勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

690 迷宮に住む人々2

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 それにしてもと、俺は思う。
 ここの毒抜き方法はかなり雑だ。
 だが、それも当然かもしれない。
 手間のかかる方法は量を確保するのが難しいのだ。
 人数が多いのなら、一挙にある程度の量を確保したいだろう。
 たとえそれで肉の旨味が失われて、味がスカスカになったとしても、食えればいいのだ。

「なぁ、この毒出しした後の汁はどうしてるんだ?」
「ああ、それは、乾燥させて魔物寄せに使ってるんだよ」
「ほう、無駄がないな」
「こんな場所で無駄なんか出してたら大変だよ」
「確かにな」

 肉に含まれている魔力を、水に溶かされた灰が吸い、それを乾燥させて魔物を寄せる。
 無駄なく使える工夫だ。
 やはり味よりも利便性が優先なのだろう。

「美味いのか?」

 勇者が興味深そうに尋ねる。

「うふふ、味のことは考えないほうがいいよ。脂が抜けてね、スッカスカ。肉はよく乾燥させるから噛み応えはあるよ」
「うぬう。こんな場所で食べる楽しみもないのは辛くないか?」
「辛い辛くないなんて言ってられないのよ。あたし達は、もうここ以外に住めるところなんてないんだから」
「いや、たとえそうでも、楽しみを探そうとするのは大事だぞ。味気ない食事は精神を壊す。その点うちの師匠は、どんな環境だろうと、美味いものを食わせてくれるぞ」

 勇者が変な自慢を始めた。
 やめろ。
 いくらなんでも迷宮のなかで美味い飯は無理だ。

「そ、そうなんですか!」

 うっ、リクスがキラキラとした目で俺を見る。

「実は私、ここでいただいたご飯、とても美味しいと思ったんです。でも、これが貧しく感じられるほど、美味しいものを作れるなんて、お師匠さんは凄いですね」
「……俺は料理人でもなんでもないからな。勇者の言葉は買いかぶりだ。アルフ、妙な期待を持たせるな。無理だとわかったときにがっかりするだろうが」
「いや、師匠なら大丈夫だ」

 お前の俺に対する謎の信頼はなんなんだよ。

「ふふふ。お師匠さまは勇者さまにとても信頼されているのねぇ。いいことだわ。信頼出来る相手がいるということはね、人生で最も素晴らしいことよ」
「おお、いいことを言う。さすが人生経験が豊富なだけあるな」
「お前、失礼だぞ」
「ほほほ、いいのよ。勇者さまには邪気がないから、変なおべっかよりも心地いいわ。そうね。あたしの一存じゃ無理だけど。ドッロさんに、お師匠さんに何か作ってもらっていいか聞いてみるよ」
「いやいや」
「ほら、勇者さまや聖女さま達は、ここの食事を口にしたらお腹を壊すかもしれないでしょ? 手伝わなくてもいいから、何を使っているかは見ておいたほうがいいんじゃないかい?」

 白婆と呼ばれる老女の言葉は確かにもっともなことだった。
 迷宮内の独自の食料だ。
 なかには毒出しがいい加減なものだってあるだろう。
 ずっとここに住んでいる者は、身体が慣れているかもしれないが、勇者たちには厳しい場合もある。

「あたしからドッロさんに言っておくから、後で作業場にでも顔を出してみるといいよ」
「わかった」

 なんとなく押し切られてしまった。
 勇者は、俺が料理をすると思い込んで、なにやら期待している。
 いや、勇者だけじゃない、一番期待しているのはリクスかもしれない。

「俺は料理は作らないぞ? あくまでも食べていいものかどうかチェックするだけだ」
「おう、楽しみにしているぞ!」
「いや、だから……」

 だめだ。
 勇者は思い込んだら言うことを聞かない。
 まぁいい。実際に料理は作らないのだから、そのときがっかりしても俺は知らんからな。
 リクスは、ここの食べ物でも、奴隷時代の食事よりはマシなのだろう。
 以前奴隷用の食事を見たことがあったが、酷いものだった。
 腐って売り物にならなくなった食材を、まとめて煮込んでスープにしたものを食わせていたのだ。
 うちのギルドに奴隷を使う奴はいなかったから、初めてそのことを知ったときには衝撃を受けたものだ。
 もちろん調味料などは使っていない。
 カビた臭い、腐った酸っぱい味、それが調味料代わりなのだ。

 聖女と何か楽しそうに話し合いながら、チラチラと俺を見るリクスの目のキラキラが治まらない。
 聖女は聖女で、何か大げさな話をしているんじゃないか?
 だが……。
 
「本当に美味いものなんて、食ったことがないんだろうな……」
「ダスター、何か言った?」

 ついボソリとこぼしてしまった呟きを、メルリルが聞きとがめて問い返す。

「いや、なんでもない」

 いかんな。
 俺はリクスに責任を持てない。
 それなのに、妙な同情を感じるのは傲慢でしかない。
 もし同情をするのなら、なんとかして、普通の生活をさせてやるべきだろう。
 だが、そんなことは無理だ。

 迷宮脱出を耐えきったとしても、リクスには外での生活手段がない。
 俺達に依存しきった人生を与えることは出来るかもしれない。
 だがそれは、彼女を迷宮に捨てた冒険者と何が違うんだ?
 リクスが自分自身で人生を選べるまで責任を持つことは、俺に出来はしない。
 それは無理だとはっきりと断言出来る。
 彼女にとって、自分で何かを選ぶという生き方は未知のものなのだ。
 今からそれを学ぶのにどれほどの時間が必要か。

「ダスター、また、何か一人で考えてる」
「ピャッ!」

 メルリルが背中をつつき、フォルテが頭を蹴っ飛ばした。

「フォルテ、お前、やりすぎだろうが!」
「わぁ! びっくりした。それ、何? 生きてるの? すごくおしゃれな被りものだと思ってた」

 俺がフォルテをとっ捕まえて振り回していたら、リクスが驚いてそう言った。
 
「師匠はしゃれ者だからな。そう思っても仕方ない」
「お師匠さまは、時代を先取りした服装を好まれるのですわ」
「いや、お前達、俺をそんな目で見てたのかよ」

 フォルテのせいで、知りたくない事実を知ってしまった。

「ギャーギャー!」

 頭にきたので、思いっきりシェイクしてやったら、フォルテが大騒ぎをして、無駄にひと目を集めてしまった。
 ええっと、ここは貯水場かな?
 なかなか立派な水くみ場があるな。
 洗濯もここでしているのか。

 俺は素知らぬ風を装って、周囲を見回したのだった。
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