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第六章 その祈り、届かなくとも……
568 騎士団との合流
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さて、どこかへと行ってしまった若葉をいつまでも気にしてはいられない。
俺たちの目が届かない場所に行ったとしても人間を襲うことはないだろうと思えるぐらいには信頼もある。
まぁこのまま家まで帰ってくれると一番ありがたいんだがな。
大物を倒した俺たちは、まずメルリルの結界を解除して、魔物が集中している場所を探ってもらった。
魔物というよりも移動する魔力濃度の高い場所だ。
「ダスター、魔物は無秩序に森から出ている訳ではないみたい。同じ方向に向かってる」
「ということはその方向に何かがあるということか」
「そう、思う。風の精霊では魔力の流れしかわからないから詳しくはなんとも言えないけど」
メルリルに方向とだいたいの距離を教えてもらい、(残念ながら距離は風の感覚と人間の感覚では違いすぎてわからなかった)その場所をフォルテに探ってもらうことにした。
「とりあえずはミュリアたちと合流だな」
勇者の言葉にうなずいた。
大物二体は倒したものの、小物の魔物まだまだ森から溢れている。
倒せるものは倒しながら聖女の結界に辿り着く。
聖女の結界は目で見えるものではないが、魔力を見ようとすると、空中に不思議な文様が浮かんでいるのが確認出来る。
結界のなかでは先ほどの騎士たちが隊を二つに分けて、一隊が周囲の魔物と戦っている間、もう一隊が休憩して、一定の時間が経ったら交代するという感じで戦いを続けているようだった。
すっかり長期戦の構えだ。
よくよく見れば、騎士団の頑張っていた場所は、メルリルが確認してくれた魔物が向かっている場所と森の中間地点であり、魔物の足止めには効果的なポイントと言えた。
早々にこのポイントを確認して陣取ったのなら指揮官はなかなか優秀なのではないだろうか。
「無事か、ミュリア」
「勇者さま!」
勇者の呼びかけに聖女が嬉しそうに答える。
うん、まだあまり疲弊はしていないな。
むしろ聖女の隣で周囲の騎士たちににらみをきかせているモンクのほうがちょっとお疲れのようだ。
「おおっ! 勇者さまだ! 我らの救世主よ!」
「やった! これで助かるぞ!」
などと騎士たちから歓声が上がる。
「お前たち気を抜くな! 小物と言えども魔物が一匹でも民の居住する街へと入れば被害は甚大なるぞ! 戦え!」
「はっ!」
指揮官の喝に、一瞬浮足立った騎士たちも自分の役割を果たすべく魔物へと攻撃をしかける。
具体的には盾で壁を作り、その間から剣や槍を突き出すみたいな戦法だ。
堅実な戦い方だが、残念ながら人間を想定した戦法なので、跳躍力のある魔物や羽のある魔物は取りこぼしている。
とはいえ、騎士団の隊長さんらしき人は魔物を人里に絶対入れないみたいに言っているが、人里にひっそりと棲み付いている魔物もいなくはないんだよな。
そういう魔物が害を及ぼさないように調整するのが冒険者の役割の一つではある。
人の住む街などではそういった冒険者がこの異常事態に対処していると信じたいところだ。
勇者は周囲の視線も構わず、騎士団の隊長らしき指揮官のところへと行くと、「事情を話せ」と詰め寄った。
その指揮官は何やら葛藤の末、口を開く。
「はっ、勇者殿。ことが起こったのは先日の未明のことでした。大森林近くに住まう民が辺境伯の砦の一つに駆け込みまして。森から魔物が溢れたと、ひどい傷でした。本来魔物の処理は我らの仕事ではありもうせぬ。しかも今、我が国は少々難しい事態に陥っておりまして……」
戦のことは話せないのか言葉を濁す。
「お前たちが大公国に謀られて追い詰められているのは聞いている。続けろ」
「おお、何もかもお見通しでありましたか。……それで、砦の責任者である伯の御子息は、手持ちで動かせる戦力である我ら先遣隊を派遣し、同時に近くの街の冒険者ギルドへと布告を出したのです」
「なるほど。それで、お前たちはここでどのくらい粘っているのだ?」
「はっ、到着してから日が落ち、日が昇るほどに」
それほど時間が経っても本隊が来ることもなく、冒険者も来ないとなると……。
「おそらく街が襲われているな」
俺の言葉に勇者に現状を報告していた指揮官が振り向く。
そして俺の姿に違和感を覚えたのか、顔をしかめた。
「むっ? 貴様、依頼を受けた冒険者か?」
「いえ、俺はその勇者さまの従者です」
「なるほど。よいか、従者は主の話に割り込んではならぬ。勇者さまが慈悲深いお方であるからそのような無礼を放置しているのであろうが、付け上がってはならぬぞ」
多分この指揮官は悪い人じゃないんだろう。
いきなり叱責したり殴ったりせずにまずは言葉で諭してくるあたり、寛容な人物なんだなと思った。
「黙れ。し……あの冒険者は経験豊富だ。魔物に関して素人も同然のお前たちがむしろ伏して教えを乞うべき人物なのだぞ」
「これは勇者殿、異なことを! 身分の差というものはこの世界の秩序を保つ理です。それを軽々しく破ってはなりませぬ。そういった考えは混乱を呼び込むものです」
「はっ、今現在混乱を呼び込んでいるのは貴君の国ではないか。陛下が若年で経験が浅いこの時期こそ、臣下が全力で支えるべきとき。それを内乱を起こし、果ては大国に付け込まれる。おおかた身分の低い者の進言を聞くことも出来ぬぼんくら揃いだったのだろうよ」
「なんと! そのような暴言、いくら勇者殿であろうと聞き捨てなりませぬ!」
「それならどうするのだ? 俺を斬ると? 今がどのようなときであるか頭にないのか? 愚かだな」
うわああ、勇者が煽りまくっている。
今そういうときじゃないって、お前自身が言ってるじゃねえか。
全く仕方ない奴だな。
「勇者さま、ここはお控えを。聖者さまから民を守ることに尽力して欲しいと言われたことをお忘れか? 騎士殿、差し出口申し訳ありませんでした。ですが今は勇者さまのおっしゃったように通常の場面ではありません。民を守ってこその騎士ではありませんか?」
「むう」
勇者が口を尖らせる。
そういうところがまだ子どもっぽいって言うんだよ。
指揮官は俺をぎろりと見たが、やがてうなずいた。
「貴様に言われる筋ではないわ! と、言いたいところではあるが。ここは私が引くべきであろう。確かに緊急のときに平時の理で動く者は愚か。勇者殿、申し訳ありませぬ」
「俺ではない。この者、ダスターの言葉に耳を傾けよ。彼はただの冒険者ではない。多くの者を救いし英雄と呼ばれし者だぞ」
ちょ、お前、いきなり何をぶっこんで来るんだ。
確かに師匠呼びはしなかったが、それはそれでダメだろうが!
俺たちの目が届かない場所に行ったとしても人間を襲うことはないだろうと思えるぐらいには信頼もある。
まぁこのまま家まで帰ってくれると一番ありがたいんだがな。
大物を倒した俺たちは、まずメルリルの結界を解除して、魔物が集中している場所を探ってもらった。
魔物というよりも移動する魔力濃度の高い場所だ。
「ダスター、魔物は無秩序に森から出ている訳ではないみたい。同じ方向に向かってる」
「ということはその方向に何かがあるということか」
「そう、思う。風の精霊では魔力の流れしかわからないから詳しくはなんとも言えないけど」
メルリルに方向とだいたいの距離を教えてもらい、(残念ながら距離は風の感覚と人間の感覚では違いすぎてわからなかった)その場所をフォルテに探ってもらうことにした。
「とりあえずはミュリアたちと合流だな」
勇者の言葉にうなずいた。
大物二体は倒したものの、小物の魔物まだまだ森から溢れている。
倒せるものは倒しながら聖女の結界に辿り着く。
聖女の結界は目で見えるものではないが、魔力を見ようとすると、空中に不思議な文様が浮かんでいるのが確認出来る。
結界のなかでは先ほどの騎士たちが隊を二つに分けて、一隊が周囲の魔物と戦っている間、もう一隊が休憩して、一定の時間が経ったら交代するという感じで戦いを続けているようだった。
すっかり長期戦の構えだ。
よくよく見れば、騎士団の頑張っていた場所は、メルリルが確認してくれた魔物が向かっている場所と森の中間地点であり、魔物の足止めには効果的なポイントと言えた。
早々にこのポイントを確認して陣取ったのなら指揮官はなかなか優秀なのではないだろうか。
「無事か、ミュリア」
「勇者さま!」
勇者の呼びかけに聖女が嬉しそうに答える。
うん、まだあまり疲弊はしていないな。
むしろ聖女の隣で周囲の騎士たちににらみをきかせているモンクのほうがちょっとお疲れのようだ。
「おおっ! 勇者さまだ! 我らの救世主よ!」
「やった! これで助かるぞ!」
などと騎士たちから歓声が上がる。
「お前たち気を抜くな! 小物と言えども魔物が一匹でも民の居住する街へと入れば被害は甚大なるぞ! 戦え!」
「はっ!」
指揮官の喝に、一瞬浮足立った騎士たちも自分の役割を果たすべく魔物へと攻撃をしかける。
具体的には盾で壁を作り、その間から剣や槍を突き出すみたいな戦法だ。
堅実な戦い方だが、残念ながら人間を想定した戦法なので、跳躍力のある魔物や羽のある魔物は取りこぼしている。
とはいえ、騎士団の隊長さんらしき人は魔物を人里に絶対入れないみたいに言っているが、人里にひっそりと棲み付いている魔物もいなくはないんだよな。
そういう魔物が害を及ぼさないように調整するのが冒険者の役割の一つではある。
人の住む街などではそういった冒険者がこの異常事態に対処していると信じたいところだ。
勇者は周囲の視線も構わず、騎士団の隊長らしき指揮官のところへと行くと、「事情を話せ」と詰め寄った。
その指揮官は何やら葛藤の末、口を開く。
「はっ、勇者殿。ことが起こったのは先日の未明のことでした。大森林近くに住まう民が辺境伯の砦の一つに駆け込みまして。森から魔物が溢れたと、ひどい傷でした。本来魔物の処理は我らの仕事ではありもうせぬ。しかも今、我が国は少々難しい事態に陥っておりまして……」
戦のことは話せないのか言葉を濁す。
「お前たちが大公国に謀られて追い詰められているのは聞いている。続けろ」
「おお、何もかもお見通しでありましたか。……それで、砦の責任者である伯の御子息は、手持ちで動かせる戦力である我ら先遣隊を派遣し、同時に近くの街の冒険者ギルドへと布告を出したのです」
「なるほど。それで、お前たちはここでどのくらい粘っているのだ?」
「はっ、到着してから日が落ち、日が昇るほどに」
それほど時間が経っても本隊が来ることもなく、冒険者も来ないとなると……。
「おそらく街が襲われているな」
俺の言葉に勇者に現状を報告していた指揮官が振り向く。
そして俺の姿に違和感を覚えたのか、顔をしかめた。
「むっ? 貴様、依頼を受けた冒険者か?」
「いえ、俺はその勇者さまの従者です」
「なるほど。よいか、従者は主の話に割り込んではならぬ。勇者さまが慈悲深いお方であるからそのような無礼を放置しているのであろうが、付け上がってはならぬぞ」
多分この指揮官は悪い人じゃないんだろう。
いきなり叱責したり殴ったりせずにまずは言葉で諭してくるあたり、寛容な人物なんだなと思った。
「黙れ。し……あの冒険者は経験豊富だ。魔物に関して素人も同然のお前たちがむしろ伏して教えを乞うべき人物なのだぞ」
「これは勇者殿、異なことを! 身分の差というものはこの世界の秩序を保つ理です。それを軽々しく破ってはなりませぬ。そういった考えは混乱を呼び込むものです」
「はっ、今現在混乱を呼び込んでいるのは貴君の国ではないか。陛下が若年で経験が浅いこの時期こそ、臣下が全力で支えるべきとき。それを内乱を起こし、果ては大国に付け込まれる。おおかた身分の低い者の進言を聞くことも出来ぬぼんくら揃いだったのだろうよ」
「なんと! そのような暴言、いくら勇者殿であろうと聞き捨てなりませぬ!」
「それならどうするのだ? 俺を斬ると? 今がどのようなときであるか頭にないのか? 愚かだな」
うわああ、勇者が煽りまくっている。
今そういうときじゃないって、お前自身が言ってるじゃねえか。
全く仕方ない奴だな。
「勇者さま、ここはお控えを。聖者さまから民を守ることに尽力して欲しいと言われたことをお忘れか? 騎士殿、差し出口申し訳ありませんでした。ですが今は勇者さまのおっしゃったように通常の場面ではありません。民を守ってこその騎士ではありませんか?」
「むう」
勇者が口を尖らせる。
そういうところがまだ子どもっぽいって言うんだよ。
指揮官は俺をぎろりと見たが、やがてうなずいた。
「貴様に言われる筋ではないわ! と、言いたいところではあるが。ここは私が引くべきであろう。確かに緊急のときに平時の理で動く者は愚か。勇者殿、申し訳ありませぬ」
「俺ではない。この者、ダスターの言葉に耳を傾けよ。彼はただの冒険者ではない。多くの者を救いし英雄と呼ばれし者だぞ」
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