
聖女はにっこりと笑って立ち上がると、こちらへとやって来る。
勇者は尚も紙をいじっているようだ。
「さっきカーンの奴が、俺達の担当として外部との交渉役をつけてくれたんだが、そいつと、教会訪問の話をしたんだ。それで、ミュリアの言っていた、祝福の四種? か、それが普通に一般の教会に置いてあるようなものなのかということを聞かれた。どうなんだ?」
「祝福されし四種です。この聖具は、魔物による災害が起こる可能性が高い場所の教会に下賜されるものなので、こちらの迷宮都市にはあると思います」
「なるほど。そういうものか」
そういうものなら、確かに迷宮都市の教会にはあるだろう。
何しろ、街の内側に魔物を抱えているようなもんだからな。
聖女はニコニコ笑いながらうなずいている。
「ところで、あれは何をやっているんだ?」
先ほどから気になっていたので、勇者が紙を広げているのを指し示して聞いてみた。
聖女は振り向きながら「ああ」と言い。
「あれは、勇者さまの祝福を、仮初に付与するための準備です」
「勇者の祝福?」
「はい。以前、勇者さまの署名は大きな力を持つと申しましたが、勇者として祝福された者の名には、その祝福がこもっています。つまり、署名だけでも、わずかなりと、勇者さまの加護を得られるということです。普通の魔物相手なら、特に必要はないのですが、実態のない魔物の場合には、憑依の不安がありますから、皆様の装備に勇者さまの祝福を付与して、憑依を防ごうということになりました」
「憑依!」
俺はゾッと、全身が総毛立つような寒気に襲われた。
魔物に憑依されるということを、恐ろしいと思ったのだ。
だが、ふいに、フォルテとの融合の感覚を思い出し、あれも憑依みたいなもんじゃないのか? と、思ってしまった。
「ど、どうなされたのですか? 頭をお抱えになられて」
「いや、なんでもない」
なんとなく、頭上でスヤスヤ寝ているフォルテを指で弾く。
「ピャッ!」
「どうした? まだ寝てていいぞ」
「ギャッギャッギャッ!」
「なんか悪い夢でも見たんだろ?」
フォルテが何か怖いものが自分に噛みついたとか騒いだので、なだめてやる。
実際誰も噛みついてないからな。
「ダスター。フォルテをいじめて……」
メルリルがため息をついた。
「いじめてないぞ」
「クッ? ピャッピャ?」
「だから気にせずに寝てろ」
仕方ないだろ。
憑依というものを考えたら、なんだか嫌な気分になっちまったんだから。
いや、お前が俺の一部であるということはなんとなくわかるんだが、ほら、傍から見たら似たようなもんじゃないか。
「コホン。ええっと、そうそう、勇者の祝福の付与だったな」
「ダスターは、ときどき子どもっぽいことをします」
「あー、わかった。謝る。フォルテ、悪かったな」
「クルル……ピピッ……クルル……」
「あ、人が謝っているのに寝やがった」
メルリルが俺達の様子を見てクスクス笑っている。
なんとなくバツの悪い思いをしながら、勇者の手元を覗き込んだ。
紙には勇者の署名があり、それを魔宝石に翳している。
署名の部分が薄い炎を発するように揺らぎ、消失すると、魔宝石に勇者の紋章の一部が浮かんだ。
「なんだかすごいな」
「攻守共に効果は限定的なんだ。だが、意識侵食系統の魔法にはかなり効果が高い」
「あー、例の、嘘がつけなくなる魔法とかを、防げるってことか」
「あ、そうですね。そういう風にも使えます」
聖女は、その使い方は想定外だったのか、少し驚いたように言った。
しかしなるほどな。
むやみやたらに勇者の署名は残せない理由はこういうことか。
きっと他にも使いようによっては便利な効果があるんだろうな。
俺がじっと眺めていると、勇者がそのなかの一枚を差し出して来る。
「師匠が欲しいならやるぞ」
「いらん!」
「そんなきっぱり拒絶しなくても……」
勇者はちょっと落ち込んだようだ。
面倒事の臭いしかしないんだよ。
そんな風に準備を整えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ホルスです」
「ああ、だいぶ早かったな」
そう言いつつ、扉を開けると、そこには何人かの使用人と思しき者がいて、大きな箱を抱えていた。
「ご歓談中すみません。荷物を運び入れたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだお前」
勇者がすかさずガンをつける。
どこぞの不良か?
「アルフ。彼がさっき言っていた、カーン……じゃなかった、領主さまがつけてくださった交渉担当者だ」
「ホルスと申します。何でもお申しつけください」
ホルスは、室内の全員に丁寧に礼をした。
「あ、そうだ。荷物だったな。それはなんだ?」
「こっそり外に出たいとおっしゃられたので、そのためのものです」
ニコニコと笑いながら、ホルスはそう、さらりと言ったのだった。
11
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。