勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
425 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

530 精霊王の宿

しおりを挟む
 オアシスの周囲にある大連合の街の一つ、風舞う翼という、昔俺とメルリルとフォルテが滞在した部族の街、その中心にひときわ目立つ建物がある。
 俺たちはそこを目指して歩いた。
 そこで先に行かせた勇者たちや大巫女様と合流する予定だったのだ。
 だが、近づくにつれ、何やらただならぬ雰囲気が漂っているのがわかる。
 ……嫌な予感しかしない。

「いらん! 俺はここで師匠を待つ。信じられない相手の本拠地などに入れるか!」
「西方の勇者殿、おぬしが私をどう思っているかはこの際問題ではない。そのような態度は自分自身の行動を縛るであろうと言っておるのだ」
「何をさかしげに」

 人混みをかき分けて建物へと続く階段の近くまで行くと、勇者と大巫女様が怒鳴り合いに近い言い合いをしていた。

「おおう……」

 思わず顔を覆う。

「あれは誰だ?」
「何やら西方からの客人らしいぞ」
「ほう、大巫女様と対等に言い合いをするとはなかなかやるなあの男」
「大巫女様が勇者と呼んでいらしたよ?」
「ほほう……もしや噂の西方の勇者か? ふむ、大巫女様、あいつと術くらべでもなさらないかな? 久々に本気の大巫女様が見れるかもしれんぞ」
「またあんたったら不謹慎な」

 周囲の部族の人たちは、意外と自分たちの大巫女様と言い合いをしている勇者に嫌悪感を覚えてはいないようだ。
 それどころかなにやら戦いを期待している者までいる。
 昔戦士同士の戦いで土地を取り合っていた名残があるのか?
 そもそも血の気が多いからああいう方法に落ち着いたというのが真実のような気もして来た。

「おい、アルフ。何の騒ぎだ」

 俺は嫌々人混みから抜け出して、注目の的となっている勇者を諌めにかかる。
 っと、おいおい勇者の背中から若葉が興味深そうに大巫女様を見ているぞ。
 まさか食うつもりじゃないだろうな?

「あ、師匠。待ってた。この女が一緒に閉鎖された場所に入ろうと言ってうるさいのだ」
「何を誤解されるようなことをおっしゃるのだ!」
「は? 事実だろ?」

 お前、それ、傍から聞いたら女が男を誘ったように聞こえるぞ。
 大巫女様の立場を考えろや。

「俺たちはご招待いただいている身だぞ。お前がお招きを拒絶する意味がわからん。……大巫女様、お赦しください。この者はその、少し愛想が悪いのです」
「少し?」
「招かれたのは師匠であって俺ではない。それなら師匠を待ってから招きに応じるのが礼儀だろう」

 大巫女様のツッコミを聞こえないフリでスルーする。
 そして勇者が何かもっともらしいことを言っているぞ。

「それを大巫女様に説明したのか?」
「なんで知らない奴に説明する必要があるんだ?」
「もういいわかった。それより……」

 俺は勇者に近づいて小さくささやく。

「若葉を抑えろ。大巫女様を何やら吟味しているように見えるぞ」
「こいつ、あの女の魔力の質がどうとか言ってたぞ。まぁ人間を食ったら俺が討伐するときつく言ってあるから大丈夫だろう」

 若葉には以前人間を食べたりしないように言ってあるから大丈夫と勇者は感じているんだな。
 勇者はいろいろ性格に難はあるが、相手の言葉を判断する勘のようなものは優れている。
 勇者が大丈夫と判断したのなら大丈夫なのだろう。

「あの……」

 大巫女様が困ったように俺を見た。
 周囲に人が集まりすぎているし、大巫女様も立場的にこういういざこざのようなものは問題になるのだろう。
 そもそも俺たちが聖地に行かせてくれと頼んでいる立場なんだから、大巫女様を困らせる訳にはいかない。

「困らせてしまって申し訳ない。こちらの建物はどういった場所なのでしょうか?」
「あ、はい。こちらは祭事を行うときや、大勢の人を集めるときなどに使う建物です。私がこの街に戻ったときに身を落ち着ける場所でもあります」
「つまり大巫女様のお家のようなもの、ですか?」
「私の家というのは少し違いますね。本来はここは精霊王様の宿なのです。そこに王にはべる者である私がお待ちしているということです」
「……精霊王……さまの、宿、ですか……そんな大切な場所に入れていただいてもよろしいのですか?」
「もちろんです。大祖母様は、お客人は王の友としてもてなすべしというお言葉を遺されました。その後を継ぐ者はその言葉に従います」

 にこりと笑う。
 うーん。
 これ、バレてないんだよな。
 どうも大巫女様は感情を表に出さないからわかりにくい。
 とりあえずこれ以上外で騒ぐのはよくないことだけは確かだ。

「それでは遠慮なくお邪魔させていただきます」
「歓迎いたします。我ら風舞う翼の民、青き翼をお迎えするのと同じに、遠くからのお客人をおもてなしいたしましょう」

 幅広い階段には青い絨毯のような敷物が敷かれている。
 そこを踏んで高い場所にある巨大な建造物に入った。
 勇者ももう文句を言うことなくそれに続く。
 さっき勇者の後ろでひたすらあわあわしていた聖女様もほっとしたようにその後に続いていた。

 勇者はあれだな、俺を立てるために自分が先に招かれる訳にはいかないと考えたのだろう。
 そういうところは徹底しているからな。
 貴族らしい几帳面さとはまた違って、勇者には目上と定めた者に対しての考え方が独特なところがある。
 自分の決めたことは絶対に譲らないしな。
 
 建物の正面は垂れ幕によって仕切られている。
 なかにはさらに段差があって、水桶を持った少女たちが待っていた。

「こちらでお履きものを脱いでいただけますか? 足はその娘たちがお洗いします」
「え? あ、はい」

 神聖な建物だから外の土を入れないとかそういうのだろうか?
 建物のなかは一面美しく織られた敷物が敷き詰められていて、素足でも問題なさそうだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。