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第六章 その祈り、届かなくとも……
585 面倒くさい奴が多すぎる
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砦のなかのことは砦主であるニラナイカに任せて外に出た俺達は、待ち合わせの場所にメルリル達がいないことに焦った。
さらに三人を探す俺の耳元にメルリルの声で「ダスターこっちです」と聞こえたときにはさすがに飛び上がった。
なにしろその場にメルリルの姿はなかった訳だからな。
しかし驚いてメルリルの名前を呼びながらキョロキョロと見回す俺の姿を、みんなが不思議そうに見ていることに気づいて冷静になれた。
どうやら風の精霊を使って連絡して来たようだ。
「今、メルリルから連絡があった」
俺の言葉に勇者と聖騎士はああと納得し、バルジは何のことか理解出来ずに首をかしげる。
メルリルの能力のことについてはバルジに明かす気はないので、俺はフォルテに呼びかけた。
「フォルテ、メルリル達のところまで案内してくれ」
「ピャッ」
ばさりとと飛び立つその姿を見て、バルジも納得する。
使役獣を使って伝言をやりとりするのはわりとありふれたことなので、そのようなものなのだろうと思ったらしい。
「しかしどうして勝手に移動したんだ?」
勇者が不思議そうに言った。
「たぶんだが、さっき聞いた外で待機している騎士団と出会ったんじゃないかな? 聖女さまは気にしていたからな」
「ああ、それはありそうだな」
軽くうなずいて、勇者はフォルテを追おうとして、ふとバルジを一瞥する。
「お前、いつまでついて来る気だ? もう砦は出たんだ。どこへでも好きな所へ行け」
そう言うと、それきりぷいっと顔を背けて歩み去った。
言われたほうのバルジはあたふたとした様子になり、俺にすがるような目を向ける。
「ち、ちょっと待ってくれ。俺はこの辺に当てがないんだ。一人で放り出されたら困る」
あ、こいつ、俺達に口利きをしてもらって条件のいい働き場所を確保する気だな。
なるほど、砦主の言う通り、なかなか自分本位の男ではある。
まぁそういう奴だからこそ、作戦をべらべらとしゃべってくれたんだろうけど。
「そうは言っても、俺は勇者さまの従者だ。あの方がお前にどこかへ行けと言えばそれは絶対なんだ。わかるだろ?」
「う……まぁ、そりゃあな」
こいつもどうしようもない奴という訳じゃない。
手遅れになる前に砦の人間が立てこもっていることを教えてくれたしな。
やることに悪意はないんだよな。
単に自分の保身が一番なだけで。
俺はバルジの手に、物入れから取り出した金貨二枚と大銀貨十枚を握らせる。
「これは勇者さまからの贈り物だ。これだけあれば当面の暮らしはなんとかなるだろう。このまま南下してミホムに逃げ込むもよし、今活気のある大連合に行ってみるのもいい。少し危険を冒して故国の大公国へ戻って、違う領地に移住するという方法もある。もちろん冒険者になるという手段もあるが、あまりおすすめはしないぞ。ミホムは開拓民はいつも募集しているし、大連合周辺はある程度腕のたつ護衛はいつも必要とされている。まぁどこかに腰を据えて今後のことをじっくり考えてみるといいさ」
バルジは受け取った金をじっと見て口元に笑みを浮かべる。
雑兵にとっては金貨など一生に一度も手にしないような大金だ。
「お、おう。そうだな、勇者さまのお役に立てただけでも十分なんだが、せっかくのお心だ。ありがたく受け取っておくぜ。いろいろ考えてくれてありがとうな」
バルジは街道の方向を聞くと、そのままペコペコしながら足早に姿を消した。
さすがに自分達が大勢殺した現場近くにいることが、どれだけ危険かは理解はしているらしい。
いくら勇者が止めても復讐心に駆られて手を出す者がいないとは言い切れないからな。
幸いバルジの着ているのは一般的な商家の使用人といった風の服だ。
どこかに紛れ込むのに適している。
しかし、勇者達の活動のために取っておいた金をだいぶ使ったな。
災難に遭った街の救済のために、余分な金は全部置いて来たのがここに来て響いている。
人間社会では金がないと何も出来ない。
金がなくなったらいっそ森に入ってしばらく狩りをするか?
戦の最中という情勢では、周辺三国の教会で資金が調達出来るかどうか怪しいしな。
バルジを見送って勇者達の後を追おうと振り向くと、勇者も聖騎士もまだそこにいた。
「どうした? フォルテを見失ったか?」
「師匠を待っていたに決まっているだろ!」
聖騎士は無言で笑みを浮かべる。
いやいや、先に行けよ。
聖女達が心細く待っているかもしれないだろ。
「行くか」
言いたいことはいろいろあったが、俺は余計なことは言わずにそう言って、空でぐるぐる回っているフォルテのいる方向を目指して歩いた。
実はメルリルからの風の誘導もあるんでフォルテは必要なかったんだけどな。
見せ札と隠し札は常に用意しておくべきだろう。
その後は特に邪魔もなく、すぐにメルリル達と合流することが出来た。
とは言え、そこで面倒が終わった訳ではない。
「勇者さま! もしや砦の皆をお救いくださったのですか!」
そこに待っていたのは暑苦しいほどに感謝を全身で露わにした騎士達だった。
連戦で汚れきった顔に、さらに涙と鼻水が追加されて見苦しいとしか言いようがない姿で出迎えられて、勇者が盛大に顔をしかめたのは言うまでもないだろう。
さらに三人を探す俺の耳元にメルリルの声で「ダスターこっちです」と聞こえたときにはさすがに飛び上がった。
なにしろその場にメルリルの姿はなかった訳だからな。
しかし驚いてメルリルの名前を呼びながらキョロキョロと見回す俺の姿を、みんなが不思議そうに見ていることに気づいて冷静になれた。
どうやら風の精霊を使って連絡して来たようだ。
「今、メルリルから連絡があった」
俺の言葉に勇者と聖騎士はああと納得し、バルジは何のことか理解出来ずに首をかしげる。
メルリルの能力のことについてはバルジに明かす気はないので、俺はフォルテに呼びかけた。
「フォルテ、メルリル達のところまで案内してくれ」
「ピャッ」
ばさりとと飛び立つその姿を見て、バルジも納得する。
使役獣を使って伝言をやりとりするのはわりとありふれたことなので、そのようなものなのだろうと思ったらしい。
「しかしどうして勝手に移動したんだ?」
勇者が不思議そうに言った。
「たぶんだが、さっき聞いた外で待機している騎士団と出会ったんじゃないかな? 聖女さまは気にしていたからな」
「ああ、それはありそうだな」
軽くうなずいて、勇者はフォルテを追おうとして、ふとバルジを一瞥する。
「お前、いつまでついて来る気だ? もう砦は出たんだ。どこへでも好きな所へ行け」
そう言うと、それきりぷいっと顔を背けて歩み去った。
言われたほうのバルジはあたふたとした様子になり、俺にすがるような目を向ける。
「ち、ちょっと待ってくれ。俺はこの辺に当てがないんだ。一人で放り出されたら困る」
あ、こいつ、俺達に口利きをしてもらって条件のいい働き場所を確保する気だな。
なるほど、砦主の言う通り、なかなか自分本位の男ではある。
まぁそういう奴だからこそ、作戦をべらべらとしゃべってくれたんだろうけど。
「そうは言っても、俺は勇者さまの従者だ。あの方がお前にどこかへ行けと言えばそれは絶対なんだ。わかるだろ?」
「う……まぁ、そりゃあな」
こいつもどうしようもない奴という訳じゃない。
手遅れになる前に砦の人間が立てこもっていることを教えてくれたしな。
やることに悪意はないんだよな。
単に自分の保身が一番なだけで。
俺はバルジの手に、物入れから取り出した金貨二枚と大銀貨十枚を握らせる。
「これは勇者さまからの贈り物だ。これだけあれば当面の暮らしはなんとかなるだろう。このまま南下してミホムに逃げ込むもよし、今活気のある大連合に行ってみるのもいい。少し危険を冒して故国の大公国へ戻って、違う領地に移住するという方法もある。もちろん冒険者になるという手段もあるが、あまりおすすめはしないぞ。ミホムは開拓民はいつも募集しているし、大連合周辺はある程度腕のたつ護衛はいつも必要とされている。まぁどこかに腰を据えて今後のことをじっくり考えてみるといいさ」
バルジは受け取った金をじっと見て口元に笑みを浮かべる。
雑兵にとっては金貨など一生に一度も手にしないような大金だ。
「お、おう。そうだな、勇者さまのお役に立てただけでも十分なんだが、せっかくのお心だ。ありがたく受け取っておくぜ。いろいろ考えてくれてありがとうな」
バルジは街道の方向を聞くと、そのままペコペコしながら足早に姿を消した。
さすがに自分達が大勢殺した現場近くにいることが、どれだけ危険かは理解はしているらしい。
いくら勇者が止めても復讐心に駆られて手を出す者がいないとは言い切れないからな。
幸いバルジの着ているのは一般的な商家の使用人といった風の服だ。
どこかに紛れ込むのに適している。
しかし、勇者達の活動のために取っておいた金をだいぶ使ったな。
災難に遭った街の救済のために、余分な金は全部置いて来たのがここに来て響いている。
人間社会では金がないと何も出来ない。
金がなくなったらいっそ森に入ってしばらく狩りをするか?
戦の最中という情勢では、周辺三国の教会で資金が調達出来るかどうか怪しいしな。
バルジを見送って勇者達の後を追おうと振り向くと、勇者も聖騎士もまだそこにいた。
「どうした? フォルテを見失ったか?」
「師匠を待っていたに決まっているだろ!」
聖騎士は無言で笑みを浮かべる。
いやいや、先に行けよ。
聖女達が心細く待っているかもしれないだろ。
「行くか」
言いたいことはいろいろあったが、俺は余計なことは言わずにそう言って、空でぐるぐる回っているフォルテのいる方向を目指して歩いた。
実はメルリルからの風の誘導もあるんでフォルテは必要なかったんだけどな。
見せ札と隠し札は常に用意しておくべきだろう。
その後は特に邪魔もなく、すぐにメルリル達と合流することが出来た。
とは言え、そこで面倒が終わった訳ではない。
「勇者さま! もしや砦の皆をお救いくださったのですか!」
そこに待っていたのは暑苦しいほどに感謝を全身で露わにした騎士達だった。
連戦で汚れきった顔に、さらに涙と鼻水が追加されて見苦しいとしか言いようがない姿で出迎えられて、勇者が盛大に顔をしかめたのは言うまでもないだろう。
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