勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

639 魔道馬車

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 居心地がよかったせいで、長々と滞在することとなった大公邸だったが、迷宮で勇者の剣を手に入れるという目的が出来たので、いよいよ出立することとなった。
 装備品も一流の職人の手によって手入れしてもらって、準備は万端である。
 出立前夜には大公一家と英雄殿と一緒に食卓を囲み、あたたかくて美味しい食事を楽しんだ。

 英雄殿は大公一家と一緒にいるときには、どこかくつろいでいる雰囲気がある。
 大公陛下がおっしゃる通り、もっと頻繁に戻るべきなんだろう。
 犠牲になった仲間だって、英雄殿に不幸になって欲しい訳がないしな。

 迷宮都市に赴くのにあたって、なんと、馬車を仕立ててもらった。
 しかも、魔道具なので、馬を必要としない馬車だ。
 東方でよく見かけた自動馬車に近い。
 ただし、あっちは煙を吐くが、こっちは見かけは普通の馬車に見える。
 なんと、カモフラージュ用に、魔道具の馬までセットされていた。
 俺達が目立ちたくないと理解してくれているので、馬車本体も、荷馬車に似た形状で、少し年数が経った雰囲気を醸し出している。
 職人達がやたら張り切った結果らしい。
 職人はときどきとんでもなく凝り性になるからな。

「動物を移動に使うと、その動物の体調や気分や能力に影響されてしまうが、これなら自分達の好きなペースで動けるだろ? 動かすのにちょいと魔力を使うが、まぁ勇者さまと聖女さまがいらっしゃるんだ。問題あるまい!」

 馬車制作の指揮を執ったという、大地人の職人のおっさんが、そう言ってガハハと笑った。
 俺達は最初、この魔道馬車の受け取りを固辞していたのだが、ほかに使う者がいないし、そうなると廃棄するしかないと、職人達が泣いて頼むので、仕方なく受け取る羽目になったのだ。

 実際、見た感じは、農家が使う荷馬車に見える。
 自動人形の馬も農耕馬の姿を模しているし。

「何から何までありがとうございます」
「僕ではなくて父上の指示なので。出来れば僕自身から何かお贈りしたかったのですが、僕はまだ自分の力で何かを贈れる立場ではありませんから。親の力を借りて、みなさんに何かをしたみたいな顔をしているだけです」

 大公家の次男であるイマル殿がニコニコしながら言った。

「短いようで、かつてない充実した日々でした。僕は皆さま方から教えていただいた物事に対する心構えを胸に、誰か一人だけにでも尊敬されるような人間になって行くつもりです。ダスター殿や勇者殿、それにクルス殿みたいになれるとは思いませんが、出会ったことを後悔されるような人間には決してならないと誓います」
「イマルさまはよい騎士になられると思いますよ」

 なんだか大仰に決意を表明する大公家次男殿に、聖女がうなずきながらそう太鼓判を押した。
 そうか騎士になるのか。
 道理で早朝の鍛錬に参加していた訳だ。
 いつの間にか、一緒に鍛錬するようになっていたんだよな。
 きっかけはよくわからん。
 なぜかそうなっていた。

「イマル殿は剣筋が素直なので、下手に技を磨くよりも、一撃の威力を上げる鍛錬を続けたほうがいいですね。わかっていても、受ければただではすまない斬撃を繰り出すことが出来れば、相手を圧倒出来ますから」

 聖騎士がそう助言する。
 そうなんだよな。
 この大公家の次男殿は、立ち合いでの騙し合いが苦手なようだった。
 性格が素直すぎるんだな。
 ただ、膂力はあるようだし、貴族には珍しく、魔法も技巧派ではなく、身体能力を上げる方向が合っているタイプだった。
 聖騎士の言うように、正面から全てを叩き伏せる剣技を磨いたほうがいいのかもしれない。

「わかりました! 必ず、ご期待に応えてみせます!」

 英雄殿とファラリア嬢はやるべきことがあると言って、昨夜の食事会の後、既に旅立った。
 どうやら本当はもっと早く出たかったらしいのだが、食事会のために残っていたようだ。
 大公陛下と奥方とも、昨夜の食事会が最後となった。
 まぁ大公夫妻に見送られるのもちょっと大仰だし、それぐらいでちょうどいい。
 この次男殿以外の子ども達も、それぞれ役割を担っていて、手が離せないらしい。
 漏れ聞いたところだと、どうも俺達のやったことの後始末のようなので、逆に申し訳ない気持ちである。

「それじゃあ元気でな」

 勇者が珍しく、励ますように次男殿の肩に触れる。
 
「はい!」

 次男殿は大公邸の門の外まで見送ってくれて、いつまでも手を振っていた。
 ありがたいが、目立つのでちょっと困った。

 さて、迷宮都市までの道程は、事前に打ち合わせしてあるので問題ない。
 森と山間部の間に広がる平原地帯にぽつんとたたずむ要塞都市が、魔獣公グエンサムの領地である迷宮都市だ。
 八家中、最小の領地であるにもかかわらず、魔宝石と魔獣の素材によって財を成し、迷宮に挑むお抱えの冒険者と、実戦慣れした騎士団という、武力も蓄えている州公の治める都市でもある。

 魔道馬車を使って、だいたい五日か。

『楽しみだね!』

 この迷宮都市行きを知って喜んだ者がいる。
 そう、若葉だ。

「お前のために行く訳じゃないからな」

 勇者は忌々し気である。
 だが、迷宮の最奥に挑むなら、若葉の存在は頼もしいと言えるだろう。
 ただ、若葉は俺達がコントロール出来る相手ではないので、当てにしてしまうと危険だ。
 いないものとして計画を立てる必要がある。

「ピャ!」
『失礼だな。僕はフォルテみたいな食いしん坊ではないよ』
「カッカッカッカッ! ギャギャッ!」
「ガフッ」

 最後は獣同士のうなり合いのようになっていたが、どうもフォルテは若葉が自分の有用さをアピールすると、無駄に張り合うので、うるさいことこのうえない。
 寝ていたほうが静かなので、両方共ずっと寝ていて欲しい。

「しかし、この馬車は便利だな。ここの操舵棒を動かすだけで方向を調整出来るし、俺の魔力でも簡単に動く」
「凄い仕掛け」

 荷台のなかは、小さな部屋のようになっていて、勇者達はそこでくつろいでいた。
 そして俺は、御者台で魔道馬車を操作中である。
 隣にはメルリルがいた。
 何か言う前に、隣に座ってそのままだ。
 まぁうん、……いいんじゃないか?

「勇者さま達を休ませるため?」

 ふと、メルリルが言った。
 俺が御者を買って出た理由かな。

「あー、いや、正直に言うと楽しそうだったからだ」
「ふふっ」

 俺の言葉にメルリルが笑った。

「ダスターって新しいものが好きだよね」

 む? バレている。
 
「こう、ワクワクするだろ。それに、これを操作することで、ちょっとだけ魔法に触れられるしな」
「魔法、使ってみたい?」
「使ってみたいというよりも、どういうものなのかを理解したいんだな。面白そうじゃないか」
「面白そう……か。うん、そうだね。ダスターはそうやって何かに挑戦しているときが一番楽しそう」

 これは子どもっぽいとか思われている?
 男なんて、いくつになっても子どもっぽいところはあるんだぞ。
 俺だけじゃないからな!
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