勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

589 勇者は忍ぶ

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 さて、まずはアンデル王陛下になんとか会いたいところだが、周囲にいる者達のなかに敵方に通じている者がいるかもしれないと勇者が言うので難易度が上がってしまった。

「こんなときにそういう奴がいるのか?」

 信じられない気持ちで聞くと、勇者が眉間にシワを寄せながら答える。

「こんなときだからだ。圧倒的に不利な状況だろ。早めに勝ち馬に乗りたいという奴はどこにでもいる。ましてやこの国はつい先年貴族に裏切り者が出た。そいつと通じていて証拠がなくて処罰されていない者だっているはずだ」

 いやいや、それは疑いすぎだろ?
 そう思ってみんなをぐるりと見まわしてみると、聖騎士が勇者に同意するようにうなずいて見せた。
 マジか。

 聖女とメルリルは、俺と似たような気持ちなのか首をかしげている。
 モンクはいつもの調子で我関せずという感じだ。
 フォルテは……また俺の肩で寝てやがる。

 まぁしかし貴族社会に詳しい二人が同じ意見というならそういうものなんだろう。
 殺伐としているな、貴族。

「師匠、確かに裏切りは臣下としては最低だが、自分の領民がいる場合は仕方ないときもある。負け戦で主がすげ変わった土地はほとんど悲惨な結果になるからな」
「なるほど」

 とはいえ、ミホムは戦に巻き込まれたことのない国だ。
 実感としては薄い。
 逆に同じミホムの出身の勇者と聖騎士がそういうことに詳しいのが不思議なほどだ。
 そういう教育を受けるのかな?

 戦と言えば、大公国だ。
 あの国は国のなかに小さな国がいくつもあるような土地柄なので、しょっちゅう領主同士の戦が起こっているらしい。
 国のトップである大公は、その小さな国の公と呼ばれる王様みたい連中の家から選ばれるので、公平を期すために、よほど戦の内容に問題がない限りは戦に口出しをしないそうだ。

 もともとは大公国から別れた帝国もそういうところがあるとのことだが、あっちは皇帝の権力が強いので、小競り合いの内に仲裁が入るらしい。
 ほんと国ごとに特色があるよな。

 まぁそんなことなので、大公国の兵は強兵だと言われている。
 戦慣れしているのだ。
 そんな国に目をつけられたアンデルは不幸としか言いようがないだろう。

「つまりだ。周りを固めている臣下連中に悟られないようにアンデル王に会わなきゃならんということか? 無理じゃないか?」

 メルリルなら可能かもしれないが、それも風が通っている場所だけだ。
 城の奥なら無理だろう。

「いや、俺が行って来よう」
「は?」

 勇者が何やらたわけたことを言い出した。

「俺は幸い陛下に知己がある。ミュリアに幻影をかけてもらって城に入り込んで話をして来る」
「……まぁ出来なくはないだろうな」

 最初バカげた話だと思ったが、考えてみたらやれないことではないと気づいた。
 聖女の幻影魔法は物品に掛けることが出来るし、誰にも見破れないものであることを以前のメルリルの変装で実際に見ている。
 さらに勇者は以前ここの王さまに会っていて、しかもあっちからしてみれば恩人だ。
 そもそもそんなバカなことをする人間がいるとは誰も思わないだろうということが大きい。
 ましてやそれが勇者などと、誰も思わないだろう。

「わかった。禁書庫破りの実力を示してくれ」
「あはは、師匠はときどき面白い冗談を言うな。禁書庫潜入はもっと難しいぞ」

 知らんわ!

 ◇◇◇

 わずかな時間でも体を休めようと玉座の近くにある控室で長いすに寝そべっていたアンデル王キュイシュナは、ふと、空気が動くのを感じた。

「誰だ? 軍議の時間まで誰もここに近寄らぬようにと命じてあったはずだが」

 そう言って顔を上げるが、そこには誰もいない。

「……私も疲れているようだ」
「それはよくないな」
「っ!」

 間近で聞こえた声に、キュイシュナは飛び起きると、傍らにあった剣を手にした。
 
「何奴? 暗殺者か? ここまで追い詰めておいて、さらにこの国から王をも奪おうと言うのか? なんと卑劣な!」
「しっ、落ち着け。俺だ」

 ふわりと、光と影の間からするりと人影が現れる。

「……勇者さま?」

 キュイシュナは思わず床にへたり込む。

「立て。国の命運を背負った王がそのザマでどうする」
「あはは、どうやら本物のようですね。相変わらず手厳しい」
「何を言う。俺は優しいぞ」
「そ、そうですね」

 勝手に城の奥まで入り込んで自分の度肝を抜いた勇者が、淡々と的外れなことを言うので、キュイシュナの気持ちも落ち着いて来た。
 
「それにしてもどうしてここに? 此度の戦のことでしょうか? ですが、勇者は国同士の争いに関わってはならないのでは?」
「国同士の争いだけなら放っておくが、大公国のなんとかいう家は人類全てを危険に晒すものをこの戦に投入して来た。あと、ミホムに救援を要請しただろ」
「すみません。ほかに当てがなかったもので」
「謝ることはない。当然のことだ。……当然のことだが、迷惑だ」
「あはは」

 キュイシュナはここ一年ほどで自分が急速に大人になった気でいたが、久しぶりに子どものような笑い声を上げてしまった。

「その、人類全てを危険に晒すものとは?」
「それは教えられない」
「ええっ!」
「その代わりいい土産がある。南の辺境にある砦に、今攻め込んで来ているなんとか家の公女が捕らえられている」
「へ?」

 話の内容についていけずにキュイシュナの頭のなかは疑問でいっぱいになった。
 しかしそんな彼に構うことなく勇者の言葉は続く。

「どうやらその女、なんとか家の継嗣らしい。吹っ掛けて停戦に持ち込めるだろ。王の手腕の見せ所だ」
「え? は?」
「ということで、俺は忙しいから戻る。頑張れよ。ミホムの援軍が来る前に戦を終わらせておけよ」
「あ、あのっ!」

 勇者はそれだけ告げると、すっと姿を消した。
 間近で見ていたキュイシュナだったが、キョロキョロと見回してみてもどこに消えたかわからない。
 と、扉がゆっくりと開く。

「いい王になれよ」

 最後にそう言って勇者の気配は消えた。
 しばし茫然としていたキュイシュナだったが、すぐに明るい笑い声を上げた。
 笑っても笑っても次から次へと笑いがこみ上げて来て、軍議の開始を知らせに来た従者に心配されてしまったほどだ。

「神は我を見捨てなかったようだぞ」

 あまりの苦しい状況にとうとう王の精神に限界が訪れたと従者は思ったが、当然ながらそれを口にすることはなかった。
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