勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

705 生と死と

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 裏方を制圧していたのは、五人ほど。
 一人は、モンクが再起不能状態にして、一人は俺が気絶……させた。
 死んでたらスマン。

 残り三人のうち、一人は、お宝がないかを探っていたのだろう。
 完全にこっちに背を向けて、倉庫を覗き込んでいる。
 そして一人は、老人を殴りつつ縛り上げる途中で、もう一人は、小さな子どもの腕を掴んで、引っ張っている途中だった。

 まずは、モンクが、身体をひねり、子どもを掴んでいる男を、一瞬で落とした。
 あまりの素早さに、やられた男は、悲鳴も上げなかった。
 きっとやられたことすらわからなかっただろう。

 俺は、モンクが子どものほうへと身体を返すのを見て、もう一人、老人を殴っている男に向かった。
 モンクほど素早くないので、すぐに相手に気づかれ、身構えられる。
 そこで、フェイントを使う。
 思いっきり振り切った片腕に相手が対応している間に、足元に滑り込み、バランスを崩させて、老人から引き離し、そのまま両脚を巻き付けて転がす。
 回転が止まる前に、肘でみぞおちとこめかみを思いっきり殴った。
 この攻撃で、息が止まり、めまいを起こした相手の首を締め上げる。
 相手の力が抜けきるまで、そう時間はかからなかったが、その間に、モンクは倉庫にいた男まで倒してしまっていた。

 やはり戦闘能力では、勇者のパーティメンバーは、ずば抜けている。
 得物を持たないモンクの、なめらかで隙のない動きは、もし俺が敵対したら、とてもかなわないだろう。
 というか、パーティメンバーの誰一人として、まともに戦って勝てる気がしねえ。

「ダスター、こいつら縛っちゃっていい?」
「もちろん、縛るぞ。後ろ手に、こう、親指をまとめるようにして縛ると、抜け出せないぞ」
「わー、ダスター師匠、さすが器用ダネ。ええっと、……任せていいかな?」

 見ると、モンクが縛ったロープは緩みがあって、簡単に抜け出せそうだった。
 少なくとも俺なら抜け出せる。

「……わかった俺が縛っておく。テスタは、みんなをミュリアのところに連れて行ってやってくれ。……それにしても、こんな小さな子どもがいたんだな」

 改めて見ると、老人と、身体の不自由な者のほかに二人ほど子どもがいて、一人は、まだ物心ついたかどうかぐらい、もう一人はまだ赤ん坊と言ってもいいぐらいの歳だった。
 さきほど逃げ込んで来た、子連れの女性が連れていた子どもも、二、三歳ぐらいだったな。

「ここで産まれた子達なんです。みんなの子どもみたいなもんで、ああ……助けてくださってありがとうございました」

 年寄りの一人が頭をこすりつけて礼を言った。
 後で知ったことだが、滅多斬りにされて死んでいた老人と、年配の女性がいたが、二人共、その子ども達を庇った挙句のことだったらしい。
 二人が子どもを抱え込んで死んでも離さなかったので、襲撃者が子どもを盾に尋問を開始するのが遅れたのだ。

 テスタがケガ人を抱えつつ、裏方の人達を先導するのを見届け、俺はここは放置して、勇者のほうへと移動した。
 あっちは多少勇者が暴走したとしても問題はないが、敵味方入り乱れているだけに、味方の損耗が心配だったのだ。

 俺が到着したとき、ヤサのなかで、もっとも広い、住居用の遺跡であり、広場でもあるその場所で、新たな展開が発生していた。

「こりゃあ、いったいどういうことだい?」
「面倒だからまとめてやった」
「っ! てめぇ! よくも仲間を!」

 広場で戦闘を行っていた敵味方全員が、奇妙な痙攣を伴いつつ昏倒していて、そこにメイサー達が戻って来たらしい。
 勇者と揉めていた。
 俺は慌てて、メイサー達に呼びかける。

「やめろ! 誰も死んでない! ……はずだ」

 断言する自信がないのは、勇者への信頼が足りないからかもしれない。
 メイサーと仲間達は俺の言葉に振り向き、沈黙した末に、勇者を見た。
 まだ、険悪なムードは抜けてない。

「死んでないよな?」

 俺は勇者に念を押した。

「もちろんだ。天罰魔法は、その人間の罪によって痛みが変わる。悪人は死ぬかもしれんが、よほどの悪人でなければ死にはしない」

 その説明、不安でしかないんだが、メイサーの仲間達が悪人ではないと言い切れないところがあるからな。

「……そうかい。みんなを助けてくれたんだね。ありがとう。礼を言うよ」

 だが、メイサーはそれで納得してくれたようだ。
 勇者と俺に頭を下げて、仲間に指示を出す。

「襲撃して来た連中を縛り上げて、仲間を介抱してやるんだ。急ぎな!」
「へい! あねさん!」

 メイサーが言葉を発すると、もうその仲間達には疑問がない。
 彼女への深い信頼が伝わった。

「ほかの……連中は? みんな、死んだのかい?」

 覚悟が感じられる言葉だった。
 メイサーは幸運を信じない。
 昔からそうだった。

「何人かは助けられなかった。だが、ほとんどは、ミュリアが、……聖女さまが癒しの力を施している。大丈夫だ」
「そう、なんだ」
「子どもは、誰も死んでない。ここのみんなが守ったからな」

 俺の言葉に、メイサーはハッとしたように俺を見る。

「……ありがとう」
「俺達に見せなかったのも警戒してのことか」
「ここの弱点だからね。余所者に会わせるわけにはいかないよ。勇者さまに会いたいってぐずる子がいて、なかなか苦労したんだよ」

 冗談めかして言った。
 ちょっとだけ、いつもよりも雰囲気がやわらかい。

「ここで産まれたはいいけど、母親が死んじまった子もいるんだ。ここでの出産は、かなり厳しいからね。もともと、身体の具合がよくない母親もいたし。だから、みんなが親みたいなもんなんだよ」
「そうか」

 こんな場所にも、希望は生まれるということか。
 命というものは、不思議だな。

 ふと、気配を感じて、俺は剣を構え、メイサーはエストックを抜き放つ。
 この広場に続く通路から、誰かが用心しつつこちらに近づいていた。

「全員武器を置け! 非道な行いは我が名において一切許さない! 我が名はホーリーカーン・ホバフ・グエンサム。領主である!」
「……ヒッ」

 メイサーが、引きつったように息を吸い込む音を聞いた。
 そして、姿を現したカーンが、こちらを見て硬直する姿も。

「……メイサー?」

 信じられないという顔が、徐々に喜びに彩られて行く。
 だがそれは、敵地とも言える場所では、許されない油断だった。
 カーンの背後、迷宮の闇の奥から、空気を斬り裂いて何かが飛来するのが見えた。

「カーン!」

 間に合わない。
 そう思ったとき、メイサーが動いた。
 体ごと、ぶつかるように飛びかかったメイサーを、カーンは無抵抗に受け止め、そして二人の体勢が入れ替わる。
 俺は、肉を貫く鈍い音をただ聞いていた。
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