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第七章 幻の都
656 巨大ワームとの遭遇
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上で気配が動いて、勇者達やメルリルがこっちを覗き込んで来たので、慌てて手ぶりで下がらせる。
勇者が何か言いたそうにしていたが、睨んでやったらすごすごと下がった。
メルリルはものすごく悔しそうな顔をしていた。
あれだな、風が使えたらなんとかするつもりだったのだろう。
相談なしで動かれると対処が難しいので、結果的によかったのかもしれない。
む? また少し地面が動いたな。
まだ近くをうろうろしているのか。
何か気になっているのか?
ワームは大きさがピンキリで、それこそちょっと大きなミミズのようなものから、一つの街程度簡単に呑み込めるようなバカデカい奴までいる。
デカい奴は普段何を食っているのか不思議でならない。
それはともかくとして、今ここにいるのがどの程度の大きさなのかが問題だ。
この崖を一匹で作ったのだとすると、それなりの大きさだと思われる。
ワームは普段群れないが、何かの条件によって群れることもあるので、その場合は一匹じゃないかもしれない。
どっちがマシかと言われると、どっちもどっちだが。
ん? 今魔力が近くで動くのを感じたぞ。
そのとき、俺がぶら下がっている場所のすぐ左のほうの崖がガラガラとデカい音を立てて崩れた。
チャンスだ!
俺はその土砂と共に地面に飛び降りる。
少々距離があるが、魔力を体に通して、衝撃を受け止めた。
そしてゴロゴロと大きな土くれと一緒に転がり、地面に伏せる。
「うひっ」
小さく口のなかで呟く。
俺がいた辺りの側壁が崩れ、その向こうにうごめくワームの胴体の一部が見えていたのだ。
「デカすぎるだろ」
そのとき。
「師匠っ!」
「あんのバカ」
勇者が思いっきり叫んだのだ。
どうやら俺が、わざとではなく落ちたと思ったようだ。
フォルテは何やってた?
勇者は叫んだだけでは飽き足らず、崖に走り寄って下を見ている。
俺は視線が合ったところで止まれという合図をしたが、もう既に遅かった。
「うわっ!」
ワームの胴体が激しく動いている。
崖上に頭を向けたのだ。
今、勇者のいる辺りは大きく揺れているだろう。
勇者だけでなく、思わず上がった誰かの悲鳴も聞こえる。
「ちっ!」
俺は起き上がって走りながら考えた。
ワームには性質の違いがあって、熱に弱いもの、寒さに弱いものなど、弱点が個体によって違うという困った点があった。
今、勇者が咄嗟に放てるとしたら、あの剣の魔法だが、どうか効果があってくれと祈るしかない。
「フォルテ、来い!」
崖上で火柱が上がる。
戦闘が始まったのだ。
飛んで来たフォルテをそのまま体内に呼び寄せる。
毎回感じるが、この感覚はなんというか不思議だ。
体内に自分ではない存在を感じるのに、違和感がない。
そんな余計な思考が一瞬頭をよぎったものの、すぐに背に翼を出現させて、今降りたばかりの崖の上へと飛んだ。
「う、わ」
咄嗟に聖女が簡易的な結界を張ったのか、ワームの口の上に不思議な感じに浮いているみんなが見えた。
勇者だけ、攻撃のために離れすぎていたのか、口の外で剣を握ったまま空中にいる。
ワームはそのまま聖女やメルリル達を呑み込んでしまった。
「くそっ!」
勇者が二撃目を放とうとしている。
「待て! 火の攻撃は通ってないみたいだ。俺がやる」
「し、師匠」
俺は、最近は無意識に振るえるようになった「断絶の剣」に集中した。
ワームを斬りつつ、聖女の結界を斬らないようにしなければならない。
斬ると同時に結ぶ。
出来るか?
いや、やるしかない!
「断絶と結び! 護れ!」
斬れ味がよすぎる星降りをまっすぐに振り下ろす。
シャン! という、小さな可愛らしい鈴のような音が響いた。
大地が割れ、その中から青黒い体液を撒き散らしながらワームの切断面がこぼれ落ちる。
聖女の結界に守られた仲間達が、大量の土砂に紛れて流れ出す。
結界の空間ごと転がったのか、土に埋もれることはなかったものの、お互いにもつれ合いながら倒れている。
「大丈夫か?」
俺は地上に降り立つと、フォルテを切り離し、全員の元に駆け寄った。
目の端には、同じように駆け寄る勇者が見えている。
「ふう。人生で二度とないような貴重な経験をしました」
最初に立ち上がったのはタフな聖騎士だった。
目を回しているモンクを地面に横たえながら、苦笑いを見せる。
余裕あるな。
「ワームに呑まれて助かった奴は何人かいるが、聖女の結界ごと呑まれた奴はほかにいないだろうな」
「なかなかに絶望的でしたよ」
涼しい笑顔で答えた。
聖騎士の肝の据わりようは見習いたいものだ。
「師匠、こいつまだ動いているぞ」
勇者が剣を構えて警戒を解かないまま言った。
ワームは、上で見た塔よりはひと回り程度小さかったが、それでも民家の二、三軒は呑み込めそうな大きさだった。
体が途中まで縦に半分裂けているんだが、体液をこぼしながらも、地中へとズルズルと引っ込みつつある。
凄い生命力だ。
「ほっとけ、今は食うどころじゃないだろうからな。このサイズのワームを倒す気なら、この迷宮を半分ぐらい潰すつもりにならないと無理だぞ」
「でも危ないぞ」
「基本的には地表には滅多に顔を出さない魔物なんだ。危険度で言えばスライム以下だぞ。お前が騒ぐから……」
言いかけてやめる。
今さら勇者を責めてみても仕方がない。
考えてみれば、心配させてしまった俺が悪いのだ。
ずっとソロで動いていたから、仲間への配慮というものが足りなかった。
「フォルテ、お前が説明すればこんなことにはならなかったのに」
「ピャッ!」
「あん? お前にも落ちたように見えたって? 目で見て判断するからそういうことになるんだ」
「師匠ごめん。俺が言ったことを守れなかったから、仲間を危険な目に遭わせたんだな」
俺がフォルテに文句を言っていると、どうやら自分で自分のポカを理解したらしい勇者が謝って来た。
「俺よりも、危険に晒した仲間のほうに謝れ。ちょっと今は直視出来ない状態になっているから、目が覚めてからだぞ」
言われて、勇者は聖女とメルリルへと目を向ける。
俺はその頭をがっしりと掴んで頭ごと目を反らさせた。
「見るな!」
「えー、どうして? 何が起こってるんだ?」
「いいから。女性には女性の尊厳があるんだ。見ろ、クルスなんかごく自然に、遠くを警戒する風で向こうを見ているだろうが」
ケガはしていないようだが、女性達はまだ気絶から覚めない。
結界のおかげで無傷なんだろうな。ただ、……なんというか、内部でシェイクされたみたいで、着衣が大変乱れている。
おっと、俺も直視してはいけないな。
後で言い訳出来なくなる。
勇者が何か言いたそうにしていたが、睨んでやったらすごすごと下がった。
メルリルはものすごく悔しそうな顔をしていた。
あれだな、風が使えたらなんとかするつもりだったのだろう。
相談なしで動かれると対処が難しいので、結果的によかったのかもしれない。
む? また少し地面が動いたな。
まだ近くをうろうろしているのか。
何か気になっているのか?
ワームは大きさがピンキリで、それこそちょっと大きなミミズのようなものから、一つの街程度簡単に呑み込めるようなバカデカい奴までいる。
デカい奴は普段何を食っているのか不思議でならない。
それはともかくとして、今ここにいるのがどの程度の大きさなのかが問題だ。
この崖を一匹で作ったのだとすると、それなりの大きさだと思われる。
ワームは普段群れないが、何かの条件によって群れることもあるので、その場合は一匹じゃないかもしれない。
どっちがマシかと言われると、どっちもどっちだが。
ん? 今魔力が近くで動くのを感じたぞ。
そのとき、俺がぶら下がっている場所のすぐ左のほうの崖がガラガラとデカい音を立てて崩れた。
チャンスだ!
俺はその土砂と共に地面に飛び降りる。
少々距離があるが、魔力を体に通して、衝撃を受け止めた。
そしてゴロゴロと大きな土くれと一緒に転がり、地面に伏せる。
「うひっ」
小さく口のなかで呟く。
俺がいた辺りの側壁が崩れ、その向こうにうごめくワームの胴体の一部が見えていたのだ。
「デカすぎるだろ」
そのとき。
「師匠っ!」
「あんのバカ」
勇者が思いっきり叫んだのだ。
どうやら俺が、わざとではなく落ちたと思ったようだ。
フォルテは何やってた?
勇者は叫んだだけでは飽き足らず、崖に走り寄って下を見ている。
俺は視線が合ったところで止まれという合図をしたが、もう既に遅かった。
「うわっ!」
ワームの胴体が激しく動いている。
崖上に頭を向けたのだ。
今、勇者のいる辺りは大きく揺れているだろう。
勇者だけでなく、思わず上がった誰かの悲鳴も聞こえる。
「ちっ!」
俺は起き上がって走りながら考えた。
ワームには性質の違いがあって、熱に弱いもの、寒さに弱いものなど、弱点が個体によって違うという困った点があった。
今、勇者が咄嗟に放てるとしたら、あの剣の魔法だが、どうか効果があってくれと祈るしかない。
「フォルテ、来い!」
崖上で火柱が上がる。
戦闘が始まったのだ。
飛んで来たフォルテをそのまま体内に呼び寄せる。
毎回感じるが、この感覚はなんというか不思議だ。
体内に自分ではない存在を感じるのに、違和感がない。
そんな余計な思考が一瞬頭をよぎったものの、すぐに背に翼を出現させて、今降りたばかりの崖の上へと飛んだ。
「う、わ」
咄嗟に聖女が簡易的な結界を張ったのか、ワームの口の上に不思議な感じに浮いているみんなが見えた。
勇者だけ、攻撃のために離れすぎていたのか、口の外で剣を握ったまま空中にいる。
ワームはそのまま聖女やメルリル達を呑み込んでしまった。
「くそっ!」
勇者が二撃目を放とうとしている。
「待て! 火の攻撃は通ってないみたいだ。俺がやる」
「し、師匠」
俺は、最近は無意識に振るえるようになった「断絶の剣」に集中した。
ワームを斬りつつ、聖女の結界を斬らないようにしなければならない。
斬ると同時に結ぶ。
出来るか?
いや、やるしかない!
「断絶と結び! 護れ!」
斬れ味がよすぎる星降りをまっすぐに振り下ろす。
シャン! という、小さな可愛らしい鈴のような音が響いた。
大地が割れ、その中から青黒い体液を撒き散らしながらワームの切断面がこぼれ落ちる。
聖女の結界に守られた仲間達が、大量の土砂に紛れて流れ出す。
結界の空間ごと転がったのか、土に埋もれることはなかったものの、お互いにもつれ合いながら倒れている。
「大丈夫か?」
俺は地上に降り立つと、フォルテを切り離し、全員の元に駆け寄った。
目の端には、同じように駆け寄る勇者が見えている。
「ふう。人生で二度とないような貴重な経験をしました」
最初に立ち上がったのはタフな聖騎士だった。
目を回しているモンクを地面に横たえながら、苦笑いを見せる。
余裕あるな。
「ワームに呑まれて助かった奴は何人かいるが、聖女の結界ごと呑まれた奴はほかにいないだろうな」
「なかなかに絶望的でしたよ」
涼しい笑顔で答えた。
聖騎士の肝の据わりようは見習いたいものだ。
「師匠、こいつまだ動いているぞ」
勇者が剣を構えて警戒を解かないまま言った。
ワームは、上で見た塔よりはひと回り程度小さかったが、それでも民家の二、三軒は呑み込めそうな大きさだった。
体が途中まで縦に半分裂けているんだが、体液をこぼしながらも、地中へとズルズルと引っ込みつつある。
凄い生命力だ。
「ほっとけ、今は食うどころじゃないだろうからな。このサイズのワームを倒す気なら、この迷宮を半分ぐらい潰すつもりにならないと無理だぞ」
「でも危ないぞ」
「基本的には地表には滅多に顔を出さない魔物なんだ。危険度で言えばスライム以下だぞ。お前が騒ぐから……」
言いかけてやめる。
今さら勇者を責めてみても仕方がない。
考えてみれば、心配させてしまった俺が悪いのだ。
ずっとソロで動いていたから、仲間への配慮というものが足りなかった。
「フォルテ、お前が説明すればこんなことにはならなかったのに」
「ピャッ!」
「あん? お前にも落ちたように見えたって? 目で見て判断するからそういうことになるんだ」
「師匠ごめん。俺が言ったことを守れなかったから、仲間を危険な目に遭わせたんだな」
俺がフォルテに文句を言っていると、どうやら自分で自分のポカを理解したらしい勇者が謝って来た。
「俺よりも、危険に晒した仲間のほうに謝れ。ちょっと今は直視出来ない状態になっているから、目が覚めてからだぞ」
言われて、勇者は聖女とメルリルへと目を向ける。
俺はその頭をがっしりと掴んで頭ごと目を反らさせた。
「見るな!」
「えー、どうして? 何が起こってるんだ?」
「いいから。女性には女性の尊厳があるんだ。見ろ、クルスなんかごく自然に、遠くを警戒する風で向こうを見ているだろうが」
ケガはしていないようだが、女性達はまだ気絶から覚めない。
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