勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

537 家に戻るまでが旅である

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 船着き場ではピャラウとフォウが待っていた。

「せいれいおうさま!」

 フォウさん、やめてください。
 フォウはとんでもないことを叫びながら俺の足に抱きついて来た。
 当然周囲の目が集中し、俺の頭上にいるフォルテが衆目にさらされる。

「おお……ありがたや」
「我らをお救いくださり、ありがとうございます」

 拝むな、泣いている人までいるぞ。
 ちょ、収拾つかないじゃねえか。
 こういうこともあろうかとフードを深く被っていたが、フォルテは堂々と頭の上にいるからな。
 勇者のほうにでも行ってくれればよかったんだが、こいつどうも勇者と相性が悪い。
 しかもそこに若葉が加わったせいで、勇者の近くには全く近寄らなくなった。
 残念ながら押し付けられなかったのである。

「ダスターさん、やっぱり精霊王の依代の御方だったのですね」
「やっぱりってなんだ。違うぞ。誤解だ。フォルテが青い鳥ってだけだ」

 ピャラウまでそんなことを言い出したのできっちりと誤解を解く。

「はい。わかっています。ほら、フォウもそんな大声で言ったらご迷惑でしょう?」
「うん。ごめんね。せいれいおうさま」
「違うからな」

 これ以上このオアシスに滞在するととんでもないことになりそうだったので、早々に出立することにした。
 俺たちはオアシスの入り口の街である連合区に一泊した後、大巫女様やピャラウやフォウ、それと酒場で俺たちの話を吹聴して回ってくれたらしい大巫女様の護衛の戦士に別れを告げ、ミホムに戻るべくまず大連合の入り口である市場バザールに戻る。
 
「お師匠様、リンちゃんたちはどうしますか?」

 聖女が不安そうに聞いて来た。

「連れて行けばいいだろう? 馬は大聖堂に預けたままだし、急ぎの旅でなければ荷物を積んで歩いて移動しても構わないし。お前たちはどうせ辻馬車とかには乗らないよな?」
「はい。通常の街道を通っていては淀みは見つかりにくいので」
「それなら大聖堂まで山岳馬リャマで戻ってそのままあそこで世話してもらえばいい。まぁ山岳馬リャマは山地や荒野に強い生き物だからこの辺のほうが需要があるし、ここか市場バザールで馬に買い換えるという方法もあるが」
「い、いいえ!」

 俺がそう提案すると、聖女が慌てて首を横に振る。

「わたくし、この子たちがいいです」

 どうやらすっかり情が移ってしまったようだ。
 オアシスから市場バザールまでの道は、来るときにピャラウに聞いた道の覚え方のおかげで最短距離で辿り着くことが出来た。

 大連合と他国との交流の街、市場バザールはオアシスとはまた違う喧騒に満ちている。
 姿を偽らずに俺の頭で丸まっているフォルテを見ても首をかしげるぐらいでいきなり拝みだす人もほとんどいない。
 うんうん、こういう適度な距離感がやはり心地良いな。
 とは言え、市場バザールには長く留まることはない。
 旅の準備を再度整えたらミホムに出立だ。

「と言うことで、お前たちとはここでお別れだな」
「ん? どういうことだ、師匠?」

 俺の宣言に勇者が不思議そうに聞き返した。

「いいか。俺はミホムに戻って普通の冒険者の仕事を続ける。お前たちは勇者として世界の安寧のための旅を続ける。ここで別れるのが潮時だ」
「え? 嫌だけど」

 勇者が真顔で即答した。

「嫌とかいいとかいう話じゃないだろ? 俺たちはそもそも役割が違う。それぞれのやるべきことをやる。当たり前のことだろ」
「だって、俺は師匠の弟子だから。弟子は師についてその教えを受けるのが当然だ」
「お前に教えることは何もない」
「俺はまだ教わることだらけだ」
「帰れ」
「嫌だ」
「ダスター」

 俺が勇者を根気よく説得していると、メルリルが笑って言った。

「勇者様と若葉さんのやりとりにそっくり」
「うぐっ」

 つまりそれはこいつが若葉なみに聞き分けがないということか?
 いや、知ってたけどな。

「とにかく俺は戻る。俺の仕事の邪魔は許さないぞ」

 許さないと言いはしても、具体的に勇者相手に何が出来る訳でもないんだよな。
 そこが痛いところではある。

「わかった。師匠の仕事の邪魔はしない」
「うぬぬ……」

 駄目だ。
 俺にはこいつを説得する力がない。
 己の力不足に愕然とするほかない。
 大巫女様はああ言ったが、こんな有様で英雄とか絶対ないからな。
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