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第七章 幻の都
711 深部探索への布石
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メイサーから聞き取りをしたところ、どうやらメイサー達の砦には、価値がわからなかった遺物や、表に出すと問題がありそうな素材などが保管してあったらしい。
それと、メイサー自身はあまり深部に潜ることに興味はなかったが、冒険心の旺盛な仲間もいて、その連中なら何か知っているかも? という話だった。
「じゃあ、まずはその深部に詳しい奴等と話をしよう。その後、砦に戻ってお宝を探るか」
「あー、いや、その貯め込んでいたお宝なら、うちの連中が引き揚げた」
計画を話していると、カーンが申し訳なさそうに言った。
「ちょっと、どういうことさ!」
メイサーが怒っている。
「メイサー、察してやれよ。ガサ入れしたんだから、証拠品として押収したんだろ」
と、俺が説明してやると「信じらんない! 探索者の財産に手をつける奴は呪われるんだよ! だから貴族ってのは!」などと暴言を吐き散らし始めたので、慌ててカーンがなだめた。
「調べるだけだから、盗ったりしない」
「うそっ! あんただって、昔は言ってたじゃない! お上なんか信用出来ないって!」
うわぁ、痴話喧嘩が始まった。
「師匠。あの連中に見つかるような剣なら、もうとっくに見つかっているだろ。それが全然見つかってないんだから、本当は存在しないか、そこに行けない理由があるんじゃないか?」
勇者がなかなか鋭い指摘をした。
「ふむ、質問の方向性を変えてみるか」
俺は仲良く口喧嘩をしているメイサーとカーンを見た。
邪魔するのは野暮な感じだ。
「飯も食ったし、メイサーの仲間達と話をしてみるか」
「あ、はい! リクスにも会いたいです」
俺が言うと、聖女がうれしそうにぴょこんと立ち上がった。
「あー、えーっと、リクスは屋敷だったか、救護所だったか……まぁいいか。順番に聞いて回ろう。おい、二人共、ちょっと出て来るから、爺さんにあんまり迷惑かけるなよ」
「は? 誰にもの言ってんだ? ガキが!」
「ちょっと、カーン。あたしを放っておいてダスターと楽しくおしゃべり? いい度胸ね」
「いや、そういう訳じゃなくってだな……」
よし、一応声はかけたから大丈夫だろう。
逃げ出すという考えはなくなったみたいだし、安心だ。
俺は仲間達と一緒に部屋を後にした。
この街を仕切る魔獣公の家令となった、酒場のおっちゃんがにこやかに見送ってくれるなか、教えてもらった保護された人達のいる場所へと向かう。
どうやら保護したメイサーの仲間の半分ぐらいは、この屋敷の大食堂で寝泊まりさせているようだ。
普通、食堂と言ったら、十人ぐらいで囲むテーブルがあったりするもんだと思うんだが、ここの大食堂は、貴族のパーティに使うような場所なので、そんな規模じゃない。
いわゆる大広間ってやつだな。
「よう、邪魔するぞ」
入り口には、保護した人の要望を聞くための世話係がいて、外からの接触は全部断っているらしいのだが、カーンが俺達の行動については決して妨げないようにと通達していたので、もめることもなくすんなり通れた。
まぁ通達がなくっても、勇者の権限でどうにでもなるんだが、変にこじれると嫌だし、すんなりいってよかった。
「失礼するよ」
部屋のなかは仕切りを巧みに使って、細かく部屋割りがされていた。
屋敷のほうにいるのは、治療の必要ない連中ということで、元気を持て余している奴等が多い。
なんと部屋の一画では格闘訓練が始まっていた。
「ひぃっ! 勇者殿っ!」
俺と共に姿を見せた勇者を見るなり、男達の多くが頭を抱えて床に這いつくばり、ガタガタ震え出した。
「お前、やり過ぎただろ?」
「あいつらが臆病なだけだ! その証拠にピンピンしてるだろ!」
俺が勇者を責めると、いかにも心外なといった風に勇者が反論した。
確かに、真っ青になって震えているが、元気そうではある。
ただし、心はぽっきりと折れているな、これは。
「すまない。ちょっと迷宮のことで尋ねたいことがあって来たんだ。このなかで、一番迷宮深部に詳しい者は誰だ?」
男達は顔を見合わせたが、名乗り出る者はいない。
仕方がないので個別に話を聞くか、と思ったときに、見覚えがある一人が走り寄って来た。
メイサーの仲間のうちではかなり若手の、青年だ。
確か、イムクと言ったか。
「ダスターさん!」
なんだかいい笑顔だ。
「あの、あのときは頭が真っ白で、お礼を言い忘れて。……助けていただいて、ありがとうございました!」
「うん?」
何のことだ?
俺のよくわかってない顔に気づいたのだろう。
イムク青年は少し不安気な様子で説明した。
「あ、あの、死体喰いが……」
「ああ。あれか。礼を言われるようなことじゃないだろ。まぁ生き延びて、知識が増えた。よかったなって話だ」
「は、はい!」
なんでこいつ、兵士みたいに直立不動になってるんだ?
「何か、迷宮のことで知りたいとか」
「ああ。お前が詳しいのか?」
とてもそうは思えないが、一応聞いてみた。
「いえっ、俺は詳しくありません! しかし、詳しい人を知っています!」
「声がデカい」
「はっ! 申し訳ありません!」
こいつ、元は軍隊とかにいたのか? いちいち大げさだな。
「じゃあ詳しい人と話したいんだが、大丈夫か?」
「あ、はい! モクさん!」
元気に駆け出して行ったイムクが連れて来たのは、以前、メイサーの隣にぴたりと付いていた男だった。
いかにも探索者らしい、用心深い目つきの男だ。
歳は俺とそう変わらないか? ちょっと歳上っぽいな。
「……」
モクというその男は、イムクに連れられてやって来ると、ムッとしたような顔のまま、無言で俺達をざっと見渡した。
そして、口を開く。
「迷宮の深部について聞きたいんだって? いくら払う?」
「モクさん!」
イムクが責めるように叫ぶが、俺は気にせずに交渉に応じた。
「有益な答えなら、大金貨を出せる」
「うへっ!」
モクの背後にいたイムクが変な声を出した。
一方、モクは、ジロジロと俺の顔を見て、吐き捨てるように言った。
「そんな金持ちに見えねえ」
「当たり前だ。勇者さまが払う」
「ほう。なるほど。それなら納得だ」
「商談成立だな」
「ああ」
俺とモクは握手を交わした。
「は? へ?」
モクの背後では、イムクが変な踊りを踊っていた。
こいつ何がしたいんだろう?
それと、メイサー自身はあまり深部に潜ることに興味はなかったが、冒険心の旺盛な仲間もいて、その連中なら何か知っているかも? という話だった。
「じゃあ、まずはその深部に詳しい奴等と話をしよう。その後、砦に戻ってお宝を探るか」
「あー、いや、その貯め込んでいたお宝なら、うちの連中が引き揚げた」
計画を話していると、カーンが申し訳なさそうに言った。
「ちょっと、どういうことさ!」
メイサーが怒っている。
「メイサー、察してやれよ。ガサ入れしたんだから、証拠品として押収したんだろ」
と、俺が説明してやると「信じらんない! 探索者の財産に手をつける奴は呪われるんだよ! だから貴族ってのは!」などと暴言を吐き散らし始めたので、慌ててカーンがなだめた。
「調べるだけだから、盗ったりしない」
「うそっ! あんただって、昔は言ってたじゃない! お上なんか信用出来ないって!」
うわぁ、痴話喧嘩が始まった。
「師匠。あの連中に見つかるような剣なら、もうとっくに見つかっているだろ。それが全然見つかってないんだから、本当は存在しないか、そこに行けない理由があるんじゃないか?」
勇者がなかなか鋭い指摘をした。
「ふむ、質問の方向性を変えてみるか」
俺は仲良く口喧嘩をしているメイサーとカーンを見た。
邪魔するのは野暮な感じだ。
「飯も食ったし、メイサーの仲間達と話をしてみるか」
「あ、はい! リクスにも会いたいです」
俺が言うと、聖女がうれしそうにぴょこんと立ち上がった。
「あー、えーっと、リクスは屋敷だったか、救護所だったか……まぁいいか。順番に聞いて回ろう。おい、二人共、ちょっと出て来るから、爺さんにあんまり迷惑かけるなよ」
「は? 誰にもの言ってんだ? ガキが!」
「ちょっと、カーン。あたしを放っておいてダスターと楽しくおしゃべり? いい度胸ね」
「いや、そういう訳じゃなくってだな……」
よし、一応声はかけたから大丈夫だろう。
逃げ出すという考えはなくなったみたいだし、安心だ。
俺は仲間達と一緒に部屋を後にした。
この街を仕切る魔獣公の家令となった、酒場のおっちゃんがにこやかに見送ってくれるなか、教えてもらった保護された人達のいる場所へと向かう。
どうやら保護したメイサーの仲間の半分ぐらいは、この屋敷の大食堂で寝泊まりさせているようだ。
普通、食堂と言ったら、十人ぐらいで囲むテーブルがあったりするもんだと思うんだが、ここの大食堂は、貴族のパーティに使うような場所なので、そんな規模じゃない。
いわゆる大広間ってやつだな。
「よう、邪魔するぞ」
入り口には、保護した人の要望を聞くための世話係がいて、外からの接触は全部断っているらしいのだが、カーンが俺達の行動については決して妨げないようにと通達していたので、もめることもなくすんなり通れた。
まぁ通達がなくっても、勇者の権限でどうにでもなるんだが、変にこじれると嫌だし、すんなりいってよかった。
「失礼するよ」
部屋のなかは仕切りを巧みに使って、細かく部屋割りがされていた。
屋敷のほうにいるのは、治療の必要ない連中ということで、元気を持て余している奴等が多い。
なんと部屋の一画では格闘訓練が始まっていた。
「ひぃっ! 勇者殿っ!」
俺と共に姿を見せた勇者を見るなり、男達の多くが頭を抱えて床に這いつくばり、ガタガタ震え出した。
「お前、やり過ぎただろ?」
「あいつらが臆病なだけだ! その証拠にピンピンしてるだろ!」
俺が勇者を責めると、いかにも心外なといった風に勇者が反論した。
確かに、真っ青になって震えているが、元気そうではある。
ただし、心はぽっきりと折れているな、これは。
「すまない。ちょっと迷宮のことで尋ねたいことがあって来たんだ。このなかで、一番迷宮深部に詳しい者は誰だ?」
男達は顔を見合わせたが、名乗り出る者はいない。
仕方がないので個別に話を聞くか、と思ったときに、見覚えがある一人が走り寄って来た。
メイサーの仲間のうちではかなり若手の、青年だ。
確か、イムクと言ったか。
「ダスターさん!」
なんだかいい笑顔だ。
「あの、あのときは頭が真っ白で、お礼を言い忘れて。……助けていただいて、ありがとうございました!」
「うん?」
何のことだ?
俺のよくわかってない顔に気づいたのだろう。
イムク青年は少し不安気な様子で説明した。
「あ、あの、死体喰いが……」
「ああ。あれか。礼を言われるようなことじゃないだろ。まぁ生き延びて、知識が増えた。よかったなって話だ」
「は、はい!」
なんでこいつ、兵士みたいに直立不動になってるんだ?
「何か、迷宮のことで知りたいとか」
「ああ。お前が詳しいのか?」
とてもそうは思えないが、一応聞いてみた。
「いえっ、俺は詳しくありません! しかし、詳しい人を知っています!」
「声がデカい」
「はっ! 申し訳ありません!」
こいつ、元は軍隊とかにいたのか? いちいち大げさだな。
「じゃあ詳しい人と話したいんだが、大丈夫か?」
「あ、はい! モクさん!」
元気に駆け出して行ったイムクが連れて来たのは、以前、メイサーの隣にぴたりと付いていた男だった。
いかにも探索者らしい、用心深い目つきの男だ。
歳は俺とそう変わらないか? ちょっと歳上っぽいな。
「……」
モクというその男は、イムクに連れられてやって来ると、ムッとしたような顔のまま、無言で俺達をざっと見渡した。
そして、口を開く。
「迷宮の深部について聞きたいんだって? いくら払う?」
「モクさん!」
イムクが責めるように叫ぶが、俺は気にせずに交渉に応じた。
「有益な答えなら、大金貨を出せる」
「うへっ!」
モクの背後にいたイムクが変な声を出した。
一方、モクは、ジロジロと俺の顔を見て、吐き捨てるように言った。
「そんな金持ちに見えねえ」
「当たり前だ。勇者さまが払う」
「ほう。なるほど。それなら納得だ」
「商談成立だな」
「ああ」
俺とモクは握手を交わした。
「は? へ?」
モクの背後では、イムクが変な踊りを踊っていた。
こいつ何がしたいんだろう?
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