勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

542 ミホムへ

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 食事という名の契約が済んだ後は、大切なルート決めだ。
 全員に意見を言うように促しながら、大聖堂からいただいた地図を広げる。

「ほっほ、これはすごい地図だな。私も地図を持っているが、ミホムとその周辺程度のものだよ。そうだ。よかったら地図の突き合わせをしようじゃないか」

 という学者先生の提案で、俺たちの地図と学者先生の手持ちの地図をまずは突き合わせて見ることにした。
 最初に思ったのは、学者先生の地図に書き込みがやたら多いことだ。
 さすが学者先生と言うしかないだろう。
 あと、国土の認識がミホムと大聖堂では多少違うのも面白い。
 ミホムの地図のほうが大連合側にかなり食い込んでいる。
 まぁ大連合側には国境とかいう考え方がないため、季節ごとの滞在地などを勝手に領地として主張しない限り、滅多なことではもめない。
 ただ、熱の山近くにある鉱山では長いこと大連合のなかの一部族と揉めているようだが。

「当たり前のことですが、街道は両方きちんと描かれていますね」

 俺がそう言うと、学者先生は首を横に振っていかにも嘆かわしいという顔をしてみせた。

「それは当たり前ではないよ。街道は国にとっては生命線だ。外に出す地図には記載されていないことが多い。相手が大聖堂だから文句を言わないだけで、他所の国がそんな詳しい地図を作っていたら国として抗議をするだろう」
「戦争をしかけるつもりか? と言い出すだろうな」

 学者先生の言葉に勇者がうなずく。
 なるほどな。こんな地図を一般人が持っていたら他国の間者を疑われる訳だ。

「確かに詳細な地図は一般では取り引きされていませんね」

 一般ではむちゃくちゃぼんやりとした線で各街を繋いでそれぞれの位置だけを示している地図が販売されているだけである。
 旅好きの平野人としては物足りないだろうな。

「私はその、地図の見方が未だによくわかりません」

 メルリルがもじもじしながら言った。

「あ、私も!」

 モンクが手を挙げる。
 もうすっかりその癖が定着したな。

「ほほっ、東方人のやり方だな。東方では学校で子どもたちに勉強を教えているんだが、その際に自分の意見を発言する場合に手を挙げるように教わるらしいからね」
「ああ、それで」

 俺はハッとしたが遅かった。

「しかしまぁ東方の国まで冒険して来たのか。ずいぶん立派な冒険者になったもんだな。いや、勇者のお供かな?」

 あーやっぱりバレた。
 まぁ何をしに行ったかを知られなければ行ったこと自体は別にバレてもいいんだが。
 学者先生だと気づいてしまうかもしれないんだよな。
 別に気づいたからと言って、学者先生が何かにそれを利用するということもないだろうからいいんだが。
 冒険者としては依頼の内容は門外不出だ。
 言いふらしたと疑われるだけで、とんでもない恥であり、冒険者としては致命傷になる。

「あー、先生、そのことは……」
「いやいや、腹を探った訳ではないよ。気を使わせたならすまなかった」
「いえ、俺のほうこそ変に疑ったようで申し訳ない」
「それは当然だ。冒険者は貴族とは違った意味で名誉を大事にする。仕事については詮索しないさ」
「ありがとうございます」

 本当に学者先生には頭が上がらないな。

「そうそう地図の見方だったね。この地形図、山や森といった絵はわかるだろう?」
「はい」「うん」

 メルリルとモンクがじっと学者先生の示す地図上のしるしを見る。

「この棒線が街道。横に書かれている文字が管理者の名前だ。こっちの四角いなかに○が描いてあるのが周りに壁がある都市。そしてただの丸いしるしが街や村だ。○の大きさの差がその街の大きさを示している」
「あ、そういう風に理解すると地図というのはとてもわかりやすいものですね」
「本当だ! でもこれで見ると大連合とミホムの首都の間がすごく短く感じるよ」

 メルリルが嬉しそうに言い、モンクが不思議そうに呟いた。

「そうだ。それぞれいいところに気づいたね。地図は世界をわかりやすくまとめたものであり、大きなものを小さく縮めて描いたものでもある。地図の大きさを世界の広さのように感じてしまわないように注意して利用する必要があるのだ。たとえば、この街とこの街はとても近くに描かれているが、実際は馬で二日の距離がある。近いからと準備を怠ったら何も食べずに一日歩く羽目になるかもしれない」
「ほわあ。確かにそうだね! さすが学者先生。わかりやすい」

 モンクが感心して学者先生を褒めそやした。
 うんうん、相変わらず学者先生は人にものを教えるのがうまいな。
 
「それじゃあ地図を理解したところでルート決めだ。今はここ、大川に流れ込む小さめの川を囲むように作られた市場バザールだな。そして目的地はこっち、やや西寄りの南だ。ルート的には辺境伯の領地を通ったほうがミホムには近い。ただし辺境伯領の国境は、入国者に対するチェックが厳しいことで有名だ。荷物に対する通行税も重い」

 俺が辺境領の話をすると、聖女が口を開いて何かを言おうとしているのが見えた。
 もちろん辺境領は聖女の故郷であり、身分を明かせば国境の検問は通りやすいということはあるかもしれない。
 ただし、前に出たときのことを考えると、絶対面倒なことになる予感しかしない。

「今回は学者先生の荷物は商用ではないので、搾取されると困ったことになる。そこで俺としては大連合の土地をずっと南に進んで、王都の東から入国するルートを提案したい。このルートは商人がよく使うもので、行き来が多いだけに旅人一人一人にいちいち難癖をつけたりはしない。一定の通行料を払って身分を証明すれば特に荷物を詮索されることもないのがありがたい」
「師匠は物知りだな。しかし、そんないい加減な管理で王都に危険なものを持ち込まれたりしないのか?」

 そんな疑問を発したのは勇者だ。
 さすが元王家に近い立場だけに王都のことが気になるのだろう。

「そこは大丈夫。国境を越えても王都に行くためにはもう一つ東砦がある。そこでは厳重な荷調べを行っている」
「ああ、あそこか」

 勇者がうなずく。
 以前、熱の山が噴火したことがあったが、そのときの避難民を収容したのがこの東砦だった。
 勇者が半ば無理やり収容させたのだ。
 何しろ、熱の山の麓の集落にはミホムの民以外にも少数民族が居住している。
 本来は国が守ってやる責任のない民だ。
 そこを勇者権限で無理やり押し付けたのである。

「どうだろうか?」

 俺は自分の意見を言い終えて全員の顔を見る。
 特に聖女の顔を確認すると、なにやら真剣な顔でコクコクとうなずいていた。

「私はそれでいいぞ。ダスター君の立ててくれた計画で間違っていたことはなかったからね」

 学者先生はおおらかだな。

「俺たちも師匠に任せる。ミホム国内ならともかく大連合側から入国となると、俺の知識は当てにならないからな」

 勇者の言葉に聖騎士とモンクも了解の視線を向けて来た。

「私は全然わからないから。ダスターに任せる」

 いっそ堂々とメルリルが宣言する。
 うーん。
 なぜか俺のワンマンチームのような様相を呈して来たが、大丈夫か?
 まぁ確かにルート決めで旅の経験の浅い勇者に頼れないし、学者先生は雑事については全く興味がないからなぁ。

「じゃあ。このルート前提で準備をしよう」

 いよいよミホムへの帰国か。
 やっと冒険者生活に戻れるな。
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