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第六章 その祈り、届かなくとも……
500 不思議な湖
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聖女たちが到着したのは、次の日の昼頃だった。
かなり急いだようだ。
まさかと思うが夜通し歩いたりしてないだろうな?
いくら光源の魔法があったとしても山で夜歩くのは無茶すぎる。
まぁその辺は案内人のモル少年がいるから大丈夫か。
「ダスター!」
ふわっとメルリルが文字通り飛んで来る。
おい、崖を飛び降りるな、大丈夫だとわかっていてもびっくりするだろ!
「メルリル、そういうことをすると落ちると思って助けようとした人がケガをしたりするからやめるんだ」
「あ、ごめんなさい。つい」
「ダスターさん、最初の言葉がそれ?」
俺が思わずメルリルを叱ってしまうと、モンクがぴょんぴょん器用に崖を降りて来るやいなや突っかかって来た。
「大事なことだろ」
「もっと大事なこと、あるでしょ!」
「テスタ、いいの。私が悪かったんだから」
「メルリルは遠慮しすぎ! 仲間なんだから、ううん、恋人同士なんだからもっと積極的でいいんだよ? 男なんて、メルリルぐらいきれいな女の人に抱きつかれたらなんだってオッケーしちゃうんだから」
モンクさんや、お前さん何をメルリルに教えようとしているんだね?
「もう、ダスターはそんなんじゃないから!」
いや、メルリル、それは俺を過信しすぎだ。
モンクの言うことはだいたい正しい。
しかし、そんなことをメルリルに言う訳にもいかず、俺は話を反らすためにも、そしてモンクに怒られたことを反省する意味もあって、改めてメルリルに向き合う。
「メルリルみんなを連れて来てくれてありがとう。助かった」
ギュッと抱きしめてみる。
くっ、やわらかくていい匂いがするぞ。
なぜだ。
みんな体を拭くことも出来てないのに。
メルリルからはどうして花の匂いがするんだ?
「ほわあああ」
メルリルのなにやらふにゃっとした声が耳をくすぐる。
「ちょっと、ダスターさん。誰がそっちから抱きつけって言った? ほら、メルリルが真っ赤になってるじゃない! ったく、これだから男は!」
おおう、またモンクに叱られてしまった。
厳しい。
何が正解なんだ?
「コホン、いいかな? おっさん」
「あ、モル。お前もみんなを連れて来てくれてありがとうな。……なんで後ろに下がるんだ?」
「いや、男に抱きつかれる趣味はないから」
「俺だって男に抱きつく趣味はない」
とりあえず誤解が解けたところで、モル少年は横たわる飛竜を見て一瞬言葉を無くしてマジマジと見る。
「おおう、改めて見るとすげえな。このデカさ。今まで見たなかで一番かもしんねえ」
「そうか。何かに利用出来そうか?」
「俺はそういうのあんまり詳しくないけどさ、これだけあれば大勢の戦士の装備と武器が作れるし、肉も大量にあるからこの時期にはありがたいと思うぞ」
「肉は処理に手間がかかるから、この量は逆に大変じゃないか?」
「いや、それが……」
「それは安心してくだされ」
モル少年が説明しようとしたところで、勇者パーティを追いかけて来たのだろう。
後から到着した山岳の民の男性集団の一番年長に見える者が話を引き取った。
「こんにちは。あの村の方ですか?」
「ああ、おかげで助かりました。村のみなの感謝をあなた方へ」
お、山中に住む山岳の民は排他的で、他種族に冷たいものなのだが、この男は親しみがこもった挨拶をしてくれた。
「その礼は俺ではなく、あっちの勇者に頼む。民が苦しんでいればそれを救うのが勇者の努めだからな」
「もちろんです。ありがとうございます、勇者さま」
「……」
おい、なんか言ってやれよ勇者。
山岳の民の男の感謝に無表情で返した勇者のおかげで気まずい沈黙が降り、俺は空気を変えるために、話を引き取った。
「ところで、あの飛竜の大量の肉を処理する方法があるようなことを言われていたようですが」
「お、おお。そうです。実はこの湖ですが、飲料に適さない水でして。あ、飲んだりはしてらっしゃらないでしょうね?」
「大丈夫です。それに俺たちには聖女さまもいらっしゃいますからご心配には及びません」
「おお、聖女さま。ありがたいことです。村のけが人も治していただいて」
さすがは聖女さま、きっちりとやるべきことはやって来たんだな。
「飲むことは出来ませんが、魔物の毒を抜くことが出来る不思議な水なのです」
「それは、便利ですね」
「ええ。私等のような山住まいの者にはとても助かる水です」
「実は、斬り落とした飛竜の尻尾が湖のなかに落ちてしまったのですが……水質が変わってしまうことは?」
「大丈夫でしょう。この山には猛毒を持つ蛙もいますが、その毒ですらこの水は吸い取ってしまいますから」
「魔力だけでなく、普通の毒も、ですか?」
「はい」
それは凄いな。
そう言えばこの湖、妙に青いし、水源らしき湧き水も妙な感覚だったし、何かありそうだな。
「村の呪術師に言わせると、目に見えない小さな魔物がこの湖には棲んでいて、それがなんでも分解して食べてしまうのだそうです」
「……目に見えない魔物」
そう聞くと、途端に不気味な水に見えて来る。
目を凝らしても魔力光は感知出来ないが、逆に言えばそれこそがおかしいんだよな。
何しろつい昨日飛竜の尻尾が落ちたばかりだ。
まだ十分に魔力がこもっている肉の塊があるんだからぼんやりとでも魔力は発するはずなのである。
「そんな怪しい水に食べ物を浸けたりして大丈夫なのですか?」
「毒が抜けた辺りで引き上げて、よく洗えば大丈夫です。この水は肉などの物質を分解するのは苦手のようなので、毒を吸い出すまでは固形物はそのままなのです」
「なるほど」
もし目に見えない大きさの魔物が本当にいるとしたら、山岳の民は魔物と上手に共存していると言うことなのだろう。
そう言えば死喰い鳥とも共生のような関係を築いているようだしな。
さすがに厳しい場所で生活している人たちだ。
俺たちがそんな話をしている間に、この男と一緒に来ていた村の男衆があの山のようだった飛竜を解体してしまっていた。
手際がいいな。
「あの、よろしければ今夜は皆さんをお招きして宴を執り行いたいと思うのですが、いかがでしょう?」
「アルフ、勇者さま。どうなさいますか?」
そういうことは勇者が決めることだ。
俺はちょっと嫌味ったらしく勇者に尋ねた。
「……っ、師匠がいいなら俺もそれでいい」
なんだその言い方は。
「おお。勇者さまのお師匠さまでしたか! 道理で余人と違う威厳がおありと思っていました」
いやいや、俺にお世辞を言っても仕方ないぞ。
「ほう。わかるのか?」
突然、今まで無視を決め込んでいた勇者が村の男に向き合った。
「もちろんです。さすがは勇者さまのお師匠さまですな」
「そうだろう。お前なかなか見る目があるな」
「は、光栄です」
「……リンたちの様子を見て来る」
目の前で繰り広げられる会話の内容に俺は耐えきれず、何も考えてなさそうな山岳馬たちに癒やしを求めるのだった。
かなり急いだようだ。
まさかと思うが夜通し歩いたりしてないだろうな?
いくら光源の魔法があったとしても山で夜歩くのは無茶すぎる。
まぁその辺は案内人のモル少年がいるから大丈夫か。
「ダスター!」
ふわっとメルリルが文字通り飛んで来る。
おい、崖を飛び降りるな、大丈夫だとわかっていてもびっくりするだろ!
「メルリル、そういうことをすると落ちると思って助けようとした人がケガをしたりするからやめるんだ」
「あ、ごめんなさい。つい」
「ダスターさん、最初の言葉がそれ?」
俺が思わずメルリルを叱ってしまうと、モンクがぴょんぴょん器用に崖を降りて来るやいなや突っかかって来た。
「大事なことだろ」
「もっと大事なこと、あるでしょ!」
「テスタ、いいの。私が悪かったんだから」
「メルリルは遠慮しすぎ! 仲間なんだから、ううん、恋人同士なんだからもっと積極的でいいんだよ? 男なんて、メルリルぐらいきれいな女の人に抱きつかれたらなんだってオッケーしちゃうんだから」
モンクさんや、お前さん何をメルリルに教えようとしているんだね?
「もう、ダスターはそんなんじゃないから!」
いや、メルリル、それは俺を過信しすぎだ。
モンクの言うことはだいたい正しい。
しかし、そんなことをメルリルに言う訳にもいかず、俺は話を反らすためにも、そしてモンクに怒られたことを反省する意味もあって、改めてメルリルに向き合う。
「メルリルみんなを連れて来てくれてありがとう。助かった」
ギュッと抱きしめてみる。
くっ、やわらかくていい匂いがするぞ。
なぜだ。
みんな体を拭くことも出来てないのに。
メルリルからはどうして花の匂いがするんだ?
「ほわあああ」
メルリルのなにやらふにゃっとした声が耳をくすぐる。
「ちょっと、ダスターさん。誰がそっちから抱きつけって言った? ほら、メルリルが真っ赤になってるじゃない! ったく、これだから男は!」
おおう、またモンクに叱られてしまった。
厳しい。
何が正解なんだ?
「コホン、いいかな? おっさん」
「あ、モル。お前もみんなを連れて来てくれてありがとうな。……なんで後ろに下がるんだ?」
「いや、男に抱きつかれる趣味はないから」
「俺だって男に抱きつく趣味はない」
とりあえず誤解が解けたところで、モル少年は横たわる飛竜を見て一瞬言葉を無くしてマジマジと見る。
「おおう、改めて見るとすげえな。このデカさ。今まで見たなかで一番かもしんねえ」
「そうか。何かに利用出来そうか?」
「俺はそういうのあんまり詳しくないけどさ、これだけあれば大勢の戦士の装備と武器が作れるし、肉も大量にあるからこの時期にはありがたいと思うぞ」
「肉は処理に手間がかかるから、この量は逆に大変じゃないか?」
「いや、それが……」
「それは安心してくだされ」
モル少年が説明しようとしたところで、勇者パーティを追いかけて来たのだろう。
後から到着した山岳の民の男性集団の一番年長に見える者が話を引き取った。
「こんにちは。あの村の方ですか?」
「ああ、おかげで助かりました。村のみなの感謝をあなた方へ」
お、山中に住む山岳の民は排他的で、他種族に冷たいものなのだが、この男は親しみがこもった挨拶をしてくれた。
「その礼は俺ではなく、あっちの勇者に頼む。民が苦しんでいればそれを救うのが勇者の努めだからな」
「もちろんです。ありがとうございます、勇者さま」
「……」
おい、なんか言ってやれよ勇者。
山岳の民の男の感謝に無表情で返した勇者のおかげで気まずい沈黙が降り、俺は空気を変えるために、話を引き取った。
「ところで、あの飛竜の大量の肉を処理する方法があるようなことを言われていたようですが」
「お、おお。そうです。実はこの湖ですが、飲料に適さない水でして。あ、飲んだりはしてらっしゃらないでしょうね?」
「大丈夫です。それに俺たちには聖女さまもいらっしゃいますからご心配には及びません」
「おお、聖女さま。ありがたいことです。村のけが人も治していただいて」
さすがは聖女さま、きっちりとやるべきことはやって来たんだな。
「飲むことは出来ませんが、魔物の毒を抜くことが出来る不思議な水なのです」
「それは、便利ですね」
「ええ。私等のような山住まいの者にはとても助かる水です」
「実は、斬り落とした飛竜の尻尾が湖のなかに落ちてしまったのですが……水質が変わってしまうことは?」
「大丈夫でしょう。この山には猛毒を持つ蛙もいますが、その毒ですらこの水は吸い取ってしまいますから」
「魔力だけでなく、普通の毒も、ですか?」
「はい」
それは凄いな。
そう言えばこの湖、妙に青いし、水源らしき湧き水も妙な感覚だったし、何かありそうだな。
「村の呪術師に言わせると、目に見えない小さな魔物がこの湖には棲んでいて、それがなんでも分解して食べてしまうのだそうです」
「……目に見えない魔物」
そう聞くと、途端に不気味な水に見えて来る。
目を凝らしても魔力光は感知出来ないが、逆に言えばそれこそがおかしいんだよな。
何しろつい昨日飛竜の尻尾が落ちたばかりだ。
まだ十分に魔力がこもっている肉の塊があるんだからぼんやりとでも魔力は発するはずなのである。
「そんな怪しい水に食べ物を浸けたりして大丈夫なのですか?」
「毒が抜けた辺りで引き上げて、よく洗えば大丈夫です。この水は肉などの物質を分解するのは苦手のようなので、毒を吸い出すまでは固形物はそのままなのです」
「なるほど」
もし目に見えない大きさの魔物が本当にいるとしたら、山岳の民は魔物と上手に共存していると言うことなのだろう。
そう言えば死喰い鳥とも共生のような関係を築いているようだしな。
さすがに厳しい場所で生活している人たちだ。
俺たちがそんな話をしている間に、この男と一緒に来ていた村の男衆があの山のようだった飛竜を解体してしまっていた。
手際がいいな。
「あの、よろしければ今夜は皆さんをお招きして宴を執り行いたいと思うのですが、いかがでしょう?」
「アルフ、勇者さま。どうなさいますか?」
そういうことは勇者が決めることだ。
俺はちょっと嫌味ったらしく勇者に尋ねた。
「……っ、師匠がいいなら俺もそれでいい」
なんだその言い方は。
「おお。勇者さまのお師匠さまでしたか! 道理で余人と違う威厳がおありと思っていました」
いやいや、俺にお世辞を言っても仕方ないぞ。
「ほう。わかるのか?」
突然、今まで無視を決め込んでいた勇者が村の男に向き合った。
「もちろんです。さすがは勇者さまのお師匠さまですな」
「そうだろう。お前なかなか見る目があるな」
「は、光栄です」
「……リンたちの様子を見て来る」
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