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第六章 その祈り、届かなくとも……
596 隠された荘園を探せ!
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フォルテの助けもあって、俺達は周辺で一番大きな街に到着した。
特に荷物を運んでいる訳でもない俺達は、荷検めの列に並ばずにそのまま街のなかに入る。
荷検めも禁じられた品物を持ち込んだり持ち出したりしないかを調べるだけなのでわりと簡単なチェックのようだ。
列の消化は早い。
荷車の行き交う立派な街並みを眺めながらも、目的がある今はのんびりした気持ちにはなれないな。
「すごいな、道端に普通に店を出しているぞ。ミホムでは定められた場所以外で店を出したら罰金刑になるのに」
「美しい都ですね」
勇者と聖女がキョロキョロと周囲を見渡していた。
君たち、遊びに来たんじゃないんだからな?
というか勇者よ、お前がそのデーヘイリング家とやらをとっちめると息まいていたんじゃないか。
「いい匂いがします」
近くでキュウという腹の虫の音がした。
メルリルが真っ赤になって顔を伏せている。
いやいや、最近まともに食ってないから腹が減るのは当然だ。
「師匠、あの屋台で昼飯を食おう!」
「お前は自分が何しに来たのかわかってるのか?」
とはいえ、美味そうな匂いがあちこちから流れて来る場所で、腹ペコの集団が我慢出来るはずもない。
俺達は適当な屋台を見つけて、器代わりに具材を乗せて包んで食べる平べったいパンを買い、肉と野菜を焼いている屋台から具材を買って包んで食べることにした。
道は馬車道と歩道が別れていて、仕切りにベンチにするのにちょうどいい石が並んでいる。
「さすがにこの季節、石に直接座ると冷たいな」
「まぁわずかな間だし、我慢するしかないだろ」
荷物から水の魔道具を出してそれぞれのカップに水を入れてやる。
勇者がベンチ代わりの石の冷たさに文句を言っていたが、軽く流した。
勇者もそれほどごねるつもりではなかったのだろう。その後は特に気にすることなく屋台料理をパクついている。
「それで、屋台の売り子や客から話を聞いたんだが、とんでもないことが判明した」
「さすが師匠、この短い間にもう聞き込みをしたのか」
「お前が肉が焼けるのをじっと見ている間にな」
皮肉を言ってみたが堪えている様子はない。
それどころかわくわくした目で俺の言葉を待っている。
うん、まぁいつものことだ。平常心だダスター。
横を見ると俺の心を読んだのか、メルリルが笑いをこらえている様子だった。
メルリルは共感能力があるので、人の感情を感じ取りやすいのだ。
「例の州公デーヘイリングは、街に住んでいない」
「えっ!」
「荘園という私有地に巨大な城を建てて、軍団を配備した砦のような壁のなかで、城下の直轄の農地で農奴を使って農作物を作らせているようだ」
「ああ、アンデルの農園方式だな。東の黄金里もたしかそんな感じの仕組みじゃなかったっけ?」
勇者がほかの国の似たような制度を持ち出して例える。
いや、別に学習しようという訳じゃないからな。
「まずいのは、その荘園の場所を知っている者がいないことだ」
「えっ!」
肉を挟んだパンの最後の部分を口に放り込みながら勇者が驚きの声を上げる。
「なるほど。徹底していますね。それだけ敵が多いということかもしれませんが」
聖騎士が感心したように言った。
貴族視点だとそういう理由になるのか。
「しかし完全に隠し通すことなど出来るのか? 軍団や農奴が大勢いるなら食料も……っと、自給自足しているのか。でも備品なんかも必要だし、荷の運び入れは絶対にあるはずだ」
勇者が考えを巡らせながら発言する。
「なんにしてもこうなったらフォルテ頼りだな。空から普通の街とは造りが違う大きな砦のような場所をさがしてもらうしかないだろう」
フォルテは特別に買ってやったチーズをうまそうに食べながら、少し首をかしげてみせる。
「ピャッピャッ、クルル、カッ!」
「あ? 探してやるから誠意を見せろだと? どこでそんな言葉を覚えた!」
フォルテは自分をアピールするように羽を大きく広げて羽ばたく。
「チィーヤ、チッチッチッ!」
「わかったとっておきをやろう」
確かに今回はフォルテ頼りだ。
正当な報酬と言えるだろう。
俺は大事に梱包していた特別な干しナツメを一個取り出してフォルテに渡す。
「あっ! ズルいぞ、フォルテ!」
フォルテは、勇者が抗議するのをバカにするように俺の肩の上から見つめ、これ見よがしにゆっくりと干しナツメを食べてみせた。
「くっ……師匠!」
「お前今のところなんもしてないじゃないか。今回はフォルテの働きが頼りだ。当然の報酬だろ?」
「……おのれっ」
「ピャ、ピャ、ピャ」
フォルテが勇者をあざ笑う。
不思議だな。
勇者にはフォルテの言葉はわからないはずなのだが、どうもバカにされていることは感じ取れるようだ。
いやまぁあれだけあからさまならわかるか。
「きさま、いつか焼き鳥にして食ってやるぞ!」
「ギャッギャ!」
「やめろ、くだらないことでケンカをするな。見ろ、目立ってるじゃないか」
周囲からの視線が痛い。
「お前達」
と、突然目の前に一人の男が現れた。
そう、それはまさに突然だった。
目前に現れるまで、このメンバーの誰一人として気づけなかったのである。
「っ!」
聖騎士が剣の柄に手をやるのを慌てて制止した。
こんなところで戦いでも始められた日には収集がつかなくなる。
「あんた、こんなところで何をしているんだ?」
「いや、それはこっちのセリフではないか? なんと言ってもここは俺の祖国であるのだからな」
そうそれは、特権騎士という役職を持つ、ディスタス大公国の英雄殿だった。
特に荷物を運んでいる訳でもない俺達は、荷検めの列に並ばずにそのまま街のなかに入る。
荷検めも禁じられた品物を持ち込んだり持ち出したりしないかを調べるだけなのでわりと簡単なチェックのようだ。
列の消化は早い。
荷車の行き交う立派な街並みを眺めながらも、目的がある今はのんびりした気持ちにはなれないな。
「すごいな、道端に普通に店を出しているぞ。ミホムでは定められた場所以外で店を出したら罰金刑になるのに」
「美しい都ですね」
勇者と聖女がキョロキョロと周囲を見渡していた。
君たち、遊びに来たんじゃないんだからな?
というか勇者よ、お前がそのデーヘイリング家とやらをとっちめると息まいていたんじゃないか。
「いい匂いがします」
近くでキュウという腹の虫の音がした。
メルリルが真っ赤になって顔を伏せている。
いやいや、最近まともに食ってないから腹が減るのは当然だ。
「師匠、あの屋台で昼飯を食おう!」
「お前は自分が何しに来たのかわかってるのか?」
とはいえ、美味そうな匂いがあちこちから流れて来る場所で、腹ペコの集団が我慢出来るはずもない。
俺達は適当な屋台を見つけて、器代わりに具材を乗せて包んで食べる平べったいパンを買い、肉と野菜を焼いている屋台から具材を買って包んで食べることにした。
道は馬車道と歩道が別れていて、仕切りにベンチにするのにちょうどいい石が並んでいる。
「さすがにこの季節、石に直接座ると冷たいな」
「まぁわずかな間だし、我慢するしかないだろ」
荷物から水の魔道具を出してそれぞれのカップに水を入れてやる。
勇者がベンチ代わりの石の冷たさに文句を言っていたが、軽く流した。
勇者もそれほどごねるつもりではなかったのだろう。その後は特に気にすることなく屋台料理をパクついている。
「それで、屋台の売り子や客から話を聞いたんだが、とんでもないことが判明した」
「さすが師匠、この短い間にもう聞き込みをしたのか」
「お前が肉が焼けるのをじっと見ている間にな」
皮肉を言ってみたが堪えている様子はない。
それどころかわくわくした目で俺の言葉を待っている。
うん、まぁいつものことだ。平常心だダスター。
横を見ると俺の心を読んだのか、メルリルが笑いをこらえている様子だった。
メルリルは共感能力があるので、人の感情を感じ取りやすいのだ。
「例の州公デーヘイリングは、街に住んでいない」
「えっ!」
「荘園という私有地に巨大な城を建てて、軍団を配備した砦のような壁のなかで、城下の直轄の農地で農奴を使って農作物を作らせているようだ」
「ああ、アンデルの農園方式だな。東の黄金里もたしかそんな感じの仕組みじゃなかったっけ?」
勇者がほかの国の似たような制度を持ち出して例える。
いや、別に学習しようという訳じゃないからな。
「まずいのは、その荘園の場所を知っている者がいないことだ」
「えっ!」
肉を挟んだパンの最後の部分を口に放り込みながら勇者が驚きの声を上げる。
「なるほど。徹底していますね。それだけ敵が多いということかもしれませんが」
聖騎士が感心したように言った。
貴族視点だとそういう理由になるのか。
「しかし完全に隠し通すことなど出来るのか? 軍団や農奴が大勢いるなら食料も……っと、自給自足しているのか。でも備品なんかも必要だし、荷の運び入れは絶対にあるはずだ」
勇者が考えを巡らせながら発言する。
「なんにしてもこうなったらフォルテ頼りだな。空から普通の街とは造りが違う大きな砦のような場所をさがしてもらうしかないだろう」
フォルテは特別に買ってやったチーズをうまそうに食べながら、少し首をかしげてみせる。
「ピャッピャッ、クルル、カッ!」
「あ? 探してやるから誠意を見せろだと? どこでそんな言葉を覚えた!」
フォルテは自分をアピールするように羽を大きく広げて羽ばたく。
「チィーヤ、チッチッチッ!」
「わかったとっておきをやろう」
確かに今回はフォルテ頼りだ。
正当な報酬と言えるだろう。
俺は大事に梱包していた特別な干しナツメを一個取り出してフォルテに渡す。
「あっ! ズルいぞ、フォルテ!」
フォルテは、勇者が抗議するのをバカにするように俺の肩の上から見つめ、これ見よがしにゆっくりと干しナツメを食べてみせた。
「くっ……師匠!」
「お前今のところなんもしてないじゃないか。今回はフォルテの働きが頼りだ。当然の報酬だろ?」
「……おのれっ」
「ピャ、ピャ、ピャ」
フォルテが勇者をあざ笑う。
不思議だな。
勇者にはフォルテの言葉はわからないはずなのだが、どうもバカにされていることは感じ取れるようだ。
いやまぁあれだけあからさまならわかるか。
「きさま、いつか焼き鳥にして食ってやるぞ!」
「ギャッギャ!」
「やめろ、くだらないことでケンカをするな。見ろ、目立ってるじゃないか」
周囲からの視線が痛い。
「お前達」
と、突然目の前に一人の男が現れた。
そう、それはまさに突然だった。
目前に現れるまで、このメンバーの誰一人として気づけなかったのである。
「っ!」
聖騎士が剣の柄に手をやるのを慌てて制止した。
こんなところで戦いでも始められた日には収集がつかなくなる。
「あんた、こんなところで何をしているんだ?」
「いや、それはこっちのセリフではないか? なんと言ってもここは俺の祖国であるのだからな」
そうそれは、特権騎士という役職を持つ、ディスタス大公国の英雄殿だった。
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