勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

476 小さな祈りと贈り物

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 食事が終わればそれぞれが贈り物を渡す時間だ。
 こういうのは年長者からというのが定番だが、俺の贈り物は酒と菓子だったのですでに渡し終えている。そこでメルリルからということになる。
 とは言え、厳密な順番なんてものはないから、メルリルとモンクが一緒に二人に贈り物をした。

「これは私とテスタから」

 聖女には肩掛けポーチ、ミハルには腰紐が贈られたようだ。

「ありがとうございます」
「あ、ありがとう」

 ポーチの紐部分と腰紐の結びの部分がメルリルの飾り織り、モンクは刺繍担当らしい。
 女の子の好きなものはよくわからないが、かなり可愛いと思う。

「俺はこれだ」

 勇者は二人それぞれに幅広のリボンを贈ったようだった。
 リボンって奴は実用的ではないくせにものすごく高い。
 いや、実用的じゃないから高いんだろうな。

「きれい! ありがとうございます」
「ほ、本当に私がもらっていいの?」

 高いものに慣れているであろう聖女は純粋に喜んでいるが、さすが女の子だけあって値段もわかっているんだろう、ミハルがやや引いている。
 ミハルも元はそれほど低い身分じゃなかったはずだが、そこまで裕福じゃなかったのかな?

「俺が選んで贈ったんだ。堂々と身につければいい」
「あ、ありがとう」

 いいぞ、勇者、今のはよかった。
 いつもああいう風にやれればもっと女の子にもモテるだろうに。
 あいつ憧れられてはいるが、真剣に好きになってくれる女の子がいなくて大丈夫か不安になるからな。

「それでは、私からはこちらを」
「まぁ、ありがとうございます」
「うわ、お師匠さまありがとう!」

 聖騎士は何を贈ったのかと思ったら、最近流行りのハンカチというものだった。
 手巾と似たような作りなのだが、これは実用ではなくてポケットなどに差して飾るためのものらしい。
 女の子はカバンなどに縛って短いリボンのように使う場合もあるとのことだ。
 もちろんちゃんと手巾と同じように使うことも出来る。
 素材が山絹で穢れが寄りにくくケガをしたときなどの血止めに最適ということだった。
 飾りにも実用にも使えるというところが聖騎士らしいな。

「ピャッ!」
「ん?」

 フォルテが張り切っている。
 そう言えばこいつ、何か贈り物をするとか言ってたな。
 菓子も酒も堂々と自分用の皿に入れてもらっていた。

「フォルテからも何かあるようだぞ」
「まぁ、うれしい」
「え?」

 聖女は純粋に喜んでくれたが、ミハルはものすごくびっくりしている。
 そう言えば、ミハルはフォルテがどんな存在か知らなかったか。
 まぁ俺の使役獣みたいな扱いなんで、ただの鳥か賢い魔物とでも思ってたのかな?

「クルルルル」

 ふわっと飛び立ったフォルテは、聖女の手のなかに舞い降りると、翼にくちばしを突っ込んで何かを引っ張り出した。
 キラリと光るものが聖女の手に落とされる。

「えっ、……これって?」

 何か聖女が驚いているが、当のフォルテは気にせずに次へと移った。

「ミハル、手を出してやってくれ」

 俺がそう言うと、ミハルも恐る恐るやって来たフォルテに手を差し出す。
 その手にまたもや何か光るものを落として「ピルルルゥ、ルルル」などと得意げに歌い出した。
 わかったわかった、ちゃんと贈り物を持って来たお前は偉い。
 戻って来たフォルテを褒めながら撫でてやる。
 くちばしを半開きにして気持ちよさそうにしているところを見ると、とてもドラゴンの盟約には見えないよな。

 最初の頃はもっと威厳というものもあったような気がする。

「お師匠さま、これって、魔結晶では? それも花の形をしていますよ」
「うそだろ、そんな魔結晶があるのか?……あ!」

 聖女に言われてよくよく見てみると、その花の形をした宝石のような結晶体に見覚えがあった。

「それ、精霊界にあったやつだと思う」
「ふえっ」

 意味がわかった聖女がびっくりして手のなかの、見た目は可愛らしい魔結晶をマジマジと見た。
 おそらくは普通の魔宝石よりも、魔力濃度が高いはずだ。

「きれい」

 魔結晶とか魔宝石とかさっぱりわからないミハルは、単純にその見た目の可愛らしさが気に入ったようだった。

「安心しろミュリア。凄いものには違いないがその大きさならとんでもない価値という訳でもあるまい。素直にもらってやってくれ」
「は、はい、ありがとう、フォルテ」
「あ、ありがとうフォルテ」

 ミハルは鳥にお礼を言うというのがどうもしっくりこなかったようだが、ちゃんとお礼を言ってくれた。
 いい娘だな。

「大きさも丁度いいし、ポーチにボタンとしてつけようか? そっちのも刺繍の柄に合っているから腰紐のトップの飾りにしよう」

 モンクがそう提案した。
 モンクは裁縫が得意らしい。

「うれしい、ありがとうテスタ」
「あ、ありがとう、テスタ姉さん」

 うんうん、いい祝いの日だったな。
 くいくいと袖を引かれて振り向くと、ミハルが顔を真っ赤にして頭を下げていた。

「私をこんなお祝いに呼んでくれて、初めて食べる美味しいものも作ってくれて、ありがとう、ダスターさん」
「おいおい、ミハルはまだこれから祭りと道場でのお祝いもあるからな。こんなこじんまりした祝いの席で感激していたら身が持たないぞ」
「うふふ。わたくしもお師匠さまにお礼を言わなくてはなりません。お師匠さまが提案してくださらなければ、きっと一生祝い年の贈り物などもらえませんでした。ありがとうございます」

 ミハルだけでなく、聖女からも真剣にお礼を言われてしまった。
 まいったな、こんな簡易的な宴でそんなに喜ぶ必要はないのにな。
 だがまぁ、うれしいことはたくさんあったほうがいい。

「二人とも、改めておめでとう。これからの人生が実りあるものであるように祈っているよ」

 俺がそう言うと、勇者が身に帯びた剣をナイフの柄で弾いて澄んだ音を響かせる。
 それに倣うように、皆がそれぞれ身に帯びた金属を打ち鳴らす。
 金属の響きは魔除けの音、そして門出の音でもある。
 それは一つの節目を越えた二人の前途を、皆の祈りが切り開いてくれるようにという願いがこもった音だった。
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