439 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……
544 ドラゴンにとっての盟約とは
しおりを挟む
「それじゃあフォルテの話ですよね」
俺は肩に降りて来て話を聞いているのかうたたねしているのかわからないフォルテを撫でた。
「キュルッ、クルル……」
機嫌がいいのか眠いのか、俺の指に頭をこすりつけて心地よさげな声を上げる。
いや、これは単に頭が痒かったのかもしれない。
「ほかにも気になることがあるのではないのかね?」
「いえ、対価は等しくですよ。メルリルのことで十分に釣り合いは取れています」
「そうかそうか、君もとうとうそんな相手が出来たんだねぇ。昔は鼻っ柱の強い少年で、曲がったことが嫌いで、やたら主張の強い冒険者と反りが合わずにパーティを組めなかった君が……」
「先生やめてください。昔のことは忘れてください!」
俺は慌てて周囲を見回す。
誰にも聞かれていないだろうな。
特に勇者に聞かれたらうるさいに違いない。
「ふふ。成長したことを恥じる必要はない。誰だって未熟な時期はある。そういう意味では君が勇者殿のお師匠になったことのほうが驚きだが」
「あいつが勝手に言っているだけで、俺は師匠とか柄じゃないですよ。冒険者としての技能も中途半端ですからね」
「そんなことはないさ。冒険者に君の名前を出すと十人中三、四人はなかなか大した冒険者だと言うよ。大したものだ」
「でも結局はそれだけですよ。俺は以前冒険者育成に力を入れていたから、そのときの縁で評価されているだけの話です。俺だって偉大な冒険者になりたいと思わない訳じゃないんですよ。ただ、この年になると分をわきまえるようになる。それだけの話です」
「いやいや、それはよくないよ、ダスター君。考えてもみたまえ、私なんぞもう五十六、世間では老人とか言われる年齢だ。だがね、それでも欲はあるし、知りたいことだらけだ。人は死ぬまで自分であり続けるのだよ。年齢とか限界とか自分で線を引いてはいけないよ」
学者先生の言葉は俺の胸に染みた。
俺はもしかしたら身近に勇者たち若く力に漲った者たちを見て、彼らと自分を比べてしまっていたのかもしれない。
自分は最期まで自分か。
「心します」
「うんうん、それがいいよ。周りを見てあげることだ。君を大切に想う相手がいっぱいいる。素晴らしいじゃないか」
「そう……ですね」
ゴホンと俺は咳払いをして場を仕切りなおす。
「まぁ俺のことはおいておいて、フォルテのことです」
「うんうん。私にもこの子がドラゴンの力を帯びていることはわかるよ。ドラゴンの気配は独特だからね。なんというか異質なんだよ」
「異質……ですか?」
「そう。私たちの使う魔力と彼らの使う魔力は少し違う。油と水が混ざらないように、彼らの魔力と私たちの魔力も混ざることはない。いうなれば世界に馴染んでいないという感じかな」
「ああ、それは……」
俺は学者先生の言うことの理由に心当たりがある。
ドラゴンたちはここではない世界からこの世界に訪れたと言っていた。
この世界と盟約を交わし、世界に干渉しないことを誓って、彼らは大きな力を持ちながらひっそりと暮らしている。
俺の浅い知識では理解出来ていないことも多いが、俺は自分が知ったことをそのまま学者先生に伝えた。
必要なのは事実であり、俺の考えではない。
「おお。素晴らしいな! およそ人でドラゴンとそこまで深い話をした者はかつていないだろう。初代の勇者が何を話したか記録に残っていないので、彼がもっと深いところまで知っていた可能性はあるが、それでも、君の聞いたことはとても貴重だよ。外から訪れた来訪者。彼らはなぜ訪れてその強大な力を言われるままに封じているのか……興味深いとは思わないかい?」
「いや、俺はドラゴンが何を考えているのかについてはあまり興味がないので」
正直な話、もう関わり合いになりたくない。
フォルテはもう仕方がないとして、若葉もいいかげん帰って欲しいところだ。
「それで、話は戻るが、そのフォルテくんは青いドラゴンと君が交わした盟約なのだね?」
「はい。そう言われました。青いドラゴンからは以前たまたま見かけた白いドラゴンが気に入ったので、妻問いをしたいとの伝言を伝えてくれと頼まれただけです。その役目が終わったらフォルテも俺から離れると思っていたのですが」
「つまり君風に言えば、フォルテくんは青いドラゴンからの君への対価ということになる」
「確かにそう考えると納得がいきます。ただ、盟約というのは対価とは違うんじゃないかと思うのですが」
「それは人間の考え方だからね。ドラゴンにとって盟約とは価値がある取引材料なのかもしれない。人間にとっての金銭のように」
学者先生の言葉に俺は虚を突かれたような気持ちになった。
盟約が俺たちにとっての金と同じ? ということは……。
「そう考えると、もしかするとドラゴンが世界と交わした盟約とは、俺たちで言うところの宿代みたいなものということですか?」
「あはは。面白いね。うん。確かにそう考えることが出来る。いや、無理に人間に当てはめることはないが、……だが面白いな」
学者先生はどうも俺の言葉がツボに入ったらしく、盛大に笑った。
周囲で警戒している勇者たちが何事かと振り向く。
俺はなんでもないという風に手を振って、警戒に戻らせたのだった。
俺は肩に降りて来て話を聞いているのかうたたねしているのかわからないフォルテを撫でた。
「キュルッ、クルル……」
機嫌がいいのか眠いのか、俺の指に頭をこすりつけて心地よさげな声を上げる。
いや、これは単に頭が痒かったのかもしれない。
「ほかにも気になることがあるのではないのかね?」
「いえ、対価は等しくですよ。メルリルのことで十分に釣り合いは取れています」
「そうかそうか、君もとうとうそんな相手が出来たんだねぇ。昔は鼻っ柱の強い少年で、曲がったことが嫌いで、やたら主張の強い冒険者と反りが合わずにパーティを組めなかった君が……」
「先生やめてください。昔のことは忘れてください!」
俺は慌てて周囲を見回す。
誰にも聞かれていないだろうな。
特に勇者に聞かれたらうるさいに違いない。
「ふふ。成長したことを恥じる必要はない。誰だって未熟な時期はある。そういう意味では君が勇者殿のお師匠になったことのほうが驚きだが」
「あいつが勝手に言っているだけで、俺は師匠とか柄じゃないですよ。冒険者としての技能も中途半端ですからね」
「そんなことはないさ。冒険者に君の名前を出すと十人中三、四人はなかなか大した冒険者だと言うよ。大したものだ」
「でも結局はそれだけですよ。俺は以前冒険者育成に力を入れていたから、そのときの縁で評価されているだけの話です。俺だって偉大な冒険者になりたいと思わない訳じゃないんですよ。ただ、この年になると分をわきまえるようになる。それだけの話です」
「いやいや、それはよくないよ、ダスター君。考えてもみたまえ、私なんぞもう五十六、世間では老人とか言われる年齢だ。だがね、それでも欲はあるし、知りたいことだらけだ。人は死ぬまで自分であり続けるのだよ。年齢とか限界とか自分で線を引いてはいけないよ」
学者先生の言葉は俺の胸に染みた。
俺はもしかしたら身近に勇者たち若く力に漲った者たちを見て、彼らと自分を比べてしまっていたのかもしれない。
自分は最期まで自分か。
「心します」
「うんうん、それがいいよ。周りを見てあげることだ。君を大切に想う相手がいっぱいいる。素晴らしいじゃないか」
「そう……ですね」
ゴホンと俺は咳払いをして場を仕切りなおす。
「まぁ俺のことはおいておいて、フォルテのことです」
「うんうん。私にもこの子がドラゴンの力を帯びていることはわかるよ。ドラゴンの気配は独特だからね。なんというか異質なんだよ」
「異質……ですか?」
「そう。私たちの使う魔力と彼らの使う魔力は少し違う。油と水が混ざらないように、彼らの魔力と私たちの魔力も混ざることはない。いうなれば世界に馴染んでいないという感じかな」
「ああ、それは……」
俺は学者先生の言うことの理由に心当たりがある。
ドラゴンたちはここではない世界からこの世界に訪れたと言っていた。
この世界と盟約を交わし、世界に干渉しないことを誓って、彼らは大きな力を持ちながらひっそりと暮らしている。
俺の浅い知識では理解出来ていないことも多いが、俺は自分が知ったことをそのまま学者先生に伝えた。
必要なのは事実であり、俺の考えではない。
「おお。素晴らしいな! およそ人でドラゴンとそこまで深い話をした者はかつていないだろう。初代の勇者が何を話したか記録に残っていないので、彼がもっと深いところまで知っていた可能性はあるが、それでも、君の聞いたことはとても貴重だよ。外から訪れた来訪者。彼らはなぜ訪れてその強大な力を言われるままに封じているのか……興味深いとは思わないかい?」
「いや、俺はドラゴンが何を考えているのかについてはあまり興味がないので」
正直な話、もう関わり合いになりたくない。
フォルテはもう仕方がないとして、若葉もいいかげん帰って欲しいところだ。
「それで、話は戻るが、そのフォルテくんは青いドラゴンと君が交わした盟約なのだね?」
「はい。そう言われました。青いドラゴンからは以前たまたま見かけた白いドラゴンが気に入ったので、妻問いをしたいとの伝言を伝えてくれと頼まれただけです。その役目が終わったらフォルテも俺から離れると思っていたのですが」
「つまり君風に言えば、フォルテくんは青いドラゴンからの君への対価ということになる」
「確かにそう考えると納得がいきます。ただ、盟約というのは対価とは違うんじゃないかと思うのですが」
「それは人間の考え方だからね。ドラゴンにとって盟約とは価値がある取引材料なのかもしれない。人間にとっての金銭のように」
学者先生の言葉に俺は虚を突かれたような気持ちになった。
盟約が俺たちにとっての金と同じ? ということは……。
「そう考えると、もしかするとドラゴンが世界と交わした盟約とは、俺たちで言うところの宿代みたいなものということですか?」
「あはは。面白いね。うん。確かにそう考えることが出来る。いや、無理に人間に当てはめることはないが、……だが面白いな」
学者先生はどうも俺の言葉がツボに入ったらしく、盛大に笑った。
周囲で警戒している勇者たちが何事かと振り向く。
俺はなんでもないという風に手を振って、警戒に戻らせたのだった。
21
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。