勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

678 花冠の魔物

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「なんだっ!」

 全員が慌てて戦闘態勢を取る。
 油断していたという訳ではないが、無害そうな相手に対して警戒しなかったことは、俺のうかつだろう。
 
「ミュリア、テスタ、ケガはないか?」
「わ、わたくしは大丈夫です。テスタ、手を見せて、治療しましょう?」
「ミュリアは結界で安全地帯を作ることに専念して! この程度、かすり傷ですらないわ!」

 聖女がやや精神的なショックを受けているようだ。
 自分が原因でモンクに迷惑をかけたと思っているのだろう。
 だがまぁ、聖女を守るのがモンクの本来の仕事な訳で、そういう意味では、モンクは仕事をしただけの話だ。

「ミュリア、テスタの言う通りにするんだ。それと、助けてもらった礼は言っておけよ」
「あ、そうですね。わたくしったら……ありがとう、テスタ」
「私はやるべきことをやっただけ。でも、まぁお礼を言われるのは嫌いじゃないよ」

 モンクは聖女ににっこりと笑ってみせた。
 聖女がホッとしたように微笑んで、すぐに結界を張って安全地帯を作る。

 その間に、勇者は剣を抜き放っていた。
 炎が、まるで巻き付くヘビのように刃にまとわりついている。

「アルフ、その炎ヤバくないか? どんどん大きくなっている気がするぞ!」
「うぬぬ……し、師匠、思ったよりこの剣、言うことをきかない」
「バカ、魔力供給を止めろ!」
「その手があったか!」

 どうやら勇者は慌てて、魔力をずっと手に集めた状態だったようだ。
 そして、慌てて断ち切った。
 その瞬間、剣先に渦巻いていた炎が、轟音を立てて水溜まりに突き刺さる。

 バシュウウウッ! と、すさまじい音が響き、周囲が水蒸気で真っ白に染まった。

「ヤバい、一時避難! 結界のなかに退避するんだ!」

 全身を焼き尽くすような熱波を受けて、慌てて結界に転がり込んだ。
 危うく仲間の技で蒸し焼きになるところだったぜ。

「アルフ! だから最初は軽くと言っただろう!」
「ええっ、全然軽く剣の柄を握っただけなんだぞ」

 うぬぬ、バカ魔力持ちの勇者め。
 次は具体的に、砂粒を指先でつまむような感じで、と言ってやる。

「全員無事か?」
「私とミュリアは最初から結界に入っていたから大丈夫」

 メルリルが報告してくれる。

「ひ、酷い目に遭った。見てよ、このお腹! 真っ赤になったじゃない!」
「やめろテスタ! めくって見せるな!」

 モンクに迫られて、ヤケドをしている訳でもない勇者が真っ赤になった。
 
「まぁ大変!」

 同時に聖女の祈りが解放され、俺も含めて全員の体が癒される。
 慌てて対象を絞らなかったな。
 結界の外の水蒸気は、すぐに消えた。
 後には、水が全て蒸発した地面と、のたうちまわる茎の太い花のようなものが残っている。

「ミュリアに襲い掛かったのはあの魔物か。……はっきりと断言は出来ないが、ありゃあ、罠蛇トラップサーペントの亜種だろうな」
罠蛇トラップサーペント?」

 俺の言葉を勇者が聞き返す。

「猟師が使う罠に挟み罠ってのがあるんだが、それに似てるってことでついた名前だ。何かに擬態して、獲物を待つタイプの魔物だな。水のなかで花に擬態して、水を飲みに来る獲物を襲っていたんだろう」
「なるほど」

 花のように見えていた部分は、そこまで大きくなかったのだが、あれはどうも口先だけだったようだ。
 本体は、俺の太ももよりもデカい。
 それが十匹以上いる。
 
 勇者の炎魔法のせいで、黒く焼けた状態になっているが、何匹かはまだ動いているな。
 丈夫な魔物だ。

「アルフ、クルス、アレにとどめを刺しておこう」
「わかった」
「はい」
「あ、アルフ、お前、その剣は使うな。ドラゴンのナイフがあったろ。あれで十分だ」
「……わかった」

 俺は星降りを抜いて、罠蛇トラップサーペントの首を落とした。
 とは言え、首を落としても、まだ胴体が跳ねまわっている。
 ドラゴンの爪で作られた星降りですら、切断するときにやや手ごたえを感じたので、こいつの鱗はなかなか硬いようだ。
 当たったら痛いでは済まないぞ。

「どうやったら動きを止められるんだ?」
「凍れ」

 勇者が人差し指で小さく円を描くようにして、魔法を発動した。
 すると、そこらで跳ねまわっていた罠蛇トラップサーペントの胴体が凍り付き、動きを止める。
 お、さっきは失敗したが、さすが魔法については勘がいい。
 すぐに対応して来たな。

「アルフ助かった。しかし、燃やすだけじゃなくて、凍らせることも出来るのか?」
「燃焼と凍結は表裏一体なんだ。こう、広げるか縮めるかって感じで」

 本当か? 火の魔法を使う奴は何人か見たことあるけど、そいつらものを凍らせたり出来なかったぞ。
 まぁやらなかっただけかもしれないが。

「お前、さっきの今で魔法使うとか、よっぽど自信があったんだろうな?」
「師匠、実は火の魔法よりも凍らせる魔法のほうが抵抗が大きくて使いにくいんだ。火は一気に解放するイメージだけど、凍結は硬いものを握り込んで、さらに小さく縮めるみたいな感じで、余分に魔力を食う。だから、威力を調整するなら、こっちのほうが楽だと思った」
「なるほどな」

 俺にはよくわからない感覚だが、魔法によって発動しやすさが違うということか。
 だから普通の魔力量しかない一般的な魔法使いは火は使えても凍らせるのは出来ないんだな。
 魔法という不思議な技術の一面を垣間見た気分になりながら、俺はおとなしくなった罠蛇トラップサーペントの死体を確認した。

 さっき聖女が誘われた、花のような擬態部分は、こいつにとってヒレのようなものなんだろう。透き通り、淡く朱色に色づいて、確かに美しい。
 なによりも、熱と冷気にさらされたのにも関わらず、一切傷ついていなかった。

「何かに使えそうだな。取っておこう」

 俺はその花のような部分を罠蛇トラップサーペントの体から切り離し、採取しておいた。
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