勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
575 / 885
第七章 幻の都

680 遭遇不戦

しおりを挟む
 壁を壊すにしても壊し方がある。
 いきなり壁全体を壊してしまうと、崩落が起きる危険があるのだ。
 ここが地下深くであることは、決して忘れてはいけない。
 俺がくり抜くような形で切断出来ればいいんだが、あいにく、そんな器用な技ではないしな。
 そういうところは、昔の愛剣であった「断ち切り」のほうが使い勝手がよかったかもしれない。
 断ち切りを使った断絶の剣は、狭い範囲を浅く断ち切るだけだった。
 実は戦いよりも、こういう作業に向いていたのだ。

 しかし、現在使っている星降りの剣は、よくもわるくもドラゴンの素材で作られた剣だ。
 切れ味がよすぎる上に、俺の使う魔技である断絶の剣も、切るか結ぶかしか出来ない。
 戦うにおいては相性がいいのだが、作業には全く向かなかった。

「うーん」

 俺が悩んでいると、勇者がひょいと剣を抜こうとした。

「待て待て、何をする気だ?」
「え? だってこの壁を壊す必要があるんだろう? なら俺が壊せば早いかと」
「だからお前はうかつなことをするなと言っただろうが。お前がその剣で斬ったら、間違いなく崩落が起きるぞ」
「いや、師匠、そういうことはやってみないとわからない」
「やって失敗したら全員死ぬんだぞ? 死にたいなら一人でやれ!」
「まーまー、二人共」

 俺が勇者に噛みついていると、モンクが仲裁に入った。

「ここは私が……」

 言うが早いか、モンクはいきなり拳を繰り出した。
 ドゴン! と、重い音が響く。
 何かの小さな魔物が穿ったであろう穴を中心に、パシッ、ピシッと嫌な音を立てながらヒビが広がり出した。
 その穴に潜り込もうとしていた、カニの魔物が慌てて逃げ出す。
 三角帽子も、何か命の危機を感じたらしく、のそのそと逃げようとしていたが、諦めたのか、殻のなかに逃げ込んだ。

「全員離れろ!」

 俺達が離れると同時に、モンクが拳を打ち付けた場所から、壁がボコりと崩れ、それが連鎖するように周囲にひろがり、天井の一部と共に、崩れ落ちる。

「ゲホッ、大丈夫か?」
「ゴホッ、うん、私は大丈夫」

 メルリルは無事のようだ。

「聖女さまと私も無事です」

 聖騎士が報告する。

「あれ? なんであんなに崩れるの?」
「テスタはちょっと考えが足りないんじゃないか?」

 モンクと勇者も無事そうだ。

「ピャッ! ジーッチチチ!」
「きゃあ!」

 どうやら突然のことに眠りを妨げられたらしいフォルテが、モンクを襲っている。
 いいぞ、髪の数本引き抜いてしまえ。

「フガ……」『僕は寝て……ないから……ね……グー』
「お前の報告はいらん。心配もしてない」

 若葉が寝ぼけながら謎の報告をして来たので、流す。

「ふう……」

 洞窟の壁の崩壊は、幸い最小限度に収まったようだった。
 がれきと土砂で、せっかく開いた穴の半分以上が埋まってしまっているが、まぁ結果オーライかな。

「だが、それはそれとして、アルフとテスタはその場で両手を上にあげて、膝の屈伸を百回やっとけ」
「えっ! なんで俺まで?」「ダスター、おーぼーだ! それとフォルテをどうにかして!」
「いいから鍛錬だと思ってやれ! フォルテは二人の応援でもしてろ」

 三人(フォルテも含む)は、文句を言いながらも、その場で膝の屈伸と応援を始めた。
 むろんフォルテはただうるさく鳴きながら二人の間を飛び回っているだけだ。
 気が散る分、うざったいだけだろうな。
 これで少しの間だが、余計なことはしないだろう。

 俺は用心しながら崩れた場所を探った。
 崩れたばかりのところから、さらなる崩落が始まる場合がある。
 様子がわからない内に新たな衝撃を与える訳にはいかないのだ。

「な、なんだ!」
「待て、うかつに近づくな! 魔物かもしれんぞ!」

 崩落した壁の向こうから人の声が聞こえて来た。
 片方が男、片方が女だ。
 
 ん? この声、どこかで聞いた覚えが?
 首をひねりつつも、こっちからも声を出す。
 魔物と思われていきなり攻撃をしかけられても大変だ。

「すまん。うちの奴が壁を崩しちまった。そっちに被害はないか?」
「はぁ? 迷宮の壁を崩壊させたのが人間の力だと? 冗談抜かすな」

 苛立ったような男の声が返って来る。
 信じられないのはわかる。
 迷宮の壁は魔力がこもっているから、びっくりするぐらい頑丈なんだよな。
 だけど、こっちの一行は、ちょっと常識から外れてるから、仕方ない。

「嘘じゃない。こっちは勇者さまが率いるパーティで、魔法が使える奴が多いんだ」
「勇者!」「勇者だとっ?」

 向こう側の相手が息を呑むのがわかった。
 崩落したがれきや土砂の山越しなので、相手の顔が見えず、何を考えているのかは掴めない。
 俺はふと、相手が探索者ではないかもしれない、という可能性に気づいた。
 迷宮の深層をねじろにしている賊もいるという話だったはず。

「勇者さまは平和主義者だが、攻撃を受けたら反撃ぐらいはするぞ? ちなみに壁を崩したのは、勇者のお付きの一人だ」
「嘘だろ。人間技で崩れるようなモロい壁じゃねえぞ」
「しかし、予兆はなかった。嘘の気配はない」
「あねさんはそうおっしゃいますが、嘘つきほど殊勝な態度をとりますからね」

 もう一人、別の声が聞こえた。
 これで少なくとも三人以上いるということになる。

「あー、ともかくそっちへ行きたいんだが、いいか?」
「わかった。ただ、こちらもそれなりに備えている。誤解のないように言っておくが、別に戦うつもりだからじゃない。自衛のためだ」

 三人のなかでは、女性の声が一番冷静だ。
 ……しかし、やっぱりこの声、覚えがあるぞ。
 そう思いつつも、今はそんなことにかまけている場合ではない。
 
「アルフ! 殺気を出すな! ああやって言って来るということは、話の通じる相手だ。最初から敵対するような態度は控えろ」

 どうやらさっさと百回の屈伸を終えたらしい勇者とモンクが、少し殺気立ちながら近づいて来たので、警告をする。

「でも、友好的じゃないよな?」
「ミュリアに危険が及ぶことは看過出来ない」
「だ・か・ら、迷宮の壁が突然くずれりゃあ、相手だって仰天するし、どんな化け物が現れるか怖えんだよ。そういう危険要素を無防備に迎える訳にはいかねえだろうが。少しは察してやれ」
「うぬう」
「むうっ……わかった。今回は私が悪かったし、少し牽制する程度に留めておこう」
「お前等の言う妥協って、全然妥協してないよな? まぁいい。いきなり殺気を飛ばしたり、睨みつけたりしないと約束しろ」
「約束する」
「ここはダスターの顔を立ててあげるよ」

 ふう、好戦的な勇者とモンクの放つ殺気を抑えることに成功したぞ。
 誰か俺を褒めて欲しい。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。