勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

544 ドラゴンにとっての盟約とは

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「それじゃあフォルテの話ですよね」

 俺は肩に降りて来て話を聞いているのかうたたねしているのかわからないフォルテを撫でた。

「キュルッ、クルル……」

 機嫌がいいのか眠いのか、俺の指に頭をこすりつけて心地よさげな声を上げる。
 いや、これは単に頭が痒かったのかもしれない。

「ほかにも気になることがあるのではないのかね?」
「いえ、対価は等しくですよ。メルリルのことで十分に釣り合いは取れています」
「そうかそうか、君もとうとうそんな相手が出来たんだねぇ。昔は鼻っ柱の強い少年で、曲がったことが嫌いで、やたら主張の強い冒険者と反りが合わずにパーティを組めなかった君が……」
「先生やめてください。昔のことは忘れてください!」

 俺は慌てて周囲を見回す。
 誰にも聞かれていないだろうな。
 特に勇者に聞かれたらうるさいに違いない。

「ふふ。成長したことを恥じる必要はない。誰だって未熟な時期はある。そういう意味では君が勇者殿のお師匠になったことのほうが驚きだが」
「あいつが勝手に言っているだけで、俺は師匠とか柄じゃないですよ。冒険者としての技能も中途半端ですからね」
「そんなことはないさ。冒険者に君の名前を出すと十人中三、四人はなかなか大した冒険者だと言うよ。大したものだ」
「でも結局はそれだけですよ。俺は以前冒険者育成に力を入れていたから、そのときの縁で評価されているだけの話です。俺だって偉大な冒険者になりたいと思わない訳じゃないんですよ。ただ、この年になると分をわきまえるようになる。それだけの話です」
「いやいや、それはよくないよ、ダスター君。考えてもみたまえ、私なんぞもう五十六、世間では老人とか言われる年齢だ。だがね、それでも欲はあるし、知りたいことだらけだ。人は死ぬまで自分であり続けるのだよ。年齢とか限界とか自分で線を引いてはいけないよ」

 学者先生の言葉は俺の胸に染みた。
 俺はもしかしたら身近に勇者たち若く力に漲った者たちを見て、彼らと自分を比べてしまっていたのかもしれない。
 自分は最期まで自分か。

「心します」
「うんうん、それがいいよ。周りを見てあげることだ。君を大切に想う相手がいっぱいいる。素晴らしいじゃないか」
「そう……ですね」

 ゴホンと俺は咳払いをして場を仕切りなおす。

「まぁ俺のことはおいておいて、フォルテのことです」
「うんうん。私にもこの子がドラゴンの力を帯びていることはわかるよ。ドラゴンの気配は独特だからね。なんというか異質なんだよ」
「異質……ですか?」
「そう。私たちの使う魔力と彼らの使う魔力は少し違う。油と水が混ざらないように、彼らの魔力と私たちの魔力も混ざることはない。いうなれば世界に馴染んでいないという感じかな」
「ああ、それは……」

 俺は学者先生の言うことの理由に心当たりがある。
 ドラゴンたちはここではない世界からこの世界に訪れたと言っていた。
 この世界と盟約を交わし、世界に干渉しないことを誓って、彼らは大きな力を持ちながらひっそりと暮らしている。

 俺の浅い知識では理解出来ていないことも多いが、俺は自分が知ったことをそのまま学者先生に伝えた。
 必要なのは事実であり、俺の考えではない。

「おお。素晴らしいな! およそ人でドラゴンとそこまで深い話をした者はかつていないだろう。初代の勇者が何を話したか記録に残っていないので、彼がもっと深いところまで知っていた可能性はあるが、それでも、君の聞いたことはとても貴重だよ。外から訪れた来訪者。彼らはなぜ訪れてその強大な力を言われるままに封じているのか……興味深いとは思わないかい?」
「いや、俺はドラゴンが何を考えているのかについてはあまり興味がないので」

 正直な話、もう関わり合いになりたくない。
 フォルテはもう仕方がないとして、若葉もいいかげん帰って欲しいところだ。

「それで、話は戻るが、そのフォルテくんは青いドラゴンと君が交わした盟約なのだね?」
「はい。そう言われました。青いドラゴンからは以前たまたま見かけた白いドラゴンが気に入ったので、妻問いをしたいとの伝言を伝えてくれと頼まれただけです。その役目が終わったらフォルテも俺から離れると思っていたのですが」
「つまり君風に言えば、フォルテくんは青いドラゴンからの君への対価ということになる」
「確かにそう考えると納得がいきます。ただ、盟約というのは対価とは違うんじゃないかと思うのですが」
「それは人間の考え方だからね。ドラゴンにとって盟約とは価値がある取引材料なのかもしれない。人間にとっての金銭のように」

 学者先生の言葉に俺は虚を突かれたような気持ちになった。
 盟約が俺たちにとっての金と同じ? ということは……。

「そう考えると、もしかするとドラゴンが世界と交わした盟約とは、俺たちで言うところの宿代みたいなものということですか?」
「あはは。面白いね。うん。確かにそう考えることが出来る。いや、無理に人間に当てはめることはないが、……だが面白いな」

 学者先生はどうも俺の言葉がツボに入ったらしく、盛大に笑った。
 周囲で警戒している勇者たちが何事かと振り向く。
 俺はなんでもないという風に手を振って、警戒に戻らせたのだった。
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