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第六章 その祈り、届かなくとも……
517 癒やしと奇跡と
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捕まっていた者たちを監禁場所から出すときに問題が発生した。
全員が片足を引きずっているのだ。
よく見ると足首に傷がある。
これはあれだ、よくある逃亡防止の方法だ。
奴隷の逃亡防止のやり方にはいくつかあるが、一般的なものが足枷になる。
ただ、足枷はそれなりに高価な代物だ。
そのため、盗賊が奴隷用に捕まえた人間の足の腱を切るという話はよく聞く。
奴隷に傷をつけることはその価値を下げることに繋がるが、意外と走れない奴隷を重宝する連中も多い。
力仕事をさせるにはむずかしいが、雑用ならそれほど問題にならないからだ。
胸くそ悪い話だが、なかには舌を切り取って秘密の多い仕事を手伝わせるという主人もいる。
さすがに目の当たりにすると腹が立つものだな。
「ん? 捕まったときにケガをしたのか? 子どもにまで剣を向けるとはとんでもない連中だな」
勇者が腹を立てたように言う。
どうやら逃亡防止に片足が動かないようにされているとは思いもしないようだ。
想像力がないというよりは基本的に善良なのだろう。
まぁ勇者だしな。
「いえ、これは、私たちが逃げないようにと、足の筋を切られたんです」
さっき子どもたちを呼んだ若い男が説明した。
どうやら彼がこの集団のまとめ役のようである。
「なんだと!」
勇者の顔色が変わる。
鋭い視線を案内して来た若い盗賊に向け、厳しく詰問した。
「本当か!」
「ひ、ひい、申し訳も……」
盗賊の青年は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら平伏する。
「お前がやったのか?」
「ま、まさか、俺にそんな技量はありゃしません。親分が、その……」
「技量の問題じゃないだろうが!」
「ひえっ、お赦しを!」
ガタガタ震えてもはや話すどころではない盗賊の青年を見ながら、捕まっていた男が説明を続けた。
「やったのは盗賊団の首領ですよ。ケタケタ笑いながら、動いたら足が斬れるぞと脅かしやがって、……クソ野郎が!」
ツバを吐き捨てながら説明する。
「くそ外道が! 師匠、あの野郎今からでも生きたまま土に埋めよう」
勇者がかなりお怒りだ。
その気持はすごくわかるぞ。
「まぁ待て。その前にこの人たちの傷をミュリアに診せてみよう。古い傷とかは難しいことがあると聞いたが、なんとかなるかもしれないし」
「お、そうか。そうだな!」
聖女の力ならもしかするとこの足も治せるかもしれない。
勇者もそれを理解して明るい表情になった。
「え? どういうことですか?」
捕まっていた人たちは理解が追いつかない様子だが、まぁいろいろ考えるよりも実際にやってみせるのが早い。
しかし、小さな子どもの足の腱まで容赦なく切りやがって、あの野郎。
勇者の言う通り岩のなかに埋めてしまいたい気持ちになる。
まぁそれよりもこの人たちが先だろう。
案内をしていた若い盗賊もこの監禁場所の入り口にいたもう一人と一緒に拘束しておく。
それから足を引きずる人たちを導いて、狭い通路を上る。
さすがに片足しか使えない子どもたちに階段は苦しいので俺たちで抱え上げる。
全部で三人だから丁度いいな。
「せいれいおうさま?」
俺が抱え上げた子どもは見たところ五歳か六歳ぐらいか?
大連合では子どもでも精霊王の話は知っているらしい。
肩に担ぎ上げている状態から頭の上のフォルテをしげしげ眺めている。
手を出していいのかどうかわからないという感じで、ときどき手を合わせて「たすけてくださってありがとうございます」というような意味のことをムニャムニャ言っていた。
困ったな。
この調子じゃフォルテを連れてオアシスに行くと大変なことになりそうだぞ。
いちいち違うと言って回る訳にもいかないし。
万が一を考えて広間に残していたメルリルと聖女に合流する。
「お師匠さま、その人たちは?」
「捕まっていた人たちだ。ミュリアちょっと診てもらえないか? 足の腱を切られているんだが、治せるだろうか?」
「まぁ! なんてことを」
驚きをあらわにした聖女だったが、すぐに真顔になって俺から受け取った女の子の足の傷に触れた。
「痛いの我慢出来ますか?」
聖女が女の子に尋ねる。
「いたいの?」
「ええ。一度治ったところを切断してつなぎ直す必要があります。だから痛いんです。ごめんなさい。痛みを抑えるやり方を併用するつもりですが、どうしても切れた瞬間は少し痛いと思います」
「あるけるようになるの?」
「はい」
「ならがまんする!」
「えらいですね」
聖女は女の子を褒めた。
「大丈夫そうか?」
勇者が心配そうに尋ねる。
「はい。こういった傷は古くなればなるほど元通りになりにくいのですが、この傷はまだそこまで古くないので、なんとか」
「そうか、よかった」
勇者がほっと息を吐く。
周囲で聞いていた捕まっていた人たちが驚愕の声を上げる。
「ど、どういうことだ? 一度ふさがった傷を治せるのか?」
「……隠すことでもないから教えるが、あの青年は勇者で、あの少女は聖女だ。あんたたちは運が悪かったが、同時に運に恵まれた」
俺がそう告げると、男は驚愕の浮かんだ顔で勇者と聖女を見て、最後に俺をマジマジと見た。
「勇者と精霊王の御使いが共にいるのか?」
「いや、フォルテは精霊王じゃねえし、俺も御使いじゃないからな」
「そ、そうなのか? しかし、そのお姿は……それに森人の巫女を連れている」
くっ、メルリルのことまで把握されているのか。
俺は聖地を去ったときのことを思い浮かべる。
突然滝が出来るという奇跡が起きた瞬間におそらく俺たちの姿は消えたはずだ。
何か超常の存在に思われても仕方がない状況だったのだろう。
そもそもミャアは最初からフォルテを精霊王と呼んでいた。
絶対ミャアから話が広まったに違いない。
「俺は普通の冒険者だ」
俺は強固に主張するのだった。
全員が片足を引きずっているのだ。
よく見ると足首に傷がある。
これはあれだ、よくある逃亡防止の方法だ。
奴隷の逃亡防止のやり方にはいくつかあるが、一般的なものが足枷になる。
ただ、足枷はそれなりに高価な代物だ。
そのため、盗賊が奴隷用に捕まえた人間の足の腱を切るという話はよく聞く。
奴隷に傷をつけることはその価値を下げることに繋がるが、意外と走れない奴隷を重宝する連中も多い。
力仕事をさせるにはむずかしいが、雑用ならそれほど問題にならないからだ。
胸くそ悪い話だが、なかには舌を切り取って秘密の多い仕事を手伝わせるという主人もいる。
さすがに目の当たりにすると腹が立つものだな。
「ん? 捕まったときにケガをしたのか? 子どもにまで剣を向けるとはとんでもない連中だな」
勇者が腹を立てたように言う。
どうやら逃亡防止に片足が動かないようにされているとは思いもしないようだ。
想像力がないというよりは基本的に善良なのだろう。
まぁ勇者だしな。
「いえ、これは、私たちが逃げないようにと、足の筋を切られたんです」
さっき子どもたちを呼んだ若い男が説明した。
どうやら彼がこの集団のまとめ役のようである。
「なんだと!」
勇者の顔色が変わる。
鋭い視線を案内して来た若い盗賊に向け、厳しく詰問した。
「本当か!」
「ひ、ひい、申し訳も……」
盗賊の青年は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら平伏する。
「お前がやったのか?」
「ま、まさか、俺にそんな技量はありゃしません。親分が、その……」
「技量の問題じゃないだろうが!」
「ひえっ、お赦しを!」
ガタガタ震えてもはや話すどころではない盗賊の青年を見ながら、捕まっていた男が説明を続けた。
「やったのは盗賊団の首領ですよ。ケタケタ笑いながら、動いたら足が斬れるぞと脅かしやがって、……クソ野郎が!」
ツバを吐き捨てながら説明する。
「くそ外道が! 師匠、あの野郎今からでも生きたまま土に埋めよう」
勇者がかなりお怒りだ。
その気持はすごくわかるぞ。
「まぁ待て。その前にこの人たちの傷をミュリアに診せてみよう。古い傷とかは難しいことがあると聞いたが、なんとかなるかもしれないし」
「お、そうか。そうだな!」
聖女の力ならもしかするとこの足も治せるかもしれない。
勇者もそれを理解して明るい表情になった。
「え? どういうことですか?」
捕まっていた人たちは理解が追いつかない様子だが、まぁいろいろ考えるよりも実際にやってみせるのが早い。
しかし、小さな子どもの足の腱まで容赦なく切りやがって、あの野郎。
勇者の言う通り岩のなかに埋めてしまいたい気持ちになる。
まぁそれよりもこの人たちが先だろう。
案内をしていた若い盗賊もこの監禁場所の入り口にいたもう一人と一緒に拘束しておく。
それから足を引きずる人たちを導いて、狭い通路を上る。
さすがに片足しか使えない子どもたちに階段は苦しいので俺たちで抱え上げる。
全部で三人だから丁度いいな。
「せいれいおうさま?」
俺が抱え上げた子どもは見たところ五歳か六歳ぐらいか?
大連合では子どもでも精霊王の話は知っているらしい。
肩に担ぎ上げている状態から頭の上のフォルテをしげしげ眺めている。
手を出していいのかどうかわからないという感じで、ときどき手を合わせて「たすけてくださってありがとうございます」というような意味のことをムニャムニャ言っていた。
困ったな。
この調子じゃフォルテを連れてオアシスに行くと大変なことになりそうだぞ。
いちいち違うと言って回る訳にもいかないし。
万が一を考えて広間に残していたメルリルと聖女に合流する。
「お師匠さま、その人たちは?」
「捕まっていた人たちだ。ミュリアちょっと診てもらえないか? 足の腱を切られているんだが、治せるだろうか?」
「まぁ! なんてことを」
驚きをあらわにした聖女だったが、すぐに真顔になって俺から受け取った女の子の足の傷に触れた。
「痛いの我慢出来ますか?」
聖女が女の子に尋ねる。
「いたいの?」
「ええ。一度治ったところを切断してつなぎ直す必要があります。だから痛いんです。ごめんなさい。痛みを抑えるやり方を併用するつもりですが、どうしても切れた瞬間は少し痛いと思います」
「あるけるようになるの?」
「はい」
「ならがまんする!」
「えらいですね」
聖女は女の子を褒めた。
「大丈夫そうか?」
勇者が心配そうに尋ねる。
「はい。こういった傷は古くなればなるほど元通りになりにくいのですが、この傷はまだそこまで古くないので、なんとか」
「そうか、よかった」
勇者がほっと息を吐く。
周囲で聞いていた捕まっていた人たちが驚愕の声を上げる。
「ど、どういうことだ? 一度ふさがった傷を治せるのか?」
「……隠すことでもないから教えるが、あの青年は勇者で、あの少女は聖女だ。あんたたちは運が悪かったが、同時に運に恵まれた」
俺がそう告げると、男は驚愕の浮かんだ顔で勇者と聖女を見て、最後に俺をマジマジと見た。
「勇者と精霊王の御使いが共にいるのか?」
「いや、フォルテは精霊王じゃねえし、俺も御使いじゃないからな」
「そ、そうなのか? しかし、そのお姿は……それに森人の巫女を連れている」
くっ、メルリルのことまで把握されているのか。
俺は聖地を去ったときのことを思い浮かべる。
突然滝が出来るという奇跡が起きた瞬間におそらく俺たちの姿は消えたはずだ。
何か超常の存在に思われても仕方がない状況だったのだろう。
そもそもミャアは最初からフォルテを精霊王と呼んでいた。
絶対ミャアから話が広まったに違いない。
「俺は普通の冒険者だ」
俺は強固に主張するのだった。
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