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第六章 その祈り、届かなくとも……
605 堂々とした諜報
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幻影の俺達は静かにイスに座って主の到着か呼び出しを待っている。
ソファー席が勇者達で、従者である俺達はその後ろに立つという位置取りだ。
あんまり静かだからかえっておかしく思われているかもしれない。
実際は位置取りこそ同じだが、意見が活発に交わされている訳だが。
「俺がここから抜けて城の探索をしよう」
また勇者がバカなことを言い出した。
「お前が主役なんだからいなければ不審に思われるだろ?」
「幻影があるんだから師匠が俺の代わりをすればいい。なんだったらそこの役立たずの特権騎士殿でもいいが」
俺の消極的な反対をどう受け取ったのか、勇者は今度は英雄殿に話を振った。
恐るべき厚顔無恥である。
「俺こそが調査をするべきであろう」
そこへややこしいことに、英雄殿が探索を申し出た。
確かに理屈としては正しいのだが。
「けっ、こんだけの期間があったのに危険な魔道具が実戦で使われるのを阻止出来なかった奴に何が出来るってんだ? お前は俺達の手際を指をくわえて見ていろ」
「大口を叩くものだ」
まぁでも勇者の言うこともわかるし、俺にはこの英雄殿が探索に向いているとは到底思えない。
そしてこのメンバーで探索に向いているとすれば俺か勇者の二択だろうとは思う。
だが、俺は勇者の代理など嫌だし無理だ。
「アルフ、どう考えても俺に勇者の代理は無理だ。探索は俺が行う」
「師匠は貴族のものの考え方がわからないだろ? 他人に見せたくないものの隠し場所とか」
「わからないならわからないなりのアプローチがある。どっちが無理かと言えば勇者の振りのほうが無理だ。……英雄殿は出来るか?」
「受け答えならごまかせるかもしれん。何しろここの主は勇者殿を知らぬゆえ。しかし魔法紋はごまかしがきかぬ。その、幻影とやらで見せたとしても魔力反応がなくては意味がない。それに勇者の背負う紋章をいつわったと知れたら死罪だ。良し悪し以前に、やってはならぬのだ」
勇者と俺の押し付け合いが飛び火した形で、勇者の代理を任されそうになった英雄殿だったが、冷静に分析して結論を出した。
真面目だな。
「そういうことだ。俺が死罪になってもいいのか?」
「くっ、そう言われると反論が出来ない」
勇者が折れた。
当然の結果である。
「ダスター私も……」
最近積極的に俺のサポートをしようとするメルリルが一緒に来ようとしたが、さすがに止めた。
城内にはあまり風が通っていないし、メルリルの苦手な土に属する部分が多い。
人は無理を重ねるごとに身動きが取れなくなるものだ。
「まぁ心配するな。俺を信じてくれ」
堂々と言い放つと聖女に俺の分だけ幻影を切ってもらい、一礼して外に出た。
外には護衛と言う名の見張りがいる。
「何事か? 勝手にうろついてもらっては困る」
兵士が強い口調で言って来た。
俺は出来るだけ厳しい顔つきを作る。
「そちらこそ何事か!」
腹から出した声で怒鳴りつけた。
「な、なんだ、と?」
「勇者さまと聖女さまがわざわざご足労してくださったというのに、早々の茶の用意も出来ていないではないか! 貴様等は勇者さま方を愚弄しているのか? それはすなわち神への冒涜なのだぞ!」
「ま、待て! そんなつもりでは……」
「ならばどんなつもりだ? 貴様等では話にならぬ! 接待の責任者はどこか?」
「お、お待ちを、すぐに侍従長に相談を……」
「遅い! 私が直接厨房に出向く。このような有様では何を出されるかわかったものではないからな」
「そのようなことは」
「ない、と? では今の有様はいかなる理由だ?」
「っ……」
「失礼」
俺は堂々と護衛の兵士に背を向けると歩き去った。
よしよし追いかけて来ないな。
あいつら部屋を離れるなと命令されているに違いない。
誰か来るまで動きが取れないのだろう。
高圧的な主人に仕える下僕というものは得てして行動が硬直するものだ。
そして尊大な物言いに弱い。
俺はやって来た方向とは逆の方向に歩き去った。
状況を考えればそちらが奥になるはずだからな。
通路の角を曲がり、護衛兵の目が届かなくなると、俺は足早に進んだ。
必要なものは情報だ。
この城の弱点。
その一点を突いたら崩れ去るほどの急所である必要はない。
咄嗟に行動に迷うような不安や恐怖を感じるものが必要だ。
「だいぶ人が少ないな」
城の規模からするとあまりにも人が少なすぎる。
戦に人が取られているということだろう。
それにしても使用人は絶対に必要だ。
それなのに使用人を見かけないということは、貴族と使用人の行動する場所を完璧に分けているのかもしれない。
俺は堂々と大手を振って歩む。
こそこそしていると怪しまれる。
ここにいて当然という顔で動くべきだろう。
いくつかの通路を経て、庭に出た。
頭上に空は見えない。
木の枝が重なり合って、その隙間から木漏れ日が降り注いでいた。
上から見て木立か茂みに見えるようにしてあるのだろう。
その庭に庭師らしき男達がいる。
「すまない」
「は?」
急に声を掛けられて、庭師は驚いた顔になった。
「俺は勇者さま方の従者なのだが、少し尋ねたいことがある」
「ひえっ、勇者さまの! な、なんでしょうか?」
「少し前にここの姫君、なんと言ったかな……ああ、イルミダスさまであったかな?」
「は、はい。確かにイルミダスさまはこちらにおいでですが」
「うん? 知らないのか? 姫君は今、他国にお出かけになっているのだぞ?」
「へえ。……あ、いえ、私ら下働きの者はその、偉い人達が何をしているかとか、知らないもので……」
「そうか、困ったな。勇者さまからの伝言があるのだが……姫さま付きの女官とかはいないのか?」
「は、はぁ、侍女なら」
「どこにおいでだ?」
「へ、へえ。侍女のお方たちは奥向きのほうです。この辺のむさくるしい場所には滅多に出て来ません」
「ううむ。出来れば勇者さまが直接お話をしたいと仰せなのだが、どこか侍女がよく集まる場所。……井戸とか洗い場などはないだろうか?」
「ああ、それなら。今の時間ならちょうど洗濯場に侍女さん達が集まっておいでですよ」
「おお助かる。勇者さまもお喜びだろう。礼を言うぞ」
「そ、そんなもったいない」
「場所を教えていただけるかな?」
「はい、喜んで」
まずは第一関門突破かな?
ソファー席が勇者達で、従者である俺達はその後ろに立つという位置取りだ。
あんまり静かだからかえっておかしく思われているかもしれない。
実際は位置取りこそ同じだが、意見が活発に交わされている訳だが。
「俺がここから抜けて城の探索をしよう」
また勇者がバカなことを言い出した。
「お前が主役なんだからいなければ不審に思われるだろ?」
「幻影があるんだから師匠が俺の代わりをすればいい。なんだったらそこの役立たずの特権騎士殿でもいいが」
俺の消極的な反対をどう受け取ったのか、勇者は今度は英雄殿に話を振った。
恐るべき厚顔無恥である。
「俺こそが調査をするべきであろう」
そこへややこしいことに、英雄殿が探索を申し出た。
確かに理屈としては正しいのだが。
「けっ、こんだけの期間があったのに危険な魔道具が実戦で使われるのを阻止出来なかった奴に何が出来るってんだ? お前は俺達の手際を指をくわえて見ていろ」
「大口を叩くものだ」
まぁでも勇者の言うこともわかるし、俺にはこの英雄殿が探索に向いているとは到底思えない。
そしてこのメンバーで探索に向いているとすれば俺か勇者の二択だろうとは思う。
だが、俺は勇者の代理など嫌だし無理だ。
「アルフ、どう考えても俺に勇者の代理は無理だ。探索は俺が行う」
「師匠は貴族のものの考え方がわからないだろ? 他人に見せたくないものの隠し場所とか」
「わからないならわからないなりのアプローチがある。どっちが無理かと言えば勇者の振りのほうが無理だ。……英雄殿は出来るか?」
「受け答えならごまかせるかもしれん。何しろここの主は勇者殿を知らぬゆえ。しかし魔法紋はごまかしがきかぬ。その、幻影とやらで見せたとしても魔力反応がなくては意味がない。それに勇者の背負う紋章をいつわったと知れたら死罪だ。良し悪し以前に、やってはならぬのだ」
勇者と俺の押し付け合いが飛び火した形で、勇者の代理を任されそうになった英雄殿だったが、冷静に分析して結論を出した。
真面目だな。
「そういうことだ。俺が死罪になってもいいのか?」
「くっ、そう言われると反論が出来ない」
勇者が折れた。
当然の結果である。
「ダスター私も……」
最近積極的に俺のサポートをしようとするメルリルが一緒に来ようとしたが、さすがに止めた。
城内にはあまり風が通っていないし、メルリルの苦手な土に属する部分が多い。
人は無理を重ねるごとに身動きが取れなくなるものだ。
「まぁ心配するな。俺を信じてくれ」
堂々と言い放つと聖女に俺の分だけ幻影を切ってもらい、一礼して外に出た。
外には護衛と言う名の見張りがいる。
「何事か? 勝手にうろついてもらっては困る」
兵士が強い口調で言って来た。
俺は出来るだけ厳しい顔つきを作る。
「そちらこそ何事か!」
腹から出した声で怒鳴りつけた。
「な、なんだ、と?」
「勇者さまと聖女さまがわざわざご足労してくださったというのに、早々の茶の用意も出来ていないではないか! 貴様等は勇者さま方を愚弄しているのか? それはすなわち神への冒涜なのだぞ!」
「ま、待て! そんなつもりでは……」
「ならばどんなつもりだ? 貴様等では話にならぬ! 接待の責任者はどこか?」
「お、お待ちを、すぐに侍従長に相談を……」
「遅い! 私が直接厨房に出向く。このような有様では何を出されるかわかったものではないからな」
「そのようなことは」
「ない、と? では今の有様はいかなる理由だ?」
「っ……」
「失礼」
俺は堂々と護衛の兵士に背を向けると歩き去った。
よしよし追いかけて来ないな。
あいつら部屋を離れるなと命令されているに違いない。
誰か来るまで動きが取れないのだろう。
高圧的な主人に仕える下僕というものは得てして行動が硬直するものだ。
そして尊大な物言いに弱い。
俺はやって来た方向とは逆の方向に歩き去った。
状況を考えればそちらが奥になるはずだからな。
通路の角を曲がり、護衛兵の目が届かなくなると、俺は足早に進んだ。
必要なものは情報だ。
この城の弱点。
その一点を突いたら崩れ去るほどの急所である必要はない。
咄嗟に行動に迷うような不安や恐怖を感じるものが必要だ。
「だいぶ人が少ないな」
城の規模からするとあまりにも人が少なすぎる。
戦に人が取られているということだろう。
それにしても使用人は絶対に必要だ。
それなのに使用人を見かけないということは、貴族と使用人の行動する場所を完璧に分けているのかもしれない。
俺は堂々と大手を振って歩む。
こそこそしていると怪しまれる。
ここにいて当然という顔で動くべきだろう。
いくつかの通路を経て、庭に出た。
頭上に空は見えない。
木の枝が重なり合って、その隙間から木漏れ日が降り注いでいた。
上から見て木立か茂みに見えるようにしてあるのだろう。
その庭に庭師らしき男達がいる。
「すまない」
「は?」
急に声を掛けられて、庭師は驚いた顔になった。
「俺は勇者さま方の従者なのだが、少し尋ねたいことがある」
「ひえっ、勇者さまの! な、なんでしょうか?」
「少し前にここの姫君、なんと言ったかな……ああ、イルミダスさまであったかな?」
「は、はい。確かにイルミダスさまはこちらにおいでですが」
「うん? 知らないのか? 姫君は今、他国にお出かけになっているのだぞ?」
「へえ。……あ、いえ、私ら下働きの者はその、偉い人達が何をしているかとか、知らないもので……」
「そうか、困ったな。勇者さまからの伝言があるのだが……姫さま付きの女官とかはいないのか?」
「は、はぁ、侍女なら」
「どこにおいでだ?」
「へ、へえ。侍女のお方たちは奥向きのほうです。この辺のむさくるしい場所には滅多に出て来ません」
「ううむ。出来れば勇者さまが直接お話をしたいと仰せなのだが、どこか侍女がよく集まる場所。……井戸とか洗い場などはないだろうか?」
「ああ、それなら。今の時間ならちょうど洗濯場に侍女さん達が集まっておいでですよ」
「おお助かる。勇者さまもお喜びだろう。礼を言うぞ」
「そ、そんなもったいない」
「場所を教えていただけるかな?」
「はい、喜んで」
まずは第一関門突破かな?
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