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第六章 その祈り、届かなくとも……
529 干しナツメを美味しく作れる奥さん
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一番気になっていたミャアと鷹のダックの話を聞いて、その後いかにして湖が出来たのか、そこからどうやって地下水路を作ったのかという話を簡単に教えてもらった。
簡単になったのは爺さん本人もあまり詳しい内容を知らなかったからだ。
「何やってるのかわからずとも壮観だったのは間違いないさ。なにせ全部族の精霊憑きが力を合わせて成し遂げたんだからな。最高にワクワクする時代だったよ」
とのことだった。
「だいぶ長居しちまったな。いい話を聞けたよ。ありがとう」
「ありがとうございます」
「おお、ちょっと待ちなされ」
俺とメルリルが爺さんの家を辞そうとしたら制止された。
なにやら部屋の奥の床下にある収納庫らしき場所を探ると、両手で持てるぐらいの土焼きのツボを取り出して来て、それを渡される。
「これを受け取ってください。うちの婆さんはここらで最高の干しナツメを作っていてな。今は娘が作り方を受け継いで作っているんです。これを食ったらほかの干しナツメは食う気にならなくなるのが唯一の欠点ですけどね」
「いいのか?」
「ははは。あなたが俺たちにしてくれたことを考えたらそんなものじゃ足りないだろうけど。俺の家族が一番誇れるものと言ったらこれなんですよ」
「ありがとう」
俺は遠慮なくその干しナツメの詰まった壺を受け取った。
蓋を開けてみると、今まで見た干しナツメよりも黒みが強い。
口に含んでみて驚いた。
まるで口のなかで溶けていくような柔らかさと、強い甘味でありながらどこか優しい味、そしてふわりと鼻に抜ける甘い香りが体に染み透るようだ。正に癖になりそうな味だった。
爺さんの奥さん、そしてその味を受け継いだ娘さんは、正に素晴らしい干しナツメ作りの達人なのだろう。
メルリルにも一個渡すと、口に含んだ途端にうっとりとした顔になる。
「……美味しい」
「きっちり栓をしておけば半年程度は持つから。楽しんで食べてくれよ」
「ありがとう、お爺さん」
俺たちは礼を言うと、今度こそ爺さんの家を後にした。
と、そこに丁度爺さんの孫が戻って来た。
「お、今帰りかい? そうだ、さっきの飾り、ありがとうな! すっごい喜んでもらったぜ」
「そうか。よかったな。俺もいろいろ話が聞けて楽しい時間だったよ」
「え? でも、爺さんは……お、それ、おふくろの干しナツメだろ? へー、爺さんが他人にそれをやるなんて、よっぽど気に入られたんだな。……って、ん? あれ? ええっ! どういうことだ? ボケてから収納庫を開けること出来なくなってたじゃないか。爺さん? おい!」
「なんだ、うるさいぞ! バカ孫が、客人の前で恥ずかしいだろうが」
「え? 爺さん……俺がわかるのか?」
何やら身内の話が始まったようだ。
俺たちがいると邪魔になりそうなのでそのままその場を離れた。
「あ、フォルテ。また小さくなっておくんだぞ?」
「キュ~」
「お前、バレたら大騒ぎだぞ? お前はいいかもしれないが俺は嫌だ」
「ピャ、ゲッゲッギャッ!」
「うるさい、わかった。この干しナツメを一つやろう」
小さくなるのがあまり好きじゃないとうるさいフォルテを黙らせるためにもらったばかりの干しナツメをやる。
「クルル!」
パクリと、ひと口に飲み込んで、途端にご機嫌になったフォルテは再び小さくなって俺の髪のなかに隠れた。
「こいつめ……」
「ふふ……フォルテはダスターと同じで窮屈なのは嫌だって」
「俺はここまでわがままじゃないし、食い物に釣られたりしないぞ」
「あはは。フォルテはまだ子どもだから」
「やめてくれ。なんかこう、ずっと子守りをしながら旅をしているような気分になる」
もらった干しナツメをきっちりとスライムジェルの箱に詰め込んだ。
「これは特別なとき用だな。普通の干しナツメはまだあるし。爺さんの言葉じゃないが、この味に慣れてしまったら大変だ」
「すごく美味しかった。私もあんな美味しいものを作れるようになるといいけど」
「なるさ」
俺の言葉にメルリルが不安そうな顔を向ける。
どうやらよほど料理が下手なことを気にしていたようだ。
「料理ってのは知識と経験と学ぼうとする姿勢がものを言う技術だ。メルリルはずっと頑張っているじゃないか。もうお茶は旨く淹れることが出来るようになったし、料理もすぐに応用が利くようになるさ」
「ありがとう、ダスター」
「礼を言われるようなことじゃない」
メルリルが差し出した手を握る。
人通りは多くないがまぁ手はつないでいたほうがいいだろうしな。
「待ち合わせの場所は……と」
大巫女様が示した大きな建物を探す。
と、探すまでもなく目立つ建物はすぐに見つかった。
なにしろこの部族の街で一番背が高い建物なのだ。
どこからでも目立つ。
見た目から言うと、石と草と布で出来た城……いや、城は言い過ぎか、砦みたいな感じかな。
とは言え、砦と言うには堅牢さよりも華やかさを感じる。
そこに掛かった布織物にも大きな青い鳥の姿が描かれていた。
うん、……フォルテには当分我慢してもらうしかないだろう。
簡単になったのは爺さん本人もあまり詳しい内容を知らなかったからだ。
「何やってるのかわからずとも壮観だったのは間違いないさ。なにせ全部族の精霊憑きが力を合わせて成し遂げたんだからな。最高にワクワクする時代だったよ」
とのことだった。
「だいぶ長居しちまったな。いい話を聞けたよ。ありがとう」
「ありがとうございます」
「おお、ちょっと待ちなされ」
俺とメルリルが爺さんの家を辞そうとしたら制止された。
なにやら部屋の奥の床下にある収納庫らしき場所を探ると、両手で持てるぐらいの土焼きのツボを取り出して来て、それを渡される。
「これを受け取ってください。うちの婆さんはここらで最高の干しナツメを作っていてな。今は娘が作り方を受け継いで作っているんです。これを食ったらほかの干しナツメは食う気にならなくなるのが唯一の欠点ですけどね」
「いいのか?」
「ははは。あなたが俺たちにしてくれたことを考えたらそんなものじゃ足りないだろうけど。俺の家族が一番誇れるものと言ったらこれなんですよ」
「ありがとう」
俺は遠慮なくその干しナツメの詰まった壺を受け取った。
蓋を開けてみると、今まで見た干しナツメよりも黒みが強い。
口に含んでみて驚いた。
まるで口のなかで溶けていくような柔らかさと、強い甘味でありながらどこか優しい味、そしてふわりと鼻に抜ける甘い香りが体に染み透るようだ。正に癖になりそうな味だった。
爺さんの奥さん、そしてその味を受け継いだ娘さんは、正に素晴らしい干しナツメ作りの達人なのだろう。
メルリルにも一個渡すと、口に含んだ途端にうっとりとした顔になる。
「……美味しい」
「きっちり栓をしておけば半年程度は持つから。楽しんで食べてくれよ」
「ありがとう、お爺さん」
俺たちは礼を言うと、今度こそ爺さんの家を後にした。
と、そこに丁度爺さんの孫が戻って来た。
「お、今帰りかい? そうだ、さっきの飾り、ありがとうな! すっごい喜んでもらったぜ」
「そうか。よかったな。俺もいろいろ話が聞けて楽しい時間だったよ」
「え? でも、爺さんは……お、それ、おふくろの干しナツメだろ? へー、爺さんが他人にそれをやるなんて、よっぽど気に入られたんだな。……って、ん? あれ? ええっ! どういうことだ? ボケてから収納庫を開けること出来なくなってたじゃないか。爺さん? おい!」
「なんだ、うるさいぞ! バカ孫が、客人の前で恥ずかしいだろうが」
「え? 爺さん……俺がわかるのか?」
何やら身内の話が始まったようだ。
俺たちがいると邪魔になりそうなのでそのままその場を離れた。
「あ、フォルテ。また小さくなっておくんだぞ?」
「キュ~」
「お前、バレたら大騒ぎだぞ? お前はいいかもしれないが俺は嫌だ」
「ピャ、ゲッゲッギャッ!」
「うるさい、わかった。この干しナツメを一つやろう」
小さくなるのがあまり好きじゃないとうるさいフォルテを黙らせるためにもらったばかりの干しナツメをやる。
「クルル!」
パクリと、ひと口に飲み込んで、途端にご機嫌になったフォルテは再び小さくなって俺の髪のなかに隠れた。
「こいつめ……」
「ふふ……フォルテはダスターと同じで窮屈なのは嫌だって」
「俺はここまでわがままじゃないし、食い物に釣られたりしないぞ」
「あはは。フォルテはまだ子どもだから」
「やめてくれ。なんかこう、ずっと子守りをしながら旅をしているような気分になる」
もらった干しナツメをきっちりとスライムジェルの箱に詰め込んだ。
「これは特別なとき用だな。普通の干しナツメはまだあるし。爺さんの言葉じゃないが、この味に慣れてしまったら大変だ」
「すごく美味しかった。私もあんな美味しいものを作れるようになるといいけど」
「なるさ」
俺の言葉にメルリルが不安そうな顔を向ける。
どうやらよほど料理が下手なことを気にしていたようだ。
「料理ってのは知識と経験と学ぼうとする姿勢がものを言う技術だ。メルリルはずっと頑張っているじゃないか。もうお茶は旨く淹れることが出来るようになったし、料理もすぐに応用が利くようになるさ」
「ありがとう、ダスター」
「礼を言われるようなことじゃない」
メルリルが差し出した手を握る。
人通りは多くないがまぁ手はつないでいたほうがいいだろうしな。
「待ち合わせの場所は……と」
大巫女様が示した大きな建物を探す。
と、探すまでもなく目立つ建物はすぐに見つかった。
なにしろこの部族の街で一番背が高い建物なのだ。
どこからでも目立つ。
見た目から言うと、石と草と布で出来た城……いや、城は言い過ぎか、砦みたいな感じかな。
とは言え、砦と言うには堅牢さよりも華やかさを感じる。
そこに掛かった布織物にも大きな青い鳥の姿が描かれていた。
うん、……フォルテには当分我慢してもらうしかないだろう。
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